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2020年01月28日

コトバ(正月廿五日)



 確か我がチェコ語の基礎を築いた教科書『チェコ語初級』だったと思うが、プラハにあるデパートとして「Bílá Labuť(ビーラー・ラブテュ=白鳥)」というのが登場したと記憶する。旧共産圏にもデパートがあるんだなと感心はしたのだが、買い物が苦手なこともあって特に行きたいとは思わなかった。怖いもの見たさはあったので、オロモウツにあれば話の種に見に行っていただろうけど。
 その後、オロモウツに来て、日本語のできるチェコ人と話す機会が増えて、こちらのイメージするデパートと、チェコの人のイメージするデパートはかなり違っているのではないかという印象を持った。「obchodní dům(オプホドニー・ドゥーム)」「nákupní středisko(ナークプニー・ストシェディスコ)」「nákupní centrum(ナークプニー・ツェントルム)」など、日本語のデパート、ショッピングセンターなんかに対応するチェコ語はいくつかある。

 その中で一番デパートに近いのはオプホドニー・ドゥームだろう。上のビーラー・ラブテュもチェコ語でそう呼ばれているし。ただ、オロモウツにも、「コルナ」というオプホドニー・ドゥームがあるのだけど、これがデパートというにはちょっとあれな存在で……。チェコには、少なくともオロモウツにはデパートはないと断言してきた。シャントフカも、ガレリエ・モリツもデパートというにはちょっとね。
 それで、久しぶりに黒田龍之助師の『その他の外国語エトセトラ』を読んでいたら、プラハのデパートが登場した。それが「Kotva(コトバ=碇)」である。ここが多分チェコで一番有名なオプホドニー・ドゥームなのだが、外から黒い外壁は見たことがあっても、中に入ったことはない。それなのに、チェコに(日本的な)デパートはないと言いきってしまうのは、よくないよなあなどと考えて、先日プラハに行った際に、帰りの電車まで時間もあったので、足を向けることにした。

 プラハの旧市街広場からもほど近いところにあるというのに、きわめて現代的な建物であるという点では、ブルタバ川沿いの「タンチーツィー・ドゥーム」と似ているが、こちらの方が周囲に溶け込んでいるような印象を与える。共産党政権時代の、それも1970〜75年という正常化の時代に建設された建物は、正面から見るとでこぼこのある特徴的な形をしている。オロモウツにあったプリオールとの違いを言うと、外面にガラスがふんだんに使われているところだろうか。壁の黒といい、むしろ新しくなったガレリエ・モリツを思わせるところがある。共産党の時代の建築というのも、なかなか侮れないのである。
 中に入ると、日本のデパートよりも狭いけれども、雰囲気は似ている気がした。一応1階だけでなく、4階ぐらいまでエレベーターで上がって確認したところ、これならデパートと言ってもいいかなあという印象を持った。コトバがいろいろな商品の売り場を設けているのではなく、いろいろなブランドがテナントとして入っている点では、他のところとあまり変わらないのに、なんでだろう。

 ということで、時間もあったし確認のために、近くにあるパラディウムというショッピングセンター?にも入ってみた。それで気づいたのが、コトバはテナントとテナントの間が壁で仕切られておらずフロア全体を見通せたことだ。それに対して、パラディウムやシャントフカなどはそれぞれのテナントが壁で仕切られた閉鎖的な構造になっていて、一度中に入ると隣の店の様子は見ることができない。だからデパートだとは思いにくかったのか。
 コトバのテナントの中には、商品の陳列がまばらでちょっと空虚な空間を作り出しているところがあった。それを見てオロモウツでも壁の仕切りのないところを見たことがあるのを思い出した。ただその店にはテナントが一軒、もしくは売り場が一つしかなく、残りは床がむき出しになっていたから、デパートだなんて思えなかったのだ。今もあるかなあ。

 つらつらとチェコのデパートについて書いてきて、日本でもデパート論争があったのを思い出した。東京なら三越とか高島屋なんかは、何の問題もなくデパートと認識されていたし、田舎に行けば田舎の地元にしかない老舗のデパートが存在したものだ。問題は、全国チェーンのスーパーからデパートっぽくなったダイエーとか、西武デパートのの子会社の西友なんかで、この手の境目にある店をデパートと認識するかどうかは、個人差があった。それで、デパートかどうかで飲み屋で論戦をして、互いに田舎者とか言い合っていたんじゃなかったか。

 デパートは百貨店ともいうが、昔川崎の南部線沿いに住んでいたころよく買い物をしていた古本屋が「○○百貨店」の中に入っていた。「○○」には駅名が入るのだが、どこの駅だか思い出せない。とまれ、その百貨店というのが、街の外れの農地の一角にある平屋の建物で、戦後すぐの闇市の時代から続くと言われても信じてしまいそうなトタン屋根のバラック風だった。入り口には花屋ともう一つお店があって、奥に古本屋が入っていたのかな。最初は気づかなかったのだが、ある日「○○百貨店」とあるのを見て愕然とした。
 これが百貨店で、つまりはデパートなら、チェコの田舎の村にある、いろいろな商品を売っている小さなお店「smíšené zboží」もデパートでいいような気もしてきた。でも、オロモウツのコルナもデパートでいいやとは言いたくないから、言葉へのこだわりってのは度し難いものである。
2020年1月26日24時。









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