2018年06月05日
拓馬篇−6章4 ★
早朝、拓馬はアラーム音で覚醒した。部屋はまだすこし薄暗い。一瞬、どうしてこんなはやくに目覚ましの設定をしたのかわからなかった。寝返りをうっていると、昨日自分がすっぽかした家事があることを思い出す。
(トーマの散歩……二回分か)
飼い犬は多くの運動量を必要とする。朝夕一時間ずつは運動させてやりたい、と父も拓馬も考えている。散歩担当はとくにだれとは決めていないが、基本的に朝方は両親のどちらかが、夕方は拓馬がやる分担になっている。昨夜のうちに、両親には朝の散歩は翌朝自分がすると言っておいた。
拓馬はぐっといきおいをつけ、体を起こした。てきぱきと外出支度をする。普段の外出時のよそおいとは別に、肩掛け鞄を提げた。中には散歩のマナーを守るために必要なティッシュとナイロン袋の入っている。その姿でトーマに会うと、犬は尻尾をはげしく振った。
興奮したトーマを連れて、拓馬は玄関を出る。敷地内に設置した、犬の脱走防止用の門扉が閉まっていた。扉を開けようとして拓馬が足を止めると、トーマは三度吠える。散歩が待ちきれない、という意思表示なのだろう。近所めいわくな、と拓馬は苦笑いするも、そうさせた原因は自分あると思った。
扉を開けはなつ。トーマが引き綱をぴんと張らせた。犬の好奇心がおもむくままに、拓馬はついて行く。トーマはヤマダの家の前を通る。そのまま通過すると拓馬は思っていたが、先導者はくいっと進行方向を変えた。ヤマダの家は拓馬の家のような柵や扉はないので、簡単に敷地内に入れる。
(玄関のまわりくらいなら、いいか)
普通の訪問客が移動する範囲で、トーマの自由にさせることにした。すると庭先から白い帽子の被ったヤマダがやってくる。
「タッちゃん、おはよう! いま散歩中?」
「そうだけど……
ヤマダは普段からこんなに早く活動する人ではない。そのことを拓馬は不思議がる。
「タイミングよすぎないか?」
「今日は早起きしちゃってさ、せっかくのすずしい時間だし、庭の手入れをしてた。そしたらトーマの声が聞こえたから『うちにくるかも』と思って、ちょっとまってたよ」
ヤマダは軍手を脱ぎ、トーマの背をなでる。人間の友にかまわれる白黒の犬は尻尾をぶんぶん振った。
「それで、シズカさんとは話せたの?」
拓馬は一気に気まずくなる。彼女に言いにくい情報があるのだ。あー、んー、というあいまいな返事をしているとヤマダは「ここじゃ言いづらい?」と聞いてくる。
「……となりの空き家で話そうか?」
「そうだな、おまえんちの人にも聞かれたらまずいし……」
二人は両家のあいだに立地するお宅へお邪魔した。門扉のかんぬきをいじり、敷地内へ入る。この家の主は現在入院中である。その家族が別居中につき、家の管理は小山田家に託されている。そのため、庭先を短時間借りるくらいはおとがめを受けない。その確信が二人にはあった。
門扉をもとあったように閉める。拓馬たちは家の裏手にある勝手口の、石段にすわった。周りに人工の遮蔽物があり、人目をさけられる。だれかに盗み聞きされる心配がすくなく、心置きなく話し合える場だ。話す内容が言い出しづらいものでなければ、だが。
白黒の犬はそうそう立ち入らない庭に興味津々で、引き綱を限界まで引っ張る。見かねたヤマダが「リードはずす?」と問う。
「扉は閉めてきたし、脱走しないと思うよ」
「塀に穴開いてないよな?」
「わんこが通れる穴があったら、ふさぐよ」
そういう約束だから、と言うと彼女の表情がくもった。家主はこの家にもどってくる可能性が低い状態だ。ヤマダはそのことを案じて、気落ちしている。この話題は続けたくないと拓馬は思い、ストレートに本題に入る。
「シズカさんから、お前に聞いてくれって言われたことがあってさ──」
拓馬はしゃべりながらトーマに近づいた。トーマは散歩の再開だと思ってか、飼い主と距離をたもつ。このまま歩いては庭をぐるぐる回ってしまう。なので拓馬は引き綱をたぐりよせ、どうにか綱を首輪から外す。束縛するものがなくなった犬は、突風のように駆けていった。
「例の大男が夜な夜な、お前の部屋に入ってきてるらしい」
「わたしの部屋に? なんの用事で」
「その、元気を吸うために、だって」
拓馬は石段にすわりなおした。ヤマダは「ふーん」と他人事のように相槌をうつ。
「家にカンタンに入れるなら、なんで夜道でおそってきたんだろうね」
ヤマダは冷静な態度でいる。拓馬にはどうも信じがたい反応だ。
「えっと、いいのか? 無断で男に部屋に入られてて」
「半分幽霊みたいなもんでしょ、その人。気にしてたらキリないよ」
むかしからヤマダは遠出をするたび、霊を連れてきた。その霊の多くは、時間が経つとどこかへ去る。そんな移り気な霊と、確たる目的をもつ大男が、彼女の中で同等の位置にいる。
(そんな気楽に考えていいのかな……)
と、拓馬は認識のズレを感じた。彼女がのんきにかまえる原因は、大男の素性を知らないことにあるのか。そう考えた拓馬は、昨夜のシズカから教えられたことを伝えた。
それでもヤマダは「人攫いねえ」とマイペースな口調でいる。犯罪者の素行を重く受け止めていないらしい。
「わたしをねらってないのかな」
「さあ……何回もおまえの寝込みをねらえてたなら、そのときに連れていけるよな」
「わたしはただの給水地点か……」
どこか落胆するような口ぶりだ。拓馬はシズカの用件をまだ達成できていないので、ここで本題に入る。
「イヤならシズカさんに助けを──」
「それは遠慮しとく」
毅然とした拒否だ。なにか根拠があると拓馬は感じとり、「なんでだ?」と聞いた。
「たぶん、だけどね。わたしをわざと襲ってみせたの、シズカさんの力をムダ遣いさせる魂胆かもよ」
「おまえのお守りに、猫とかキツネをつけることが……大男の目的だと?」
「そう! シズカさんは猫ちゃんたちを頼りにしてるでしょ。力を使いすぎて、その子たちをよべなくなったら、ただの人になる」
「いちおう警官なんだけど……」
「ああ、ごめん。普通の人よりは強いよね」
「まあ、あの大男にとっちゃ一般人と変わらなさそうか」
拓馬が見た大男の瞬発力は尋常でなかった。生身の人間がひとりで組み伏せられる相手ではない。おまけにシズカ自身、格闘は不向きだと自己評価していた。あのような猛者相手だと、仲間のいないシズカは無害にひとしい。
「仲間をよべなくなったところを叩く! そしてシズカさんゲット、でメデタシメデタシする気なんだよ、あの大男さんは」
「一匹お前に派遣した程度で、そうなるか?」
「わたしだけじゃない。ほかにも事件を起こしていけば、シズカさんがもっと仲間をよぶことになるでしょ。大男さんは美弥ちゃんにもまとわりついてるしさ」
ヤマダの推測はそれなりに筋が通っている。須坂にも護衛を出せばシズカの疲弊は倍になる。おまけに拓馬も標的になりうる立場だ。万全をつくそうとして、複数の仲間を何ヶ月もよびつづけていたら、さすがにシズカも参ってくる。
「どうしたらいいか、わかんねえな……」
この膠着状態はいささか不愉快だ。相手の出方が読めない以上、受け身になるほかないという無力さが、なさけなくなる。
「こっちから仕掛けてみる?」
ヤマダが突拍子なく聞いてくる。拓馬は「へ?」とおどろいた。
「ひとりや二人で戦おうとするから、大男さんにかなわないんだよ。数をそろえたらなんとかなるかも」
大胆な提案だ。しかしそこには重大な欠陥がある。
「運よく捕まえられても……精神体のほうに変身されちゃ、にげられるぞ」
「シズカさんのお仲間を一体借りようよ。大男さんを運べるような子」
「あの人、オーケー出すかな……」
「だれかをわたしのお守りにしていいって言ってくれてるんでしょ。あんまり変わらないじゃない?」
「いや、俺らがムチャをすることがさ……」
普通に生活していればいい、とシズカは拓馬に言っていた。必要以上に事態をひっかきまわす行為を、シズカが嫌がるかもしれないのだ。しかしその了承しがたい要求が、シズカが確認したい護衛の要不要の返答でもある。
「ダメもとで伝えてみる。それがヤマダの返事ってことにして」
「いま連絡つく?」
拓馬はズボンのポケットに手を入れた。携帯用の電子機器の感触がある。
「ああ。でも朝早いからすぐに返事は──」
「いまは送るだけでいいよ。二、三日のうちに返事もらえるでしょ?」
「それは大丈夫だ。なにせシズカさんから『聞いてくれ』って言ってきたことだから」
「うん、じゃあおねがいね」
これで議決が成った。ヤマダは立ち上がる。
「トーマの様子を見てくる」
「あ、ついでにリードをつけてきてくれるか?」
ヤマダは拓馬がシズカにメッセージを送る時間を活用して、犬とたわむれようとしている。トーマと触れあう隙に引き綱を首輪にかけてくれれば、拓馬はたいへんありがたい。拓馬が単独でやろうとすると、全力の追いかけっこがしばしば起きるのだ。その意を汲んだヤマダは得意気にうなずく。
「いいよ、なんでも雑用はまかせて」
ヤマダは妙に気前のよいことを言っている。
「この作戦をやるときは、タッちゃんにもがんばってもらうからね」
ヤマダはいたずらっ子めいた笑顔で引き綱を取った。ろくでもないことをしでかすつもりなのだ。だが拓馬は嫌な気がしなかった。
(俺にも、やれることか……)
一介の傍観者や中継ぎ役にあまんじなくてよいのだ。自分に現状を変えられるすべがあると思うと、充足感がわいてきた。
(トーマの散歩……二回分か)
飼い犬は多くの運動量を必要とする。朝夕一時間ずつは運動させてやりたい、と父も拓馬も考えている。散歩担当はとくにだれとは決めていないが、基本的に朝方は両親のどちらかが、夕方は拓馬がやる分担になっている。昨夜のうちに、両親には朝の散歩は翌朝自分がすると言っておいた。
拓馬はぐっといきおいをつけ、体を起こした。てきぱきと外出支度をする。普段の外出時のよそおいとは別に、肩掛け鞄を提げた。中には散歩のマナーを守るために必要なティッシュとナイロン袋の入っている。その姿でトーマに会うと、犬は尻尾をはげしく振った。
興奮したトーマを連れて、拓馬は玄関を出る。敷地内に設置した、犬の脱走防止用の門扉が閉まっていた。扉を開けようとして拓馬が足を止めると、トーマは三度吠える。散歩が待ちきれない、という意思表示なのだろう。近所めいわくな、と拓馬は苦笑いするも、そうさせた原因は自分あると思った。
扉を開けはなつ。トーマが引き綱をぴんと張らせた。犬の好奇心がおもむくままに、拓馬はついて行く。トーマはヤマダの家の前を通る。そのまま通過すると拓馬は思っていたが、先導者はくいっと進行方向を変えた。ヤマダの家は拓馬の家のような柵や扉はないので、簡単に敷地内に入れる。
(玄関のまわりくらいなら、いいか)
普通の訪問客が移動する範囲で、トーマの自由にさせることにした。すると庭先から白い帽子の被ったヤマダがやってくる。
「タッちゃん、おはよう! いま散歩中?」
「そうだけど……
ヤマダは普段からこんなに早く活動する人ではない。そのことを拓馬は不思議がる。
「タイミングよすぎないか?」
「今日は早起きしちゃってさ、せっかくのすずしい時間だし、庭の手入れをしてた。そしたらトーマの声が聞こえたから『うちにくるかも』と思って、ちょっとまってたよ」
ヤマダは軍手を脱ぎ、トーマの背をなでる。人間の友にかまわれる白黒の犬は尻尾をぶんぶん振った。
「それで、シズカさんとは話せたの?」
拓馬は一気に気まずくなる。彼女に言いにくい情報があるのだ。あー、んー、というあいまいな返事をしているとヤマダは「ここじゃ言いづらい?」と聞いてくる。
「……となりの空き家で話そうか?」
「そうだな、おまえんちの人にも聞かれたらまずいし……」
二人は両家のあいだに立地するお宅へお邪魔した。門扉のかんぬきをいじり、敷地内へ入る。この家の主は現在入院中である。その家族が別居中につき、家の管理は小山田家に託されている。そのため、庭先を短時間借りるくらいはおとがめを受けない。その確信が二人にはあった。
門扉をもとあったように閉める。拓馬たちは家の裏手にある勝手口の、石段にすわった。周りに人工の遮蔽物があり、人目をさけられる。だれかに盗み聞きされる心配がすくなく、心置きなく話し合える場だ。話す内容が言い出しづらいものでなければ、だが。
白黒の犬はそうそう立ち入らない庭に興味津々で、引き綱を限界まで引っ張る。見かねたヤマダが「リードはずす?」と問う。
「扉は閉めてきたし、脱走しないと思うよ」
「塀に穴開いてないよな?」
「わんこが通れる穴があったら、ふさぐよ」
そういう約束だから、と言うと彼女の表情がくもった。家主はこの家にもどってくる可能性が低い状態だ。ヤマダはそのことを案じて、気落ちしている。この話題は続けたくないと拓馬は思い、ストレートに本題に入る。
「シズカさんから、お前に聞いてくれって言われたことがあってさ──」
拓馬はしゃべりながらトーマに近づいた。トーマは散歩の再開だと思ってか、飼い主と距離をたもつ。このまま歩いては庭をぐるぐる回ってしまう。なので拓馬は引き綱をたぐりよせ、どうにか綱を首輪から外す。束縛するものがなくなった犬は、突風のように駆けていった。
「例の大男が夜な夜な、お前の部屋に入ってきてるらしい」
「わたしの部屋に? なんの用事で」
「その、元気を吸うために、だって」
拓馬は石段にすわりなおした。ヤマダは「ふーん」と他人事のように相槌をうつ。
「家にカンタンに入れるなら、なんで夜道でおそってきたんだろうね」
ヤマダは冷静な態度でいる。拓馬にはどうも信じがたい反応だ。
「えっと、いいのか? 無断で男に部屋に入られてて」
「半分幽霊みたいなもんでしょ、その人。気にしてたらキリないよ」
むかしからヤマダは遠出をするたび、霊を連れてきた。その霊の多くは、時間が経つとどこかへ去る。そんな移り気な霊と、確たる目的をもつ大男が、彼女の中で同等の位置にいる。
(そんな気楽に考えていいのかな……)
と、拓馬は認識のズレを感じた。彼女がのんきにかまえる原因は、大男の素性を知らないことにあるのか。そう考えた拓馬は、昨夜のシズカから教えられたことを伝えた。
それでもヤマダは「人攫いねえ」とマイペースな口調でいる。犯罪者の素行を重く受け止めていないらしい。
「わたしをねらってないのかな」
「さあ……何回もおまえの寝込みをねらえてたなら、そのときに連れていけるよな」
「わたしはただの給水地点か……」
どこか落胆するような口ぶりだ。拓馬はシズカの用件をまだ達成できていないので、ここで本題に入る。
「イヤならシズカさんに助けを──」
「それは遠慮しとく」
毅然とした拒否だ。なにか根拠があると拓馬は感じとり、「なんでだ?」と聞いた。
「たぶん、だけどね。わたしをわざと襲ってみせたの、シズカさんの力をムダ遣いさせる魂胆かもよ」
「おまえのお守りに、猫とかキツネをつけることが……大男の目的だと?」
「そう! シズカさんは猫ちゃんたちを頼りにしてるでしょ。力を使いすぎて、その子たちをよべなくなったら、ただの人になる」
「いちおう警官なんだけど……」
「ああ、ごめん。普通の人よりは強いよね」
「まあ、あの大男にとっちゃ一般人と変わらなさそうか」
拓馬が見た大男の瞬発力は尋常でなかった。生身の人間がひとりで組み伏せられる相手ではない。おまけにシズカ自身、格闘は不向きだと自己評価していた。あのような猛者相手だと、仲間のいないシズカは無害にひとしい。
「仲間をよべなくなったところを叩く! そしてシズカさんゲット、でメデタシメデタシする気なんだよ、あの大男さんは」
「一匹お前に派遣した程度で、そうなるか?」
「わたしだけじゃない。ほかにも事件を起こしていけば、シズカさんがもっと仲間をよぶことになるでしょ。大男さんは美弥ちゃんにもまとわりついてるしさ」
ヤマダの推測はそれなりに筋が通っている。須坂にも護衛を出せばシズカの疲弊は倍になる。おまけに拓馬も標的になりうる立場だ。万全をつくそうとして、複数の仲間を何ヶ月もよびつづけていたら、さすがにシズカも参ってくる。
「どうしたらいいか、わかんねえな……」
この膠着状態はいささか不愉快だ。相手の出方が読めない以上、受け身になるほかないという無力さが、なさけなくなる。
「こっちから仕掛けてみる?」
ヤマダが突拍子なく聞いてくる。拓馬は「へ?」とおどろいた。
「ひとりや二人で戦おうとするから、大男さんにかなわないんだよ。数をそろえたらなんとかなるかも」
大胆な提案だ。しかしそこには重大な欠陥がある。
「運よく捕まえられても……精神体のほうに変身されちゃ、にげられるぞ」
「シズカさんのお仲間を一体借りようよ。大男さんを運べるような子」
「あの人、オーケー出すかな……」
「だれかをわたしのお守りにしていいって言ってくれてるんでしょ。あんまり変わらないじゃない?」
「いや、俺らがムチャをすることがさ……」
普通に生活していればいい、とシズカは拓馬に言っていた。必要以上に事態をひっかきまわす行為を、シズカが嫌がるかもしれないのだ。しかしその了承しがたい要求が、シズカが確認したい護衛の要不要の返答でもある。
「ダメもとで伝えてみる。それがヤマダの返事ってことにして」
「いま連絡つく?」
拓馬はズボンのポケットに手を入れた。携帯用の電子機器の感触がある。
「ああ。でも朝早いからすぐに返事は──」
「いまは送るだけでいいよ。二、三日のうちに返事もらえるでしょ?」
「それは大丈夫だ。なにせシズカさんから『聞いてくれ』って言ってきたことだから」
「うん、じゃあおねがいね」
これで議決が成った。ヤマダは立ち上がる。
「トーマの様子を見てくる」
「あ、ついでにリードをつけてきてくれるか?」
ヤマダは拓馬がシズカにメッセージを送る時間を活用して、犬とたわむれようとしている。トーマと触れあう隙に引き綱を首輪にかけてくれれば、拓馬はたいへんありがたい。拓馬が単独でやろうとすると、全力の追いかけっこがしばしば起きるのだ。その意を汲んだヤマダは得意気にうなずく。
「いいよ、なんでも雑用はまかせて」
ヤマダは妙に気前のよいことを言っている。
「この作戦をやるときは、タッちゃんにもがんばってもらうからね」
ヤマダはいたずらっ子めいた笑顔で引き綱を取った。ろくでもないことをしでかすつもりなのだ。だが拓馬は嫌な気がしなかった。
(俺にも、やれることか……)
一介の傍観者や中継ぎ役にあまんじなくてよいのだ。自分に現状を変えられるすべがあると思うと、充足感がわいてきた。
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