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2020年09月03日

上院議長中華民国訪問続(八月卅一日)



 昨日の話を読んで、経済的な利益なら、台湾よりも中国と結んだ方がいいのではないかと思った方もいるだろうが、その中国の経済による支配力に陰りが出ている事情は、この産経新聞の記事に詳しい。前回紹介した記事よりも以前の記事だが、内容的にはこちらの方が優れている。ただチェコを知らない人にはわかりにくいところもあるのでちょっと解説を加えておく。

 まず、代表団の一人として紹介されているパベル・フィシェル上院議員だが、この人はもともとハベル大統領に近かった外交官で、2018年の大統領選挙に立候補したことで知名度を上げた。専門である外交の分野ではゼマン大統領の過度の中国への接近を批判していたはずである。その後、大統領選挙で得た知名度を生かして上院の選挙に立候補し当選した。
 現在の上院には、フィシェル氏だけでなく、医師のヒルシュル氏、ゼマン大統領との決選投票にまで進んだ元科学アカデミー長のドラホシュ氏と、大統領選挙で反ゼマンの立場から立候補した人たちが何人かいる。同時に最大会派の代表として議長を務めるのが、90年代のゼマン大統領の政治的ライバルだったクラウス元大統領が創設した市民民主党の議員なので、上院はチェコの政界では反ゼマン、反バビシュ派の牙城のようなものになっている。

 だから、上院議員たちが、その独立性を行使して、政府の意向に反する台湾訪問を強行するのも、政府、大統領側が自分たちには関係ないとさじを投げたような発言をするのも当然と言えば当然なのである。ただし、市民民主党は経済を重視しているので、中国からの約束された巨額の投資が実現していれば、あえて台湾訪問を唱えなかった可能性は高い。中国への接近を始めたのは自分だと、市民民主党のネチャス元首相が自慢していたぐらいだし。今回の件は中国の自業自得で、チェコを批判するのは盗人猛々しいという奴である。

 アメリカのポンペオ国務長官の国会演説に関しては、チェコ側が驚きのあまりろくに反応できず、ポンペオ氏はそれに失望したという報道があったことを付け加えておく。来る前、来てからも途中までは大歓迎という雰囲気であれこれ会談の展望が語られていたのに、結局なかったことにされているような印象を受けたのは、この演説が原因だったのである。

 この記事では、「ゼマン大統領が主導した中国接近の「失敗」」と断じていて、それは正しいと思うが、問題はゼマン大統領を筆頭とする中国信者は失敗ではないと考えていることである。今後も中国との関係を深めて、優遇を続けていけば、チェコへ投資を引き込むことができると考えて、中国への過度な配慮と譲歩を繰り返している。これまでの投資額が中国よりもはるかに多い国々に対しては、そこまでの配慮はしていないので、ふざけるなと思っている外資系の企業は多いはずだ。
 中国からのチェコへの投資は、もともとある中国の投資会社が担当をしていて、その象徴としてまずサッカーのスラビア・プラハを買収した。このスラビア買収が予想に反して好結果をもたらしたことで、中国からの投資に対する期待が高まったと言っていい。投資会社の社長はチェコでゼマン大統領の相談役か何かに任命されていた。

 風向きを変えたのは、その投資会社の社長が本国の中国で失脚したことである。記事には「汚職疑惑の中で撤退」とあるが、チェコから見ていると、事情も何も分からず。ある日突然社長が消えていたという印象だった。ゼマン大統領でさえも知らされておらず、中国を訪問した際にこの社長が出てこないことを不審に思って、中国側に問い合わせてもろくな情報が与えられなかったという話だったと思う。汚職疑惑というのは口実で、要は権力争いに負けて粛清されたのだろう。さすがは共産党国家である。
 チェコでの投資に関しては、撤退したというよりは、その投資企業自体が消滅して、政府系の投資機関が後を引き継いだのだと理解している。その政府系の投資機関は、もともとチェコが担当じゃなかったからか、中国政府によって約束されたはずの巨額の投資は行わず、チェコの経済界に失望をもたらした。さらには成功の象徴だったスラビアさえも売却することを考慮しているというニュースが流れるなど、撤退の準備を始めているようにも見える。忠臣であるゼマン大統領の任期中ぐらいは、チェコでの活動を続けるんじゃないかとは思うけどさ。

 おそらく、ゼマン大統領がいかに努力しても中国が約束の投資を実行することはあるまい。まだ完全には終わっていないけれども、これが過剰に中国にすり寄ってしまった国の顛末である。今回の上院議長の台湾訪問を機に、中国からの投資が撤退する可能性はあるが、それは口実にされるだけで、撤退の本当の原因にはならないと思う。日本も中国に頼った経済政策なんてやめて、中国の存在なしでも成り立つ政策に切り替えないと、いつはしごを外されるか分かったものじゃない。トランプ大統領率いるアメリカが中国との対決姿勢を強めている今が最後のチャンスかもしれない。
 80年代には左翼もどきとして、当然アメリカ嫌いだったのだけど、今の中国を見ると当時のアメリカ以上にひどくないか? かつてアメリカを批判し続けた左翼ならば、今は中国をも批判するのが正しいんじゃないかなんてことを、チェコを見ていると思ってしまう。
2020年8月31日23時30分。














タグ:台湾 中国
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