2019年08月23日
文化大臣問題決着か(八月廿一日)
五月の前半から、チェコの政界を揺るがしている文化大臣の問題がようやく決着しそうな見通しになってきた。揺るがしているのは、文化大臣の問題ではなくて、ゼマン大統領その人だといえばそれはその通りで、ゼマン大統領にバビシュ内閣はもとより、野党側も振り回されて、この騒ぎで得をした人など、大統領も含めて誰もいないように見える。それはともかく、前回七月初めにこの件について書いて以来の動向を簡単に、覚えている範囲で書いておく。
7月中旬に行われたゼマン大統領と、バビシュ首相、ハマーチェク社会民主党党首の三者会談は、期待されたような即時の解決はもたらさなかった。ゼマン大統領は言を左右して社会民主党の要求を受け入れるとも受け入れないともはっきり言わなかったし、社会民主党も文化大臣交代の要求を取り下げようとはしなかった。
この時期、バビシュ首相の指導力のなさが批判されていたというか、チェコ語で「弱い(slabý)」首相だと批判されることが多かった。この形容詞でどんなことを言いたいのかが問題で、直訳である日本語の弱いとはかなり違った使い方をする批判の言葉なのである。学校なんかだとできの悪い学生のことを、「slabý student」なんて言うし、スポーツでは本来の実力も発揮できないようなプレーに終始したときになんかに、「slabý výkon」と批判される。
そうすると、このバビシュ首相に対する批判も、単に弱いから連想される「弱腰な」とか、「弱気な」などの言葉よりは、「無能な」「不出来な」「ふさわしくない」などの強い批判の意味が込められたものではないかと思われてくる。ただ、批判する側も、バビシュ首相を十分に追い込めなかったという意味では「slabý」なのだけど。
その後、どういう心境の変化があったのか、ゼマン大統領は七月の末日付でスタニェク氏を解任することを決め実行した。ただ後任として候補になっていたシュマルダ氏に関しては、二人で会談などをしたにもかかわらず、任命するかどうかは夏休みが終わってから発表するとか何とか言って、プラハを離れたらしい。
社会民主党は、かたくなにシュマルダ氏の任命にこだわり、任命されないのはバビシュ首相のゼマン大統領との交渉が足りないからだとか何とか批判し、連立を継続する条件として改めてシュマルダ氏の任命を求めていた。ただ野党が批判していたように、条件を突き付け、この日までにという期限を突き付けるところまでは強気なのだが、その期限が守られなくても、なんだかんだ理由を付けて起源を引き延ばす印象があって、社会民主党の迷走に拍車がかかっていることがうかがえた。
そもそも、自分たちが文化大臣に就任させた人物を、自分たちの都合で解任し、新たな大臣を任命させようとしているにしては、任命されないのは首相の責任だと言い続けて、無責任な印象を与えていた。もちろんバビシュ首相の社会民主党内のもめ事なんだから自分には関係ない的な言い訳も無責任で、互いに責任を押し付け合う、チェコ語で言うところの「horké brambory(熱いジャガイモ)」を投げつけ合っている印象しか残らなかった。
このころからだと思うが、来年度の予算に関して社会民主党の大臣たちが、予算の増額を求めて大騒ぎし始めた。要求が認められなかったら国会の予算審議で反対に回るとか言い出したのかな。ただでさえ増大した予算と赤字の大きさを批判されている中、ニュースのキャスターが財源はどうするのだと質問すると、銀行税とかデジタル税とかよその国で導入して成功した(ように現時点では見える)新税を導入すれば問題ないとか答えていた。来年に間に合うのかとは、キャスターも質問しなかったけど、バビシュ首相を追い詰めるための要求にしか聞こえなかった。
そして13日だったかな。ゼマン大統領本人ではなく、広報官のオフチャーチェク氏がツイッターかなんかで、大統領がシュマルダ氏を任命しないことを発表した。発表のしかたが間違っていると思うのは、時代遅れの人間だからだろうか。とまれこれで社会民主党がまた大騒ぎをすることになったのだが、当時はバビシュ首相もハマーチェク氏も休暇中で、休暇から戻ってから対応するとか何とか発表していた。
社会民主党内では、シュマルダ氏の任命にこだわるべきだという声も高く、本人もこの時点では任命を辞退する気はないと主張していたような気がする。もちろん社会民主党内からは、政権を離れて下野したほうがいいという主張も再び聞こえ始めていた。大臣たちの予算に対する要求も強くなっていたので、これは社会民主党は腹くくったかなと期待したのだが……。
風向きが変わったのはいつだっただろうか。どこかの新聞が、社会民主党が連立を解消しても、ANOの単独政権で、下院で信任を得られそうだという記事を出した。ANOと共産党が基本票だが、それに市民民主党を追放されたクラウス氏のグループ、オカムラ党を追放されたオストラバのグループ、それに文化大臣をおろされて面目をつぶされたスタニェク氏の票を合わせれば、バビシュ内閣は下院で101票を確保できるというのだ。
この記事の真偽は知らないが、翌日辺りにバビシュ氏が、開き直ったような発言を始めた。シュマルダ氏は、ゼマン大統領の言うように文化大臣にはふさわしくないから再度任命を要求はしないということと、社会民主党は連立を継続する気があるのかないのかはっきりさせるべきだということを主張した。連立を続けたいなら文化大臣の件でも、予算の件でも協力しろということなのだろう。これまで我慢していたうっぷんを晴らすかのような、豹変ぶりだった。
これで慌てたのが社会民主党で、シュマルダ氏がバビシュ政権の大臣にはなりたくないと言い出し、連立を解消することを主張し始めた。そして、人選が楽になったハマーチェク氏は、連立解消に踏み切ることはできず、元外務大臣のザオラーレク氏を文化大臣に擁立することを発表した。この人選に関してはバビシュ首相だけでなく、ゼマン大統領も反対しないということで、残念ながらバビシュ内閣が倒れて秋に総選挙という楽しみはなくなってしまった。
ザオラーレク氏は、ソボトカ氏の後を受けて、2017年の選挙で社会民主党の看板を務め、反バビシュ、反ANOを掲げて惨敗した後は、責任を取ってか党の要職からは離れていた。ANOとの連立交渉に際しても一貫して反対の立場に立っていたのだが、党のあまりの迷走ぶりに火中の栗を拾う決断をしたということだろうか。
これでこの文化大臣を巡る騒ぎが終了ということになるのか、社会民主党が前言を撤回して下やということになるのかわからないが、ゼマン大統領の社会民主党解体はだけは着実に進んでいる。ゼマン大統領に太刀打ちできそうな人材がいないのも社会民主党が迷走を続ける理由になっているのだろう。
2019年8月21日24時。
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