2017年02月14日
トロウプキ(二月十一日)
この人口二千人ほどの村は、ストゥデーンカが鉄道事故の象徴となっているのと同様の意味で、モラビアにおける洪水の象徴となってしまっている。1997年にモラビアを襲った大洪水で壊滅的な被害を受けたのだ。
地理的な説明をすると、モラビア東部のベスキディ山地に源を発するベチバ川が西流してフラニツェ、リプニークなどを経て、プシェロフを越え南西に向きを変えてモラバ川に合流する地点の少し手前にある村である。ベチバ川とモラバ川を挟んだ反対側にあるトバチョフとの間には、いくつかの大きな池があって魚の養殖が行なわれているようだ。池のうちのひとつはトロウプキの名前がついているが、トバチョフの領域内にあるようである。
洪水が起こったのは1997年の七月、ベチバ川からあふれ出した濁流に飲み込まれた村では、150軒の家が完全に倒壊し、九人の犠牲者を出したという。人口二千人の村で、150軒という数字はかなり大きいし、村全体が水没し避難し損なって自宅の二階や屋根に取り残された人々の救助は船で行なわれたようだから、被害を受けなかった建物など一軒もなかったに違いない。
犠牲者が比較的少なかったのは、平地で、がけ崩れなどが起こらなかったことと、川の流れが比較的緩やかな地点での洪水だったことのおかげであろう。逆に言えば、平地だからこそ川と村の間をさえぎるものがなく、水が押し寄せるのが早かったとも言えるかもしれない。少なくとも日本の河川のような整備をされていれば、いやせめて堤防だけでもあれば被害はかなり小さくなっていたはずである。
このときの洪水は、フラニツェなどのベチバ川沿いの町にも爪あとを残しているが、オロモウツでも小さな丘に建てられた旧市街が島のようになったという話があるぐらいなので、モラバ川本流域でも大きな被害を出している。チェコでの洪水というと、プラハに大きな被害を出した2002年のブルタバ川、ラベ川を中心とするボヘミア地方の洪水が喧伝されるのだが、この1997年のモラビア地方での洪水の方が、開けた平野部での洪水だっただけに、洪水の規模も被害を受けた範囲も大きかったのではないかと思う。この辺りにも、プラハ中心主義がたくまずも表れていると考えてしまうのは、わがモラビアびいきが故であろうか。
とまれ、この水害の後、モラビア各地では、ゆっくりとゆっくりとではあるが、河川の洪水対策が進められたようだ。オロモウツでも、モラバ川の郊外の住宅地の間を流れる部分は川床の整備がなされ、両岸に堤防と呼んでもいいものが出現している部分もある。堤防がいつごろ出現したのかは知らないが、川床の工事は2000年代に入ってからなので、1997年の洪水を踏まえての洪水対策だと考えていいだろう。
しかし、1997年の洪水で最大の被害を受けたトロウプキに関しては、なぜか洪水対策が計画通りに進まなかったらしい。当初の予定では村とベチバ川の間に堤防を築いて、川から水があふれたとしても、まず対岸の畑、もしくは村の周囲の畑に流れ込むようにするはずだったようだが、用地買収が進まず、河川を管理する会社も建設を始めることができなったようだ。
そんな状態が十年も続いたころ、トロウプキは再び洪水に襲われることになる。今度は2010年五月の出来事で、幸いなことに洪水の規模が小さかったことと、村の人々にかつての経験が合ったのとで、犠牲者は出なかったようだが、村は再び水に覆われた。
このときのニュースで印象的だったのが、1997年の洪水で家を失って、やっと再建できたという人が、どうしてまたと、泣き崩れるように嘆いていた姿だ。一度水害に襲われた地区では、保険会社が災害保険をかけることを拒否することがある。拒否しなくても保険料が、他の地域に比べて大幅に高額になる。保険会社も営利企業だから仕方のない面はあるのだろうけど。
この時点で、ベチバ川と村を遮る堤防ができていれば、結果はまた違ったのだろう。しかし現実は土地の所有権というものに阻まれて建設できていなかったというわけだ。プラハからフラデツ・クラーロベーの方に向かう高速道路D11が、建設予定地の地主が売却を拒否していたために、長らく建設できなかったという事例もあるように、共産主義による土地の強制的国有化を経験しているだけに、こういうところで慎重になる面があるようだ。それを利用して金儲けというやからも当然いるわけだろうけどさ。
今年の大雪と凍りついた川が、トロウプキに洪水をもたらさないことを願っておこう。過去二回の大洪水は雪解け期のものではないので大丈夫だろう。さすがに堤防も設置されただろうし。されてないなんてことはないよね。洪水が起こらない限りニュースにはならないので、確かめるすべはないのであった。
2月12日23時。
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