2018年03月24日
国民芸術家?(三月廿一日)
先日形容詞「národní」につける男性名詞活動体が思いつかないというようなことを書いたら、ふどばさんからコメントをいただいた。「národní umělec/umělkyně」はどうだというのである。そういえば、いたねえ、そんなのが。最近古い映画を見てもタイトルロールまで熱心に見なくなっていたから、すっかり忘れていた。「umělkyně」は女性形だから違うけれども、「národní umělec」のほうはふどばさんがおっしゃるように、男性名詞の活動体に「národní」がつけられたものである。
では、これが何を指すかというと、ふどばさんは人間国宝みたいなものかと想像されているが、現在では廃止されているし、そこまで大層なものではないと思う。日本の制度で考えるなら、芸術家に与えられる文化勲章みたいなものだと考えるのがいいかもしれない。いや、政治的に利用されていたことを考えると国民栄誉賞のほうが近いだろうか。授与者の数を考えると二つの中間ぐらいかな。
この「národní umělec」が最初に贈られたのは戦後すぐのことだと言うから最初は違ったようだが、共産党が政権を握って以降は、共産党の人気取りに使われたものなのである。共産党政権に都合のいい活躍をした芸術家に授与されたと言う話もあるけれども、国民的に人気のある俳優や歌手なんかにも授与して、共産党政権のプロパガンダに使ったのだとか何とか。そうなると、あの神のカーヤことカレル・ゴットも授与されたのだろうか。トーク番組でそんなことを言っていたような気もするけれども正確には覚えていない。
われわれ日本人がこの「národní umělec」を目にするとすれば、上にも書いたけれども共産党の時代の映画のタイトルロールぐらいだろう。俳優や監督などの名前の前にこの称号がついていることがある。件の「トルハーク」でもキャスティングの部分で登場する名優ルドルフ・フルシンスキーの名前の前にこれが付いていたはずである。
いや、もう一つの奴だったかもしれない。「národní umělec」と似たような称号に「zasloužilý umělec」というのがあるのである。形容詞の「zasloužilý」は、「zasloužit」という動詞の過去形から派生したもので、「業績を上げた」とか「功績のある」というような意味の言葉である。文化功労賞なんて言葉が頭に浮かんだけれども、日本語のそれがいちいち映画やテレビ番組などの出演者名の前に記されることがないのと違って、チェコの場合には、正確にはかつてのチェコの場合には、まるで肩書きのように記されていた。
もちろん、「národní umělec」「zasloužilý umělec」という称号を得たからといって、その人が共産党の支持者であったというわけでは、必ずしもない。一部には今でも共産党に忠誠を誓うというか何というか、共産党の集まりがあると出席して歌を披露するかつての人気歌手もいるようだけれども、この人が称号を持っているかどうかは知らない。ほとんどの人は、現在ではこの手の称号を使用することはないし、「憲章77」に対して、共産党政権が準備し多くの俳優などの芸術家に署名させた「アンチ憲章」と同様になかったことにされているというのが実態に近い。
トーク番組なんかで司会者とゲストの仲が特によかったりすると、冗談として使われることもあるけれども、ふれられたくない過去という場合が多いようである。キャリアのために共産党に入党したなんていう言い訳をする政治家が多いのと同じで、俳優としてのキャリアのため、いや俳優を続けるためには、共産党政権が与えるという称号を拒否することはできなかったのだろう。
この辺の事情も、もちろん秘密警察への協力者の問題も含めて、チェコでは、冷戦後の時代、ビロード革命後の時代が終わっていないのだという印象をぬぐえない理由である。第二次世界大戦後の時代を終わらせられない日本の人間があれこれ言えることではないけどさ。
それから、もう一つ映画で見かけるものに「nositel řádu práce」というのがあった。これは直訳すれば「労働勲章受賞者」となる奴で、いかにも共産党政権の与えそうな名称の勲章である。個人ではなく、オーケストラなどの団体の名称の前につけられていることが多いから、団体に与えられたものだったのかもしれない。
それはともかく、「národní umělec」と「zasloužilý umělec」、それに「nositel řádu práce」の中で、どれが一番上で、どれが一番下なのかは知らない。以前調べた気もするのだけど、すでに廃止されたものであまり重要ではないので、覚えられなかったのである。
2018年3月21日22時。
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この国民芸術家は私の回りの年齢が高い方はほとんどそうです。
いまだにこのタイトルをとても誇りに考えているようで、このタイトルをとることはある程度の年代の方の目標でもあったようです。
国民貢献芸術家という方も共産主義は憎みながらも称号を表すメダルなどは自宅に飾ってあります。
革命後に返上した方も結構いたと聞きました。