2020年05月20日
夏と花火と私の死体
『夏と花火と私の死体』とは、ミステリー作家である乙一により執筆された短編小説である。本作執筆当初、ワードの練習がてら小説を書いていたとか何とか。
個人的に好きな乙一のオススメ小説を紹介するならば、「失踪HOLIDAY」と「暗いところで待ち合わせ」である。
【内容】
夏と花火と私の死体のストーリー内容は、主に小学生が主要人物として話が展開していく。
ストーリーの核としては、健という少年に五月(語り部におけるわたし)が好意を持っていたのだが、突如弥生は五月を背後から突き飛ばす。弥生本人としては衝動的な行動であり嫉妬による怒りの感情などあったかもしれないが、殺意などの感情はなく、咄嗟の暴力的な反応であるが、殺すつもりは全くなかった。
「わたし」が死んだことを確認した弥生は兄である健に相談するのだが、死体を隠すことになる。とりあえず、急ごしらえのごまかしであるものの、健は「わたし」の死体を背負って、山中のコンクリートが敷かれた蓋の中に隠すことになる。
その後、健と弥生の二人は自宅に帰り、「わたし」の親が遊びに来なかったなどといつまで経っても家に戻らない「わたし」を心配して訪ねてくることになる。弥生は狼狽の感情が隠せないながらも、健は慌てた様子を出すことなく素知らぬ顔で知らないと答えている。
実は、この一帯周辺で子供の誘拐事件が多発しており、「もしも」万が一の可能性を考えて、「わたし」の親が探しに来たと思われるのだが、ついぞ最後まで娘が発見されることはなかった。
二日目になると、さすがに一晩戻らなかった「わたし」の親は警察を呼び出し、娘の捜索を願い出る。「わたし」の死体が発見されることを危惧した健と弥生は、山中に隠した死体を移動させることになるのだが、子供特有の考えというか、死体を埋めるといった発想を抱くことなく、自宅の押し入れに隠すという方法に出るのであった。
季節が夏であるがため、このまま押し入れに隠すことなどできず、更に「わたし」の死体を移動させる必要があるのだが、この時、アイスクリーム屋を営んでいる大人の女性である緑に危うく見付かりそうになる。
三日目、花火祭り前日の夜間(深夜三時ぐらい)、押し入れの中に「わたし」の死体があるのは非常に危険な状態だと判断したのか、健は宮の石垣にある穴の中に死体を投げ入れることを決行。うまくいけば、弥生が「わたし」を突き落としたのと合わさって、死体隠蔽処理及び犯人不明のまま、何事もなく事件を終えると判断しての行動であるが、道中、人と遭遇しそうになり、死体は田圃の中に隠すことになった。
夏休みとはいえども、このような時間帯に夜遊びをしていることを発見されれば、宮の石垣の穴の中に「わたし」の死体を捨てることに成功しても疑われる可能性があるため、一時的な処置とはいえ田圃に置き去りにするしかなかったのである。
いよいよ最終日である四日目の夜、花火大会が催される最中、健と弥生は「わたし」の死体を移動させながら、目的地である宮の石垣の穴の中に投げ捨てようとしたところを、緑によって目撃されてしまうのだが、田舎近隣で発生していた誘拐事件の犯人はこの緑であり、「わたし」の死体を預かって、これまで誘拐してきた子供達の凍死体のある中に「わたし」を安置させるのである。
【まとめ】
物語ラストで「わたし」は青白い顔をした沢山の子供と遊んでいるといった描写で終わっているが、『夏と花火と私の死体』の凄いところは、語り部である「五月」が淡々とした口調で状況を説明している点である。
自身を殺した五月に対して恨みの感情を抱くわけでもなく、恋の相手である健が殺害者である妹に臆面もなく協力していることに疎みの感情を抱くことのない、斬新な小説の地の文における表現法であろう。
幽霊が語り部であるものの、田舎出身としてはリアリティをどことなく感じる点も良好。
更に「わたし」以外の登場人物も異常で、子供の誘拐の実行犯であった緑はいわずもがな、殊更不気味なのは健である。
妹である弥生が知人である五月を殺したというのに、悪感情を向けず慌てることなく子供ながら知恵に乏しく疎があるものの、可能な限り冷静な判断を以て、完全犯罪を達成させようとしている点である。
健は誘拐犯である緑に好意を持っているが、恐らくこれは多少の恋愛感情が混じっているものの、仲間意識に似たシンパシーが主な役割を占めているものだと推測される。
辛うじて、人間味が感じられるのは五月の殺害者である弥生であるが、他意はなく結果的に人を殺してしまったとはいえ、衝動的に乱暴を働いているため、緑や健、そして「わたし」などの三名と比べると人格面での異常性は低いものの、危険人物としての資質があるかもしれない。
夏と花火と私の死体は、子供特有の残酷さが際立ち、静かな不気味さがある。本人たちとしては善悪における殺人などの行いは悪いものだと知識面では認知しているだろうが、どことなく遊びの延長である「スリルのある鬼ごっこ」として楽しんでいるように感じられた。
毎年夏になると、姑獲鳥の夏同様、読みたくなる作品である。
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