2021年06月08日
推理小説三昧(六月四日)
時代小説、歴史小説を濫読して飽きた後は、推理小説に手を伸ばした。赤川次郎の『三毛猫ホームズの推理』があるのを思い出して、久しぶりに読んだのが、推理小説に移ったきっかけである。中学時代に、確かシリーズの十冊目ぐらいまでは読んだと思うのだけど、一冊目の時点ではシリーズ化はあまり考えていなかったような印象を持った。一冊目が売れたから、出版社の要請で続編を出してシリーズ化したということなのだろう。
推理小説の場合には、続編とはいっても、探偵役が同じだけで、ストーリーは一から新しく始まるわけだから、継続しようが、終了しようが、作品の質にはあまり影響しなさそうだけど、小説よりもマンガ、特に少年マンガの場合に顕著な、売れなければ話の途中でもむりやり打ち切り、売れれば無理やり話を引き伸ばすというやり口は、作品の質を落とすだけでなく、全体の売り上げも落とすことにつながるような気がする。そういえば、池波正太郎の『鬼平犯科帳』も、当初は鬼平の火盗改め在任期間に合わせて書かれていたのが、人気のせいで終われなくなって、年代不詳の作品になってしまったなんて言われていたなあ。原則として短編だから個々の作品の質には影響しないのだろうけど。
赤川次郎は、出版社ごとにシリーズというか、探偵役の登場人物を持ち、それを頻繁に書き継ぐという特異な作家だけれども、それぞれのシリーズの中でも第一作が、作品としては一番面白かったような記憶もある。短編中心のシリーズはそうでもないかな。今回は「三毛猫ホームズ」の一作目以外は、シリーズになっていない作品を何作か読んだだけなので、何ともいえないけどさ。
逆にどの出版社からの刊行でも探偵役は変わらないというタイプの作家もいて、西村京太郎とか内田康男なんかが代表的な存在になるのだろうか。西村京太郎の場合には私立探偵の左文字なんてキャラクターもいたはずなのだが、いつの間にか十津川警部の登場する作品ばかりになっていた。当時の、確か1970年代の日本では私立探偵が殺人事件の捜査にかかわるというのが現実的ではなくて受け入れられなかったのだろうか。私立探偵が捜査に介入する状況を設定するのが大変だったのかもしれない。
十津川警部ものでは、登場する部下の名前が違っていることが多いのだけど、出版社によって、部下の刑事を使い分けるなんてことをしていたのかなあ。今回は出版社のわからない形で何冊か読んだのだけど、部下の入れ替わりは出版社の違いというよりは、書かれた時代の違いのようにも思われた。部下ではないけれども、三浦という刑事が、事件の起きた都道府県の警察の担当者として登場することが多いのが気になった。そんなによくある苗字ではないと思うのだけどなあ。
西村京太郎の代名詞とも言うべき「トラベル・ミステリー」は、電車がめったに遅れない日本だからこそのジャンルだと思う。鉄道の遅延が日常茶飯事で、5分までは遅れとはみなさないというチェコだと、あの時刻表をもとにしたアリバイ作りとか、実現は不可能である。毎日のように遅れて、その遅れの時間も日替わりで違うから、実際にやったら、逆に捜査も大変そうだけど、推理小説としてはどうなのかということになってしまう。
今回次々に大抵は連続殺人事件を扱った推理小説を読んで思ったのは、実際にこんなにたくさん事件が起こったら警察も対応しきれないだろうというものだった。実際に日本で毎年どのくらいの人が殺人事件の犠牲車内っているのかは知らないが、その年に刊行された推理小説の中で殺された人の数より多いということはあるまい。まあ、刑事ドラマだと毎週一回以上は必ず事件が起こるわけだけどさ。
森雅裕が、確か推理小説は読者の殺人願望をかなえるカタルシスであるという考えに対して、疑問を呈した上で、作者のほうが実在の人物をモデルにした登場人物を殺せるから、こちらのほうがカタルシスと呼ぶにふさわしいなんて危ないことを書いていたけれども、寡作で、人の死なない推理小説を書くことも多かった森雅裕ならともかく、赤川次郎や西村京太郎のような多作で、それぞれの作品で何人も人が死んでいく作家の場合には、いちいちカタルシスなんて感じていられないだろうなあ。読者の側も人死によりも、推理を楽しむわけだし。
とまれ、人の死に過ぎる小説を立て続けに数十冊読んで、流石に食傷したのも、読書三昧の生活をやめて、もの書く生活に復帰した理由の一つである。活字中毒者が完全に読むのを停止するわけもなく、その後もあれこれ読んではいるのだけど、推理小説はぱったり読むのをやめてしまった。
2021年6月6日18時30分。
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