2018年12月05日
ショートショート(超短編)ーー第8話 ペットの反乱
第8話 ペットの反乱
「朝一番のニュースをお伝えします。最近のペットブームを象徴する事件がおきました。東京都渋谷区青山2丁目のペットショップ、ケンネルから、全てのペットが昨夜の内に盗まれました。ご覧の映像はもぬけの殻になったペットの檻や籠などです。いつもいる犬も猫も蛇も金魚も、何もかもすべて盗まれてしまいました。警察の正式の発表はまだありませんが、先程、捜査に駆けつけたばかりの捜査員に聞くと、こんなことは今まで聞いたことがないということです。一夜のうちに全てのペットが盗まれたという事件は、私も初めてです。とても考えられない状況といえます。組織的犯罪にしても、このように、少し語弊がありますが、このように見事に全てのペットを盗むことが本当に可能なのだろうかと思えてしまいます。犬だけとか猫だけというのでなく、ケンネルの全てのペットが盗まれているのです。まだ目撃者探しが終わっていませんが、この青山通りのまん前にあるペットショップで、トラックを乗り付けてきたとしても、また、それに20人の窃盗団が一緒に盗みをはたらいたにしても、こんなことが可能でしょうか。まだ捜査が本格的に進んでいませんので、どのようなペットが盗まれたのかは定かではありませんが、先程捜査員と話していたオーナーの話ですと、少なくとも50種類以上のペットがいたようです。そのような沢山のペットをこのように組織的に盗むことが本当に可能なのか、本当に不思議な事件がおきました。詳しいことが判明し次第また、お伝えします。ひとまず、現場からの中継はこれで終わりたいと思います。スタジオどうぞ。」
「今晩こそ実行するぞ。いいかナポレオン、お前達を今日こそ自由にしてやるからな。」と言いながら平田はシャムネコの檻を用意した鍵を使ってあけた。するとシャムネコのナポレオンは檻からニャアーンとなきながら平田の足に体を擦り付けて、愛情表現をした。「何をしてるんだ、いつもの挨拶なんていらないんだ。急がないと時間がないんだ。」平田は急かすようにナポレオンにいった。すると、ナポレオンは急にきりりとした顔立ちになって、サルのゾラの檻に行って、尻尾で鍵を上手に開けて、ゾラを出してやった。状況を見ていたことや、ここ数日の間に計画が実行に移されることを伝えられていたゾラは、緊張した面持ちで折から出てきて、急いで平田のところにやってきて、鍵を受け取って、次から次へと檻を空けて歩いた。檻から出てきたペット達は、一目散に逃げ出すことはなく、檻の前に一歩だけ出て、指示を待っていた。ゾラが哺乳動物の檻を全て空けて中のペットが出てきたことを確認すると、チンパンジーのナナがキーキーと二回大きな悲鳴を上げた。すると、ペット達はグループに分かれて散らばっていった。あるグループは鳥の籠のあるところに行って、籠から次々と鳥を解放した。あるグループは両生類のいる水槽に行き、中からペットが出やすいように、木を立てかけた。すると中から亀やイグアナや蛇といったペットが次々と外に出てきた。また、他のグループは魚の水槽のあるところに行って、水槽の中に次々とスポンジのようなものを放り投げ始めた。するとそれに飛びつくようにして、魚達は外に出てきた。驚いたことに、水槽の外に飛び出してきた魚達は、水の中で呼吸をしていたように、そのスポンジのようなものをうまく利用して、息をしていた。このように青山ケンネルの中は静かに、ナポレオンの指示の元、ことが進められた。全てが統制が取れていて、とてもペットの行動とは思えなかった。このように、全てが檻や水槽から出たことが確認されると、オウムの洋子がチーチーと甲高い鳴き声を上げた。この泣き声を合図に、哺乳類を先頭に、ペット達が店から次々と出てきた。そのときよく見ると、行動に時間のかかる両生類や魚達は、哺乳類の背中や鳥達の羽の上に乗っかっていた。それも、ただちゃっかり乗っているというのではなく、ナビゲーターの役割も充分心得ていて、店から外に出るときも、右左や前方に危険がないか確認をして、乗っているサルやアヒルなどのペットに合図をすることを怠ることはなかった。
「ペットショップの事件に関して、続報が入りましたので、お伝えします。青山ケンネルの平田和夫という従業員が現在、警察に事情を聞かれているようです。この従業員は、今朝店に来たときの第1発見者です。話によると今朝一番に出勤してきてみて、ペットが全ていなくなっているので、驚いて警察に通報したということですが、証言に辻褄の合わないことが多く、警察では従業員平田仁容疑者を逮捕して、事情を聞くことにしたようです。現在のところ、まだ容疑者と確定したわけではありませんが、警察はこの方向で捜査を進めるようです。平田容疑者に関する詳細はまだ入ってきていませんが、青山ケンネルの創始の時から勤めているようで、従業員の中では最も長いようです。ペットがめっぽう好きで、誰よりも早く出勤して、誰よりも遅くまで仕事をしている熱心で真面目な人として評判は高いのですが、もし、彼が犯人なら何故、そのようなことをしたのでしょうか?いつも好きなペットに囲まれた仕事をしていたわけですから、不満はあまりなかったような気がするのですが、詳細は不明です。人間的にも特に、悪いことをするような人だという批判的なことを言う人は一人もいないようです。また、盗みをはたらくことなど到底考えられないというのが同僚達の一致した意見でした。何かの間違いだろうと、皆言っています。ひとまず、このあたりでスタジオにお返しします。」
結局、平田は証拠不十分で釈放されることになった。平田一人でペットショップの全てのペットを片付けるなど不可能であったし、平田に仲間がいるという状況を何一つ発見できなかったからだ。確かに、平田はペットを愛していたが、だから、彼がペットを盗むなんて考えられないというのが、オーナーを初め仲間達の共通した意見だった。平田を悪く言う人は誰一人いなかった。ペットが大好きで、ペットをどこかにもっていって売り払うとか、そんなことは出来る人ではないし、店で充分愛情を注いでいたので、わざわざ外のどこかにペットを連れて行く必要はなかったのではないか。店の従業員だったけど、店は彼のものみたいで、彼がすることを邪魔する人は誰もいなかったわけだし、自分の好きなようにやれたわけだから、彼にも不平不満はなかったはずだというのが、みんなの意見だった。そんな彼がペットを全部盗んでも意味がないだろうというのが結論だった。警察も、平田の証言が曖昧でおかしいというところもあったが、結局、何一つ実証できそうもないだろうということで、釈放することになった。
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