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2016年09月10日

レストラン完全禁煙(九月七日)



 高校時代の先生は、「かつて、喫煙は文化だった。だから俺はタバコを吸い始めたけど、そんな時代はもう終わってしまった。だからお前らは吸うな」という説得力があるようなないような理由で、生徒達に喫煙をしないように呼びかけていた。高校生に文化だからという理由が理解できたとも思えないが、こんな台詞を八十年代の半ばに言えた先生は先見の明があったと言ってもいいのかもしれない。
 自分自身のことを言えば、タバコとお酒のどちらを選ぶかで、酒を選んだ。煙草は吸ったことがないとは言わないが、煙を肺まで入れて見ろと言われて試したら咳き込んでえらい目にあったので、それ以来試したこともない。酒もはじめて飲んだときにはあまり美味しいとは思えなかったけれども、煙草とは違って、少なくとも飲むことはできた。
 昔は、飲み屋なんかに出かけて、周りが喫煙者ばかりで煙がもうもうと立っていても、あまり気にならなかったのだが、最近はすごく気になるようになった。大学時代に飲み屋で夜中まで煙にいぶされたセーターなんかを翌朝に着てもまったく平気だったのは、鼻が悪かったのか、自分自身の悪臭に煙草の臭いがまぎれてしまったのか。最近は、オロモウツでも禁煙の飲み屋、もしくは禁煙席のある飲み屋にしか行かないので、それほど臭いがつくわけではないけど、それでも料理の臭いなんかが気になって、しばらく風通しをしてからでないと着られなくなった。

 交通機関でも、八十年代ぐらいから、鉄道や飛行機にも禁煙席、喫煙席が導入され、それが全席禁煙に変わるまでにそれほど長い時間は必要としなかったのではなかったか。正確にはいつだったか覚えていないが、日系の航空会社に喫煙席が残っているのをヨーロッパの人に責められたことがある。日系の航空会社は、確か禁煙席の導入は早かったけれども、全席禁煙にするのは一番遅かったのではなかったか。そのことを航空会社とは関係のない人間に言われても困る。
 喫煙はお前らが世界に広めた習慣だろうがと文句を行ってやりたかったが、悲しいことに当時は語彙が足りていなかった。捕鯨問題にしても、喫煙の問題にしても、宗教の問題にしても、森林破壊の問題にしても、自分たちがこれまでやってきたことを棚上げにして、世界中に自分たちの正義を押し付けようとするのは、虫がよすぎる。それが世界中に根強く残る西欧的、アメリカ的価値観に対する反感につながっているのだろう。

 それで、禁煙の話に戻すと、交通機関とは違ってなかなか進まなかったのが、レストランや喫茶店などでの禁煙である。チェコでも2000年代の初頭ぐらいから完全禁煙をうたったレストランが、ぽつぽつと現れ始めてはいたが、主流になることはなく、国会でも完全禁煙の法律が採択されることはなかった。それが、いつごろだっただろうか、レストランなどに対して、分煙を義務付ける法律が成立した。それまでは、お昼のランチの時間帯だけ禁煙にするレストランが多かったのだが、禁煙の部屋と、喫煙できる部屋を完全に分けなければならなくなったらしい。場合によっては、一軒全体を禁煙、喫煙のどちらかに統一してもよかったのかな。ただし、入る前にそれがわかるような表示をすることが義務付けられた。

 この頃から、飲食店での完全禁煙を求める声が高まり、ニュースなんかでも飲食店経営者の声を伝えていたが、禁煙にすると客が減るという人と、禁煙にして客が増えたという人がいてなかなか興味深かった。客が減るといういう理由は、常連の大半が煙草を吸うので、禁煙になったらうちに来る理由がなくなるというもので、客が増えるというのは、煙草の煙が苦手で外で食事をしたり、お酒を飲んだりするのを避けている人は多いはずだから、完全禁煙にすれば新しい客を呼び込めるというものが多かった。
 結論から言うと、後者の意見のほうが正しかったようだ。分煙から完全禁煙に切り替える飲食店が増えている。かつては煙が立ち込めていて外から見るだけで中には入りたくないと思ったこともあるドラーパルも、ポッド・リンポウも禁煙になったし。それでも、喫煙のできる飲食店を求める声は消えないようで、一部の飲食店はかたくなに喫煙できる状態を維持している。住み分けという意味ではうまくいっていると言ってもよさそうだ。

 現在、国会には既に何回目かの飲食店の完全禁煙に関する法案が提出されていて、夏休みが明けたら審議が始まるらしい。しかし、自らも煙草を吸う国会議員が法案に賛成するだろうか。夜な夜な白煙立ち込める飲み屋で酒を飲むのが趣味という人もいるみたいだし。考えてみれば、日本の航空会社が全席禁煙にしないことを責められたときには、会社の偉い人が煙草を吸うから禁煙にできないんだろうよと答えたのだった。

 近年の世界的な喫煙撲滅運動を見ていると、中途半端な法律なんか作らずに、煙草を麻薬指定して禁止してしまえばいいのにとも思う。マリファナ解禁論者が、煙草よりも健康にいいなんてトチ狂ったことを言うのを防ぐにもちょうどいいし、子供が見たらトラウマになりそうな写真をパッケージに貼り付けるなんていうこともしなくてよくなる。禁止できないのなら、薬扱いにして処方箋がなければ購入できないようにするという手もある。これなら喫煙量も管理できるし。ただ禁止にした場合もそうだけど闇での取引が増えるか。
 喫煙が健康保険に与える負担の大きさを減らすのが、禁煙の場所を増やそうという理由だというなら、喫煙者の保険料を上げるなり、高額の煙草税を設定して健康保険に投入するなりする手もあろう。喫煙者の負担が増えれば、禁煙する人も増えるはずなのだから。それでも煙草はやめられないと言う人は一定数残るだろうけど。
9月9日14時。



posted by olomoučan at 06:26| Comment(0) | TrackBack(0) | チェコ
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