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タグ / 短縮版拓馬
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拓馬篇−8章3 ★ [2018/07/16 00:15]
三人は何秒ぶりかの床の感覚を得た。赤毛が拓馬たちを解放するとヤマダが「本当に飛んだねー」と感嘆する。
「赤毛さんは飛べる術を使ったの? それとも飛べる生き物が人に化けてるの?」
「いまは無駄話をしていられません」
赤毛は質問を一蹴し、鉄扉の前に立つ。
「ここが怪しい場所です。どうやら札に書かれた文章を解読できれば開くようです」
体育館の扉には見慣れない大きな札が掛かっている。札には記号の群れが記してあった。記号の下には横長の枠があり、枠の中に六つの縦の溝が等間..
拓馬篇−8章2 ★ [2018/07/15 01:15]
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拓馬たちは職員室へ足を踏み入れた。室内は普段通りに机や事務用品がならんでいる。だがその使用者たちの姿はない。
「先生たちもいねえか。どうなってんだ?」
「災害がおきて、避難したってこと、あるかな」
二人の掛け合いを、赤ゴーグルを被る者が「あっはっは!」と高らかに笑い飛ばす。
「平和ボケした発想ですね」
「赤毛さんはなにがあったのか知ってる?」
異邦人は突然口を真一文字に閉じた。「赤毛?」とつぶやくなり拓馬たちに背を向ける。ゴーグルのふちをつかみ、上..
拓馬篇−8章1 ★ [2018/07/14 03:00]
拓馬が目を覚ますと頬に冷たい感触があった。視界はひどく低い。床にたおれていた、と気付くのにいくらもかからなかった。眼前には机と椅子の足が複数直立する。その中で、髪の長い女子生徒の横たわるさまが見える。
「おい、大丈夫か?」
拓馬はヤマダに声をかけた。ヤマダはむくっと起き上がる。
「えっと、なんでねてたんだっけ?」
「俺もよくわかんねえ」
とっさにそう返したが、気絶する直前の光景がパッと拓馬の脳裏に浮かぶ。
「光がバーっと流れてきたみたいだったな」
拓馬も..
拓馬篇−7章6 ★ [2018/07/12 22:00]
試験結果がすべて発表され、問題の解説を授業で聞く日々。一通りの解説が終わったあとは、試験で一定の点数未満を取得した者に科目ごとの追試が課せられる。そしてヤマダは英語の追試日を言い渡された。その追試は彼女ひとりだけに行なわれる。やはり順調にいけば赤点保持者が出ない試験内容だった。
チャイムが鳴り、本日の授業はすべて終えた。拓馬は机の上でうつ伏せになるヤマダに、「追試、がんばれよ」とねぎらう。今日の放課後に彼女限定の追試があるのだ。監督者は平易な試験の答案を作成した教師自身..
拓馬篇−7章5 ★ [2018/07/09 02:00]
拓馬たちが大男に大敗を喫したあと、なんの進展もなく時間が経過した。とうとう期末試験の期間に突入する。この時期は多くの生徒が愚痴っぽくなる。だれしも無残な試験結果を残したくないのだが、かといって万全の試験態勢でいどめるほどの勉強はしたくない。その葛藤が不機嫌な態度にあらわれた。
試験のさなかでも平素と変わらぬ生徒はいる。普段から学習を続けている勤勉な生徒と、なるようになると諦める生徒と、赤点をとらない程度の試験範囲をきっちり把握する生徒。拓馬の場合は赤点の回避対策をしてい..
拓馬篇−7章4 ★ [2018/07/06 23:59]
翌週、拓馬は教室で浮かない顔をした三郎に会った。正しくは、拓馬が入室した途端に三郎の顔色がくもった。拓馬を見かけたのをきっかけに、大男の一件が連想されたらしい。
「あの男、めちゃくちゃ強かっただろ?」
「ああ……完膚なきまでに負けた」
「まだ俺たちで捕まえる気はあるか?」
失意の男子はひかえめに首を横に振る。
「無理だな。間近で見て、はっきりわかった。やつにとってオレたちは赤子同然だ」
「俺もそう思う。ありゃ普通の警察もお手上げだな」
「シズカさんはやつをど..
拓馬篇−7章3 ★ [2018/07/04 20:50]
公園でヤマダらを待つ拓馬は、ふと気がかりなことを思い出した。一緒にいたはずの、シズカの犬をさっきから見ていない。拓馬は犬の所在を気にしたが、あまり心配にはならなかった。犬が不在になる理由はいろいろあるからだ。一つはヤマダたちについて行ったこと、二つは逃げた大男を追いかけること、三つは獣の出番がこずじまいだったためにもう帰ったこと。いない可能性が高いと思いつつも、拓馬は園内を捜してみることにした。
最初に拓馬が待機していた茂みへ向かう。そこに薄茶色の小型犬がいまも伏せてい..
拓馬篇−7章◆ ★ [2018/07/02 03:00]
使い古された音楽が流れる。閉館の合図だ。利用客を追い出そうとする曲を、金髪の少年は不快に感じながら聞いた。少年は仕方なく、机に突っ伏した上半身を起こす。何十分ぶりかに周りを見てみると、図書の貸し出し手続きをする人が受付へ集まっていた。少年は自分に注目する者がいないの確認し、空調の利いた施設を出た。
外は日が落ちたが、完全には暗くなっていなかった。日長な季節なのはいい。だが少年はこれ以上気温が高くなるのを憂鬱に思う。
(涼しいところ……他にもさがさねえとな)
屋外は..
拓馬篇−7章2 ★ [2018/06/27 02:50]
「その子に手を出すの、なしね」
ノブの友人──崔俊という中国人──が立ち上がる。一見普通の中年男性だが、その体は図抜けてタフかつ身軽だ。大男はぐったりするヤマダを寝かせ、彼女から離れる。
「……何者だ?」
「ただの会社員ね」
ジュンは上体を前のめりにして走り、攻撃を仕掛ける。対する大男は迎撃姿勢もとった。
ジュンは身を低くし、足払いをかける。大男が軽く跳んでかわした。その直後、ジュンはベルトのバックルを振りはらった。バックルには鞭のような細長い帯状の金属が繋が..
拓馬篇−7章1 ★ [2018/06/25 23:00]
時刻は夜の九時頃。ヤマダの作戦を実行するにあたり、拓馬たちは以前に不良と格闘した公園にきた。連中はあれ以来、公園に現れていない。一度学校の近辺を張りこまれたこともあったが、それから目撃情報はない。不良の件は一段落ついており、拓馬たちの目下の関心は大男に一点集中した。
少年少女たちは暗い公園内に待機する。作戦の拠点となる場所はベンチ。その真正面と斜め横の二箇所の茂みに二人ずつ隠れる。ヤマダは仙谷と組み、斜め横の位置を担当する。真正面を担当する拓馬の相方は、当初不参加の予定..
拓馬篇−6章5 ★ [2018/06/07 23:30]
シズカの返答は迅速だった。引き綱をつけたトーマがもどってきたとき、機器の受信反応があった。拓馬はただちに内容を確認する。
意外なことに、シズカはヤマダの無謀な計画に同意した。
『大男さんは紳士だから胸を借りてきなよ』
とのアドバイスには、やはり大男が強者であり、拓馬たちは完敗を喫するとの認識をにおわせる。その見立てに拓馬の異論はない。ただ、拓馬側の戦力では不足があると見ていながら、派遣する守護者を積極的に戦わせないと宣言する点が奇妙だ。
(止めてもムダだと思われ..
拓馬篇−6章4 ★ [2018/06/05 03:00]
早朝、拓馬はアラーム音で覚醒した。部屋はまだすこし薄暗い。一瞬、どうしてこんなはやくに目覚ましの設定をしたのかわからなかった。寝返りをうっていると、昨日自分がすっぽかした家事があることを思い出す。
(トーマの散歩……二回分か)
飼い犬は多くの運動量を必要とする。朝夕一時間ずつは運動させてやりたい、と父も拓馬も考えている。散歩担当はとくにだれとは決めていないが、基本的に朝方は両親のどちらかが、夕方は拓馬がやる分担になっている。昨夜のうちに、両親には朝の散歩は翌朝自分がす..