2021年02月06日
選挙法改正(二月三日)
チェコでは解散がない限り4年に一度行われる下院の選挙まで半年ちょっとという時期になって、憲法裁判所が現行の選挙法を違憲だと認定し、選挙までに新たな選挙法を制定するように議会に求めた。事前にゼマン大統領が、この時期に、この決定を下すことは、混乱を引き起こすだけで、何の役にも立たないと警告したらしいが、憲法裁判所では採決を強行して、意見の判決を下したということのようだ。
チェコの現行の選挙制度が不完全で、不平等なものであることは周知の事実だが、いやそもそも完全に平等な選挙制度など存在しえないことを考えると、バビシュ首相がこの決定に対して強く批判する気持ちもわからなくはない。このままでは、わずか数カ月で、現行の選挙法に変わる新しい制度を作り出さなければならないのである。しかも、各政党がそれぞれ自分たちに都合のいい方向に話を持って行こうとするだろうから、現行よりもマシな法案ができたとして、国会で可決される保証はどこにもないのである。
この件について少しわかりやすく説明をすると、憲法裁判所というのは日本の最高裁裁判所が持っている違憲立法審査権を行使する権利を持つ裁判所で、一般の最高裁判所を含む裁判所とは役割を異にしている。原則として法律や法令、政府の決定などが、憲法に違反していないかを審議する機関である。審議するのは訴えがあってからだと思うのだが、今回の決定が誰の訴えに基づいて開始されたのかは、わからなかった。
憲法裁判所がチェコの政治に大きな影響を与えたものとしては、2009年の判決がすぐに思い出される。チェコは当時EUの議長国を務めていたのだが、トポラーネク内閣が、下院での不信任決議だったか、信任決議だったかで、信任を得ることができず、下院の解散、総選挙の実施を決定した。これに対して、共産党かどこかの下院議員が、憲法上内閣に解散権はないのではないのかと、憲法裁判所に訴えた。その結果、下院の解散は違憲だという決定がなされて選挙が中止になり、任期満了までの半年ほどの間、暫定内閣が成立し、暫定でEUの議長国を務めるという恥をさらすことになったのである。
2009年以前には、下院の解散が行われたこともあるのだが、誰も問題にしなかったため、憲法上、もしくは選挙法上解散権はあるものだと思われていたようだ。さすがに、下院に不信任決議をする権利があるのに、内閣に解散の権利がないという偏った関係はよくないと考えたのか、法律が改正されて(憲法かもしれない)、内閣の解散権が明記されることになったはずである。当時は珍しく与野党の意見が一致して、速やかに合意がなされたと記憶する。
この2009年の前に憲法裁判所が政治的な判断を下したのが、実は現行の選挙法が制定されたときのことで、このときは当時のハベル大統領まで担ぎ出されて、違憲という判断は下されたものの、選挙法の効力を止めたり、改正を求めたりまではしなかったようだ。だからこそ、当時の法律が今まで生き続けてきたわけである。面白いのは、当時社会民主党の中心人物の一人で、現行の選挙法の導入に貢献したリヘツキーが、現在は憲法裁判所の長官で、違憲だと糾弾する立場になっていることである。
現行の選挙法のどこが問題なのかを説明する前に、簡単に下院の選挙の制度をおさらいしておく。選挙は政党に投票する比例代表制で行われ、プラハと13の地方、合わせて14の選挙区に分けられており、政党はそれぞれの選挙区ごとに候補者名簿を作成することになる。選挙区ごとの定員は、人口、もしくは有権者数に基づいて制定されているが、その割り振りのルールはよくわからない。カルロビバリ地方のように定員が非常に少なく、どうして独立させているのだろうと不思議に思うような地方もいくつかある。
また極右政党が議席を獲得することを防ぐために、得票率5パーセントという議席を獲得するための最低得票率が制定されているが、これは各選挙区での得票率ではなく、全国での得票率5パーセントである。そして、二つ以上の政党が連合を組んで共同で候補者名簿を作成する場合には、地方単位では認められず、全国すべての選挙区で連合しなけらばならず、議席を獲得するための最低得票率は5パーセントに政党数をかけたものになる。つまり、2党なら10、3党なら15パーセントというわけである。
実際の得票数に基づく議席の配分は、日本などでも取り入れられているドント方式が採用されている。この方式は、いくつかある配分方式の中では、得票率の高い政党に有利な方式だと言われている。つまり得票率が高ければ高いほど、1議席を獲得するのに必要な票の数が減っていくのである。弱小政党の乱立を防ぎ、第一党が議会で過半数を取りやすい、取れなくても連立相手を見つけやすい制度だということもできそうだ。
というところで、いったんおしまい。
2021年2月4日21時。
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