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2019年09月24日

レトナーにぬいぐるみの雨が降る(九月廿二日)



 通算百回を超えるという、スパルタとスラビアの対戦するプラハ―ダービーが行われた。例によってチェコテレビが放映してくれないので試合自体は見ていないのだが、なかなか面白いことになっていた。プラハダービーというと、ファンが集まって試合会場に向かう途中で、建物を破壊したり、暴力沙汰を起こしたりという迷惑行為がつきものなのだけど、今回は比較的穏やかに終わった印象である。
 今日の試合がどん底から這い上がれないでいるスパルタホームでの試合だったのもよかったのかもしれない。状態の悪いチームのファンが、相手ホームの試合のときに暴れることが多いのである。スパルタ側の対策がうまくいった可能性もある。事前にちょっと荒れそうだという予測もあったし。

 荒れそうだと予想されていたのは、去年の秋まではスパルタにいて、キャプテンまで務めていたルーマニアのスタンチウが、チーム状態の上がらないスパルタからアラビアのかどこかのチームに逃げたした後、わずか半期でチェコに戻ってきてスラビアでプレーしているからである。スパルタとスラビアの間の移籍は、禁断の移籍で、直接の移籍ではなくても、元いたチームファンから罵声を浴びることを覚悟しなければならない。
 以前ほど強烈なライバル意識はなくなりつつあるとは言われていて、移籍した選手に対する攻撃も激しくはなくなったらしいのだが、今回のスタンチウの場合には、スパルタで優勝するまで移籍しないと言っておきながらチームを見捨てるように移籍し、自ら売り込んでスラビアの選手になったというのが、ファンの心理を逆なでしているようである。

 それで、スパルタファンがスタンチウを「歓迎」するために考え出した方法というのが、意外とまともだったのに驚いた。試合開始前に小さなぬいぐるみをグラウンドに投げ入れようというのである。ただし、投げ込むのは、移籍のやり口の汚さを象徴するドブネズミか、裏切り者の象徴であるヘビ、もしくはチェコでは何であれひどいことを強調するときに「ブタのように」と使われるブタの三種類に限るというから、なかなか皮肉が利いている。
 何事もなくても、審判の判定が気に入らなかったら、ゴミやビール入りのプラスチックのコップ、硬貨、トイレットペーパー、ひどいときには発炎筒が飛び交うのがチェコのサッカースタジアムである。そこにぬいぐるみを投げ込もうというだから、スパルタのファンを見直してしまった。例のアホしかいない迷惑ファンじゃなくて、穏健派のファンか、クラブ側から出てきたアイデアではないかと推測している。

 それがSNSを通じてファンの間で広まったために、事前にスラビア側もその情報を得ていて、とった対策が、これまたサッカー界では希な、見事なものだった。ファンにぬいぐるみを投げ込もうと呼びかけたのである。ただしスパルタとは違って、投げ込むのは自分のお気に入りのぬいぐるみ。そして、回収されたぬいぐるみと、ぬいぐるみ一体当たり100コルナをチェコで一番重い病気の子供たちが集まるプラハはモトルの病院の小児科に寄付すると発表した。スパルタに対抗する行為で、社会貢献もできるのだから一石二鳥である。
※追記:正確には小児科で白血病の治療を受けている子供たちを支援するための財団を通しての寄付のようである。ぬいぐるみのほうは、実はホームのスパルタの管轄で、こちらもどこかに寄付することを考えているようだ。

 早速スラビアファンの有名人たち、テニスのクビトバーなんかが、自分のお気に入りのぬいぐるみをSNSで紹介した結果、予想外の盛り上がりを見せ、スラビアファンが投げ込んだぬいぐるみの方が多かったようである。試合の映像を見ると、グラウンドの外周のフェンスの下に何箇所かぬいぐるみの小さな山ができていて、ゴールのネットに引っかかっているものもあった。サッカーファンもたまにはいいことをするのである。

 肝腎でもない試合のほうは、両チームの現在の状態を反映した結果におわった。内容的にはそこまで大きな差はなかったとも言うけれども、スラビアが幸運な得点も含めて3点取ったのに対して、スパルタはチャンスはあったものの無得点に終わった。スラビアもミスはあったけれども失点につながらず、スパルタはミスが失点につながるという運の悪さもあった。2点目なんかオライエンカのシュートがゴールに向かっていなかったのに、直前の接触プレーで倒れて立ち上がろうとしていたサーチェクのお尻に当たってゴールだったからなあ。
2019年9月22日25時。










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