2016年10月25日
ゼマン大統領暴れる(十月廿二日)
先日、テレビのニュースを見ていたら昔懐かしいスロバキアのメチアル元首相の姿が登場した。何が起こったのかと思ってみていたら、スロバキアの初代大統領のコバーチ氏が亡くなったという。メチアル氏とコバーチ氏の関係もなかなか微妙なものがあったらしいけれども、最たるものはコバーチ氏の息子が、誘拐されオーストリアで発見されたという事件だろうか。当時から、メチアル氏の指示で秘密警察が実行したものだといわれており、実行犯もほぼ確定していたらしいのだが、コバーチ氏の任期切れに伴う大統領選挙で誰も選出されずに、臨時大統領選挙までの間、首相として臨時に大統領の権限を行使していたメチアル氏が、この事件の関係者全員を恩赦の対象にしてしまったため十分な捜査が行われないままになっているらしい。
それはともかく、コバーチ氏の葬儀に参列するために、我らがチェコのゼマン大統領もブラチスラバに向かったわけだ。それが、あろうことか大統領一行は葬儀の開始に間に合わず、恥をさらすことになってしまった(そう思っているのは本人たちだけかもしれないが)。それで、いけにえが必要とされたのだが、選ばれたのが飛行場の航空管制官だった。つまり、航空管制官が大統領専用機を優先せずに出発を遅らせたと言うのである。
ゼマン大統領は、自信満々に、遅れた理由としては、飛行場で出発に時間がかかったことしかありえないと言っていたが、管制官も飛行場側も、強く否定している。実際は、大統領専用機の離陸準備が整ったあとは、すでに離陸体制に入っていて途中で離陸を中止するのは危険だと判断された一機の貨物便だけに着陸が許され、他の飛行機はすべて離陸と着陸を遅らせ、大統領専用機が離陸するのを待っていたらしい。
ニュースを聞いていて不思議に思ったのが、当初の予定がものすごくぎりぎりで組んであったことだ。正確な数字は覚えていないが、確かブラチスラバの空港から葬儀の会場まで三十分で移動することになっていた。それで三十分前に会場に到着する予定だというのならわかるが、会場に到着するのは葬儀開始の時間ぎりぎりの予定だったようだ。飛行機での移動時間は風次第で長くも短くもなるものだし、飛行場からの移動だって、渋滞や事故で予想外の時間がかかることもあるのだから、スロバキアの元大統領の葬儀に遅れてはならないという意識があったのなら、一時間、二時間前に到着するように予定を組むのが当然で、慎重を期すなら前日にブラチスラバに入るものじゃないのか。
結局、自分の、いや自分の部下たる大統領府の役人たちの失敗の責任を他人になするつけているだけにしか見えない。大統領府に集まったゼマン氏の友人たちには、ユニークな人たちが多く、これで大丈夫なのかと言いたくなることもある。
自分でも信じていないだろうと言いたくなる強引過ぎる論理を駆使して、大統領を擁護し批判者を批判する広報官のオフチャーチェク氏は、奇抜な服飾センスと合わせて揶揄の対象でしかないし、地元の村の住民たちを集めて大統領官邸見学バスツアーを行って本来は許可なく入れないような場所にまで案内したミナーシュ氏が大統領府の長である。このミナーシュ氏は国家の機密に触れるために必要な証明(よくわからんけどそんなものがあるらしい)が取れなくて困っているというけれども、こんな奴に機密に触れさせたらいけないだろうと思う。
ゼマン大統領は、就任当初は初の直接選挙で選出された大統領ということもあって高い支持率を誇っていたのだが、それに胡坐をかきすぎたのか、傲慢で奇矯な振る舞いが増えて支持率を落としている。2018年に予定されている次の大統領選挙にも出馬する意向だというから、もう少し言動に気をつけたほうがいいと思うのだけど、いや、今のままでも再選の可能性は高いのか。他にこれという候補者がいないからなあ。
そんな騒ぎも納まらない中、フォーラム2000という団体の招待でまたまたダライラマがチェコにやってきた。ダライラマ信者はチェコに多いのである。来ただけなら問題はないのだけど、キリスト教民主同盟の文化大臣が、個人的にダライラマと会談をしてしまった。チェコの一部の政治家にとってダライラマと面会することが、一種のステータスになってしまっているのも大きな問題なのだが、さらに大きな問題は、政府が中国を怒らせまいと過剰な反応をしてしまったことだ。
首相、両院議長など四名の連盟で、チェコ政府の公式見解は中国はひとつであるとか何とか、チベットの独立運動を支持しないことを改めて表明したのである。中国からのチェコへの投資が引き上げられること、チェコ企業の中国進出が阻害されることを恐れた経済的な理由でのことだというけれども、中国大使の要請を受けての行動だとの報道もあって、なぜここまで中国に気を使うのかという批判も強かった。共産党は支持していたけど。
首相以上に批判にさらされているのが、ゼマン大統領で、文化大臣が、ダライラマと会う予定であることを知って、ダライラマと会うなら、十月廿八日に勲章を授与される人の名簿から、大臣のおじに当たる人を抹消すると言ってダライラマとの会合を中止するように求めたのだという。大臣のおじは、第二次世界大戦中、ナチスによってアウシュビッツに送られ何とか生き延びたという人で、勲章をもらえそうだという話を聞いて非常に喜んでいたらしい。
ある意味でおじを人質にとられた文化大臣は、ダライラマとの会合のあと、ゼマン大統領とのやり取りを公開した。その結果、廿八日に予定されている勲章の授与式への参加を辞退、あるいは拒否する動きが政治家、大学関係者の間に広がろうとしている。
もちろん、件のオフチャーチェク氏は、文化大臣の発言を断固拒否して、文化大臣がおじに勲章が与えられるようにゼマン氏のところに交渉に来たのだとかいう話をしている。文化大臣もオフチャーチェク氏も、その場にいた人が他にもいたけれども名前は挙げたくないと言っている。どちらの話が真実であれ、今回の件で味噌をつけたのがゼマン大統領である点では変わらない。
ダライラマ問題も、日本の靖国問題と同じで、中国は騒ぐために騒いでいるのだから、我関せずで放置しておくのが一番いいだろうに、どうして過剰反応するのだろうか。その辺は、ヨーロッパ人の期待するアジア人を見事に演じ上げているダライラマのほうが一枚上だったということなのかな。
まあ、個人的には、チベットの国旗を掲げて喜んでいる連中には、本気で支援する気があるなら、物理的な支援をしろよと言いたいけどね。金、物、人、中国と戦うにはどれも足りていないだろうしね。
10月22日23時。
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