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2020年01月01日

『チェコの伝説と歴史』――チェコの貴族の家名(十二月廿九日)



 この本の特徴としては、貴族の家名の表記も挙げられる。本の特徴と言うよりは日本語訳の特徴と言った方がいいのだが、チェコ語のものをそのままカタカナにしているのである。だから「イジー・ス・ポヂェブラト」とか、「ベネシュ・ズ・ロウン」なんて人名だけでなく、「ス・クルムロヴァ家」などという表記も登場する。

 注にもあるように、チェコ語の貴族の名前の後ろにつくことの多い「z」は、ドイツ語の「von」に当たるもので、地名が後に続く。ドイツ語のほうが何格になるのかは知らないが、チェコ語の場合には、2格をとるため、本来の地名、つまりは1格の形とは微妙に変わってしまう。チェコ語ができる人なら、「ス・クルムロヴァ」のもとになった地名はクルムロフで、「ズ・ロウン」はロウニだということがわかるのだろうけど、……。この本を読むような人はチェコ語にも手を出しているだろうから心配はないかな。
 この表記の利点は、何と言ってもチェコ語の表記との整合性にあるだろう。チェコ語でも貴族の家名を「z」と地名の2格で示すことが多いのである。去年買った『チェコの貴族家事典』でも「z」のついた形で立項されているものがかなりの数に昇る。観光地の説明なんかでも「páni ze Žerotína」なんて形で、ジェロティーン家の人々のことが書かれていることがあるし。

 プシェミスル家やビーテク家などのように、地名を使わない家名もあるし、ハプスブルク家のように人名に使う場合には形容詞化した形にするものもあり、キーンスキー家のように家名も人名も形容詞型の名詞になっているものもあることで、一言で言えばチェコ語の表記も結構混乱していることである。「z」の代わりに「na」か「v」を使う例も少ないとはいえ存在するのは、ドイツ語に「von」だけでなく「zu」もあるのに対応しているのかもしれないけど。
 先ほど例に挙げたジェロティーン家の場合にも、複数形で「ジェロティーノベー」なんて形で出てくることも多いから単数にすると「ジェロティーン」ということになる。ハプスブルク家も形容詞型の名詞「ハプスブルスキー」の複数形で「ハプスブルシュティー」となる場合と、「ハプスブルコベー」という名詞「ハプスブルク」の複数形が使われる場合もあるから、チェコ語を学ぶ外国人にとってはややこしい以外の言葉は出てこない。

 さらには、王家であるプシェミスル家の場合には、王の名前の後ろに姓のようなものがつくことがなく、プシェミスル家の人々を指す特別な名詞として「プシェミスロフツィ」という言葉が使われる。同様に南ボヘミアに勢力を誇ったビーテク家にも「ビートコフツィ」という言い方がある。ただこちらは早くから「z」を使ったいくつかの家名に分かれている。分家が成立したということなのだろうか。
 同じ「z」を使った家名でも、ジェロティーン家のように領地が増えて本拠地が変わっても同じ「ze Žerotína」を使い続けるところもあれば、比較的ひんぱんに家名の基となる地名が変わっていて家系のつながりが見えにくいところもある。さらには外国から入ってきた貴族の家名や、チェコの貴族が外国で呼ばれる家名が、チェコと外国で微妙に違っているという問題もあって、貴族家の家名をどう日本語で表記するのかという問題は一筋縄ではいかない。

 個人的には、家名の基になった地名との整合性を重視して、地名を家名として使っているのだけど、それが正しいのかどうかは自分でもよくわからない。またまましまらない結末になってしまった。
2019年12月30日24時。










posted by olomoučan at 06:44| Comment(0) | TrackBack(0) | チェコ
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