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2018年10月27日

暴れる熊(十月廿三日)



 ポーランドなどヨーロッパ各地に広がりつつあるらしい、豚の伝染病であるアフリカ豚コレラは、チェコでも、去年の夏、ズリーン地方で発病して死んだイノシシが発見されて問題になっていたが、罹患したイノシシを汚染された地域に押し込み猟師たちが駆除を進め、病死した死体を処理し土壌を洗浄するという作業を続けた結果、一年近い時間をかけてアフリカ豚コレラの撲滅に成功したらしい。この地域の人たちは、禁止されていた野原や森への散歩もできるようになり、農作業も時期の問題はあるとはいえ解禁されたようである。これで、ズリーン地方としては厄介ごとが片付いて一安心ということころだったのだろうが、新たな厄介ごとがスロバキアのほうから流れてきた。

 ハプスブルクの時代から工業化が進んでいたチェコでは、自然破壊も進み、野生動物、特に大型の肉食獣は駆除されたのか、チェコの山林から姿を消して久しい。それが、最近の自然保護ブームの中で、チェコでは絶滅していた狼がポーランドから北部ボヘミアに移住してきて定着したようだというニュースが最初に流れたのは何年前だっただろうか。
 狼が定着した森の周囲で畜産業を営む農家の人たちにとっては、家畜が襲われて殺される事件が起こっているようで、そこまで歓迎できることではないようである。絶滅種で保護の対象になっている野生動物による被害に関しては、国から保証金が出るという話もある。ただ、その額が満足いくものなのかどうかはしらないし、ある農家の人が、食餌として家畜の羊を狩って食い尽くすのならまだ納得がいくけど、遊びで殺されるのは許せないと語っていたような気もする。狼がいるというストレスにさらされた家畜の成育にも影響がありそうだし、野生動物の保護というのも難しいものである。

 ズリーン地方に現れたのは狼ではなく熊だった。国境地帯のベスキディ山地のスロバキア側には依然として生息している熊が、たまに国境を越えてチェコ側に出てくることはあるらしいのだが、今回は山中をうろつくだけでなく、山の斜面を利用して放牧されている羊を襲った。これもニュースで見る限り餌として殺して食べたというよりは、殺してそのまま放置して逃げたという感じの死体だった。
 牧場の柵が壊され羊が殺されるという事件が、何箇所かで起こった時点で、地元の猟師たち、日本風に言うと猟友会の人たちは、アフリカ豚コレラの際に、イノシシを捕らえるのに使用しようとしていたコンテナを改造したような罠を使用して、熊を捕らえることを計画し始めていたようである。ただ問題はその捕らえた熊をどうするかで、チェコ国内の動物園の中には、熊を引き取ることを申し出たところはなかった。それで外国の動物園に声をかけるとか、人里はなれた山中に運んでいって放すとか、取らぬ狸の皮算用をしていた。
 それが、月曜日だっただろうか、それまで人間の生活圏とはいっても、一番外側の羊の放牧地のあるあたりに留まっていた熊が、山村とはいえ人里に出現し、村の中心の広場をうろつき、ゴミ箱で餌をあさっていたというニュースが流れた。村では外出を控えるように指示が出たらしく、住民が困惑した様子でインタビューに答えていた。その村はスロバキアとの国境からは結構離れたところにある村で、幸いにもアフリカ豚コレラの蔓延した地域には入っていなかった。

 それまでは、家畜の羊が殺されただけで、人命が脅かされたというわけではなかったからか、どこか対応にものんびりしたところがあったのだが、さすがに人的被害が出る恐れが大きくなったということで、ズリーン地方知事のチュネク氏が早速反応した。猟師たちに対して熊の射殺命令を出すと発表したのである。これには、もちろん賛否両論噴出したわけだが、興味深かったのは被害に遭った羊飼い農家の中にも、熊を排除するべきだという意見だけではなく、保護するべきだという意見があったことだ。かつて熊がまだベスキディの山中に生息していた時代の先祖のことを思い出していたのだろうか。

 ニュースでは、ズリーン地方に何百人といる狩猟許可を持つ猟師たちの中で、熊を撃ったことがある、十を持って熊と対峙したことがある人が10人程度しかいないのが問題だと指摘していた。猟師が怪我なく熊を仕留めるには一発で命を奪うのが一番いいらしいのだが、未経験の猟師たちにそれが可能なのだろうかという疑問を投げかけていたのは、そんな猟師たちの一人だったかな。
 現時点では、猟師たちの腕に対する懐疑も、猟師たちの不安も、杞憂である。チュネク氏の決断に対して、ズリーン地方の動物保護関係の役人が、保護指定されている野生動物は、射殺する場合も、罠を仕掛けて捕らえる場合にも、特別な許可が必要で、そのためには他に方法がないことを明らかにしなければならないのだと言ってチュネク氏の発言を否定していた。要は、考えられるあらゆる可能性を検討した上で、すべてが不可能だった場合にのみ許可が下りるということだろうか。昨年のイノシシは保護の対象ではなかったから、この手の許可は不要で駆除の命令が出せたということか。

 一番いいのは、熊が山奥に戻って人間の生活圏に出てこなくなることなのだけど、物言わぬケモノに言って聞かせるわけにはいかないし、さてさてどうなるのであろうか。
2018年10月24日22時15分。





豚コレラで検索したらなぜかこんなのが出てきた。







posted by olomoučan at 07:25| Comment(0) | TrackBack(0) | チェコ
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