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2017年10月24日

拓馬篇前記ー実澄3

 実澄とレイコはそれぞれ注文するものを決めた。実澄が店員を呼ぼうとするとレイコが「おにいちゃんのぶんは?」とさえぎった。
「追加で注文できるから、それで選んでもらいましょ」
「うん……」
 あまり乗り気でないようだ。実澄は彼女の思いに沿う案を考える。
「じゃ、銀くんも食べそうなものをたのむ? フライドポテトだったらみんなでつまめるし」
「うん、ポテト、好き!」
 どうやらレイコは食べたいものを遠慮していたらしい。ポテト一皿は子どもが食べきれる量ではなさそうなので、だれかと共有したいと考えるのはもっともだと実澄は思った。
「ねえ、おにいちゃんはずっとあそこにいるね」
 直近の青年の居所はレジにあった。実澄がそちらを見ると大柄の男性が今なおそこにいる。実澄たちを席へ案内した少女店員もいた。
「店員さんとうまく話せないのかしら。ちょっと行ってくる」
 実澄はレイコに「ここで待っててね」と指示し、テーブルを離れた。青年に近づくと彼が振りむく。
「ミスミ、証人になってほしい」
「え、証人?」
「この店員は私を犯罪者だと疑っている」
 実澄は「え!」と思わず声をあげ、あわてて口をふさいだ。周囲の客にこのことを知られては大変だ。小声で店員に「ほんとうですか?」と尋ねる。店員はうつむいて答えない。実澄は相手が自分の子と同年代なこともあり、できるだけ穏便に話す。
「あの、どうして、彼をそう思ったんです? 見た目はすこし怖いでしょうけれど、それだけで犯罪者だなんて──」
「……あの女の子、靴を履いてなかったから」
 店員がバツのわるそうに答える。
「上着もちゃんと着てないし、家にいたのを攫ってきたんじゃないかと思って」
 言われてみればそういう解釈もできる、と実澄は妙に得心がいった。だが真相はちがう。青年は転落事故を起こした少女を救ったのだ。おまけに店員の指摘には矛盾点もある。
「人攫いが喫茶店でのんびりすると思います? それも攫った子どもと一緒に」
「それは、犯罪者になってみなきゃわからないけど……」
 誤解を撤回するつもりのない返答だ。実澄はカチンとくる。
「そんなに疑うんなら女の子に直接聞いてみればいいでしょう。しっかり受け答えできる子です。あなたが話を聞きおわるまで、わたしたちはあの子から離れています」
 実澄は「さあ、どうぞ」とレイコのいる席へ手を伸ばした。店員はちらっと実澄の顔をうかがう。店員の表情は怯えているよう。実澄は彼女に憐れみの情を抱いたが、ここで引いては青年の名誉に関わると思い、決然とした態度を保った。
 店員がレジを離れる。実澄は店員がレイコに話しかけたのを見届け、災難に遭った青年を見上げた。彼は最初に出会った時の仏頂面のままだ。他人である実澄が立腹を覚えたのだから、当人がなにも感じないとは思いにくい。言いがかりをつけられたことに対し、怒りを表に出さないように努めているのかもしれない。
「いやな思いをさせてしまって、ごめんなさい。ほかの店がよかったわね」
「気にしていない。おかげで興味深い話が聞けた」
 想定外に前向きな発言が出てきた。実澄はこの青年の度量の広さにおどろく。
「え、あ、そうなの……で、興味深い話って?」
「あの店員はレイコの格好以外にも、私を疑う要素を言っていた。最近、子どもが襲われる事件が隣県で頻発したそうだ」
「事件を起こした人とあなたが似てるの?」
「犯人は特定できていない。被害に遭った子が日中に、背の高い色黒の外国人と接触していた、とかなんとか」
「そーんなあやふやな情報で? そういう外国人はいっぱいいるじゃないの。しかも他の県で起きたことなんでしょう」
「現在その土地では被害がやんだ。犯人が別の地方へ移った影響だともいう」
「その犯人が、あなただって?」
「そうだ」
 青年が不敵に笑んだ。その笑みは店員の予想を、馬鹿げた空想として一笑に付すようにも、見事に的中した慧眼の持ち主として褒めているようにも見える。実澄には後者の線が強く感じられた。だが自身の直感を否定する。
「それが事実なら、わざわざ高い所から落っこちてくる子を狙う?」
「さあ、どうだろうな」
 またしても本気か冗談なのか定かにならない態度だ。実澄はこの青年におちょくられていると思いはじめた。
(この状況なのに、ずいぶん余裕があるのね!)
 一歩まちがえれば通報されかねない。身の潔白を完全主張すべき場において、彼の反応は不謹慎きわまる。実澄がわが子をしつけるような心構えをした時、青年は「すまない」と言った。得体の知れない笑みが消えている。
「貴女が私の無実を信じようとする姿を見ていると、なんだかうれしくなって、つい意地悪なことをしてしまった」
 謝罪を受けた実澄は青年を咎める意欲がすっかりしぼんだ。そしてふつふつと笑いがこみあげる。
「ふっふふ……意外と寂しがり屋なのね。立派な大人かと思ったら……誰かにかまってほしくてイタズラする子どもといっしょ」
 実澄は感情の起伏のとぼしい青年が急に不器用な少年に思えた。その認識の変化は実澄にとって意味のあるものだ。
 そこへ少女店員が小走りでやってくる。彼女はレイコから聞き出した言葉を連ね、平謝りした。実澄は赤ら顔の店員をなだめる。
「もう気に病まないでくださいね。まちがいは誰にでもあることですから……」
 実澄たちは退屈そうに待つレイコのもとへもどった。

タグ:実澄
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