火曜日、遊戯王OCG二次創作・「霊使い達の宿題」の日です。
霊使い最後の一人、光霊使いライナの出番となっています。
例によって作者個人のイメージによるキャラ付けとなっていますので、その所御了承願います。
遊戯王カード 【 シャドウ・リチュア 】 DT10-JP019-N 《デュエルターミナル−インヴェルズの侵略》 新品価格 |
―7―
「き、気持ち悪い!!何ですか!?」
「何も蟹もあるかいっ!!」
ライナの足元からグバァッと起き上がった、マーカーが怒鳴る。
「黙っとったら、話の間中ずっと人の頭踏んどってからに!!頭骨折れたらどないするんや!!」
「自分、骨ないやんけ。」
「人でもないでやんす。」
そんな突っ込みを入れながら、チェインとアビスが近づいて来る。
「シャドウさん。こっちも済みましたで。」
気付けば、エレメント・ドラゴンとエンゼル・イヤーズがチェインの鎖でグルグル巻きにされて地面に転がされている。ハッピー・ラヴァーやもけもけ達も、アビスの持つ網の中でもがいていた。
「皆!!くっ、離すです!!」
「阿呆。そない言われて離すヤツが、何処におるんや?」
もがくライナを、嘲るマーカー。
「いや〜、それにしても、今日は思わぬ大漁でしたなー。」
エレメント・ドラゴンとエンゼル・イヤーズを引きずりながらチェインが言う。
「うむ。こやつらなら、ここの野生モンスターどもより、よほど良い糧となろう。」
「だから、前から言ってるじゃない。こんなちまちました事やんないで、小さな村でも襲ってかき集めればいいのよ。」
満足気なシャドウに向かってエリアルが毒づくが、シャドウはただ笑うだけ。
「確かに、それをすれば上質の“資源”は手に入るじゃろうな。しかし、それは同時にリチュアの存在を公に晒す事となる。さすれば、ライトロードやE・HEROと言った、「正義」などという戯言を旗印にする連中が我らを襲撃するは必至。残念じゃが、今のリチュアには奴らに対抗するだけの力はない。」
「そんな事、やってみなけりゃ分からないじゃない。」
「若いのう、エリアル。いいから、今は待て。いずれ、時は来る。」
「そうそう。“家宝は寝て待て”でっせ。御嬢。」
「あっしらも、まだあんな連中とは事起こしたくありやせんや。」
「右同、でやんす。」
口々に諭され、エリアルはプウと膨れてしまう。
「では、そろそろ戻ろうかのう。グズグズして、人に見られでもしたら面倒じゃ。」
「「「あらほらさっさー!!!」」」
そして、リチュア達が帰路につこうとしたその時、
「待つです!!」
「うむ?」
見れば、マーカーに絡み取られたままのライナが、リチュア達を睨みつけていた。
「何よ?まだ何か言いたいの?」
鬱陶しげなエリアルに向かって、ライナが叫ぶ。
「さっきから聞いてれば、勝手な事ばかり!!あなた達、絶対に許さないです!!」
「ほう、許さなかったら何やねん。そんな様で、どうしようってんでっか?」
「こうするです。もっくん!!」
次の瞬間、一筋の閃光が天を下った。
―8―
バリバリバリーッ
「アベアーッ!?」
落ちてきた閃光に焼かれ、引っくり返るマーカー。
触手の先がチリチリと焦げて、辺りに香ばしい匂いが漂う。
その隙に、ライナは触手の緊縛から抜け出る。
「な、何!?」
慌てて見上げた先には、宙に浮かぶ巨大な球体、モイスチャー星人の姿。彼が常に携帯している光線銃でマーカーを狙い撃ったのである。
「もっくん、Gjなのです!!」
モイスチャー星人が、答える様に明滅する。
「何と!!まだ仲間がおったか!!」
驚くシャドウを尻目に、ライナは網の中のもけもけ達に向かって叫ぶ。
「もけ君、マロ君、遠慮はいらないです!!やっちゃうです!!」
「もけっもけもけ〜!!」
それに答えたもけもけの身体が、急に膨らみ始める。
「な、何でやんす!?」
慌てるアビスの手の中で、どんどん膨らむもけもけ。終には網がそれに耐えかね、破けてしまう。しかし、それでももけもけの膨張は止まらない。薄水色だった身体は真っ赤に染まり、頭の“?”が“!”に変わっている。
もけもけの固有能力(パーソナル・エフェクト)、その名も「怒れるもけもけ」である。
「あわ、あわ・・・」
すっかり腰を抜かしたアビスに、巨大に膨らんだもけもけが迫る。
「ま、待つでやんす!!話せばわか・・・」
プチッ
虚空に響く、空しい音。
一拍の後、プシュ〜と縮んでいくもけもけの身体。その下には、半分地面にめり込み白目を剥いたアビスの姿。
「な、何じゃわりゃーっ!!」
慌てるチェインに突っ込んでいくのは、ハネクリボー。投げ付けられる鎖をかいくぐり、チェインに肉薄する。次の瞬間、その身体が眩く輝き、中から重厚な鎧に包まれたハネクリボーが現れる。
『クリクリックリーッ(ハネクリボーLV9)!!』
「んなっ!?」
驚く間もあらばこそ、巨大な爪がチェインを襲う。
「ンベラッ!!」
そのまま地面に叩きつけられ、こっちもやっぱり白目を剥いて伸びてしまった。
あれよあれよという間に、手下三人が地に転がる。あっという間に形勢逆転である。
「ちょ、ちょっと、何よこれーっ!!」
「いやはや・・・こりゃまいったわい。ちと、甘く見とったのう・・・。」
流石に顔色をなくすエリアルを見て、ライナが思いっきり胸を張る。
「にゃっはっはっ!!どうですか!?正義は必ず勝つのです!!」
「あんた何もしてないだろーっ!!」
「結果論です。過程に意味はありませーん!!」
エリアルの魂の突っ込みも、何処吹く風である。
「さぁ、勝負はついたのです!!モンスターさん達放して、さっさと帰るです!!」
ライナを中心に、ハネクリボー達が睨みをきかす。
「く・・・こ、この・・・!!」
「・・・エリアル、あの三人を連れて来い。」
歯噛みするエリアルに、シャドウが静かにそう告げる。
「シャドウ!!あんたこのまんま引き下がるつもり!?」
「いいから、連れて来いと言っておる!!」
「くっ・・・!!」
シャドウに一喝され、エリアルは伸びている三人の元に行く。
「そうそう。聞き分けがいいのは良い事なのです。」
ニコニコしているライナを横目で睨みつけながら、エリアルは伸びている三人を叩き起こす。
「あんた達、いつまで寝くたばってるのよ!?さっさと起きなさい!!」
「ん・・・あぁ?」
「痛、痛いでやんす!!」
「御嬢、堪忍、堪忍や!!」
エリアルに尻を蹴たぐられながら、三人はヨロヨロとシャドウの元に向かう。
「・・・まったく、愚図は愚図なりにと思っておったが・・・」
「すんません・・・。」
ただでさえ骨のない頭をさらにグンニャリとさせながら、マーカーがうなだれる。
他の二人も同様である。
しかし、シャドウは急に声音を和らげる。
「まぁ良い。お前達にはまだ、役に立ってもらわねばならんからのう。」
その言葉に、三人の顔がパッと明るくなる。
「ほ、ホンマでっか!?」
「ありがとうでやんす!!」
「オレら、がんばるっす!!」
「シャドウ!!あんたまだ・・・」
言いかけたエリアルの手に、ポーンと何かが放られる。
「!?」
受け取ってみると、それは捕まえたモンスター達を詰め込んだ網袋。中に入っていたのは、エレキツネザルだった。
「エリアル、“足らぬ分”はそれでよかろう・・・。」
シャドウの言葉に一瞬キョトンとするエリアルだったが、直ぐにその意を察し、ニヤリと微笑む。それは、その可愛らしい顔には酷く不釣合いな、禍々しい笑みだった。
「ああ、なるほどね・・・。」
「さあ、お前達、役に立ってもらおうかの・・・。」
「へ?シャドウはん・・・一体、何言って・・・?」
狼狽するマーカー達の顔が、シャドウの持つ儀水鏡に移り込む。
それに気付いたライナが叫ぶ。
「いけません!!皆、アイツを止めて!!」
その声に応え、ハネクリボー達がシャドウに向かう。しかしー
ジャカカカカカッ
突然降ってきた無数の漆黒の剣が、皆の行く手を遮る。
「闇の護封剣!!いつの間に!?」
「クポポポ、長く生きておると、色々な芸を覚えるものでなぁ・・・。」
「・・・詠唱破棄!!そんな真似・・・。」
歯噛みするライナ。しかし、どうする事も出来ない。
「さあ・・・これで邪魔は入らん。」
シャドウの顔が、邪悪な笑みに歪む。
「シャ、シャドウはん・・・ま、まさか、わいらの事・・・!?」
「弱者が強者の糧になるは世の摂理、愚図は愚図なりに・・・じゃろ?」
「駄目っ!!あなた達、逃げてーっ!!」
「ひ、ひぃーっ!!」
「お、お助けー!!」
ライナの叫びに弾かれた様に、マーカー達が逃げ出す。
しかし、その行く手をエリアルが阻む。
「だーめ♪逃がさない♪」
「ひ、お、御嬢・・・!!」
「か、堪忍・・・堪忍や・・・。」
そんな彼らの懇願も、彼女には届かない。
「せいぜいあの世で精進することね。いつか“あっち”であったら、また馬車馬程度には使ってあげるわ♪」
シャドウとエリアル。二人の儀水鏡が怪しい光を放ち始め、それと同時に二人の足元に巨大な魔法陣が展開する。
「「イビル・イビリア・イビリチュア 時の澱みに沈みし混沌 古き水に眠りし邪神 我が求むは其が忌名 我が望むは其が恵み 愚なる現世(うつよ)は堕せし偽物(ぎぶつ) 汝(なれ)の夢こそ尊き真理 暗き水面(みなも)に映せし御魂 其を導に此方に来たれ 深き淵に沈みし現身(うつしみ)其を礎に穢土へと降(くだ)れ 我が御魂は汝が盾 我が身体は汝が矛 其を持ち荒(すさ)びて全てを呑み込め 其を持ち猛りて全てを喰らえ」」
シャドウとエリアル、二人の声が唱和する様に呪文を紡ぎ上げる。
それに応える様に、光を放ち始める儀水鏡。
妖しく光る鏡面に映し出される、マーカー達の姿。
その姿がグニャリと歪む。
「ひ、ひぃいーっ!?」
「い、いややーっ!!」
「お助けーっ!!」
響き渡る悲鳴。
「・・・・・・!!」
息を呑むライナ達の前で、彼らの身体がギュルッと儀水鏡に吸い込まれていく。
マーカーとアビスはシャドウの儀水鏡に。
チェインとエレキツネザルはエリアルの儀水鏡に。
長い断末魔を響かせながら、彼らの姿が呑み尽くされる。
しばしの間。そして―
ゴポリ・・・
周囲に、奇妙な音が響いた。
ゴポリ・・・
何か、液体が蠢く様な音。
ゴポリ・・・
儀水鏡から、何かが溢れ出していた。
鏡であった筈のそこから溢れ出していたもの。
それは、真っ黒な水。闇の様に黒い、否、闇そのものの様に黒い水。
それが、ボトボトと地に落ちていく。
ゴポリ
黒い水が、闇が、溢れる。流れる。
ゴポリ
止め処なく、絶え間なく。
ゴポリ
溢れる水が、闇が、地に広がる魔法陣を満たしていく。
ゴポリ
広がっていく。
ゴポリ
際限なく。
ゴポリ
どこまでも。
ゴポリ
どこまでも。
ゴポリ
広がっていく。
チャプン
足元を“闇”に浸したエリアルが、チラリとライナの方を向いた。
微笑む。
綺麗に。
妖しく。
ライナの背筋に悪寒が走る。
途端、
ゴポンッ
シャドウとエリアルの姿が、闇に沈んだ。
「・・・・・・!!」
その場にいる、全ての生き物が息を呑む。
沈黙。
それは、時間にすればほんの数秒。しかし、ライナ達にとっては永遠とも思える長い時間。
―と、
ゴボッ
突然、闇の水面に気泡が立つ。
ゴボッゴボッゴボッ
呆然と見つめるライナ達の前で、気泡はその数と大きさを増していく。
ゴボゴボッゴボッゴボボッ
まるで沸騰する様に、激しく沸き立つ闇色の水面。
そして、一際大きな気泡が膨らんだと思った次の瞬間―
ゴバァッ
大きな音とともに、闇が割れた。
続く
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