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2021年12月15日

人間椅子(江戸川乱歩) 2


私は数ヵ月の間、全く人間界から姿を隠して、本当に、悪魔の様な生活を続けて参りました。勿論、広い世界に誰一人、私の所業を知るものはありません。若し、何事もなければ、私は、このまま永久に、人間界に立帰ることはなかったかも知れないのでございます。
ところが、近頃になりまして、私の心にある不思議な変化が起こりました。そして、どうしても、この、私の因果な身の上を、懴悔しないではいられなくなりました。ただ、斯様に申しましたばかりでは、色々御不審に思召す点もございましょうが、どうか、兎も角も、この手紙を終りまで御読み下さいませ。
そうすれば、何故、私がそんな気持ちになったのか。又何故、この告白を、殊更奥様に聞いて頂かぬばならぬのか、それらぬことが、悉く明白になるでございましょう。
さて、何から書き初めたらいいのか、余りに人間離れのした、奇怪千万な事実なので、こうした、人間世界で使われる、手紙という様な方法では、妙に面映ゆくて、筆の鈍るのを覚えます。
でも、迷っていても仕方がございません。兎も角も、事の起こりから、順を追って、書いて行くことに致しましょう。



手紙の送り主は、漱石のとある小説に記載されていたように、自分の作品を読んで欲しいから送ったわけではなく、罪を告白することを前提に語り出すのであるが、その内容は異常である。

まず、手紙の送り主である男は生まれつき醜い出で立ちをした人物であったが、罪を過ごすうちに更に酷い要望になっていることを念押しに押している。

男の仕事は椅子を作ることが仕事で、醜い姿の内に隠された欲望として熱い欲望を秘めていたのだという。
自分の手で出来上がった椅子が完成すると、自ら腰かけ、どのような人物がどのような部屋で椅子を設置するのか空想するのが常であったのだが、ある日突然男は、現実に立ち返る度に死にたくなるような気分を覚え、思い切った計画を立てることにする。


その内容は巨大な椅子の中に空間を作り、その中に忍び込むというものであるのだが、何と男はその椅子の中に閉じこもり、これまで場所を転々としてきたのであった。

ホテルなどに運び出された際は、昼はじっとして夜になると食料品を盗み出すというまるでヤドカリのような生活をしながら、一方、自分の入った椅子に座った人物の肉体の硬さや柔らかさを堪能するという日々を送っていた。


しかしそのような異常な生活の中で、普通の人から見ればただの重たい椅子にしか思えない椅子がホテルから売りに出されていくことになるのである。


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