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2022年02月15日

桜の木の下には



桜の木の下には、とは梶尾基次郎により執筆された作品である。
桜は本来目出度い花なのに、どうも不吉なイメージを日本人はつけたがるようだ。
というより心理的に静寂とした中にある不動の樹木(生物)というものは、根本的に恐怖を抱かせるモノとなっているかもしれない。


【内容】



文章は、非常に短いものだが冒頭が中々にインパクトを与える一文となっている。


いったいどんな樹の花でも、いわゆる真っ盛りという状態に達すると、あたりの空気のなかへ一種神秘な雰囲気を散らすものだ。それは、よく廻った独楽が完全な静止に澄むように、また、音楽の上手な演奏がきまってなにかの幻覚を伴うように、灼熱した生殖の幻覚させる後光のようなものだ。それは人の心を撲たずにはおかない、不思議な、生き生きとした、美しさだ。


しかし、昨日、一昨日、俺の心をひどく陰気にしたものもそれのだ。俺にはその美しさがなにか信じられないもののような気がした。俺は反対に不安になり、憂鬱になり、空虚な気持ちになった。しかし、俺はいまやっとわかった。


おまえ、この爛漫と咲き乱れている桜の樹の下へ、一つ一つ屍体が埋まっていると想像してみるがいい。何が俺をそんなに不安にしていたかがおまえには納得がいくだろう。


馬のような屍体、犬猫のような屍体、そして人間のような屍体、屍体はみな腐乱して蛆が湧き、堪らなく臭い。それでいて水晶のような液をたらたらちたらしている。桜の根は貪婪な蛸のように、それを抱きかかえ、いそぎんちゃくの食糸のような毛根をあつめて、その液体を吸っている。


何があんな花弁を作り、何があんんあ蕊を作っているのか、俺は毛根の吸い上げる水晶のような液が、静かな行列を作って、維管束のなかを夢のようにあがってゆくのが見えるようだ。

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