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2024年09月20日

エリアス・カネッティの『マラケシュの声』の執筆脳について10

A 情報の認知1は、Bその他の反応、情報の認知2は、A新情報、情報の認知3は、@計画から問題解決へ、人工知能は@分析である。
B 情報の認知1は、Aグループ化、情報の認知2は、A新情報、情報の認知3は、@計画から問題解決へ、人工知能はA思弁である。
C 情報の認知1は、Bその他の反応、情報の認知2は、@旧情報、情報の認知3は、A問題未解決から推論へ、人工知能は@分析である。
D 情報の認知1は、@ベースとプロファイル、情報の認知2は、A新情報、情報の認知3は、@計画から問題解決へ、人工知能はA思弁である。
E 情報の認知1は、Bその他の反応、情報の認知2は、A新情報、情報の認知3は、@計画から問題解決へ、人工知能は@分析である。

結果
 言語の認知の出力「観察と叙事」が情報の認知の入力となり、まずマラブに反応する。次に、「マラブは聖人」が情報の認知で新情報となり、老人がコインを口に突っ込むのはなぜかと問うと、それが普通の習慣だと聞かされる。長いこと分からなかったことに、あるときカネッティ自身で気づき、「観察と叙事」は、「五感分析と知的直感」からなる組みと相互に作用する。 
 記憶については、A、B、D、Eは短期記憶で、Cは、何度も登場する長期記憶になる。この場面では作者の直感が作用するため、カネッティの執筆脳は、分析や直感そこからつながる思考に特徴があるといえる。

5 まとめ
 
 受容の読みによる「観察と叙事」という出力は、すぐに共生の読みの入力となる。続けて、データベースの問題解決の場面を考察すると、「分析と思弁」という人間の脳の活動と結びつき、その後、信号のフォーカスは、購読脳の出力のポジションに戻る。この分析を繰り返すことにより、「エリアス・カネッティと直感に基づく思考」というシナジーのメタファーが作られる。
 この種の実験をおよそ100人の作家で試みている。その際、日本人と外国人60人対40人、男女比4対1、ノーベル賞作家30人を目安に対照言語が独日であることから非英語の比較を意識してできるだけ日本語以外で英語が突出しないように心掛けている。 

参考文献

佐藤晃一 ドイツ文学史 明治書院 1979
日本成人病予防協会監修 健康管理士一般指導員受験対策講座3 心の健康管理 ヘルスケア出版 2014
花村嘉英 計算文学入門-Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015 
花村嘉英 日语教育计划书-面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 東南大学出版社 2017
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁/戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 川端康成の「雪国」に見る執筆脳について-「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日语教学研究会上海分会論文集 華東理工大学出版社 2019 
花村嘉英 ハインリッヒ・ベルの「汝、スパにいたりなば」の執筆脳について ファンブログ 2019
藤本淳雄他 ドイツ文学史 東京大学出版会 1981
Elias Canetti Die Stimmen von Marrakesch Fischer 1985

エリアス・カネッティの『マラケシュの声』の執筆脳について9

分析例

(1)“Die Simmen von Marrakesch”執筆時のカネッティの脳の活動を「分析と思弁」という組からなると考えており、その裏には、先にも書いた、現代文明を分析し、叙事的な才能と思弁能力を持つ文化観察者としてのカネッティの文体がある。五感の分析と知的な直感からの観察に注目する。
(2)五感の情報処理のうち、視覚が83%、聴覚11%、嗅覚3.5%、触覚1.5%、味覚1%である。
(3)情報の認知1(感覚情報)
感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。このプロセルのカラムの特徴は、@ベースとプロファイル、Aグループ化、Bその他の反応である。
(4)情報の認知2(記憶と学習)
外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。また、未知の情報はカテゴリー化されて、経験を通した学習につながる。このプロセルのカラムの特徴は、@旧情報、A新情報である。
(5)情報の認知3(計画、問題解決)
受け取った情報は、計画を立てるプロセスでも役に立つ。その際、目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。しかし、獲得した情報が完全でない場合は、推論が必要になる。このプロセルのカラムの特徴は、@計画から問題解決へ、A問題未解決から推論へ、である。
(6)人工知能1 執筆脳を「分析と思弁」としているため、五感とある時点での直感が重要となり、そこに専門家としての思考が関与する。@分析、A思弁、Bその他

花村嘉英(2019)「エリアス・カネッティの『マラケシュの声』の執筆脳について」より

エリアス・カネッティの『マラケシュの声』の執筆脳について8

【連想分析2】
表3 情報の認知
「マラブは聖人」

A Denn plötzlich kam ein Mann hinter seinen Orangen hervor, machte ein paar Schritte auf mich zu und sagte beschwichtigend: "Das ist ein Marabu."
情報の認知1 3、情報の認知1 2、情報の認知1 1、人工知能 1

B Ich wußte, daß Marabus heilige Männer sind und daß man ihnen besondere Kräfte zuschreibt. Das Wort löste Scheu in mir aus und ich fühlte, wie mein Ekel gleich geringer wurde.
情報の認知1 2、情報の認知1 1、情報の認知1 1、人工知能 2

C Ich fragte schüttern: "Aber warum steckte er die Münze in seinen Mund?" "Das macht er immer", sagte der Mann, als wäre es die gewöhnlichste Sache von der Welt. Er wandte sich von mir ab und stellte sich wieder hinter seine Orangen. 情報の認知1 3、情報の認知1 1、情報の認知1 2、人工知能 1

D Ich bemerkte erst jetzt, daß hinter jeder Bude zwei oder drei Augenblipaare auf mich gerichtet waren. Das erstaunliche Geschöpf war ich, der ich so lange nicht begriff.
情報の認知1 1、情報の認知1 2、情報の認知1 1、人工知能 2

E Ich fühlte mich mit dieser Auskunft verabschiedet und blieb nicht mehr lange. Der Marabu,sagte ich mir. Ist ein heiliger Mann, und an diesem heiligen Mann ist alles heilig, selbst sein Speichel.
情報の認知1 3、情報の認知1 2、情報の認知1 1、人工知能 1

花村嘉英(2019)「エリアス・カネッティの『マラケシュの声』の執筆脳について」より

エリアス・カネッティの『マラケシュの声』の執筆脳について7

分析例

(1)筆者がマラブ(アフリカの大型のコウノトリ)を聖人と理解した場面。
(2)文法2 テンスとアスペクト、1は現在形、2は過去形、3は未来形、4は現在進行形、5は現在完了形、6は過去進行形、7は過去完了形。 
(3)意味1 距離(現実と心理)、意味2 喜怒哀楽、意味3 視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚、意味4 振舞いの直示と隠喩。

テキスト共生の公式
(1)言語の認知による購読脳の組み合わせを「観察と叙事」にする。カネッティが滞在中に観察したマラケシュの街の一場面。観察には、カネッティの五感が設定されている。
(2)文法2のテンスとアスペクトや意味1の現実とか心理の距離には、一応ダイナミズムがある。また、連想分析1の各行の「観察と叙事」を次のように特定する。

A 観察と叙事=テンスは過去形、距離は近い、楽、視覚+聴覚、直示(ボロを着た白髪の盲で乞食の老人に咀嚼の習慣がある。突然現れた男が静かに、この人はマラブと伝える)。
B 観察と叙事=テンスは過去形、距離は近い、喜、視覚+聴覚、隠喩(マラブは聖人で特別な力があることが分かる)。
C 観察と叙事=テンスは過去形、距離は近い、楽、視覚+聴覚、直示(どうしてマラブはコインを口に入れるのか、まるで習慣のようである)。
D 観察と叙事=テンスは過去形、距離は中位、楽、視覚+聴覚、直示(2、3人がカネッティを見る。驚くべき動物は、長いことわからなかった私なのだ)。
E 観察と叙事=テンスは過去形、距離は近い、楽、聴覚、隠喩(マラブは聖人であり、全てが唾でも神聖である)。

結果 上記場面は、「観察と叙事」という購読脳の条件を満たしている。

花村嘉英(2019)「エリアス・カネッティの『マラケシュの声』の執筆脳について」より

エリアス・カネッティの『マラケシュの声』の執筆脳について6

【連想分析1】
表2 言語の認知(文法と意味)
「マラブは聖人」

A Denn plötzlich kam ein Mann hinter seinen Orangen hervor, machte ein paar Schritte auf mich zu und sagte beschwichtigend: "Das ist ein Marabu."
文法2 2、意味1 1、意味2 4、意味3 1+2、意味4 1

B Ich wußte, daß Marabus heilige Männer sind und daß man ihnen besondere Kräfte zuschreibt. Das Wort löste Scheu in mir aus und ich fühlte, wie mein Ekel gleich geringer wurde.
文法2 2、意味1 1、意味2 1、意味3 1+2、意味4 2

C Ich fragte schüttern: "Aber warum steckte er die Münze in seinen Mund?" "Das macht er immer", sagte der Mann, als wäre es die gewöhnlichste Sache von der Welt. Er wandte sich von mir ab und stellte sich wieder hinter seine Orangen.  文法2 2、意味1 1、意味2 4、意味3 1+2、意味4 1

D Ich bemerkte erst jetzt, daß hinter jeder Bude zwei oder drei Augenblipaare auf mich gerichtet waren. Das erstaunliche Geschöpf war ich, der ich so lange nicht begriff.
文法2 2、意味1 2、意味2 4、意味3 1+2、意味4 2

E Ich fühlte mich mit dieser Auskunft verabschiedet und blieb nicht mehr lange. Der Marabu,sagte ich mir. Ist ein heiliger Mann, und an diesem heiligen Mann ist alles heilig, selbst sein Speichel.
文法2 2、意味1 2、意味2 4、意味3 2、意味4 2

花村嘉英(2019)「エリアス・カネッティの『マラケシュの声』の執筆脳について」より

エリアス・カネッティの『マラケシュの声』の執筆脳について5

4 データベースの作成・分析

 データベースの作成法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている。
 こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容はそれぞれの言語ごとに構文と意味の解析をし、何かの組を作ればよい。しかし、共生は作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。

【データベースの作成】
表1 「マラケシュの声」のデータベースのカラム

項目名 内容   説明
文法1 態 能動、受動、使役。
文法2 時制、相 現在、過去、未来、進行形、完了形。
文法3 様相  可能、推量、義務、必然。
意味1 距離(現実+心理) 近い、中位、離れている。
意味2 喜怒哀楽 喜怒哀楽、記事なし。
意味3 五感 視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
意味4 振舞い ジェスチャー、身振り。直示と隠喩を考える。
医学情報  臨床、精神、看護、介護、薬 受容と共生の接点。構文や意味の解析から得た組「観察と叙事」と病跡学でリンクを張るためにメディカル情報を入れる。
記憶  短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述) 作品から読み取れる記憶を拾う。長期記憶は陳述と非陳述に分類される。
情報の認知1 感覚情報の捉え方 感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。例えば、ベースとプロファイルやグループ化または条件反射。
情報の認知2 記憶と学習 外部からの情報を既存の知識構造に組み込む。その際、未知の情報は、学習につながるためカテゴリー化する。記憶の型として、短期、作業記憶、長期を考える。
情報の認知3 計画、問題解決、推論 受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。
人工知能(五感の分析) エキスパートシステム  五感を通した信号の流れについて身体的に分析する。
人工知能 思弁(知的直感) エキスパートシステム 経験によらず純粋施行により経験の彼岸にあるものを認識しようとする。知的直観の意味もある。

花村嘉英(2019)「エリアス・カネッティの『マラケシュの声』の執筆脳について」より

エリアス・カネッティの『マラケシュの声』の執筆脳について4

 作家を一種のエキスパートと見なし、共生の読みについても購読同様に何かの分析、直感や知的な直感といえる思弁を経て専門家として脳の活動を想定する。例えば、トーマス・マンのファジィ、ニューラル、エキスパート、魯迅のカオス、ニューラル、エキスパートがその例に当たり、この小論では、カネッティに関し、五感分析、思弁、エキスパートという共生の読みを推奨する。
 ハインリッヒ・ベルの考察(花村2019)の中でも触れたように、本能や情動を司る大脳辺縁系は、記憶の海馬、好き嫌いの扁桃体、やる気の側座核などからなり、臭覚はここで処理されている。その他の五感、視覚、聴覚、味覚、触覚は、大脳の表面にある神経細胞が集まった大脳皮質が管理している。大脳皮質は、思考、判断、創造の前頭葉、刺激を筋肉に送り運動を制御する頭頂葉、記憶の側頭葉、視覚の後頭葉という4つの脳葉がある。
 さらに、機能面の領野として、五感の情報を受け取る感覚野、運動を制御する運動野、大脳各部からの情報を受け取り統合して言語や思考を判断する連合野がある。連合野とは、記憶を蓄積する側頭連合野、感覚や空間認識の情報を処理する頭頂連合野、創造性、やる気、反省、自己顕示欲といった精神活動の前頭連合野である。
 カネッティの作品では文化現象の認識が重要な情報となるため、シナジーのメタファーは、「エリアス・カネッティと直感に基づく思考」にする。
 但し、観察者は、場面で際立つ要因に着目する傾向にある。そのため、記憶だけに頼ると、現象の重要な一側面を忘れることもある。こうしたミスを防ぐために防御策を考える上で以下のような実験を試みる。

花村嘉英(2019)「エリアス・カネッティの『マラケシュの声』の執筆脳について」より

エリアス・カネッティの『マラケシュの声』の執筆脳について3

3 「マラケシュの声」の五感を交えたLのストーリー

 「マラケシュの声」の購読脳を「観察と叙事」にする。駱駝との出会い、商業地区の強い臭いなど五感表現に特徴があるエリアス・カネッティは、佐藤(1979)によると、戦後の現代文明を分析し、叙事的な才能と深い思弁能力を兼ね備えた文化観察者である。確かにマラケシュで遭遇した事実をありのままに述べていく。しかし、カネッティの文体では、接続法のU式による推測が読者の注目を引く。
 カネッティは、マラケシュ滞在中に見た光景を描いていくため、視覚情報もさること、追想の記事には叫びや臭い、味、接触といった感覚情報も考察の対象になっている。こうした感覚情報からカネッティの執筆時の脳の活動を探るために、まず五感情報の伝達の様子についてまとめてみよう。
 カネッティが場面を説明する際に視覚や聴覚そして嗅覚を使用するため、外界からの刺激が最終的に伝わる大脳皮質のうち後頭葉や聴覚野そして嗅覚野が分析のヒントになる。特に、嗅覚は、他の五感と異なり大脳辺縁系にダイレクトに伝わり、喜怒哀楽や本能的な快不快など人間の情動に深く関わっている。一方、他の感覚の刺激は、視床を経由して大脳へと伝わる。「森鴎外と感情」というシナジーのメタファーを取り上げた際にも、本能を司る情動については説明している。(花村2017)
 一方、共生の読みは、叙事を好むカネッティの文体から「分析と思弁」にする。経験によることなく合理的な判断による理性を根拠に純粋な思考だけで作品が構成される。つまり、課題や問題が与えられたときに生じる一連の精神活動の流れを経て、周囲の状況に応じた現実的な判断や結論へと至っている。Lの縦横で信号の流れは、何かの分析→直感→専門家を想定する。また、縦横の中間にロジックが入ればミクロとマクロの間に来るメゾのデータは安定する。

花村嘉英(2019)「エリアス・カネッティの『マラケシュの声』の執筆脳について」より

エリアス・カネッティの『マラケシュの声』の執筆脳について2

2 作品の背景

 エリアス・カネッティ(1905−1994)は、偶然にフィルムチームに加わりモロッコのマラケシュへ行くことになった。帰国後、ロンドンでマラケシュの印象をまとめる。古典的な意味での旅の報告ではない。オリエントの大都会の雰囲気が漂う様々な文化現象の模型作りのためである。
 カネッティは、この町のアラブとユダヤの街区を通り、不思議な匂いを嗅ぎ、値切り商人と香ばしいパンの売り子を観察し、スラムで盲人、乞食、身体が不自由な障害者の声を聞いた。駱駝の前では屠殺係りの肉屋と一緒に頼りない創造性と間近の臨終を感じ取り、多くの哀れなユダヤ人の顔に驚き、親蜜な人間関係の証人となり、悪意、貧窮、売春を見て、より良い生活への羨望を感じた。控えめな主観性による散文集の中で、現実の背後にあるファイナルを解き明かすその声や行動に文化観察者の五感が冴え渡る。
 「マラケシュの声」は、読者にとり信頼できる友となるような本であり、惨めさやオリエントの悲惨さの叙述から人間の存在の縁で見知らぬ者に対し人間味とか兄弟のような親密さからある意味で喜びを放つ本となっている。
 カネッティは、1905年にブルガリアのルスチュクで生まれた。第一次世界大戦後、家族でウィーンに移住し、フランクフルトで高校を卒業した。ウィーンで自然科学を学び博士となり、ナチスのオーストリア併合後、ロンドンに移住した。1939年以降、文化現象を追いながらドイツ語で著作を書いたユダヤ人の作家兼放浪者であり、1981年にノーベル文学賞を受賞している。文体は簡潔であり、現実と非現実の境を暗示しつつ巧みに切り分け、優しい平易な表現ながら迫力がある。 

花村嘉英(2019)「エリアス・カネッティの『マラケシュの声』の執筆脳について」より

エリアス・カネッティの『マラケシュの声』の執筆脳について1

1 先行研究

 文学分析は、通常、読者による購読脳が問題になる。一方、シナジーのメタファーは、作家の執筆脳を研究するためのマクロに通じる分析方法である。基本のパターンは、まず縦が購読脳で横が執筆脳になるLのイメージを作り、次に、各場面をLに読みながらデータベースを作成し、全体を組の集合体にする。そして最後に、双方の脳の活動をマージするために、脳内の信号のパスを探す、若しくは、脳のエリアの機能を探す。これがミクロとマクロの中間にあるメゾのデータとなり、狭義の意味でシナジーのメタファーが作られる。この段階では、副専攻を増やすことが重要である。 
 執筆脳は、作者が自身で書いているという事実及び作者がメインで伝えようと思っていることに対する定番の読み及びそれに対する共生の読みと定義する。そのため、この小論では、トーマス・マン(1875−1955)、魯迅(1881−1936)、森鴎外(1862−1922)の執筆脳に関する私の著作を先行研究にする。また、これらの著作の中では、それぞれの作家の執筆脳として文体を取り上げ、とりわけ問題解決の場面を分析の対象にしている。さらに、マクロの分析について地球規模とフォーマットのシフトを意識してナディン・ゴーディマ(1923−2014)を加えると、“The Late Bourgeois World”執筆時の脳の活動が意欲と組になることを先行研究に入れておく。
 筆者の持ち場が言語学のため、購読脳の分析の際に、何かしらの言語分析を試みている。例えば、トーマス・マンには構文分析があり、魯迅にはことばの比較がある。そのため、全集の分析に拘る文学の研究者とは、分析のストーリーに違いがある。文学の研究者であれば、全集の中から一つだけシナジーのメタファーのために作品を選び、その理由を述べればよい。なお、Lのストーリーについては、人文と理系が交差するため、機械翻訳などで文体の違いを調節するトレーニングが推奨される。
 メゾのデータを束ねて何やら予測が立てば、言語分析や翻訳そして資格に基づくミクロと医学も含めたリスクや観察の社会論からなるマクロとを合わせて、広義の意味でシナジーのメタファーが作られる。

花村嘉英(2019)「エリアス・カネッティの『マラケシュの声』の執筆脳について」より

シュテファン・ツヴァイクの「Angst」で執筆脳を考える−不安障害13

5 まとめ  
 
 受容の読みによる「不安と恐怖」という出力は、すぐに共生の読みの入力になる。続けて、データベースの問題解決の場面を考察すると、「自我とパーソナリティ」という人間の脳の活動と結びつき、その後、信号のフォーカスは、購読脳の出力のポジションに戻る。この分析を繰り返すことにより、「シュテファン・ツヴァイクとストレス反応」というシナジーのメタファーが見えてくる。 
 この種の実験をおよそ100人の作家で試みている。その際、日本人と外国人60人対40人、男女比4対1、ノーベル賞作家30人を目安に対照言語が独日であることから非英語の比較を意識してできるだけ日本語以外で英語が突出しないように心掛けている。 

参考文献

片野善夫監修 ほすぴ180号 ヘルスケア出版
日本成人病予防協会監修 健康管理士一般指導員受験対策講座3 心の健康管理 ヘルスケア出版 2014
花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015 
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 東南大学出版社 2017
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁/戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方−トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日语教学会上海分会論文集 2018  
花村嘉英 川端康成の「雪国」に見る執筆脳について−「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日语教学会上海分会論文集 華東理工大学出版社 2019 
花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する−危機管理者としての作家について 中国日语教学会上海分会論文集 2020
藤本淳雄他 ドイツ文学史 東京大学出版会 1981
佐藤晃一 ドイツ文学史 明治書院 1979
手塚富雄 ドイツ文学案内 岩波文庫 1981
Stefan Zweig Angst Reclam 1954
Kurt Rothman Kleine Geschichte der deutschen Literatur Reclam 1981
Richard Friedenthal Nachwort für Angst Reclam 1954

シュテファン・ツヴァイクの「Angst」で執筆脳を考える−不安障害12

A 情報の認知1はAグループ化、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へ、人工知能は@多層である。 
B 情報の認知1はBその他の反応、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へ、人工知能は@多層である。
C 情報の認知1はBその他の反応、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へ、人工知能は@多層である。
D 情報の認知1はBその他の反応、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へ、人工知能は@多層である。 
E 情報の認知1はAグループ化、情報の認知2はA新情報、情報の認知3は@計画から問題解決へ、人工知能は@多層である。   
   
結果
 言語の認知の出力「不安と恐怖」が情報の認知の入力となり、まず何かに反応する。次に、その反応が情報の認知で新情報となり、結局、この場面では、問題未解決のままだが推論が続き、「不安と恐怖」が「自我とパーソナリティ」からなる組みと相互に作用している。 

花村嘉英(2021)「シュテファン・ツヴァイクの「Angst」の執筆脳について−不安障害」より

シュテファン・ツヴァイクの「Angst」で執筆脳を考える−不安障害11

【連想分析2】
表3 情報の認知

A 表2と同じ。情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2
B 表2と同じ。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2
C 表2と同じ。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2
D 表2と同じ。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2
E 表2と同じ。情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 1

分析例 
(1)「Angst」執筆時のシュテファン・ツヴァイクの脳の活動を「自我とパーソナリティ」と考えている。彼の文体は、我々の最も内なる自我を放棄しないように警告する人の心得と見なされる。  
(2)情報の認知1(感覚情報)
このプロセルのカラムの特徴は、@ベースとプロファイル、Aグループ化、Bその他の反応である。 
(3)情報の認知2(記憶と学習)
このプロセルのカラムの特徴は、@旧情報、A新情報である。
(4)情報の認知3(計画、問題解決)  
このプロセルのカラムの特徴は、@計画から問題解決へ、A問題未解決から推論へ、である。   
(5)人工知能1 執筆脳を「自我とパーソナリティ」としているため、自我の表出が重要になり、そこに専門家としての調節が効力を発揮する。@自我、Aパーソナリティ、Bその他。

花村嘉英(2021)「シュテファン・ツヴァイクの「Angst」の執筆脳について−不安障害」より

シュテファン・ツヴァイクの「Angst」で執筆脳を考える−不安障害10

分析例
(1)イレーネがすすり泣く。耐えられないことで緊張し、神経が擦り切れ、苦痛で体には感覚がなかった。 
(2)ここでは、「不安」の執筆脳を「自我とパーソナリティ」と考えているため、意味3の思考の流れは、自我に注目する。
(3)意味1 1視覚、2聴覚、3味覚、4嗅覚、5触覚、意味2 喜怒哀楽、意味3 心像 1あり2なし、意味4振舞いの1直示と2隠喩。
(4)人工知能 @自我、Aパーソナリティ  
テキスト共生の公式
(1)言語の認知による購読脳の組み合わせを「不安と恐怖」にする。
(2)文法や意味には、一応ダイナミズムがある。連想分析1の各行の「不安と恐怖」を次のように特定する。
  
A不安と恐怖=A聴覚+B哀+@あり+@直示という解析の組を、@自我+Aパーソナリティという組と合わせる。   
B不安と恐怖=A聴覚+B哀+@あり+@直示という解析の組を、@自我+Aパーソナリティという組と合わせる。     
C不安と恐怖=D触覚+B哀+@あり+@直示という解析の組を、@自我+Aパーソナリティという組と合わせる。     
D不安と恐怖=@視覚+B哀+@あり+A隠喩という解析の組を、@自我+Aパーソナリティという組と合わせる。
E不安と恐怖=@視覚+B哀+@あり+@直示という解析の組を、@自我+Aパーソナリティという組と合わせる。
 
結果 上記場面は、「不安と恐怖」という購読脳の条件を満たしている。

花村嘉英(2021)「シュテファン・ツヴァイクの「Angst」の執筆脳について−不安障害」より

シュテファン・ツヴァイクの「Angst」で執筆脳を考える−不安障害9

【連想分析1】
表2 言語の認知(文法と意味)

A "Irene", beruhigte er, "Irene, Irene", immer leiser, immer beschwichtigender den Namen sprechend, als könnte er den verzweifelten Aufruhr der gekrampften Nerven durch die immer zärtlichere Töning des Wortes glätten. Aber nur Schluchzen antwortete ihm, wilde Stöße, Wogen von Schmerz, die den ganzen Körperdurchrollten. Er führte, er trug den zuckenden Körper zum Sofa und bettete ihn hin.
意味1 2、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能 1

B Aber das Schluchzen wurde nicht still. Wie mit elektrischen Schlägen schüttelte der Weinkramp die Glieder, Wellen von Schauer und Kälter schienen den gefolterten Leib zu überrinnen. Seit Wochen auf das Unerträglichste gespannt, waren die Nerven nun zerrissen, und fessellos tobte die Qual durch den fühllosen Leib.
意味1 2、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能 1

C Er hielt in höchster Erregung ihren durchschauerten Körper, faßte die kalten Hände, küßte, zuerst beruhigend und dann wild, in Angst und Leidenschaft, ihr Kleid, ihren Nacken, aber da Zucken fuhr immer wie ein Riß über die hingekauerte Gestalt, und von innen rollte die aufstürzende, endlich entfesselte Welle des Schulchzens empor. 意味1 5、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能 1

D Er fühlte das Gesicht an, das kühl war, von Tränen gebadet, und spürte die hämmernden Adern an den Schläfen. Eine unsägliche Angst überkam ihn. Er kniete hin, näher zu ihrem Antlitz zu sprechen.
意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 2、人工知能 1

E "Irene", immer wieder faßte er sie an, "warum weinst du…Jetzt…jetzt ist doch alles vorbei…Warum quälst du dich noch…Du mußt dich nicht ängstigen mehr…Sie wird nie mehr kommen, nie mehr..."
意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能 1

花村嘉英(2021)「シュテファン・ツヴァイクの「Angst」の執筆脳について−不安障害」より

シュテファン・ツヴァイクの「Angst」で執筆脳を考える−不安障害8

4 データベースの作成・分析

 データベースの作成方法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている。
 こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容はそれぞれの言語ごとに構文と意味を解析し、何かの組を作ればよい。しかし、共生は作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。 

【データベースの作成】
表1 「Angst」のデータベースのカラム
文法1 態 能動、受動、使役。
文法2 時制、相 現在、過去、未来、進行形、完了形。
文法3 様相 可能、推量、義務、必然。
意味1  五感 視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
意味2  喜怒哀楽 喜怒哀楽と記事なし。 
意味3  振舞い ジェスチャー、身振り。直示と隠喩を考える。
意味4 自我 あり、なし。
医学情報 病跡学との接点 受容と共生の共有点。構文や意味の解析から得た組「不安と恐怖」と病跡学でリンクを張るためにメディカル情報を入れる。 
記憶 短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述) 作品から読み取れる記憶を拾う。長期記憶は陳述と非陳述に分類される。
情報の認知1 感覚情報の捉え方 感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。
情報の認知2 記憶と学習 外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識は、既存の情報と共通する特徴があり、未知の情報は、カテゴリー化される。このプロセスは、経験を通した学習になる。記憶の型として、短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述)を考える。
情報の認知3 計画、問題解決、推論 受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。
人工知能 自我とパーソナリティ
エキスパートシステム 自我とは、イドから発する衝動を外界の現実に従わせるように働く。パーソナリティとは、性格とほぼ同義で、特に個人の統一的な持続する特性のこと。

花村嘉英(2021)「シュテファン・ツヴァイクの「Angst」の執筆脳について−不安障害」より

シュテファン・ツヴァイクの「Angst」で執筆脳を考える−不安障害7

 通知が来なくなって4日経った。(Nun waren es schon vier Tage, dass die Person sich nicht gemeldet hatte.)恐喝の手紙を受け取るという不安は、金の支払により夕べの安らぎを買うことになった。ベルの呼び出しでドアを開けると、驚いたことにそこには醜い顔の恐喝女ワーグナー夫人(das verhasste Gesicht der Erpresserin Frau Wagner)がいた。すぐに片付くとして厚かましくも家の中に入ってくる。何がほしいのか。ワーグナー夫人は、金が必要である。400クローネ。(Sie braucht vierhundert Kronen.)イレーネ夫人は、金がないといい、代わりに婚約指輪を渡す。夫には指輪を掃除に出しているという。(Frau Irene kann nicht. Dier Person sah sie an, von oben bis unten, als wollte sie sie abschaetzen. Zum Beispiel der Ring da. Sie hat deinen Ring zum Putzen gegeben.)外に出てあたりを見回しても誰にも会わない。通りの反対方向から夫の視線を感じた。
 かつての愛人の家の前に来た。イレーネは、喜びで体が震えた。愛人が鍵を開けてドアが開いた。彼に助けを求めるも幻想にとりつかれ荒れ狂う。外に出ると辺りは暗く、夫と思われる人がいても追いかけるには不安があった。彼の姿が影に消えた。薬局で夫に出会う。通りで見た男である。顔は青白く、額に汗をかいている。(Sein Gesicht war fahl, und auf der Stirn funkelte ihm feuchter Schweiss.)通りを並んで歩く。部屋に入り二人は黙っている。夫が優しく接近する。突然イレーネがすすり泣く。耐えられないことで数週間緊張し、神経が擦り切れ苦痛で体には感覚がなかった。(Seit Wochen auf das Unertraeglichste gespannt, waren die Nerven nun zerrissen, und fessellos tobte die Qual durch den fuehllosen Leib.)もう心配することはない、すべてが終わったと夫はいう。(Jetzt ist doch alles vorbei. Du musst dich nicht aengstigen mehr.)イレーネにキスして愛撫する。
 翌朝目を覚ますと部屋のなかは明るく雷雨が去ったようである。何が起こったのか思い出だそうとする。(Sie versuchte sich zu besinnen, was ihr geschehen war, aber alles schien ihr noch Traum.)驚いたことに、指には指輪があり、思考と嫌疑がかみ合って全てのことが理解できた。(An ihrem Finger funkelte der Ring. Mit beinem Male war sie ganz wach.)夫の質問、愛人の驚き、全ての縫い目が巻き戻った。(die Frage ihres Mannes, das Erstaunen ihres Liebhabers, alles Maschen rollten sich auf.)微笑みが彼女の唇に現れ、何が自分の幸福なのかを深く享受するために目を閉じて横になった。(Mit geschlossenen Augen lag sie, um all dies tiefer zu geniessen, was ihr Leben war und nun auch ihr Glueck.)
 シュテファン・ツヴァイクの「Angst」の不安は、第一次世界大戦前夜のヨーロッパにあった日常のものである。イレーネの症状は、疲れやすく集中できず、緊張して眠れないという全般性の不安障害の診断項目に該当し、また、動悸・息切れがする、吐き気がする、不快感があるといったパニック障害の診断項目も確認できるため、購読脳は、「不安と恐怖」にする。「不安と恐怖」が入力になる「Angst」の執筆脳は、「自我とパーソナリティ」である。双方をマージした際のシナジーのメタファーは、「シュテファン・ツヴァイクとストレス反応」にする。

花村嘉英(2021)「シュテファン・ツヴァイクの「Angst」の執筆脳について−不安障害」より

シュテファン・ツヴァイクの「Angst」で執筆脳を考える−不安障害6

3.2 不安障害

 8年間の結婚生活は、イレーネにとって幸福の振り子が快適に揺れる時間で、子供を授かり我家も得た。しかし、彼女の不安が心の小部屋に入口を見出そうと、小さな思い出を内気なハンマーで叩く。3日間イレーネは家から出なかった。8年間の結婚生活より長い時間である。(Drei Tage hatte sie nun das Haus nicht verlassen. Diese drei Tage im Kerker der Zimmer schienen ihr laenger als die acht Jahre ihrer Ehre.)3日目の晩、彼女は夢を見た。どこへ行っても恐喝女が彼女を待ち伏せし、家に戻れば夫がナイフを振り上げる。助けを求める。夫がベッドの縁に座って彼女を病人のように見る。叫んだからである。強い不安感に襲われているため不安障害の症状が出ている。
 イレーネは、どうやら自分の感情に捕らわれて不安を生み出す性格のようである。次の日、昼食中に女中が手紙を持って来た。(Am nechsten Tage, als sie gemeinsam beim Mittagessen sassen - brachte das Dienstmaedchen einen Brief. )封を開けると、持参者にすぐ100クローネを渡すように3行で書いてある。日付も署名もない。Der brief war kurz. Drei Zeilen: “Bitte, geben Sie dem Ueberbringer dieses sofort hundert Kronen.” Keine Unterschrift, kein Datum.)封筒に紙幣を折り畳んで玄関で待機している配達人に渡す。躊躇することなく催眠術にかかったように。恐ろしい不快感、見たこともない夫の視線が気になった。心の奥が震えているのを感じる。これもまた強い不安感に襲われている不安障害の症状である。幸運なことに昼食は、すぐに終わった。また、手紙を暖炉の中に投げ入れ、気持ちは落ち着いた。一応心のコントロールはできている。
 次の日にまたメモ書きが届く。今度は200クローネの請求である。次第に額が増えていく。イレーネは、不安から動悸がし手足が疲れて眠れない。やはり不安障害の症状である。夫は、彼女を病人のように扱うようになった。
 おばさんが数日前に少年に色とりどりの子馬を贈った。年下の少女は羨ましい。次の日突然馬は消え、偶然に細かく切られてストーブの中で見つかった。勿論少女に嫌疑がかかる。最初は否定していた彼女も兄弟を傷つけたことを問われると、泣いて詫びる。イレーネの夫は、自分の罪だと認識したことがよいことだという。

花村嘉英(2021)「シュテファン・ツヴァイクの「Angst」の執筆脳について−不安障害」より

シュテファン・ツヴァイクの「Angst」で執筆脳を考える−不安障害5

表2 ストレス反応の経路

・ストレッサーから大脳皮質 ストレッサーを受けると人間の脳の一番外側にある大脳皮質で刺激をキャッチする。
・扁桃体から視床下部 喜怒哀楽や快不快といった情動を認識し、情動や理性的な判断や思考を行う前頭葉を経て、脳幹に位置し、自律神経と内分泌を支配する司令塔である。ここに情報が伝達されると、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)が放出される。
・内分泌系(HPA) CRHにより刺激された脳下垂体から副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が産生放出される。これが副腎皮質に到達すると、コルチゾールが分泌される。コルチゾールは、代謝や免疫機能を活性化し、短期的なストレス状態にうまく適応する。
・自律神経系(SAM) CRHが放出され自律神経が刺激されると、交感神経に受け継がれ、ノルアドレナリンが分泌され、刺激を受けた副腎髄質からはアドレナリンやノルアドレナリンが分泌される。血管の収縮、血圧上昇、心拍数の増加などを促す。
・免疫系  ストレッサーが作用したり異物が体内に侵入することにより、多くの段階の免疫システムを稼働させ、それに抵抗しようとする。

花村嘉英(2021)「シュテファン・ツヴァイクの「Angst」の執筆脳について−不安障害」より

シュテファン・ツヴァイクの「Angst」で執筆脳を考える−不安障害4

 小説の冒頭でイレーネ夫人は、入ってくる女性と強くぶつかった。女は、イレーネが手にした財布や通帳を見て、「哀れな奴」(Luder)と呟く。イレーネは、車の中で吐き気がして喉に苦いものが登ってきた。(Immer staerker wurde das Ubelkeitsgefuehl, immer hoeher klomm es in die Kehl.)エネルギーを一つにまとめ、超人的に努力していくつもの道を先に進み、家に辿り着く。食堂に入ると夫フリッツがテーブルで新聞を読んでいる。帽子を取らないイレーネにとてもイライラしているけど何をしていたのか夫が問いただす。自分の部屋へ行き帽子を取って居間に戻る。問題焦点型のコーピングである。
しかし、彼女の思考は、恐ろしいほど恐喝女の近くにあった。(Ihre Gedanken kamen in die grauenhafte Naehe der Erpresserin.)ここでイレーネにとって恐喝女は、ストレスフルであり、ストレス反応として情動に変化が見られる。対処法は、愛人への短い手紙である。問題焦点型のコーピングである。
 イレーネは、女の記憶を惑わすために黒い目立たない洋服を着て別の帽子を被った。しかし、喫茶店が近いことが残念であった。(Irene nahm diesmal ein dunkles, unauffaelliges Kleid und einen anderen Hut. Aber fast leid war es ihr, dass die Konditorei so nahe lag.)入っていくと恋人は角に座っていた。静かに声を抑えている。30分話し彼から離れ、予期せぬ成功が自分の顔への好奇心を刺激した。
 イレーネは、ストレス状態にとりあえず適応している。つまり、扁桃体で認識された情動からくる快不快の感情を前頭葉でコントロールし、冷静さを取り戻している。大脳皮質から扁桃体を経て、視床下部に情報が伝達され、内分泌系と自律神経系が相互に影響を及ぼしながらホメオスタシスを保っている。

花村嘉英(2021)「シュテファン・ツヴァイクの「Angst」の執筆脳について−不安障害」より

シュテファン・ツヴァイクの「Angst」で執筆脳を考える−不安障害3

3 「Angst」のLのストーリー 

3.1 ストレス反応の経路
 
 不安と恐怖は、危険を察知して身を守るための防御反応として備わっている感情である。しかし、不安は、内側から沸き起こり、恐怖は、事故や災害、人間関係など外的な原因により生まれる。1910年にウィーンで書かれたツヴァイクの「Angst」は、主人公のイレーネ夫人にまつわるストレスの問題が鍵になる。
 片野(2021)によると、ストレスを構成する要素は、ストレッサー、認知的評価、その対処、ストレス反応である。成年期にあるイレーネ夫人が受けたストレッサーは、社会的なものである。人間関係のトラブル、多忙、いじめ、リストラ、家族の死、挫折、失敗、離婚、結婚などがその例になる。周囲から刺激を受けた際、それが有害か否か認知的に評価し、それに対抗してコーピングで刺激を処理する。コーピングには問題焦点型と情動焦点型がある。
 ストレスが有害であると認知した時、一般的に体には不安や怒り、恐怖、焦りといった情動変化がみられる。続いて、動機や冷や汗、鳥肌、震えといった身体変化が現れ、仕事のミスや事故の増加など行動に変化がでる。

表1 ストレスの認知的評価

認知的評価               説明
一次反応 ストレッサーを受けた時にそれが自分にとって有害か無害かの判断をする。例えば、無関係は無害、不可能は有害になる。
二次反応 ストレスフルと評価されたストレッサーに対し、その状況を処理して切り抜けるために何をすべきか検討する段階である。
ストレス反応 情動、身体、行動に変化がある。
コーピング 周囲から刺激を受けた際、それが有害か否か認知的に評価し、それに対して意識的に行動すること。問題焦点型コーピングは、ストレッサーそのものに働きかけ原因を解決し除去する一方、情動焦点型コーピングは、ストレッサーそのものに働きかけずそれに対する考え方や感情を変えようとする。

花村嘉英(2021)「シュテファン・ツヴァイクの「Angst」の執筆脳について−不安障害」より

シュテファン・ツヴァイクの「Angst」で執筆脳を考える−不安障害2

2 シュテファン・ツヴァイクの「Angst」の背景

 洗練された文体とか無意識の解明などが思い浮かぶシュテファン・ツヴァイク(1881−1942)は、歴史上の人物の評伝で有名なウィーン人である。彼は、人間を愛し、イデオロギーや硬直したシステムおよび傲慢な計画を憎んだ。そして民族と国家間のように人間と人間の間には境界線を引いていた。 
 修業時代は、フレマンの詩人エミール・ヴェルハーレン(1855−1916)の詩作をドイツ語に翻訳した。FriedenthalのNachwortによると、同時代の知識人と意見を交わし、仲間の関係を作ることがツヴァイクの特徴になった。1881年古きドナウの君主国に生まれ、その都ウィーンの上流家系の家柄で育つ。当時のウィーンの要素には、音楽と劇場のみならず、医学や心理学といった科学の研究も含まれる。このウィーンの両面にツヴァイクの作家としての心理的な第六感が働きかける。その後、文学史を修め、世界の主要都市を旅行する。
 精神の自由な交換を無に帰した第一次世界大戦(1914−1918)は、憎悪と権力に対し情熱的に抵抗した詩作を作らせた。第一次世界大戦後、ツヴァイクは、ザルツブルクに移り結婚し、体系的に幅広くライフワークを組み立てる。人生の輝く時代に、決定的な瞬間を呼び起こす歴史のミニチュアを作った。 
 1934年以降ロンドンに居住し、再婚する。第二次世界大戦(1939−1945)の直前に英国の西海岸にある保養地バースに移った。その後、イタリア、ポルトガル、パリそして南北アメリカへと講演旅行に出かけ、長きに渡り世界中に翻訳された作家になっていく。1940年のアメリカへの講演旅行の後、もはや帰る必要はなくなった。自叙伝を作成し、ブラジルを訪れ、60歳の誕生日を前にして二度目の妻とともに自殺した。
 正当であって魂のつり合いを保とうと努力しながら、ツヴァイクは、最後の言葉を書き記す。我々の時代同様非人間の時代に人間的なものを我々のなかで強め、我々が所有する唯一で失われることのないもの、つまり我々の最も内なる自我を放棄しないように警告する人以外誰にも感謝する必要はないと。

花村嘉英(2021)「シュテファン・ツヴァイクの「Angst」の執筆脳について−不安障害」より

シュテファン・ツヴァイクの「Angst」で執筆脳を考える−不安障害1

1 はじめに

 文学分析は、通常、読者による購読脳が問題になる。一方、シナジーのメタファーは、作家の執筆脳を研究するためのマクロに通じる分析方法である。基本のパターンは、まず縦が購読脳で横が執筆脳になるLのイメージを作り、次に、各場面をLに読みながらデータベースを作成し、全体を組の集合体にする。そして最後に、双方の脳の活動をマージするために、脳内の信号のパスを探す、若しくは、脳のエリアの機能を探す。これがミクロとマクロの中間にあるメゾのデータとなり、狭義の意味でシナジーのメタファーが作られる。この段階では、副専攻を増やすことが重要である。 
 執筆脳は、作者が自身で書いているという事実及び作者がメインで伝えようと思っていることに対する定番の読み及びそれに対する共生の読みと定義する。そのため、この小論では、トーマス・マン(1875−1955)、魯迅(1881−1936)、森鴎外(1862−1922)に関する私の著作を先行研究にする。また、これらの著作の中では、それぞれの作家の執筆脳として文体を取り上げ、とりわけ問題解決の場面を分析の対象にしている。さらに、マクロの分析について地球規模とフォーマットのシフトを意識してナディン・ゴーディマ(1923−2014)を加えると、“The Late Bourgeois World”執筆時の脳の活動が意欲と組になることを先行研究に入れておく。 
 筆者の持ち場が言語学のため、購読脳の分析の際に、何かしらの言語分析を試みている。例えば、トーマス・マンには構文分析があり、魯迅にはことばの比較がある。そのため、全集の分析に拘る文学の研究者とは、分析のストーリーに違いがある。言語の研究者であれば、全集の中から一つだけシナジーのメタファーのために作品を選び、その理由を述べればよい。なおLのストーリーについては、人文と理系が交差するため、機械翻訳などで文体の違いを調節するトレーニングが推奨される。
 
花村嘉英(2021)「シュテファン・ツヴァイクの「Angst」の執筆脳について−不安障害」より

「ヨセフとその兄弟」の「ヤコブ物語」から見えてくるファジィ測度について12

◆ 飢饉が激しくエジプトから携えた穀物を食い尽くしたため、父イスラエルはユダに言った。この国の名産を器に入れ、その人に贈りなさい。乳香、蜜、香料など。(創世記四十三章)
◆ ヨセフとユダと兄弟たち。父に対して永久に罪を負う。忍びないから。(創世記四十四章)
◆ ヨセフは、皆に出て行くように言った。エジプトの主としてヨセフは、弟ベニヤミンの首を抱いて泣いた。全ての兄弟たちに口づけをして泣いた。(創世記四十五章)
◆ イスラエルは、持ち物を携えてペシルバへ行き、父イサクの神に犠牲を捧げた。(創世記四十六章)
◆ バロと羊飼いのやり取り、カナンは、飢饉が激しくゴセンに住みたいと。ヨセフも賛成する。ヨセフは、エジプトの地をバロに与えた。イスラエルもエジプトのゴセンに住み、財産と子を増やした。ヤコブのよわいの日は、百四十七年。(創世記四十七章)
◆ ヤコブとヨセフの子孫の区切り。(創世記四十八章)
◆ ヤコブは、子らを呼んで後に彼らの上に起こることを告げた。イスラエルの十二の部族。(創世記四十九章)
◆ ヨセフの父イスラエルの死に際し、父に薬を塗った。四十日を要した。ヨセフは、父の家族と共に四十日エジプトに住んだ。そして百十年生きながらえた。ヨセフも死に際して薬を塗られ棺に埋葬されエジプトに安置された。(創世記五十章)

花村嘉英(2019)「「ヨセフとその兄弟」の「ヤコブ物語」から見えてくるファジィ測度について」より

「ヨセフとその兄弟」の「ヤコブ物語」から見えてくるファジィ測度について11

【付録】旧約聖書 創世記の内容

◆ エサウは狩猟者、野人となり、ヤコブは穏やかで天幕に住んでいた。イサクは鹿肉が好物のためエサウを愛し、リベカはヤコブを愛した。ある日エサウが疲れ果てて帰宅し、赤いものをヤコブに求めた。ヤコブはエサウの長子権と引き換えにパンと豆を与えた。(旧約聖書 創世記二十五章)
◆ ラケルの子ヨセフは、17歳のとき、兄弟たちと羊の群れを飼っていた。しかし、兄弟たちの悪い噂を父ヤコブに告げた。父イスラエルはヨセフに言った。兄弟たちがシケムで羊を飼っている。ヨセフもそこへ行ってともに働けと。しかし、兄弟たちはシケムを出てドタンに移り、ドタンに来たヨセフを殺そうと計画する。兄弟はヨセフを穴に入れた後、ヨセフをイシマエル人に売り、エジプトへ連れて行かせた。小説でシケムに行くのは、ヤコブであり、ヨセフではない。(創世記三十七章) 
◆ ユダの姦淫。ユダはイエス・キリストの下僕またヤコブの兄弟である。(ユダの手紙を参照すること。)(創世記三十八章) 
◆ ヨセフは獄屋に主とともにいて、慈しみを垂れ、ヨセフのなすことを栄えさせた。ヨセフは主人のエジプト人の妻と関係を持たなかった。(創世記三十九章) 
◆ ヨセフが給仕役と料理長の夢を解き明かす。(創世記四十章) 
◆ バロがヨセフに夢を明かすと、エジプトの国が滅びることがないように神が告げる。ヨセフはエジプトの国を巡る。ヨセフがエジプト王バロの前に立ったのは三十歳のとき。豊作後の飢饉でも食物がヨセフの穀蔵に残っていた。(創世記四十一章)
◆ ヤコブは、エジプトに穀物があるので買いにいくようにと息子たちに言った。ヨセフと十人の兄弟(本当は十二人)はエジプトへ行き、穀物を買い、カナンに帰って来た。(創世記四十二章)

花村嘉英(2019)「「ヨセフとその兄弟」の「ヤコブ物語」から見えてくるファジィ測度について」より

「ヨセフとその兄弟」の「ヤコブ物語」から見えてくるファジィ測度について10

4 ファジィ測度の分析

 エサウの家族とヤコブの家族について、同じ場所で生活できない理由に財産が多いからとある。(旧約聖書 創世記三十六章)それぞれの家族の最大の作業量を10とし、μ(A)とμ(B)が互いに干渉しなければ加法性が成り立つが、やはり干渉するため加法性は成り立たず、等式は成立しない。
 エサウの家族とヤコブの家族が協力すれば(9)となり、別々に活動すれば抵抗反発により作業効率は下がり(10)になる。

(9)μ(A∪B)>μ(A)+μ(B)
(10)μ(A∪B)<μ(A)+μ(B)

 そのため、「ヨセフとその兄弟」の「ヤコブ物語」に見るアンビグイティは成立する。「トーマス・マンとファジィ」というシナジーのメタファーは、ファジィ集合とファジィ測度という二つの特徴を持ち合わせた作家の執筆脳の分析へと展開している。

【参考文献】
花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用  日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る V2ソリューション 2022
Thomas Mann Joseph und Seine Brüder, Frankfurt a. M., Fischer 1986(高橋義孝訳 ヨセフとその兄弟 現代世界文学全集34 新潮社)
日本成人病予防協会監修 健康管理士一般指導員通信講座テキスト 2014
菅野道夫編 講座ファジィ3 ファジィ測度 日本工業新聞社 1993
日本聖書協会 聖書 三省堂 1974

花村嘉英(2019)「「ヨセフとその兄弟」の「ヤコブ物語」から見えてくるファジィ測度について」より

「ヨセフとその兄弟」の「ヤコブ物語」から見えてくるファジィ測度について9

◆ エサウは、妻子と家の人全員、家畜と全ての獣、カナンで得た財産を手にしてヤコブから離れてセイル山地に住む。彼らは財産が多かったためである。一方、ヤコブは父の寄留地カナンに住んだ。(旧約聖書 創世記三十六章)
◇ 小説ではエサウとヤコブは不仲である。二人が55歳になり、25年の歳月を経て再開した後、エサウが好きなセイルの山岳人の笛の響きがヤコブは大嫌い。Das erste, was Jaakob von Esau vernahm, war dessen Flötenspiel, das ihm von früh her bekannte,… (S. 147) エサウのセイルで共にくらそうという誘いも乗らず、穏やかに断り、別々の路を進んでいく。Das war eine Absage in geschmeidiger Form, und Esau, etwas glotzend, verstand sie auch gleich so ziemlich als solche. (S. 151)(第二章ヤコブとエサウ エサウ)

表1 聖書による双子の比較

特徴      兄エサウ         弟ヤコブ
出生  母リベカから先に生まれる  兄の踵を掴んで生まれる
肌      赤くて全身毛だらけ  肌は滑らか
性格       狩猟者、野人    穏やかな人
間柄      弟を憎み殺意を抱く  長子の特権と祝福の特権を奪う
勝利     カナンで財産を獲得   神と人との力比べに勝つ。神からイスラエルという名を給わる。
家族  妻 アダ、アホリバマ、バスマテ  妻 レア、ラケル、ビルハ、ジルパ
   子供 エリバス、リウレル、エウシ、子供 ルベン、シメオン、レビ、ユダ、イッサカル、
     ヤラム、コラ       ゼブルン、ヨセフ、ベニヤミン、ダン、
                    ナ二タリ、ガド、アセル
居住地     セイル山地     カナン
家族の営み   良好な生活     良好な生活

花村嘉英(2019)「「ヨセフとその兄弟」の「ヤコブ物語」から見えてくるファジィ測度について」より

「ヨセフとその兄弟」の「ヤコブ物語」から見えてくるファジィ測度について8

◆ 年老えたイサクは、武器や弓矢を持って野に出かけ鹿狩りに行き、好物を作ってくれとエサウに頼む。それを聞いていたリベカがヤコブと企み、エサウの祝福を奪う。そのためエサウはヤコブを殺そうとする。リベカがそれを察知しヤコブをエサウから引き離す。(旧約聖書 創世記二十七章)
◇ 小説では、この場面の下りが異なる。確かにイサクの妻リベカが悪巧みをする。“Jekew, mein Kind”, sagte sie (Rebekka) leise und tief und zog seine erhobenen Hände an ihre Brust. “Es ist an dem. Derr Herr will dich segnen.” … “Dich in ihm (Esau)”, sagte sie ungeduldig. (S.205) 目の見えないイサクを欺いてエサウの祝福を奪うために、赤毛の皮膚を模したいで立ちでエサウよりも先にイサクに好物の肉料理とワインを届ける。“Ich bin Esau, der Rauhe, dein größerer Sohn, und habe getan, wie du geheißen. Sitz auf, mein Vater, und stärke deine Seele; hier ist das Essen.” (S. 208) 聴覚や触覚頼りの人物評価のため、まんまとごまかされたイサクは、偽エサウのヤコブを祝福してしまう。Ihr Fett gab er ihm (Jaakob) und ihre Weibesüppigkeit und dazu den Tau und das Manneswasser des Himmels, gab ihm die Fülle von Acker, Baum und Rebe und wuchernde Fruchtbarkeit der Herden und doppelte Schur jedes Jahr. (S. 211) 狩りから戻ったエサウが食事を供しても人々は嘲り笑う始末。全くおなかが痛くなるほどの茶番劇となる。 Und dann er sich hin zu Boden und heulte mit lang heraushängendernZunge und ließ tränen rollen, so dick wie Haselnüsse, während die Leute im Kreis um ihn standen und sich die Nieren hielten, so schmerzte sie der große Jokus, wie Esau, der Rote, geprellt ward um seines Vaters Segen. (S.214) (第四章 大いなる茶番劇)

花村嘉英(2019)「「ヨセフとその兄弟」の「ヤコブ物語」から見えてくるファジィ測度について」より

「ヨセフとその兄弟」の「ヤコブ物語」から見えてくるファジィ測度について7

◆ アブラハムの子イサクは、40歳でリベカを娶る。その子は、エサウとヤコブという双子である。先に出てきた兄エサウは赤くて全身毛だらけ、後から出てきた弟ヤコブは手でエサウの踵を掴んでいた。イサクが60歳のとき。主は母リベカに兄が弟に仕えるという。(旧約聖書 創世記二十五章)
◇ Durch des Vaters Segen war Jaakob endgültig zum Mann des vollen und schönen Mondesgeworden, Esau aber zum Dunkelmond, also zum Mann der Unterwelt – und in der Unterwelt weinte man, obgleich man dort möglicherweise sehr reich an Schätzen wurde. (S. 134) トーマス・マンは、上記の記事に少し書き加え、ヤコブを満月の美しい月の男とし、兄エサウは、陰月の男、冥府の男とした。(第二章ヤコブとエサウ エリバス)

花村嘉英(2019)「「ヨセフとその兄弟」の「ヤコブ物語」から見えてくるファジィ測度について」より

「ヨセフとその兄弟」の「ヤコブ物語」から見えてくるファジィ測度について6

3 「ヨセフとその兄弟」に見る旧約聖書との違い

 この小論では、「ヤコブ物語」と旧約聖書の創世記の記事を照合しながら、外枠は旧約聖書の創世記であって、その中の要素が異なるケースをいくつか拾ってみる。それがファジィ測度でいう作業効率の考え方に適応するからである。

◆ ヨセフの父ヤコブは、神からイスラエルという名をつけられる。ヤコブが兄エサウのもとへ行く際、妻と子供を連れてヤボクの渡しを渡る。そこである人と組打ちして、祝福を求める。その人が名前を尋ねるとヤコブと答えた。その人は神と戦い給うイスラエルと名乗るようにいう。もものつがいが外れ、神と人との力の争いに勝ったからである。(旧約聖書 創世記三十二章) 
◇ 小説は少し違う。ヤコブが戦い取ったこの名は、その男が生み出したものではなく、好戦的な砂漠の一種族ベドワン人のものであった。“Der Name aber, den Jahu’s beduinische Krieger sich zugelegt, sollte, zum unterscheidenden Merkmal reineren und höheren Ebräertums, zur Kennzeichnung von Abrahams geistigem Samen werden, ebendadurch, daß Jaakob in schwerer Nacht am Jabbok ihn sich hatte zugestehen lassen…” (S. 132) イスラエルという称号は、ヤコブがヤボクの戦いで自分の方へ奪い取ったことにより、高級なヘブライ精神を表す標識、アブラハムの精神的な末裔の印を帯びることになった。(第二章ヤコブとエサウ ヤコブの素性)

花村嘉英(2019)「「ヨセフとその兄弟」の「ヤコブ物語」から見えてくるファジィ測度について」より

「ヨセフとその兄弟」の「ヤコブ物語」から見えてくるファジィ測度について5

 また、μは加法性を持つとは限らない。AとBをXの互いに素な任意の部分集合とし、グループAとグループBが一緒に働く場合を考えてみよう。もしAとBが互いに何の影響も及ぼさず、全く独立して作業するなら、等式μ(A∪B)=μ(A)+μ(B)が成り立つ。しかし、一般にはAとBは互いに干渉し合うため、この等式は成立しない。両グループのメンバーが効果的に協力しあえば、

(7)μ(A∪B)>μ(A)+μ(B)

となるだろうし、逆に人数が多くなりすぎて、作業がかち合い、効率が悪くなれば、

(8)μ(A∪B)<μ(A)+μ(B)

となるであろう。
 作業のかち合いは、例えば、設備や作業スペースが十分でないときに起こる。これらが十分であれば、AとBは別々にかち合わないで作業ができる。実際には、効果的な協力と作業のかち合いの両方が起こることが考えられる。そのため、協力の度合いがかち合いの度合いより大きければ、不等式(7)となり、その逆になれば、反対向きの不等式(8)になる。この例は、作業員間の作業効率に関する相互作用があるため、ファジィ測度が部分集合間の相互作用を表しているといえる。(菅野 1993)

花村嘉英(2019)「「ヨセフとその兄弟」の「ヤコブ物語」から見えてくるファジィ測度について」より

「ヨセフとその兄弟」の「ヤコブ物語」から見えてくるファジィ測度について4

2.2 ファジィ測度の具体例

 1種類の製品のみを作っている工場がある。 そこで働く従業員全員からなる集合をXとする。作業員の任意のグループA(⊂ X)をとり、Aのメンバーだけで作業するような状況を考える。Aのメンバーは、色々なやり方で作業ができる。例えば、分業や共同作業等。ここでは、最も効率のよいやり方で働くものと仮定する。その最も効率のよい方法でグループAが単時間(1時間)に作る製品の個数をμ(A)で表す。このμは、2x上の集合になる。 
 μはファジィ測度である。作業員がいないと製品ができないため、μ(∅)=0。そして、最も効率のよい方法で働くと仮定すれば、人数が増えると生産性が上がる(少なくとも下がらない)。即ち、A⊂B ⇒μ(A)≦ μ(B)である。

花村嘉英(2019)「「ヨセフとその兄弟」の「ヤコブ物語」から見えてくるファジィ測度について」より

「ヨセフとその兄弟」の「ヤコブ物語」から見えてくるファジィ測度について3

 しかし、ファジィ測度は加法性が仮定されていないため、A∩B = ∅ のときのμ(A∪B)とμ(A)+μ(B)の間の大小関係については、一意に定まらず、以下のような場合が想定される。

(3) μ(A∪B)⋛ (A∪B)
 (3)については、3通リの解釈(4) 、(5) 、(6)が可能である。

(4) μ(A∪B)>(A∪B)
 解釈AとBの間に相互(相乗)作用がある。

(5) μ(A∪B)<(A∪B)
 解釈AとBは、μで測っている属性において重複を持つ(同じ特徴を持つ)。または、AとBの間に相殺作用がある。

(6) μ(A∪B)=μ(A)+μ(B)
 解釈AとBは側率で相互作用はない。相乗作用と相殺作用が互いに打ち消し合っている。

 一般的に測度は、加法性が重要な特徴である。菅野(1993)によると、ファジィ測度は、非加法性による部分集合間の相互作用(要素の組み合わせによる効果)を表している。

花村嘉英(2019)「「ヨセフとその兄弟」の「ヤコブ物語」から見えてくるファジィ測度について」より

「ヨセフとその兄弟」の「ヤコブ物語」から見えてくるファジィ測度について2

2 ファジィ測度

2.1 一般の測度とファジィ測度の違い

 一般的にファジィ集合は、境界がぼやけた概念の曖昧さのことであり、ファジィ測度は、鮮明な境界内にある要素についてその可能性が特定できない曖昧さのことをいう。前者はベイグネス、後者はアンビグイティと呼ばれている。
 例えば、聖書の枠組みは変わらずとも、「ヤコブ物語」に登場するエサウやヤコブが聖書に登場するエサウやヤコブとどの程度近いのか、なかなか特定できない。こうしたファジィ測度を平易な論理計算を用いて説明していく。
 あるいは、聖書の中のエサウやヤコブと異なる記事もあるであろう。しかし、ファジィ測度を用いれば、そういう内容もやさしい論理計算に基づいて説明することできる。
 一般的に測度とは、長さ、面積、体積、質量などの外延量(広がりに規定される量)の数学的な表現である。一方、速度、濃度、密度などの量は、内包量と呼ばれる。例えば、AとBがそれぞれ1の仕事しかできないとしても、一緒に働くと2.5の仕事ができるような相乗効果がでる場合、

(1) μ({a})= μ({b})= 1,
(2) μ({a,b})= 2.5

とファジィ測度で表現される。

花村嘉英(2019)「「ヨセフとその兄弟」の「ヤコブ物語」から見えてくるファジィ測度について」より

「ヨセフとその兄弟」の「ヤコブ物語」から見えてくるファジィ測度について1

1 背景

 1924年に「魔の山」を出版し、1929年にノーベル賞を受賞したトーマス・マンは、1933年、ナチスドイツから亡命し、最初にフランス、スイス、1938年からはアメリカに移住した。戦時中は、祖国ドイツと対峙しつつ、15年余りの歳月をかけて、旧約聖書の創世記を題材にした物語「ヨセフとその兄弟」を執筆した。亡命作家としてドイツを外から見ていた時期で、その間トーマス・マンなりに幾度もドイツ国民に向けて警告を発している。勿論、当局から言動を追跡されていたため、ファジズムに対する警告の仕方として旧約聖書に基づいた創作という手法を取った。小説を読めばヨセフのような人物とその兄弟たちで新生ドイツを作っていこうというメッセージに取れる。
 この小論では、「ヤコブ物語」(1933)を題材にして、トーマス・マンとファジィ測度との整合性を考える。集合の枠組みが決まっていて、その中の要素が曖昧というファジィ測度の考え方は、枠組みが旧約聖書で、登場人物が聖書と些か異なる特徴を持つ「ヨセフとその兄弟」の登場人物についても、「トーマス・マンとファジィ」というシナジーのメタファーで説明することができる。
 この小論は、ファジィ集合の観点から考察した「計算文学入門−トーマス・マンのイロニーはファジィ集合といえるのか」(2005)および「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(2022)の中の「トーマス・マンとファジィ」というシナジーのメタファーの組み合わせを展開させ、かつ論理計算と統計からなる計算文学の手法を安定させる役割を担っている。シナジーのメタファーは、あくまで「トーマス・マンとファジィ」である。しかし、「ヨセフとその兄弟」の「ヤコブ物語」執筆時の脳の活動としてファジィを使う場合、「魔の山」のファジィ集合とは異なり、ファジィ測度が考察の対象になる。 

花村嘉英(2019)「「ヨセフとその兄弟」の「ヤコブ物語」から見えてくるファジィ測度について」より

カミュの「異邦人」で執筆脳を考える−不安障害8

5 まとめ
 
 カミュの執筆時の脳の活動を調べるために、まず受容と共生からなるLのストーリーを文献により組み立てた。次に、「異邦人」のLのストーリーをデータベース化し、最後に文献で留めたところを実験で確認した。そのため、テキスト共生によるシナジーのメタファーについては、一応の研究成果が得られている。
 この種の実験をおよそ100人の作家で試みがある。その際、日本人と外国人60人対40人、男女比4対1、ノーベル賞作家30人を目安に対照言語が独日であることから非英語の比較を意識してできるだけ日本語以外で英語が突出しないように心掛けている。 

参考文献

大塚俊男 こころの病気を知る事典 弘文堂 2007
日本成人病予防協会 健康管理士一般指導員受験対策講座テキス ヘルスケア出版 2014
花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默−ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方−トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日語教学研究会上海分会論文集 2018  
花村嘉英 川端康成の「雪国」に見る執筆脳について-「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日語教学研究会上海分会論文集 2019
花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する−危機管理者としての作家について 中国日語教学研究会上海分会論文集 2020
Albert Camus L’Étranger(窪田啓作訳「異邦人」、解説 白井浩司)Exporté de Wikisource 2016

カミュの「異邦人」で執筆脳を考える−不安障害7

表3 情報の認知

表2 Aと同文。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2
表2 Bと同文。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2
表2 C と同文。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2
表2 Dと同文。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2
表2 Eと同文。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 1

A 情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。
B 情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。
C 情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。
D 情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。
E 情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2はA新情報、情報の認知3は@計画から問題解決へである。  

結果     
 カミュは、この場面で裁判長に促されて動機を太陽のせいだと説明する。そしてアラビア人を意図して殺したわけではないと述べたため、購読脳の「不条理と現実」から「秘めた積極性と抗力」という執筆脳の組を引き出すことができる。

花村嘉英(2020)「カミュの『異邦人』の執筆脳について」より

カミュの「異邦人」で執筆脳を考える−不安障害6

【連想分析2】

情報の認知1(感覚情報)  
 感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。このプロセルのカラムの特徴は、@ベースとプロファイル、Aグループ化、Bその他の条件である。
 
情報の認知2(記憶と学習)  
 外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。未知の情報は、またカテゴリー化される。このプロセスは、経験を通した学習になる。このプロセルのカラムの特徴は、@旧情報、A新情報である。

情報の認知3(計画、問題解決、推論)  
 受け取った情報は、計画を立てるプロセスでも役に立つ。その際、目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。しかし、獲得した情報が完全でない場合は、推論が必要になる。このプロセルのカラムの特徴は、@計画から問題解決へ、A問題未解決から推論へである。

花村嘉英(2020)「カミュの『異邦人』の執筆脳について」より

カミュの「異邦人」で執筆脳を考える−不安障害5

分析例

(1)アラビア人を殺そうと意図していたわけでないと説明する場面。
(2)この小論では、「異邦人」の執筆脳を「秘めた積極性と抗力」と考えているため、意味3の思考の流れは、抗力に注目する。  
(3)意味1@視覚A聴覚B味覚C嗅覚D触覚 、意味2 @喜A怒B哀C楽、意味3抵抗@ありAなし、意味4振舞い @直示A隠喩B記事なし、人工知能 積極性@ありAなし、抗力@ありAなし
 
A @視覚+B哀+@あり+@直示という解析の組を、@積極性+@抗力という組と合わせる。
B @視覚+B哀+@あり+@直示という解析の組を、@積極性+@抗力という組と合わせる。
C @視覚+B哀+@あり+@直示という解析の組を、@積極性+@抗力という組と合わせる。 
D A聴覚+B哀+Aなし+@直示という解析の組を、@積極性+@抗力という組と合わせる。
E A聴覚+A怒+@あり+@直示という解析の組を、@積極性+@抗力という組と合わせる。   

結果 表2については、テキスト共生の公式が適用される。

花村嘉英(2020)「カミュの『異邦人』の執筆脳について」より

カミュの「異邦人」で執筆脳を考える−不安障害4

【連想分析1】
(データベースからの抜粋)
表2 言語の認知(文法と意味)

A Quand le procureur s'est rassis, il y a eu un moment de silence assez long. Moi, j'étais étourdi de chaleur et d'étonnement. Le président a toussé un epu etsur un ton très bas, il m'a demandé si je n'avais rien à ahouter.
意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、AI 1+1
 
B Je me suis levé et comme j'avais envie de parler, j'ai dit un peu au hasard d'ailleurs, que je n'avais pas eu l'intention de tuer.L'Arabe. Le président a répondu que c'était une affirmation, que jusqu'ici il saisissait mal mon système de dèfense et qu'il serait heureux, avant d'entendre mon avocat, de me faire prèciser les motifs qui avaient inspiré mon acte. 意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、AI 1+1

C J'ai dit rapidement, en mêlant un peu les mots et en me rendant compte de mon ridicule, que c'ètait à cause du soleil. Il y a eu des rires dans la salle. Mon avocat a haussè les èpaules et tout de suite après, on lui a donnè la parole. Mais il a dééclaré qu'il était tard, qu'il em avait pour plusieurs heures et qu'il demandait le renvoi à l'après-midi. La cour y a consenti.  意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、AI 1+1

D L'après-midi, les grands ventilateurs brassaient toujours l'air épais de la salle, et les petits éventails multicolores des jurés s'agitaient tout dans le même sens. La plaidoire de mon avocat me semblait ne devoi jamais finir. À un moment donné, cependant, je l'ai écouté parce qu'il disait: "Il est vrai que j'ai tué."
意味1 2、意味2 3、意味3 2、意味4 1、AI 1+1

E Puis il a continué sur ce ton, disant "je" chawue fois qu'il parlait de moi. J'étais très étonné. Je me suis penché vers un gendarme et je lui ai demandé pourquoi. Il m'a dit de me taire et, après un moment, il a ajouté: "Tous les avocats font ça." 意味1 1、意味2 2、意味3 1、意味4 1、AI 1+1

花村嘉英(2020)「カミュの『異邦人』の執筆脳について」より

カミュの「異邦人」で執筆脳を考える−不安障害3

3 データベースの作成分析

 データベースの作成法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている。
 こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容はそれぞれの言語ごとに構文と意味の解析をし、何かの組を作ればよい。しかし、共生は作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。

【データベースの作成】
表1 「異邦人」のデータベースのカラム
文法1 態  能動、受動、使役。
文法2 テンス、アスペクト 現在、過去、未来、進行形、完了形。
文法3 モダリティ 様相の表現。可能、推量、義務、必然。
意味1 五感 視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
意味2 喜怒哀楽 情動との接点。瞬時の思い。
意味3 抗力 物体の表面に働いてその運動を妨げる力、飛行方向と逆向きに働く力。
意味4 振舞い ジェスチャー、身振り。直示と隠喩を考える。
医学情報 病跡学との接点 受容と共生の共有点。構文や意味の解析から得た組「不条理と現実」と病跡学でリンクを張るためにメディカル情報を入れる。
記憶 短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述) 作品から読み取れる記憶を拾う。長期記憶は陳述と非陳述に分類される。
情報の認知1 感覚情報の捉え方 感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。例えば、ベースとプロファイルやグループ化または条件反射。
情報の認知2 記憶と学習 外部からの情報を既存の知識構造に組み込む。その際、未知の情報についてはカテゴリー化する。学習につながるため。記憶の型として、短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述)を考える。
情報の認知3 計画、問題解決、推論 受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。
人工知能 秘めた積極性と抗力 エキスパートシステム 積極性とは、対象に対して進んで働きかける性質。それを内に秘めている。抗力とは、物体表面に働いてその運動を妨げる力、または飛行方向と逆向きに働く力。

花村嘉英(2020)「カミュの『異邦人』の執筆脳について」より

カミュの「異邦人」で執筆脳を考える−不安障害2

2 Lのストーリー 司法の精神医学

 「異邦人」(1942)は、アルベール・カミュ(1913-1960)が29歳のときに書いた小説である。17歳のときに肺結核の発作が起こる。肺結核のために大学教授資格試験も断念しており生涯の持病になる。主人公ムルソー(Meursault)は、1930年代の青年の喜びや苦しみを具現化した典型的な人物であり、人間とは何かという問題を分析するときの題材になる。   
 不条理は、筋道が通らないこと、道理に合わないことであり、道理は、正しい筋道、人の行うべき正しい道のことである。ムルソーは、不条理の光に照らしても、その光の及ばない固有の曖昧さを保っているとし、不条理に関しては、それに抗している。現実で具体的なもの、現在の欲望だけが重要であり、人間は無意味な存在で、無償であるという命題こそが出発点で積極性を内に秘めたムルソーがそこにいる。そこで「異邦人」の購読脳を「不条理と現実」にする。   
 キリストの処刑同様にムルソーの呟きは、無実の罪によるものと作者は考えており、この作者とは、ムルソーが法廷で視線を交わした一人の新聞記者(J’ai rencontré le regard du journaliste à la veste grise)である。
 ママンの死(maman est morte)とかアラビア人を殺す(J’avais abattu L’Arabe comme je le projetais)といった生死に関わるような体験は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の発症にもつながる。日本成人病予防協会(2014)によると、発症する要因には過去に精神疾患があったり、トラウマ(心の傷)があったり、身体的な消耗とか物事を深刻に受け止める傾向が強いかどうかが重要因子になる。二つの事件は、記憶に残りトラウマとなって何度も思い出すが、ムルソーの症状は、特別強いわけではない。第二次世界大戦中のフランスやスペインそして北アフリカには、こうした精神疾患の持ち主が多くいた。
 不安障害は、ストレスが原因で不安や心配が生じそれが解消できないと心身に様々な症状が出る。長い準備期間の後、症状発現のきっかけになる結実因子があって神経症が発症する。ムルソーの場合、几帳面で積極性を秘めた性格(un caractère taciturne et renfermé)、生死にまつわる環境(circonstances entourant le décès)、それに適応する能力(capacité d’adaptation)から生まれる結実因子をどこかで調節している。それは、不条理に抗する力があるためである。世界が不条理であることを発見した。裁判長がフラン人民の名において広場で斬首刑を受けるといったにもかかわらず。(Le président m’a dit dans une forme bizarre que j’aurais la tete tranchée sur une place publique au nom du peuple francais.)
 そこで執筆脳は、「秘めた積極性と抗力」にする。ムルソーは、嘘をつくことを拒絶する。(refus de mentir)存在し感じることのできる真理が好きだからである。積極性を内に秘めていればこそできる技である。作品そのものは、不条理に関し、それに抗して作られている。白井(2016)の仮説、法廷でムルソーと視線を交わした新聞記者とは、カミュの分身であろう。そこで、シナジーのメタファーは、「カミュと不条理に対する抵抗」にする。キリストの処刑同様にムルソーの呟きは、無実の罪によるものと作者は考えている。

花村嘉英(2020)「カミュの『異邦人』の執筆脳について」より

カミュの「異邦人」で執筆脳を考える−不安障害1

1 先行研究
 
 文学分析は、通常、読者による購読脳が問題になる。一方、シナジーのメタファーは、作家の執筆脳を研究するためのマクロに通じる分析方法である。基本のパターンは、まず縦が購読脳で横が執筆脳になるLのイメージを作り、次に、各場面をLに読みながらデータベースを作成し、全体を組の集合体にする。そして最後に、双方の脳の活動をマージするために、脳内の信号のパスを探す、若しくは、脳のエリアの機能を探す。これがミクロとマクロの中間にあるメゾのデータとなり、狭義の意味でシナジーのメタファーが作られる。この段階では、副専攻を増やすことが重要である。 
 執筆脳は、作者が自身で書いているという事実及び作者がメインで伝えようと思っていることに対する定番の読み及びそれに対する共生の読みと定義する。そのため、この小論では、トーマス・マン(1875−1955)、魯迅(1881−1936)、森鴎外(1862−1922)の私の著作を先行研究にする。また、これらの著作の中では、それぞれの作家の執筆脳として文体を取り上げ、とりわけ問題解決の場面を分析の対象にしている。さらに、マクロの分析について地球規模とフォーマットのシフトを意識してナディン・ゴーディマ(1923−2014)を加えると、“The Late Bourgeois World”執筆時の脳の活動が意欲と組になることを先行研究に入れておく。 
 筆者の持ち場が言語学のため、購読脳の分析の際に、何かしらの言語分析を試みている。例えば、トーマス・マンには構文分析があり、魯迅にはことばの比較がある。そのため、全集の分析に拘る文学の研究者とは、分析のストーリーに違いがある。文学の研究者であれば、全集の中から一つだけシナジーのメタファーのために作品を選び、その理由を述べればよい。なおLのストーリーについては、人文と理系が交差するため、機械翻訳などで文体の違いを調節するトレーニングが推奨される。
 なお、メゾのデータを束ねて何やら予測が立てば、言語分析や翻訳そして資格に基づくミクロと医学も含めたリスクや観察の社会論からなるマクロとを合わせて、広義の意味でシナジーのメタファーが作られる。

花村嘉英(2020)「カミュの『異邦人』の執筆脳について」より

クッツェーの『Age of Iron(鉄の時代)』の執筆脳について9

4 まとめ

 クッツェーの執筆時の脳の活動を調べるために、まず受容と共生からなるLのストーリーを文献により組み立てた。次に、「鉄の時代」のLのストーリーをデータベース化し、最後に文献で留めたところを実験で確認した。そのため、テキスト共生によるシナジーのメタファーについては、一応の研究成果が得られている。
 この種の実験をおよそ100人の作家で試みている。その際、日本人と外国人60人対40人、男女比4対1、ノーベル賞作家30人を目安に対照言語が独日であることから非英語の比較を意識してできるだけ日本語以外で英語が突出しないように心掛けている。

参考文献

花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默−ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方−トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日語教学研究会上海分会論文集 2018  
花村嘉英 川端康成の「雪国」に見る執筆脳について-「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日語教学研究会上海分会論文集 2019
花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する−危機管理者としての作家について 中国日語教学研究会上海分会論文集 2020
ウィキペディア J.M. クッツェー
John Maxwell Coetzee Age of Iron Penguin books 2018
Age of Iron(J.M.Coetzee) Wikipedia 

クッツェーの『Age of Iron(鉄の時代)』の執筆脳について8

表3 情報の認知

A 表2と同じ。 情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2
B 表2と同じ。 情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2
C 表2と同じ。 情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 1
D 表2と同じ。 情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 1
E 表2と同じ。 情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2

A 情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。
B 情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。
C 情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2はA新情報、情報の認知3は@計画から問題解決へである。
D 情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2はA新情報、情報の認知3は@計画から問題解決へである。
E 情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。   

結果     
 この場面でカレンは、不名誉の蓄積からガンが発現したといっている。自己嫌悪から体が有害になり、体自体が食べ物を受けつけなくなるも、ヴァーキュールとの精神的な交わりが支えとなるため、購読脳の「末期がんと精神的な愛」からクッツェーの立場「白人リベラルと精神の葛藤」という執筆脳の組を引き出すことができる。 

花村嘉英(2020)「クッツェーの『Age of Iron(鉄の時代)』の執筆脳について」より

クッツェーの『Age of Iron(鉄の時代)』の執筆脳について7

【連想分析2】

情報の認知1(感覚情報)  
 感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。このプロセルのカラムの特徴は、@ベースとプロファイル、Aグループ化、Bその他の条件である。
 
情報の認知2(記憶と学習)  
 外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。未知の情報は、またカテゴリー化される。このプロセスは、経験を通した学習になる。このプロセルのカラムの特徴は、@旧情報、A新情報である。

情報の認知3(計画、問題解決、推論)  
 受け取った情報は、計画を立てるプロセスでも役に立つ。その際、目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。しかし、獲得した情報が完全でない場合は、推論が必要になる。このプロセルのカラムの特徴は、@計画から問題解決へ、A問題未解決から推論へである。

花村嘉英(2020)「クッツェーの『Age of Iron(鉄の時代)』の執筆脳について」より

クッツェーの『Age of Iron(鉄の時代)』の執筆脳について6

分析例

1 カレンがガンを認める場面。   
2 この小論では、「鉄の時代」の執筆脳を「白人リベラルと精神の葛藤」と考えているため、意味3の思考の流れ、精神の葛藤に注目する。  
3 意味1@視覚A聴覚B味覚C嗅覚D触覚 、意味2 @喜A怒B哀C楽、意味3 精神の葛藤@ありAなし、意味4振舞い @直示A隠喩B記事なし
4 人工知能 @白人リベラル、A精神の葛藤 
 
テキスト共生の公式   
 
ステップ1 意味1、2、3、4を合わせて解析の組「末期がんと精神的な愛」を作る。
ステップ2 野蛮と人種差別の時代がやがて終わることを強調しているため、「白人リベラルと精神の葛藤」という組を作り、解析の組と合わせる。

A @視覚+B哀+@あり+@直示という解析の組を、@白人リベラル+A精神の葛藤という組と合わせる。
B @視覚+B哀+@あり+@直示という解析の組を、@白人リベラル+A精神の葛藤という組と合わせる。
C @視覚+A怒+@あり+@直示という解析の組を、@白人リベラル+A精神の葛藤という組と合わせる。 
D @視覚+B哀+@あり+@直示という解析の組を、@白人リベラル+A精神の葛藤という組と合わせる。
E @視覚+B哀+@あり+@直示という解析の組を、@白人リベラル+A精神の葛藤という組と合わせる。   
結果  表2については、テキスト共生の公式が適用される。

花村嘉英(2020)「クッツェーの『Age of Iron(鉄の時代)』の執筆脳について」より

クッツェーの『Age of Iron(鉄の時代)』の執筆脳について5

【連想分析1】

表2 受容と共生のイメージ合わせ

A "You know I am sick. Do you know what is wrong with me? I have canser. I have canser from the accumulation of shame I endured in my life. That is how canser comes about: from self-loathing the body turns malignant and begins to eat away at itself. 意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能2

B "You say, 'What is the point of consuming yourself in shame and loathing? I don't want to listen to the story of how you feel, it is just another story, why don't you do something?' And when you say that, I say, 'Yes.' I say, 'Yes.' I say, 'Yes.' 意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能2

C "There is nothing I can reply but 'Yes' when you put that question to me. But let me tell you what it is like to utter that 'Yes.' It is like being on trial for your life and being allowed only two words. Yes and No. Whenever you take a breath to speak out, you are warned by the judges: 'Yes or No: no speeches'.
意味1 1、意味2 2、意味3 1、意味4 1、人工知能1

D 'Yes,' you say. Yet all the time you feel other words stirring inside you like life in the womb. Not like a child kocking, not yet, but like the very beginnings, like the deepdown stirring of knowledge a woman has when she is pregnant.
"There is not only death inside me. There is life too. The death is strong, the life is weak. But my duty is to the life. I must keep it alive. I must. 意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能2

E "You do not believe in words. You think only blows are real, blows and bullets. But listen to me: can't you hear that the words I speak are real? Listen! They may only be air but they come from my heart, from my womb. They are not Yes, they are not No. What is living inside me is something else, another word. And I am fighting for it, in my manner, fighting for it not to be stifled. 
意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能2

花村嘉英(2020)「クッツェーの『Age of Iron(鉄の時代)』の執筆脳について」より

クッツェーの『Age of Iron(鉄の時代)』の執筆脳について4

3 データベースの作成・分析

 データベースの作成法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている。
 こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容は、それぞれの言語ごとに構文と意味を解析し、何かの組を作ればよい。しかし、共生は、作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。

【データベースの作成】

表1 「鉄の時代」のデータベースのカラム
項目名 内容  説明
文法1 態    能動、受動、使役。
文法2 時制、相  現在、過去、未来、進行形、完了形。
文法3 様相  可能、推量、義務、必然。
意味1 五感  視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
意味2 喜怒哀楽  情動との接点。瞬時の思い。
意味3 思考の流れ 精神の葛藤ありなし
意味4 振舞い  ジェスチャー、身振り。直示と隠喩を考える。
医学情報 病跡学との接点 受容と共生の共有点。購読脳「末期がんと精神的な愛」と病跡学でリンクを張るためにメディカル情報を入れる。
情報の認知1 感覚情報の捉え方 感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。例えば、ベースとプロファイルやグループ化または条件反射。
情報の認知2 記憶と学習 外部からの情報を既存の知識構造に組み込む。その際、未知の情報についてはカテゴリー化する。学習につながるため。記憶の型として、短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述)を考える。
情報の認知3 計画、問題解決、推論 受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。
人工知能 リベラルと精神の葛藤 エキスパートシステム リベラルは、白人自由主義者のこと。 精神の葛藤とは、精神内部でそれぞれ違った方向の力と力とが衝突している状態。

花村嘉英(2020)「クッツェーの『Age of Iron(鉄の時代)』の執筆脳について」より

クッツェーの『Age of Iron(鉄の時代)』の執筆脳について3

 フローレンスの子供ベッキの友人ジョンが大けがをする。皆が病院に見舞いに行くも、カレンとヴァーキュールは、車に残る。ヴァーキュールは、末期がんであることを娘に告げるように勧める。
 フローレンスのいとこタバネに会うため、カレンとフローレンスは、ググルトに行く。叫びや死体が渦巻く地域で、カレンは、発作を起こす。そこでベッキと黒人たちが口に砂を含み壁の横で寝ているのを見た。白人の社会で生きて来たカレンが知らない世界である。鉄がカレンやケープタウンの人々の粗雑で野蛮な生活を表現している。フローレンスも鉄に似ていて、子供たちもやはり鉄の子供たちである(P.50)。野蛮であることは、大部分のケープタウンの人々の気質である。すべての歴史の時代と同様に、野蛮と人種差別は、ある時終結することになる(P.68)。
 カレンは、自殺も考える。ヴァーキュールは、リキュールを買い、飲むように勧める。カレンは、拒絶するも、ベッキに尋ねながらジョンを探す。何かを隠している。次の日、警察がジョンを探しに来る。カレンが混乱する間、ジョンは射殺される。カレンは、通りをさ迷い歩く。ヴァーキュールは彼女を見つけ、木の中で共に休息する。カレンには激しい痛みが襲う。
 がんが進行しているため(P.155)、体が急速に衰え、悪夢にうなされる。ヴァーキュールは、繰り返し生命を絶つように勧める。二人は、ベッドを共にしはじめる。精神的な恋愛である。あるとても寒い日に彼女が起きた時、今日がその日かどうか尋ねる。ヴァーキュールは、ベッドに入り彼女を抱擁する(P.198)。人種の壁を越えて。カレンの最後の言葉は、もう温まることができないである。
 クッツェーは、この小説の中に重要なテーマを置いている。年を取る、死、英雄としての告白者、語りの表現、自由の意味、人の組合、親しい関係や南アフリカの白人リベラルの位置などである。 
 そこで、「鉄の時代」の購読脳は、「末期がんと精神的な愛」にし、野蛮と人種差別というアパルトヘイトの時代がやがて終わることを強調しているため、執筆脳は「白人リベラルと精神の葛藤」にする。「鉄の時代」のシナジーのメタファーは、「クッツェーと病気や社会がもたらす心の問題」である。
 

花村嘉英(2020)「クッツェーの『Age of Iron(鉄の時代)』の執筆脳について」より

クッツェーの『Age of Iron(鉄の時代)』の執筆脳について2

2 「Age of Iron」のLのストーリー

 ジョン・マックスウェル・クッツェー(1940−)は、アフリカーナ―の両親のもと南アフリカのケープタウンに生まれた。大学までケープタウンで過ごし、英文学と数学の学士号を取る。1961年にイギリスへ留学し、フォード・マドックス・フォードで修士論文を書く。その後、南アフリカに帰国するも、博士論文作成のためアメリカに渡り、テキサス大学でサミュエル・ベケットに関する言語学からの考察で博士号を取得する。
 「Age of Iron」(1990)は、元大学教授のカレンという女性とアパルトヘイトに反対し米国に移住した彼女の娘が交わす手紙という形で物語が進んでいく。カレンが書簡体の一人称のナレーターである。手紙の中で娘もさること、読者に直接呼びかける文体である。クッツェーの小説は、coming-age novelと解釈され、主役の成長に焦点を当てた一種の発展小説である。
 医者に末期がんを宣告されたカレンは、近くキャンプから出て来たホームレスのヴァーキュールという男と心が通う(P.131)。カレンには、フローレンスという子持ちの家政婦がいるにも関わらず、突然の体の痛みに彼が手を貸してくれたからである。カレンは、確かにフローレンスの息子が居合わせることが不快であった。
 フローレンスの子供ベッキの友人ジョンが大けがをする。皆が病院に見舞いに行くも、カレンとヴァーキュールは、車に残る。ヴァーキュールは、末期がんであることを娘に告げるように勧める。

花村嘉英(2020)「クッツェーの『Age of Iron(鉄の時代)』の執筆脳について」より

クッツェーの『Age of Iron(鉄の時代)』の執筆脳について1

1 先行研究

 文学分析は、通常、読者による購読脳が問題になる。一方、シナジーのメタファーは、作家の執筆脳を研究するためのマクロに通じる分析方法である。基本のパターンは、まず縦が購読脳で横が執筆脳になるLのイメージを作り、次に、各場面をLに読みながらデータベースを作成し、全体を組の集合体にする。そして最後に、双方の脳の活動をマージするために、脳内の信号のパスを探す、若しくは、脳のエリアの機能を探す。これがミクロとマクロの中間にあるメゾのデータとなり、狭義の意味でシナジーのメタファーが作られる。この段階では、副専攻を増やすことが重要である。 
 執筆脳は、作者が自身で書いているという事実及び作者がメインで伝えようと思っていることに対する定番の読み及びそれに対する共生の読みと定義する。そのため、この小論では、トーマス・マン(1875−1955)、魯迅(1881−1936)、森鴎外(1862−1922)の私の著作を先行研究にする。また、これらの著作の中では、それぞれの作家の執筆脳として文体を取り上げ、とりわけ問題解決の場面を分析の対象にしている。さらに、マクロの分析について地球規模とフォーマットのシフトを意識してナディン・ゴーディマ(1923−2014)を加えると、“The Late Bourgeois World”執筆時の脳の活動が意欲と組になることを先行研究に入れておく。 
 筆者の持ち場が言語学のため、購読脳の分析の際に、何かしらの言語分析を試みている。例えば、トーマス・マンには構文分析があり、魯迅にはことばの比較がある。そのため、全集の分析に拘る文学の研究者とは、分析のストーリーに違いがある。文学の研究者であれば、全集の中から一つだけシナジーのメタファーのために作品を選び、その理由を述べればよい。なおLのストーリーについては、人文と理系が交差するため、機械翻訳などで文体の違いを調節するトレーニングが推奨される。
 なお、メゾのデータを束ねて何やら予測が立てば、言語分析や翻訳そして資格に基づくミクロと医学も含めたリスクや観察の社会論からなるマクロとを合わせて、広義の意味でシナジーのメタファーが作られる。

花村嘉英(2020)「クッツェーの『Age of Iron(鉄の時代)』の執筆脳について」より

アブドゥル・グルナの“Memory of departure”(出発の記憶)で執筆脳を考える11

4 まとめ  
 
 グルナの執筆時の脳の活動を調べるために、まず受容と共生からなるLのストーリーを文献により組み立てた。次に、「出発の記憶」のLのストーリーをデータベース化し、最後に文献で留めたところを実験で確認した。そのため、テキスト共生によるシナジーのメタファーについては、一応の研究成果が得られている。  
 この種の実験をおよそ100人の作家で試みている。その際、日本人と外国人6対4、男女比4対1、ノーベル賞作家30人を目安に対照言語が独日であることから非英語の比較を意識してできるだけ日本語以外で英語が突出しないように心掛けている。

参考文献

花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默−ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方−トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日语教学研究会論文集 2018  
花村嘉英 川端康成の「雪国」に見る執筆脳について-「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日语教学研究会論文集 2019  
花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する−危機管理者としての作家について 中国日语教学研究会論文集 2020
花村嘉英 三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学へのアプローチを考える 中国日语教学研究会論文集 2021
花村嘉英 計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る V2ソリューション 2022
ウィキペディア アブドゥルラザク・グルナ
Abdulrazak Gurnah Memory of departure Bloomsbury 1987
Hunger(Doris Lessing) Wikipedia 

花村嘉英(2023)「アブドゥル・グルナの“Memory of departure”(出発の記憶)で執筆脳を考える」より

アブドゥル・グルナの“Memory of departure”(出発の記憶)で執筆脳を考える10

表3 情報の認知 
 
同上     情報の認知1  情報の認知2  情報の認知3 
A 表2と同じ。   3       2      2
B 表2と同じ。   3       1      2
C 表2と同じ。   3       1      2
D 表2と同じ。   3       1      2
E 表2と同じ。   3       1      2
 
A 情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。  
B 情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2は@旧情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。 
C 情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2は@旧情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。 
D 情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2は@旧情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。 
E 情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2は@旧情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。  
  
結果  
 伯父アーメドは、帰宅の遅かった娘を殴る。心配もあろうがサマルと私は欲求が満たされない。サマルの口からは出血が見られる。恐怖と驚きでよろめく娘。居間へ今すぐ移動しろ。そして私にも帰郷しろという。ナイロビでの希望は満たされることなく、抑圧のまま鉄道駅に行く。そのため、購読脳の「ポストコロニアルとフラストレーション」からグルナの執筆脳「向上心と脱出」という執筆脳の組を引き出すことができる。

花村嘉英(2023)「アブドゥル・グルナの“Memory of departure”(出発の記憶)で執筆脳を考える」より  

アブドゥル・グルナの“Memory of departure”(出発の記憶)で執筆脳を考える9

【連想分析2】 
 
情報の認知1(感覚情報)   
 感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。このプロセルのカラムの特徴は、@ベースとプロファイル、Aグループ化、Bその他の条件である。 
  
情報の認知2(記憶と学習)   
 外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。未知の情報は、またカテゴリー化される。このプロセスは、経験を通した学習になる。このプロセルのカラムの特徴は、@旧情報、A新情報である。 
 
情報の認知3(計画、問題解決、推論)   
 受け取った情報は、計画を立てるプロセスでも役に立つ。その際、目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。しかし、獲得した情報が完全でない場合は、推論が必要になる。このプロセルのカラムの特徴は、@計画から問題解決へ、A問題未解決から推論へである。 

花村嘉英(2023)「アブドゥル・グルナの“Memory of departure”(出発の記憶)で執筆脳を考える」より

アブドゥル・グルナの“Memory of departure”(出発の記憶)で執筆脳を考える8

分析例 
 
1 伯父アーメドが帰宅の遅い娘を殴る場面。    
2 この小論では、「出発の記憶」の購読脳を「ポストコロニアルとフラストレーション」と考えているため、意味3の思考の流れ、フラストレーションに注目する。  
3 意味1@視覚A聴覚B味覚C嗅覚D触覚 、意味2 @喜A怒B哀C楽、意味3抵抗@ありAなし、意味4振舞い @直示A隠喩B記事なし 
4 人工知能 @抵抗、A表明   
  
テキスト共生の公式   
  
ステップ1 意味1、2、3、4を合わせて解析の組「ポストコロニアルとフラストレーション」を作る。 
ステップ2 欲求が満たされないフラストレーション中で抑圧を感じているため、「向上心と脱出」という組を作り、解析の組と合わせる。 
 
A 「@視覚+D触覚」+A怒+@あり+@直示という解析の組を、@向上心+A脱出という組と合わせる。 
B D触覚+A怒+@あり+@直示という解析の組を、@向上心+A脱出という組と合わせる。 
C 「@視覚+D触覚」+A怒+@あり+@直示という解析の組を、@向上心+A脱出という組と合わせる。 
D @視覚+A怒+Aなし+@直示という解析の組を、@向上心+A脱出という組と合わせる。 
E @視覚+A怒+Aなし+@直示という解析の組を、@向上心+A脱出という組と合わせる。   
 
結果  表2については、テキスト共生の公式が適用される。 

花村嘉英(2023)「アブドゥル・グルナの“Memory of departure”(出発の記憶)で執筆脳を考える」より

アブドゥル・グルナの“Memory of departure”(出発の記憶)で執筆脳を考える7

【連想分析1】 

表2 受容と共生のイメージ合わせ 
 
伯父が帰宅が遅い娘を殴る場面

A He mentioned sharply for us to enter. As Salma walked past him, he cuffed her powerfully on the back of her head. She staggered forward then turned round to face him, her mouth open with shock and hurt.
意味1 1+5、意味2 2、意味3 1、意味4 1、人工知能 1

B Tears formed in her eyes. He stepped forward and slapped her across the face. She staggered again, crying out with pain. "How could you do this? After everything how could you do this?" he shouted.
意味1 5、意味2 2、意味3 1、意味4 1、人工知能 1

C He held his head and groaned. She shook her head, her eyes now streaming tears. "Daddy", she said, moving towards him. He looked up, then stepped forward to meet her and punched her full in the mouth. Her whole face leapt with surprise and fear. Blood spurted out of her mouth.
意味1 1+5、意味2 2、意味3 1、意味4 1、人工知能 1

D "Go to your room!" he screamed. "Go!" He turned away from the sight of her, rubbing his face with his hands to sipe away what he had seen. She stood where she was, sobbing while the blood ran from her mouth. He turned back to her. She clasped her hand over her mouth to silence the sobs. "Go!" he pleased.
意味1 1、意味2 2、意味3 1、意味4 1、人工知能 1

E He watched her hurry towards the living-room door, then turned to me. His face was vicious with hate. He raised a fist and shook it at me. He turned on his heels and walked to the living-room, calling over his shoulder, "Come". 意味1 1、意味2 2、意味3 1、意味4 1、人工知能 1

花村嘉英(2023)「アブドゥル・グルナの“Memory of departure”(出発の記憶)で執筆脳を考える」より

アブドゥル・グルナの“Memory of departure”(出発の記憶)で執筆脳を考える6

【データベースの作成】 
 
表1 「出発の記憶」のデータベースのカラム 

項目名  内容   説明 
文法1  態     能動、受動、使役。 
文法2  時制、相   現在、過去、未来、進行形、完了形。 
文法3  様相  可能、推量、義務、必然。 
意味1   五感  視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
意味2   喜怒哀楽   情動との接点。瞬時の思い。  
意味3   思考の流れ  抵抗ありなし 。
意味4  振舞い  ジェスチャー、身振り。直示と隠喩を考える。  
医学情報 病跡学との接点 受容と共生の共有点。購読脳「ポストコロニアルとフラストレーション」と病跡学でリンクを張るためにメディカル情報を入れる。 
情報の認知1  感覚情報の捉え方  感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。例えば、ベースとプロファイルやグループ化または条件反射。 
情報の 認知2  記憶と学習 外部からの情報を既存の知識構造に組み込む。その際、未知の情報についてはカテゴリー化する。学習につながるため。記憶の型として、短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述)を考える。 
情報の認知3 計画、問題解決、推論  受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。 
人工知能 向上心と脱出 エキスパートシステム  向上心は、上に向かって進もうとする気持ちのこと。脱出とは、抜け出すこと。

花村嘉英(2023)「アブドゥル・グルナの“Memory of departure”(出発の記憶)で執筆脳を考える」より

アブドゥル・グルナの“Memory of departure”(出発の記憶)で執筆脳を考える5

3 データベースの作成・分析

 データベースの作成方法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている。
 こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容は、それぞれの言語ごとに構文と意味の解析をし、何かの組を作ればよい。しかし、共生は、作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。

花村嘉英(2023)「アブドゥル・グルナの“Memory of departure”(出発の記憶)で執筆脳を考える」より

アブドゥル・グルナの“Memory of departure”(出発の記憶)で執筆脳を考える4

 サルマと映画を見て夜の8時か9時頃帰宅した。ブワナ・アーメドは、サルマのことを平手打ちした。(P.153)フラストレーション。心配もある。しかし、私のことをナメクジのように見る。最後には苛立ちが落ち着く。(P.154)出て行けという。荷物をトランクにしまう。サルマを叩く必要はない。(P.155)フラストレーション。
 夜になって鉄道の駅へ向かう。そこには列車を待つ人たちが群がっている。海岸へ向かう列車は夕方に出る。それまで仮眠する。(P.158)朝になって帰郷することを告げるため大学にマリアムを訪ねる。マリアムに事情を説明し再び駅に行く。列車が走り出すまでプラットフォームで見送りしてくれた。(P.161)エピソード記憶。
 エピソード記憶と短期記憶は、個人の意識が存在するレベルの記憶であり、意味記憶やプライミング記憶及び手続き記憶は、個人の意識が介在しない潜在記憶である。但し、エピソード記憶と意味記憶は、経験と時間によってどちらにも変わる可能性がある。
 ビ・ムブワを車に運ぶ。死の臭いがする。病棟には死を待つ長い列がある。ベッドを片付けて祖母を寝かせる。(P.175)リューマチである。リューマチは、アレルギーによっておこる関節や筋肉の疼痛性疾患である。レントゲン検査の手配もされず、翌日死亡した。棺はタクシーで家に運ばれた。二人いる姉妹の姉、サキアが手伝いに来た。早熟で下女を放棄し、12歳で学校での修業を終える。葬式後に共同墓地に埋葬される。(P.176)個人の意識が存在するエピソード記憶である。
 先生になるために、教育大学に行きたい。次の学期からスタートできる。(P.178)向上心と考えたい。未来も含めた個人の経験にまつわる出来事と関連するエピソード記憶と捉えたい。個人の意識が存在しているためである。
 「出発の記憶」は、個人の意識が存在するエピソード記憶が中心にあり、その背後に潜在意識のプライミング記憶や意味記憶が来る。そこで購読脳は「ポストコロニアルとフラストレーション」、執筆脳は「向上心と脱出」にする。シナジーのメタファーは、「グルナと向上心」である。 

花村嘉英(2023)「アブドゥル・グルナの“Memory of departure”(出発の記憶)で執筆脳を考える」より

アブドゥル・グルナの“Memory of departure”(出発の記憶)で執筆脳を考える3

 ナイロビの鉄道の駅は大きい。ブワナ・アーメド・ビン・カリファが昼食のために帰宅する。(P.102)昼食後、オマルは、皆が町へ行ったとき部屋に残り、実家にいたら何をしているか考え、両親のことや出発時の興奮した様子を思い出した。(P.106)個人の意識が存在するエピソード記憶である。
 記憶については動的な記憶の分析を考える。(花村2023)例えば、長期記憶は、頭で覚える陳述記憶と体で覚える非陳述記憶に分けられ、陳述記憶は、エピソード記憶と意味記憶に分けられる。エピソード記憶は、未来も含めた個人の経験にまつわる出来事と関連し、意味記憶は、一般的な知識と関連する。また、非陳述記憶のうち手続き記憶は、自転車の運転とかタイピングと関連する。 
 長期記憶の分類にプライミング記憶を加えることがある。プライミング記憶は、先行情報が後から与えられた情報に影響を及ぼす効果を持っている。しかし、無意識によりパターン化されるため、勘違いの原因になることもある。
 給仕係のアリは、30代の痩せた男。叔父の娘のサルマと食事やコーヒーのサービスをしてくれる。サルマは、高校を卒業し本屋で働いている。来年にはナイロビ大学に進学する予定である。(P.122)
 差別を感じるかどうか。(P.123)街ではアイスクリームが食べられる。サルマは、マリアムのためにスカーフを買う。ボフロと聞いて急に故郷の記憶が蘇る。エピソード記憶である。マリアムは、芸術史で博士論文を書いている友人。モーゼスの名は誰も知らない。(P.133)確かに海岸から来たものは金がある。しかし、ハッサンが勘違いしている。プライミング記憶。個人の意識が介在しない潜在記憶である。  
 アリが腕にけがしている。肘の骨が見えている。(P.136)フラストレーション。叔父は、中古車ビジネス、冷蔵庫店、肉屋の経営者である。(P.139)ビジネス仲間にモーゼスがいた。私とは久しぶりの感がある。彼は、大学関係ではなく一般のビジネスまたは裏取引に関わっている。(P.143)小さい子供は気が狂ってアラブ人に売られる。(P.151)ポストコロニアル。 

花村嘉英(2023)「アブドゥル・グルナの“Memory of departure”(出発の記憶)で執筆脳を考える」より

アブドゥル・グルナの“Memory of departure”(出発の記憶)で執筆脳を考える2

2 Lのストーリー

 「出発の記憶」(1987)の主人公ハッサン・オマルは、貧窮で苦しめられても勉強するという希望を捨てず裕福な叔父アーメドを頼りにタンザニアからナイロビへ出発する。ナイロビでは過去と未来が衝突し、恐怖やフラストレーション、優美と残虐が交じり合う。
 グルナ自身1948年にタンザニアのザンジバルで生まれた。裕福な家庭に育つも反政府クーデターにより亡命を余儀なくされ、英国に渡ることを決意する。海外の大学で学ぶための奨学金は出ない。挫折と絶望のため心が折れそうになるが、将来への希望は捨てきれない。グルナの作品は、東アフリカを舞台にした植民地主義の影響と難民が負う心の傷が描かれている。
 ポストコロニアルをここでは文明化と考える。小説の中では、海辺の町出身者は、洗練された教養のある人たちである。(P.117)ナイロビにいる叔父アーメドは、父が死んだときに店や仕事を売りすべてを管理している。そこで、私が金を必要とするならば、自分のところに来るようにと伝えた。(P.52)パスポートの申請のために出入国管理局に行った。(P.66)発行には3週間必要だった。フラストレーション。母がナイロビについて話してくれる。道にはスリや盗賊がいる。寒い日の衣類、叔父アーメドに会う方法など。(P.70)
 列車は、二等車両。駅まで父が見送りにくる。何もなしでは帰ってくるな。学位に拘れと父が激励する。ナイロビまでの旅が始まる。客室にはモーゼス・ムイニという青年がいた。(P.78)ナイロビでアフリカの芸術、文学、文化、歴史を学んでいる。(P.85)しかし、物を盗むのも悪気がなく無意識のまま行われる。個人の意識が介在しない潜在記憶である。列車は、数時間でナイロビに到着する。(P.88)ナイロビに着いたらタクシーで叔父のところへ行く。

花村嘉英(2023)「アブドゥル・グルナの“Memory of departure”(出発の記憶)で執筆脳を考える」より

アブドゥル・グルナの“Memory of departure”(出発の記憶)で執筆脳を考える1

1 先行研究

 文学分析は、通常、読者による購読脳が問題になる。一方、シナジーのメタファーは、作家の執筆脳を研究するためのマクロに通じる分析方法である。基本のパターンは、まず縦が購読脳で横が執筆脳になるLのイメージを作り、次に、各場面をLに読みながらデータベースを作成し、全体を組の集合体にする。そして最後に、双方の脳の活動をマージするために、脳内の信号のパスを探す、若しくは、脳のエリアの機能を探す。これがミクロとマクロの中間にあるメゾのデータとなり、狭義の意味でシナジーのメタファーが作られる。この段階では、副専攻を増やすことが重要である。 
 執筆脳は、作者が自身で書いているという事実及び作者がメインで伝えようと思っていることに対する定番の読み及びそれに対する共生の読みと定義する。そのため、この小論では、トーマス・マン(1875−1955)、魯迅(1881−1936)、森鴎外(1862−1922)の私の著作を先行研究にする。また、これらの著作の中では、それぞれの作家の執筆脳として文体を取り上げ、とりわけ問題解決の場面を分析の対象にしている。さらに、マクロの分析について地球規模とフォーマットのシフトを意識してナディン・ゴーディマ(1923−2014)を加えると、“The Late Bourgeois World”(ブルジョア世界の終わりに)執筆時の脳の活動が意欲と組になることを先行研究に入れておく。 
 筆者の持ち場が言語学のため、購読脳の分析の際に、何かしらの言語分析を試みている。例えば、トーマス・マンには構文分析があり、魯迅にはことばの比較がある。そのため、全集の分析に拘る文学の研究者とは、分析のストーリーに違いがある。文学の研究者であれば、全集の中から一つだけシナジーのメタファーのために作品を選び、その理由を述べればよい。なおLのストーリーについては、人文と理系が交差するため、機械翻訳などで文体の違いを調節するトレーニングが推奨される。
 なお、メゾのデータを束ねて何やら予測が立てば、言語分析や翻訳そして資格に基づくミクロと文理共生からなるクラウドからの社会学とを合わせて、広義の意味でシナジーのメタファーが作られる。
 この種の分析は、作者の執筆脳を予測するためのものである。ここでの分析が大きな人工知能の入力となり、AIの出力が作家の執筆脳と認識されれば、シナジーのメタファーが将来的にはサイエンスと呼ばれるようになっていく。

花村嘉英(2023)「アブドゥル・グルナの“Memory of departure”(出発の記憶)で執筆脳を考える」より

パール・バックの“The child who never grew”(母よ嘆くなかれ)で発達障害と執筆脳について考える12

5 まとめ

 バックの執筆時の脳の活動を調べるために、まず受容と共生からなるLのストーリーを文献から組み立てた。次に、「母よ嘆くなけれ」のLのストーリーをデータベース化し、最後に文献で留めたところを実験で確認した。そのため、テキスト共生によるシナジーのメタファーについては、一応の研究成果が得られている。
 この種の実験をおよそ100人の作家で試みがある。その際、日本人と外国人60人対40人、男女比4対1、ノーベル賞作家30人を目安に対照言語が独日であることから非英語の比較を意識してできるだけ日本語以外で英語が突出しないように心掛けている。 


参考文献

日本成人病予防協会監修 健康管理士一般指導員受験対策講座 テキスト3 ヘルスケア出版 2014 
花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?新風舎 2005
花村嘉英 森鴎外の「山椒大夫」のDB化とその分析 中国日语教学研究会江苏分会論文集 2015
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 川端康成の「雪国」から見えてくるシナジーのメタファーとは−「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日語教学研究会上海分会論文集 2018
花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する−危機管理者としての作家について 中国日語教学研究会上海分会論文集 2020
花村嘉英 三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学を考える 中国日語教学研究会上海分会論文集  2021
花村嘉英 計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る 
V2ソリューション2022
Pearl Buck The child who never grew A Memoir 1950
Pearl S. Buck Wikipedia

花村嘉英(2022)「パール・バックの“The child who never grew”(母よ嘆くなかれ)で発達障害と執筆脳について考える」より

パール・バックの“The child who never grew”(母よ嘆くなかれ)で発達障害と執筆脳について考える11

表3 情報の認知

同上 情報の認知1 情報の認知2 情報の認知3
A 表2と同じ。 2 2 1
B 表2と同じ。 3 2 1
C 表2と同じ。 3 2 1
D 表2と同じ。 3 2 1
E 表2と同じ。 3 2 2

A 情報の認知1はAグループ化、情報の認知2はA新情報、情報の認知3は@計画から問題解決へである。
B 情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2はA新情報、情報の認知3は@計画から問題解決へである。
C 情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2はA新情報、情報の認知3は@計画から問題解決へである。
D 情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2はA新情報、情報の認知3は@計画から問題解決へである。
E 情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。   

結果     
 この場面で母親は、学習時に娘が緊張していることに気がつく。右手に触ってみると汗をかいている。結局、何も学んでやしない。娘を発達障害から救済しようと考えているため、購読脳の「愛娘と知的障害」から作者の立場といえる「追求と救済」という執筆脳のを引き出すことができる。 

花村嘉英(2022)「パール・バックの“The child who never grew”(母よ嘆くなかれ)で発達障害と執筆脳について考える」より

パール・バックの“The child who never grew”(母よ嘆くなかれ)で発達障害と執筆脳について考える10

【連想分析2】

情報の認知1(感覚情報)  
 感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。このプロセルのカラムの特徴は、@ベースとプロファイル、Aグループ化、Bその他の条件である。
 
情報の認知2(記憶と学習)  
 外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。未知の情報は、またカテゴリー化される。このプロセスは、経験を通した学習になる。このプロセルのカラムの特徴は、@旧情報、A新情報である。

情報の認知3(計画、問題解決、推論)  
 受け取った情報は、計画を立てるプロセスでも役に立つ。その際、目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。しかし、獲得した情報が完全でない場合は、推論が必要になる。このプロセルのカラムの特徴は、@計画から問題解決へ、A問題未解決から推論へである。

花村嘉英(2022)「パール・バックの“The child who never grew”(母よ嘆くなかれ)で発達障害と執筆脳について考える」より

パール・バックの“The child who never grew”(母よ嘆くなかれ)で発達障害と執筆脳について考える9

分析例

1 母親が娘の緊張に気がつく場面。     
2 この小論では、「母よ嘆くなかれ」の執筆脳を「追求と救済」と考えているため、意味3の思考の流れ、追求に注目する。  
3 意味1@視覚A聴覚B味覚C嗅覚D触覚 、意味2 @喜A怒B哀C楽、意味3追求@ありAなし、意味4振舞い @直示A隠喩B記事なし
4 人工知能 @追求、A救済 
 
テキスト共生の公式   
 
ステップ1 意味1、2、3、4を合わせて解析の組「愛娘と知的障害」を作る。
ステップ2 母親が学習時の娘の緊張に気がつくため、「追求と救済」という組を作り、解析の組と合わせる。  

A @視覚+@喜+@あり+@直示という解析の組を、@追求+A救済という組と合わせる。
B D触覚+@喜+@あり+@直示という解析の組を、@追求+A救済という組と合わせる。
C D触覚+A怒+@あり+@直示という解析の組を、@追求+A救済という組と合わせる。 
D @視覚+B哀+@あり+@直示という解析の組を、@追求+A救済という組と合わせる。
E @視覚+B哀+@あり+@直示という解析の組を、@追求+A救済という組と合わせる。   

結果  表2については、テキスト共生の公式が適用される。

花村嘉英(2022)「パール・バックの“The child who never grew”(母よ嘆くなかれ)で発達障害と執筆脳について考える」より

パール・バックの“The child who never grew”(母よ嘆くなかれ)で発達障害と執筆脳について考える8

【連想分析1】

表2 受容と共生のイメージ合わせ

母親が娘の緊張に気がつく場面 人工知能
A The details of those months is unimportant now, but I will simply say that I found that the child could learn to read simple sentences, that she was able, with much effort, to write he name, and that she loved songs and was able to sing simple ones. 意味1 1、意味2 1、意味3 1、意味4 1、人工知能1
B What she was able to achieve was of no significance in itself. I think she might have been able to proceed further, but one day, when, pressing her always very gently but still steadily and perhaps in my anxiety rather relentlessly, I happened to take her little right hand to guide it in writing a word.意味1 5、意味2 1、意味3 1、意味4 1、人工知能1
C It was wet with perspiration. I took both her hands and opened them and saw they were wet. I realized then that the child was under intense strain, that she was trying her very best for my sake, submitting to something she did not in the least understand, with an angelic wish to please me. She was not really learning anything. 意味1 5、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能1
D It seemed my heart broke all over again. When I could control myself I got up and put away the books forever. Of what use was it to push this mind beyond where it could function? be She might after much effort be able to read a little, but she could never enjoy books. 意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能1
E She might learn to write her name, but she would never find in writing a means of communication. Music she could hear with joy, but she could not make it. Yet the child was human. She had a right to happiness, and her happiness was to be able to live where she could function. 意味1 5、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能2

花村嘉英(2022)「パール・バックの“The child who never grew”(母よ嘆くなかれ)で発達障害と執筆脳について考える」より

パール・バックの“The child who never grew”(母よ嘆くなかれ)で発達障害と執筆脳について考える7

【データベースの作成】

表1 「母よ嘆くなかれ」のデータベースのカラム

項目名 内容 説明
文法1 態 能動、受動、使役。
文法2 時制、相 現在、過去、未来、進行形、完了形。
文法3 様相 可能、推量、義務、必然。
意味1 五感 視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
意味2 喜怒哀楽 情動との接点。瞬時の思い。
意味3 思考の流れ 追求ありなし
意味4 振舞い ジェスチャー、身振り。直示と隠喩を考える。
医学情報 病跡学との接点 受容と共生の共有点。購読脳「愛娘と知的障害」と病跡学でリンクを張るためにメディカル情報を入れる。  
情報の認知1 感覚情報の捉え方 感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。例えば、ベースとプロファイルやグループ化または条件反射。
情報の認知2 記憶と学習 外部からの情報を既存の知識構造に組み込む。その際、未知の情報については、カテゴリー化する。学習につながるため。記憶の型として、短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述)を考える。
情報の認知3 計画、問題解決、推論 受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。
人工知能
追求と救済 エキスパートシステム 追求とは、後を追いかけて求めること。救済とは、救い助けること。

花村嘉英(2022)「パール・バックの“The child who never grew”(母よ嘆くなかれ)で発達障害と執筆脳について考える」より

パール・バックの“The child who never grew”(母よ嘆くなかれ)で発達障害と執筆脳について考える6

4 分析

 データベースの作成方法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている。
 こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容は、それぞれの言語ごとに構文と意味の解析をし、何かの組を作ればよい。しかし、共生は、作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。

花村嘉英(2022)「パール・バックの“The child who never grew”(母よ嘆くなかれ)で発達障害と執筆脳について考える」より

パール・バックの“The child who never grew”(母よ嘆くなかれ)で発達障害と執筆脳について考える5

 日本成人病予防協会(2014)によると、学習障害とは、知的発達の遅れはないが、利く、話す、読む、書く、計算するといった能力のうち特定のものの習得が困難な状態を指す。中枢神経に何らかの機能障害があるという。
 彼女にとって楽しい場所は彼女の家である。9歳まで娘と過ごし、彼女の最後の家を探した。(P45)一方、障害児の施設では責任者に問いただす。キャロルは、何も学ぶことができないと。しかし、できるという。一人でできなければ、誰かが助けるからである。但し、精神年齢は上がらない。(P53) 
しばらくして娘を施設に連れて行った。成長するためである。彼女は私に縋るも、別離のときである。無論、ときどき会いに来るし、娘も戻ってこられる。 
 子供たちは、楽しそうである。幸せな子供たちで、苦痛を知らない。まずは幸せがあり、全てがそれについて来る。一月会わずに過ごす。手紙も書けないのは、残虐行為のようである。しかし、婦長はいう。彼女は、学んでいるときが幸せだと。(P57) 
 娘は、私に我慢を教えてくれた。はっきりといえないが、伝達するために別の方法がある。精神の発達障害は、他の善良な性質で補うことができる。これは、社会性成熟度診断法により明らかになっている。(P63)回避できない悲しみと一緒に生活するときは、心地よさを見出す方法も学ぶことになる。 
 親の責任を問う。一つは、できるだけ施設を訪問し、子供を預かる人を見る。もう一つ、暮らしの雰囲気が有望であることが大切である。(P67)
 アメリカの知的障害の50%は、教育を通して社会の生産的なメンバーになれる。6歳未満の知能の成人が19種類の仕事を行い、全体の20%の仕事を非熟練労働者が担当している。教育こそが社会の組織を救済す一例である。(P72)
 脳への血液供給量が減少することにより精神薄弱の症状が現れる。手術による改善は、30%余りであり、警戒心、強い欲求、短気な性格が治ってくる。適切な教育や環境が整えば、半分以上の知的障害者が普通の社会で生活し、仕事をすることができる。悲劇の多くが不要だと認識してもよい。
 そこで“The child who never grew”の購読脳は「愛娘と知的障害」にし、執筆脳は「追求と救済」にする。双方を統合したシナジーのメタファーは、「パール・バックと愛娘の病跡」にする。 

花村嘉英(2022)「パール・バックの“The child who never grew”(母よ嘆くなかれ)で発達障害と執筆脳について考える」より

パール・バックの“The child who never grew”(母よ嘆くなかれ)で発達障害と執筆脳について考える4

 身体障害は、避けられない悲しみである。メンタルの成長がない子供たちに罪はない。中国では、何代もの家族が同じ屋根の下で暮らし、相互に責任を負っている。こうした家族の家は、無力の人を世話する場合に理想である。(P40)しかし、アメリカの施設には、大好きな母も中国人の看護婦もいない。 
 娘が母親から離れる前に一年かけてできる限り彼女の能力を試してみた。娘の将来に関し最善の選択をするためである。読んだり、書いたり、色を識別したりなど。確かに音楽が好きで、楽譜を学び、歌を歌った。(P41)
自閉症は、3歳ぐらいまでに現れ、中枢神経に何らかの機能不全があるとされる。キャロルの場合、言葉の発達が遅れている。会話が続かない、ことばのオウム返しが気になる。
 南京の暴動ため、外国人は中国を離れた。母と娘は、春になって日本の長崎に行った。小さな日本の木造の家で楽しい夏を過ごした。原始的な方法で家事をこなし、木炭の火鉢で米や魚を料理し、果物を食べた。娘とともに鉄道で日本を旅した。宿泊の際には、女中が世話をしてくれた。食事も風呂も寝具も用意してくれた。娘に対する違和感はない。彼女は受け入れられた。(P43)
 クリスマス前に中国の上海に戻った。娘は平易な文章を読むことができ、自分の名前を書き、歌が歌えた。しかし、彼女の両手が濡れているのに気づいた。強い緊張のためである。全然楽しくはない。本当は何も学んでいなかった。到達度は、かなり低く、学習障害の症状が見られる。緊張が強ければ、ストレスが強く心の病気になる。

花村嘉英(2022)「パール・バックの“The child who never grew”(母よ嘆くなかれ)で発達障害と執筆脳について考える」より

パール・バックの“The child who never grew”(母よ嘆くなかれ)で発達障害と執筆脳について考える3

3 作家パール・バック 

 瞳が綺麗な笑顔の可愛い赤ん坊であった。しかし、キャロルが3歳のときに、会話の習得に異常を感じ、小児科の専門医を訪ねた。医者は、子供の過去や病歴そして高熱、風邪について質問してきた。しかし、生まれてから身体の異常などはなく、健全であり、怪我もしたことがなかった。中国では、何かが悪いそれしかいえない。アメリカに連れて行けば、何が悪いのかを突き止めることができる。(The child who never grew P17)
日本成人病予防協会(2014)によると、子供の心の病気は、発達の過程が正常からずれた発達障害と生育や対人関係などに起因すると考えられる行動と情緒の障害がある。キャロルの場合、前者の症状が見て取れる。
 アメリカのミネソタ州にあるクリニックで検査を受ける。小児科の先生は、検査結果を見て、身体的な問題はないとした。彼女は、音楽に興味を示した。しかし、メンタル面の遅れについては、理由がわからない。(P22)話しは上手くなく、読み書きもできないであろう、と彼は指摘した。彼のいうことを受け入れながらも、母親として試案をつづけた。(P25)
発達障害は、自閉症、アスペルガー症候群、学習障害、注意欠陥・多動性障害といった脳機能の障害であり、その症状は、通常低年齢で現われる。
 キャロルは、確かに教会の音楽、特に讃美歌が好きである。ジャズは嫌いだが、クラシックは聞く。例えば、ベートーベンの第五交響曲に興味を示すも(P29)、趣味や関心は、特定のものに限られる。

花村嘉英(2022)「パール・バックの“The child who never grew”(母よ嘆くなかれ)で発達障害と執筆脳について考える」より

パール・バックの“The child who never grew”(母よ嘆くなかれ)で発達障害と執筆脳について考える2

2 人間パール・バック

 パール・バック(1892-1973)は、ウェスト・ヴァージニア州のヒルスボロで生まれ、生後4カ月で両親とともに中国の江蘇省の鎮江に渡った。そのため、英語と中国語は、堪能であった。その後、中国で過ごすも大学教育を受けるにあたり米国に帰国し、再び宣教師として中国に戻る。南京の大学で英文学を教えることになり、米国人宣教師のジョン・ロッシング・バックと結婚する。知的障害があるキャロルを授かる。1926年の南京事件の際は、長崎の雲仙に避難した。その様子は、「津波」に書かれている。その後、中国に戻り、本格的に作家として執筆活動に入った。   
 “The child who never grew”(1950)は、娘キャロルの回想であり、成長が止まってしまった我が子の病気の跡を辿るストーリーである。
 出産ができなくなり、六人の孤児を養子として育て、ウェルカムハウスという養子仲介機関を設立した。その後、米国、アジアを問わず、子供の教育のためにパール・バック財団を設立し、平和活動の支援もした。
1960年にテレビ映画「津波」の撮影のために来日したこともある。

花村嘉英(2022)「パール・バックの“The child who never grew”(母よ嘆くなかれ)で発達障害と執筆脳について考える」より

パール・バックの“The child who never grew”(母よ嘆くなかれ)で発達障害と執筆脳について考える1

1 先行研究

 文学分析は、通常、読者による購読脳が問題になる。一方、シナジーのメタファーは、作家の執筆脳を研究するためのマクロに通じる分析方法である。基本のパターンは、まず縦が購読脳で横が執筆脳になるLのイメージを作り、次に、各場面をLに読みながらデータベースを作成し、全体を組の集合体にする。そして最後に、双方の脳の活動をマージするために、脳内の信号のパスを探す、若しくは、脳のエリアの機能を探す。これがミクロとマクロの中間にあるメゾのデータとなり、狭義の意味でシナジーのメタファーが作られる。この段階では、副専攻を増やすことが重要である。 
 執筆脳は、作者が自身で書いているという事実及び作者がメインで伝えようと思っていることに対する定番の読み及びそれに対する共生の読みと定義する。そのため、この小論では、トーマス・マン(1875−1955)、魯迅(1881−1936)、森鴎外(1862−1922)に関する私の著作を先行研究にする。また、これらの著作の中では、それぞれの作家の執筆脳として文体を取り上げ、とりわけ問題解決の場面を分析の対象にしている。さらに、マクロの分析について地球規模とフォーマットのシフトを意識してナディン・ゴーディマ(1923−2014)を加えると、“The Late Bourgeois World”執筆時の脳の活動が意欲と組になることを先行研究に入れておく。 
 筆者の持ち場が言語学のため、購読脳の分析の際に、何かしらの言語分析を試みている。例えば、トーマス・マンには構文分析があり、魯迅にはことばの比較がある。そのため、全集の分析に拘る文学の研究者とは、分析のストーリーに違いがある。文学の研究者であれば、全集の中から一つだけシナジーのメタファーのために作品を選び、その理由を述べればよい。なおLのストーリーについては、人文と理系が交差するため、機械翻訳などで文体の違いを調節するトレーニングが推奨される。

花村嘉英(2022)「パール・バックの“The child who never grew”(母よ嘆くなかれ)で発達障害と執筆脳について考える」より

クロード・シモンのLe Tramway(路面電車)で執筆脳を考える9

5 まとめ

 シモンの執筆時の脳の活動を調べるために、まず受容と共生からなるLのストーリーを文献により組み立てた。次に、「路面電車」のLのストーリーをデータベース化し、最後に文献で留めたところを実験で確認した。そのため、テキスト共生によるシナジーのメタファーについては、一応の研究成果が得られている。
 この種の実験をおよそ100人の作家で試みている。その際、日本人と外国人60人対40人、男女比4対1、ノーベル賞作家30人を目安に対照言語が独日であることから非英語の比較を意識してできるだけ日本語以外で英語が突出しないように心掛けている。  

参考文献

花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?新風舎 2005
花村嘉英 森鴎外の「山椒大夫」のデータベース化とその分析 中国日语教学研究会江苏分会 2015
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 川端康成の「雪国」から見えてくるシナジーのメタファーとは−「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日语教学研究会上海分会 2018
花村嘉英 計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る V2ソリューション 2022
Claude Simon Le Tramway(平岡篤頼訳), Les Editions de minut, 2001
Claude Simon Wikipedia 

クロード・シモンのLe Tramway(路面電車)で執筆脳を考える8

表3 情報の認知

A 表2と同じ。 情報の認知1 1、情報の認知2 2、情報の認知3 2
B 表2と同じ。 情報の認知1 1、情報の認知2 2、情報の認知3 2
C 表2と同じ。 情報の認知1 2、情報の認知2 1、情報の認知3 2
D 表2と同じ。 情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 1
E 表2と同じ。 情報の認知1 3、情報の認知2 1、情報の認知3 2

A 情報の認知1は@ベースとプロファイル、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。
B 情報の認知1は@ベースとプロファイル、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。
C 情報の認知1はAグループ化、情報の認知2は@旧情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。
D 情報の認知1はAグループ化、情報の認知2はA新情報、情報の認知3は@計画から問題解決へである。
E 情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2は@旧情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。   

結果   
 この場面でシモンは、路面電車の長さや社内広告について語り、ペルピニャン市のあちこちで同じ広告を呆れるほど愉快に目にし、広告が時の経過で変色してしまい、封建君主ばりの土地のワイン業者が一切の規制から外れていることをつなげている。そのため、購読脳の「車窓から浮かぶ客観的な事実と時空の交錯」という組を作り、ヌーヴォー・ロマン作家シモンの特徴「回転とシーケンス」という執筆脳の組に引き渡すことができる。

花村嘉英(2022)「クロード・シモンのLe Tramway(路面電車)で執筆脳を考える」より

クロード・シモンのLe Tramway(路面電車)で執筆脳を考える7

【連想分析2】

情報の認知1(感覚情報)  
 感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。このプロセルのカラムの特徴は、@ベースとプロファイル、Aグループ化、Bその他の条件である。
 
情報の認知2(記憶と学習)  
 外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。未知の情報は、またカテゴリー化される。このプロセスは、経験を通した学習になる。このプロセルのカラムの特徴は、@旧情報、A新情報である。

情報の認知3(計画、問題解決、推論)  
 受け取った情報は、計画を立てるプロセスでも役に立つ。その際、目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。しかし、獲得した情報が完全でない場合は、推論が必要になる。このプロセルのカラムの特徴は、@計画から問題解決へ、A問題未解決から推論へである。

花村嘉英(2022)「クロード・シモンのLe Tramway(路面電車)で執筆脳を考える」より

クロード・シモンのLe Tramway(路面電車)で執筆脳を考える6

分析例

1 路面電車の駆動車について語る場面。   
2 この小論では、「路面電車」の執筆脳を「回転とシーケンス」と考えているため、意味3の思考の流れ、回転に注目する。   
3 意味1@視覚A聴覚B味覚C嗅覚D触覚 、意味2 @喜A怒B哀C楽、意味3関心@ありAなし、意味4振舞い @直示A隠喩B記事なし。    
4 人工知能 @回転、Aシーケンス。   
 
テキスト共生の公式   
 
ステップ1 意味1、2、3、4を合わせて解析の組「車窓から浮かぶ客観的な事実と時空の交錯」を作る。
ステップ2 ヌーヴォー・ロマンの作家の特徴から語りの様子を考慮して、「回転とシーケンス」という組を作り、解析の組と合わせる。

A @視覚+C楽+Aなし+@直示という解析の組を、@回転+Aシーケンスという組と合わせる。
B @視覚+C楽+Aなし+@直示という解析の組を、@回転+Aシーケンスという組と合わせる。
C @視覚+C楽+@あり+@直示という解析の組を、@回転+Aシーケンスという組と合わせる。 
D @視覚+C楽+Aなし+@直示という解析の組を、@回転+Aシーケンスという組と合わせる。
E @視覚+C楽+Aなし+@直示という解析の組を、@回転+Aシーケンスという組と合わせる。   

結果  表2については、テキスト共生の公式が適用される。

花村嘉英(2022)「クロード・シモンのLe Tramway(路面電車)で執筆脳を考える」より

クロード・シモンのLe Tramway(路面電車)で執筆脳を考える5

【連想分析1】

表2 受容と共生のイメージ合わせ
路面電車の駆動車の説明

A La motirice du tramway mesurait environ sept mètres de long, les parties avant ou arrière par lesquelles on y avait accès et où se trouvait, soit dans un sens soit dans l'autre, la cabine du wattman était faite de tôles d'acier et peinte en jaune, la partie médiane où s'asseyaient les voyageurs sur deux banquette de lattes verticales de bois verni, marron. 意味1 1、意味2 4、意味3 2、意味4 1、人工知能 2

B Au-dessis des bitres cpuraient ces deux longs panneaux publicitires qui l'encadraient comme deux oreilles, celui de gauche vantant les mérites du cirage (ou était-ce une marque de pâtes alimentaires? - je ne sais plus) Eclipse où, à l'une des extrémités, était effectivement figurée une lune au visage souriant cachant aux troix qurats la face d'un soleil pleurard, 意味1 1、意味2 4、意味3 2、意味4 1、人工知能 2

C publicitésque l'on pouvait pouvait voir par ailleurs peintes en divers endroits réservés en ville ou ailleurs, sans le lesquels elles s'étalaient, les plus fréquentes étant celles de <>, le nom SUZE en lettres monumentales jaunes au relief figuré en soir sur fond vert olive, ce qui, le temps et la patine aidant, atténuant l'éclat criard des couleurs primitives, s'accordait assez plaisamment dans une grisaille uniforme, 意味1 1、意味2 4、意味3 1、意味4 1、人工知能 1

D le nom SUZE en lettres monumentales jaunes au relief figuré en noir sur fond vert olive, ce qui, le temps et la patine aidant, atténuant l'éclat criard des couleurs primitives, s'accordait assez plaisamment dans une grisaille uniforme, et concurremment BYRRH, en lettres tout aussi monumentales mais blanches (et également en faux relief) sur fond rose; 意味1 1、意味2 4、意味3 2、意味4 1、人工知能 2

E publicités en quelque sorte sauvages, échappant à tout règlement (ou tolérées moyennant dessous de table - les fabricants de cet autre apéritif, acheteurs dans le pays d'énormes quantités de vin constituant une véritable puissance locale, quasi féodale), à la fois d'une agressivité et d'une amusante naÏveté (comme ces visages d'astres souriants ou pleurards), 意味1 1、意味2 4、意味3 2、意味4 1、人工知能 2

花村嘉英(2022)「クロード・シモンのLe Tramway(路面電車)で執筆脳を考える」より

クロード・シモンのLe Tramway(路面電車)で執筆脳を考える4

3 データベースの作成

 データベースの作成法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている。
 こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容はそれぞれの言語ごとに構文と意味の解析をし、何かの組を作ればよい。しかし、共生は作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。

【データベースの作成】

表1 「路面電車」のデータベースのカラム

文法1 態 能動、受動、使役。
文法2 時制、相  現在、過去、未来、進行形、完了形。
文法3 様相 可能、推量、義務、必然。
意味1 五感 視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
意味2 喜怒哀楽 情動との接点。瞬時の思い。
意味3 思考の流れ 客観描写ありなし。
意味4 振舞い ジェスチャー、身振り。直示と隠喩を考える。
医学情報 病跡学との接点 受容と共生の共有点。購読脳「海と戦う老人と海という好敵手」と病跡学でリンクを張るためにメディカル情報を入れる。  
情報の認知1 感覚情報の捉え方 感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。例えば、ベースとプロファイルやグループ化または条件反射。
情報の認知2 記憶と学習 外部からの情報を既存の知識構造に組み込む。その際、未知の情報については、カテゴリー化する。学習につながるため。記憶の型として、短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述)を考える。
情報の認知3 計画、問題解決、推論 受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。
人工知能 客観描写と調和 エキスパートシステム 客観描写とは、作家が主観を表さず観察したままを描くこと。調和とは、うまくつり合い全体が整っていること。

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クロード・シモンのLe Tramway(路面電車)で執筆脳を考える3

 シモンなりに、彼の書き方で自らを現代性の中に組み込むことで革命を目指した。その際の頭の使いようは、閉じた曲線を辿り同一点を繰り返し通過する動体の運動を伴った回転といえる。思考の線は、大きな主題の間を自在に逸脱し、小さな主題に立ち換える。
 「路面電車」の舞台は、マヨルカ王国の首都ペルピニャンである。クロード少年は、通学で路面電車を利用していた。書き出しは、路面電車の運転台の様子(Rester dans la cabine au lieu d’aller s’asseoir à l’intérieur sur les banquettes, semblait être une sirte de privilege non seulement pour mon esprit d’enfant)やそこから見える風景について延々と連なるシーケンスである。一人語りでは決してなく、設計図に基づいた饒舌体といえる。車窓の風景には病院や養老院が登場し(se rendait à l’hôspital ou l’hospice, ou maison de retraite)、80歳を過ぎて肺炎による高熱で病床で喘ぐ(Toujours, je suppose, par l’efffet de cet état fiévreux qui me donnait l’impression d’être enfermé)老いたシモンもそこにいる。何年もの年数の経過が対立カテゴリーの共存や移動とともに時を重ね、螺旋状の回転により連なる長い文章がシモンのダイナミズムである。
 文章の間を隙間なく埋めるがごとく、括弧書きの箇所が非常に多い。シモンが執筆中にふと思うことなのであろうか。様々な記憶を巡せるうちに浮かぶこともできるだけ詳述するように心掛けている。これもまたヌーヴォー・ロマンの作家たちに共通する特徴にしたい。
 そこで「路面電車」の購読脳は「車窓から浮かぶ客観的な事実と時空の交錯」、執筆脳は「回転とシーケンス」、そしてシナジーのメタファーは「クロード・シモンと記憶の時間」にする。

花村嘉英(2022)「クロード・シモンのLe Tramway(路面電車)で執筆脳を考える」より

クロード・シモンのLe Tramway(路面電車)で執筆脳を考える2

2 Lのストーリー

 クロード・シモン(1913-2005)の「路面電車」は、晩年に書かれた小説である。アフリカ南部の島国マダガスカルで生まれ、フランスの古都でワインの産地ペルピニャンで育つ。第一次世界大戦から第二次世界大戦の終わりまでは、四半世紀に渡り世界のどこかで戦いがあり、経済も混乱していた。シモンは、イギリスに留学し勉強するも竜騎兵として招集され、戦争に巻き込まれる。その後、脱走し、レジスタンス活動に参加する。
 1945年、処女作「ペテン師」を発表し、執筆活動に従事する。前衛的な小説群といわれる、ル・モンド誌の造語ヌーヴォー・ロマンの旗手として注目される。平岡(2003)によると、ヌーヴォー・ロマンは、小説を改革するための技巧上の工夫のみならず対象世界に立ち向かう態度の新たな浄化であり、対象世界を言語化以前の状態で言語化するという試みに挑戦する論理の模索である。一方、あまりに技巧に走り、小説を息苦しくした結果、小説の息の根を止めてしまうこともある。しかし、早く読める小説だけを小説と呼ぶぐらいならば、 ヌーヴォー・ロマンは、小説と呼ばれなくてもよい。
 また、ヌーヴォー・ロマンの作家たちは、ただ目に写る耳に聞こえるままの対象の姿や音を写生しながら、事物を繊細に描写する。例えば、路面電車(la mortice du tramway mesurait environ sept mètres de long, les patries avant ou arrière par lesquelles on y avait accès et se trouvait, soit dans un sens soit dans l’autre, la cabine du wattman était faite de tôles d’acier et peinte en jaune, la partie médiance de bois se faisant face était, à l’extérieu, recouverte de lattes verticales de bois verni, marron. P86)意識や心理を含めた対象世界を凝視し、細密化することから物語が分泌される。それからお決まりで唐突な場面転換が来る。
 例えば、シモンの場合、拡散的断章構成の実験がつきものである。シニフィアンとシニフィエの分離による逸脱で、志が画家であったこともあり、場面を彩る色彩の逸脱も画家の発想に近い。表象と意味で見ると、病人には大人g扱うことばの意味は理解できないとある。(un malade est tenu pour un mineur, sinon même un enfant, aux capacités mentales diminuées au point qu’il n’est plus capable de prendre des decisions ni même saisir le sens des mots employees par les adultes…p111)

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クロード・シモンのLe Tramway(路面電車)で執筆脳を考える1

1 はじめに

 文学分析は、通常、読者による購読脳が問題になる。一方、シナジーのメタファーは、作家の執筆脳を研究するためのマクロに通じる分析方法である。基本のパターンは、まず縦が購読脳で横が執筆脳になるLのイメージを作り、次に、各場面をLに読みながらデータベースを作成し、全体を組の集合体にする。そして最後に、双方の脳の活動をマージするために、脳内の信号のパスを探す、若しくは、脳のエリアの機能を探す。これがミクロとマクロの中間にあるメゾのデータとなり、狭義の意味でシナジーのメタファーが作られる。この段階では、副専攻を増やすことが重要である。 
 執筆脳は、作者が自身で書いているという事実及び作者がメインで伝えようと思っていることに対する定番の読み及びそれに対する共生の読みと定義する。そのため、この小論では、トーマス・マン(1875−1955)、魯迅(1881−1936)、森鴎外(1862−1922)に関する私の著作を先行研究にする。また、これらの著作の中では、それぞれの作家の執筆脳として文体を取り上げ、とりわけ問題解決の場面を分析の対象にしている。さらに、マクロの分析について地球規模とフォーマットのシフトを意識してナディン・ゴーディマ(1923−2014)を加えると、“The Late Bourgeois World”執筆時の脳の活動が意欲と組になることを先行研究に入れておく。 
 筆者の持ち場が言語学のため、購読脳の分析の際に、何かしらの言語分析を試みている。例えば、トーマス・マンには構文分析があり、魯迅にはことばの比較がある。そのため、全集の分析に拘る文学の研究者とは、分析のストーリーに違いがある。言語の研究者であれば、全集の中から一つだけシナジーのメタファーのために作品を選び、その理由を述べればよい。なおLのストーリーについては、人文と理系が交差するため、機械翻訳などで文体の違いを調節するトレーニングが推奨される。
 なお、メゾのデータを束ねて何やら予測が立てば、言語分析や翻訳そして資格に基づくミクロと医学も含めたリスクや観察の社会論からなるマクロとを合わせて、広義の意味でシナジーのメタファーが作られる。

花村嘉英(2022)「クロード・シモンのLe Tramway(路面電車)で執筆脳を考える」より

アーネスト・ヘミングウェイの”The old man and the sea”「老人と海」で執筆脳を考える9

4 まとめ

 ヘミングウェイの執筆時の脳の活動を調べるために、まず受容と共生からなるLのストーリーを文献から組み立てた。次に、「老人と海」のLのストーリーをデータベース化し、最後に文献で留めたところを実験で確認した。そのため、テキスト共生によるシナジーのメタファーについては、一応の研究成果が得られている。
 この種の実験をおよそ100人の作家で試みている。その際、日本人と外国人60人対40人、男女比4対1、ノーベル賞作家30人を目安に対照言語が独日であることから非英語の比較を意識してできるだけ日本語以外で英語が突出しないように心掛けている。 

参考文献

古平 隆 The old man and the sea その愛について 
日本成人病予防協会監修 健康管理士一般指導員受験対策講座 テキスト3 ヘルスケア出版 2014 
花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?新風舎 2005
花村嘉英 森鴎外の「山椒大夫」のDB化とその分析 中国日语教学研究会江苏分会 2015
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 川端康成の「雪国」から見えてくるシナジーのメタファーとは-「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日语教学研究会論文集 2018
花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する−危機管理者としての作家について 中国日语教学研究会論文集 2020
花村嘉英 三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学を考える 中国日语教学研究会論文集 2021
花村嘉英 計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る V2ソリューション 2022
Ernest Hemingway The old man and the sea arrow books 2004
Ernest Hemingway Wikipedia 
ウィキペディア 老人と海

アーネスト・ヘミングウェイの”The old man and the sea”「老人と海」で執筆脳を考える8

表3 情報の認知

A 表2と同じ。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2
B 表2と同じ。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 1
C 表2と同じ。 情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 1
D 表2と同じ。 情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 1
E 表2と同じ。 情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 1

A 情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。
B 情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2はA新情報、情報の認知3は@計画から問題解決へである。
C 情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2はA新情報、情報の認知3は@計画から問題解決へである。
D 情報の認知1はAグループ化、情報の認知2はA新情報、情報の認知3は@計画から問題解決へである。
E 情報の認知1はAグループ化、情報の認知2はA新情報、情報の認知3は@計画から問題解決へである。   

結果   
  
 この場面で老人は、サメの襲来である。老いて疲れていることもあり棍棒やオールで打って仕留めることはできない。しかし、できるだけ試みようと思っているため、購読脳の「海と戦う老人と海という好敵手」から作者の立場といえる「客観描写と調和」という執筆脳を引き出すことができる。 
 
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アーネスト・ヘミングウェイの”The old man and the sea”「老人と海」で執筆脳を考える7

【連想分析2】

情報の認知1(感覚情報)  
 感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。このプロセルのカラムの特徴は、@ベースとプロファイル、Aグループ化、Bその他の条件である。
 
情報の認知2(記憶と学習)  
 外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。未知の情報は、またカテゴリー化される。このプロセスは、経験を通した学習になる。このプロセルのカラムの特徴は、@旧情報、A新情報である。

情報の認知3(計画、問題解決、推論)  
 受け取った情報は、計画を立てるプロセスでも役に立つ。その際、目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。しかし、獲得した情報が完全でない場合は、推論が必要になる。このプロセルのカラムの特徴は、@計画から問題解決へ、A問題未解決から推論へである。

花村嘉英(2022)「アーネスト・ヘミングウェイの”The old man and the sea”「老人と海」で執筆脳を考える」より

アーネスト・ヘミングウェイの”The old man and the sea”「老人と海」で執筆脳を考える6

分析例

1 老人がガラーノの接近に気がつく場面。
2 この小論では、”The old man and the sea”の執筆脳を「客観描写と調和」と考えているため、意味3の思考の流れ、客観描写に注目する。  
3 意味1@視覚A聴覚B味覚C嗅覚D触覚 、意味2 @喜A怒B哀C楽、意味3客観描写@ありAなし、意味4振舞い @直示A隠喩B記事なし。  
4 人工知能 @客観描写、A調和。 
 
テキスト共生の公式   
 
ステップ1 意味1、2、3、4を合わせて解析の組「海と戦う老人と海という好敵手」を作る。
ステップ2 母親が学習時の娘の緊張に気がつくため、「客観描写と調和」という組を作り、解析の組と合わせる。  

A [@視覚+D触]+B哀+Aなし+@直示という解析の組を、@客観描写とA調和という組と合わせる。
B @視覚+B哀+@あり+@直示という解析の組を、@客観描写とA調和という組と合わせる。
C @視覚+B哀+@あり+@直示という解析の組を、@客観描写とA調和という組と合わせる。  
D @視覚+B哀+@あり+@直示という解析の組を、@客観描写とA調和という組と合わせる。
E @視覚+B哀+Aなし+@直示という解析の組を、@客観描写とA調和という組と合わせる。    

結果  表2については、テキスト共生の公式が適用される。

花村嘉英(2022)「アーネスト・ヘミングウェイの”The old man and the sea”「老人と海」で執筆脳を考える」より

アーネスト・ヘミングウェイの”The old man and the sea”「老人と海」で執筆脳を考える5

【連想分析1】

表2 受容と共生のイメージ合わせ

老人がガラーノの接近に気がつく場面。

A Now they have beaten me, he thought. I am too old to club sharks to death. But I will try it as long as I have the oars and the short club and the tiller. 意味1 1+5、意味2 3、意味3 2、意味4 1、人工知能 2

B He put his hands in the water again to soak them. It was getting late in the afternoon and he was nothing but the sea and the sky. There was more wind in the sky than there had been, and soon he hoped that he would see land. 意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能 1

C 'You're tired, old man,’ he sad. ’You're tired inside.’ The sharks did not hit him again until just before sunset.
意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能 1

D The old man saw the brown fins coming along the wide trail the fish must make in the water. They were not even quartering on the scent. They were headed straight for the skiff swimming side by side.
意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能 1

E He jammed the tiller, made the sheet fast and reached under the stern for the club. It was an oar handle from a broken oar sawed off to about two and a half feet in length. He could only use it effectively with one hand because of the grip of the handle and he took good hold of it with his right hand, flexing his hand on it, as he watched the sharks come. They were both galanos. 意味1 1、意味2 3、意味3 2、意味4 1、人工知能

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アーネスト・ヘミングウェイの”The old man and the sea”「老人と海」で執筆脳を考える4

【データベースの作成】

表1 ”The old man and the sea”のデータベースのカラム

文法1 態 能動、受動、使役。
文法2 時制、相  現在、過去、未来、進行形、完了形。
文法3 様相 可能、推量、義務、必然。
意味1 五感 視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
意味2 喜怒哀楽 情動との接点。瞬時の思い。
意味3 思考の流れ 客観描写ありなし。
意味4 振舞い ジェスチャー、身振り。直示と隠喩を考える。
医学情報 病跡学との接点 受容と共生の共有点。購読脳「海と戦う老人と海という好敵手」と病跡学でリンクを張るためにメディカル情報を入れる。  
情報の認知1 感覚情報の捉え方 感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。例えば、ベースとプロファイルやグループ化または条件反射。
情報の認知2 記憶と学習 外部からの情報を既存の知識構造に組み込む。その際、未知の情報については、カテゴリー化する。学習につながるため。記憶の型として、短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述)を考える。
情報の認知3 計画、問題解決、推論 受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。
人工知能 客観描写と調和 エキスパートシステム 客観描写とは、作家が主観を表さず観察したままを描くこと。調和とは、うまくつり合い全体が整っていること。

花村嘉英(2022)「アーネスト・ヘミングウェイの”The old man and the sea”「老人と海」で執筆脳を考える」より

アーネスト・ヘミングウェイの”The old man and the sea”「老人と海」で執筆脳を考える3

3 分析

 データベースの作成方法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている。
 こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容は、それぞれの言語ごとに構文と意味の解析をし、何かの組を作ればよい。しかし、共生は、作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。

花村嘉英(2022)「アーネスト・ヘミングウェイの”The old man and the sea”「老人と海」で執筆脳を考える」より

アーネスト・ヘミングウェイの”The old man and the sea”「老人と海」で執筆脳を考える2

2 Lのストーリー
 
 アーネスト・ヘミングウェイ(1899-1961)は、海を愛し生物を愛し偉大なる戦いを愛した作家である。彼の文体は、口語体の平易な英文であり20語前後の短文がandやbutでつながっていく。多様な形容詞は使わない。最後の作品「老人と海」は、傑作と評される。写実主義が持ち味で、そこにメンタルな要素が調和している。1952年「老人と海」を出版後、アフリカで二度の航空機事故に遭遇し、晩年はその後遺症により躁鬱による気分障害などの精神疾患があり、1961年7月散留弾で自殺した。
 「老人と海」の登場人物は、サンチャゴ老人とマノーリン少年、カジキ、サメ、トビウオ、ライオン、鳥といった魚や動物たちである。これらと対等にあるのは、空、雲、太陽、月、星といった宇宙の存在物である。海との戦いでは、海の生物の強さと美しさに圧倒されつつも、1500ポンドの重量があり長さが18フィートにも達する大魚(he was eighteen feet from nose to tail.)と戦ううちに親近感を覚え、自分を取り巻く存在物が友になる。 
 84日間魚が釣れず(he had gone eight-four days now without taking a fish.)、それでも諦めることなく大魚を一人で追いかける老人は、ヘミングウェイ分身ともいわれ、人間のあり方を教えてくれる。一人で舟に乗り沖に出て三日間に及ぶ大魚との戦いの後、まかじきの心臓から流れ出た大量の血が深海に潜むサメに察知される。帰港中二度も襲撃に見舞われる。最初はDentuso、二度目はGalanosである。デンツーソは、頭に銛を打ち込み退けたが、ガラーノは、銛もナイフも失くしたため、オールや棍棒のみで戦った。(I have the two oars and the tiller and the short club.)まかじきとの戦いに愛はある。しかし、サメとの戦いにはない。
 そして、老人は、骨だけになった大魚を持ち帰る。仕留めた獲物を無傷で持ち帰れなかったため負けてしまったというが、老人の仕事は漁村のメンバーに再評価され、少年に付き添われて満足して眠る。(he was still sleeping on his face and the boy was sitting by him watching him.)目的は達成された。
そこで購読脳は「海と戦う老人と海という好敵手」、執筆脳は「客観描写と調和」、シナジーのメタファーは「ヘミングウェイとストイシズム」にする。

花村嘉英(2022)「アーネスト・ヘミングウェイの”The old man and the sea”「老人と海」で執筆脳を考える」より

アーネスト・ヘミングウェイの”The old man and the sea”「老人と海」で執筆脳を考える1

1 先行研究

 文学分析は、通常、読者による購読脳が問題になる。一方、シナジーのメタファーは、作家の執筆脳を研究するためのマクロに通じる分析方法である。基本のパターンは、まず縦が購読脳で横が執筆脳になるLのイメージを作り、次に、各場面をLに読みながらデータベースを作成し、全体を組の集合体にする。そして最後に、双方の脳の活動をマージするために、脳内の信号のパスを探す、若しくは、脳のエリアの機能を探す。これがミクロとマクロの中間にあるメゾのデータとなり、狭義の意味でシナジーのメタファーが作られる。この段階では、副専攻を増やすことが重要である。 
 執筆脳は、作者が自身で書いているという事実及び作者がメインで伝えようと思っていることに対する定番の読み及びそれに対する共生の読みと定義する。そのため、この小論では、トーマス・マン(1875-1955)、魯迅(1881-1936)、森鴎外(1862-1922)の私の著作を先行研究にする。また、これらの著作の中では、それぞれの作家の執筆脳として文体を取り上げ、とりわけ問題解決の場面を分析の対象にしている。さらに、マクロの分析について地球規模とフォーマットのシフトを意識してナディン・ゴーディマ(1923-2014)を加えると、“The Late Bourgeois World”執筆時の脳の活動が意欲と組になることを先行研究に入れておく。 
 筆者の持ち場が言語学のため、購読脳の分析の際に、何かしらの言語分析を試みている。例えば、トーマス・マンには構文分析があり、魯迅にはことばの比較がある。そのため、全集の分析に拘る文学の研究者とは、分析のストーリーに違いがある。文学の研究者であれば、全集の中から一つだけシナジーのメタファーのために作品を選び、その理由を述べればよい。なおLのストーリーについては、人文と理系が交差するため、機械翻訳などで文体の違いを調節するトレーニングが推奨される。

花村嘉英(2022)「アーネスト・ヘミングウェイの”The old man and the sea”「老人と海」で執筆脳を考える」より

アナトール・フランスのCrainquebille(クランクビーユ)で執筆脳を考える9

5 まとめ

 アナトール・フランスの執筆時の脳の活動を調べるために、まず受容と共生からなるLのストーリーを文献により組み立てた。次に、「クランクビーユ」のLのストーリーをデータベース化し、最後に文献で留めたところを実験で確認した。そのため、テキスト共生によるシナジーのメタファーについては、一応の研究成果が得られている。  
 この種の実験をおよそ100人の作家で試みている。その際、日本人と外国人60人対40人、男女比4対1、ノーベル賞作家30人を目安に対照言語が独日であることから非英語の比較を意識してできるだけ日本語以外で英語が突出しないように心掛けている。

参考文献

花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
花村嘉英 森鴎外の「山椒大夫」のDB化とその分析 中国日语教学研究会江苏分会 2015
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 川端康成の「雪国」から見えてくるシナジーのメタファーとは−「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日语教学研究会上海分会 2018
花村嘉英 計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る V2ソリューション 2022
Anator France Affaire Crainquebille(「クランクビーユ」山内義雄訳)Exporté de Wikisource 2014

花村嘉英(2022)「アナトール・フランスの『クランクビーユ』で執筆脳を考える」より

アナトール・フランスのCrainquebille(クランクビーユ)で執筆脳を考える8

表3 情報の認知

A 表2と同じ。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 1
B 表2と同じ。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 1
C 表2と同じ。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 1
D 表2と同じ。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 1
E 表2と同じ。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 1

A 情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2はA新情報、情報の認知3は@計画から問題解決へである。  
B 情報の認知1はAグループ化、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。
C 情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2はA新情報、情報の認知3は@計画から問題解決へである。
D 情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2はA新情報、情報の認知3は@計画から問題解決へである。
E 情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2はA新情報、情報の認知3は@計画から問題解決へである。   

結果  
  
 この場面でブリッシュ裁判長は、法の精神に浸透し、吾人であるマトラ巡査は過ちを犯すも、人間性を引いた警官第64号は過ちを犯すことがないとし、証言を受け入れた。そのため、購読脳の「現実と実体」からクランクビーユの置かれた立場「裁判と無謬性」という執筆脳の組を引き出すことができる。   

花村嘉英(2022)「アナトール・フランスの『クランクビーユ』で執筆脳を考える」より

アナトール・フランスのCrainquebille(クランクビーユ)で執筆脳を考える7

【連想分析2】

情報の認知1(感覚情報)  
 感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。このプロセルのカラムの特徴は、@ベースとプロファイル、Aグループ化、Bその他の条件である。
 
情報の認知2(記憶と学習)  
 外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。未知の情報は、またカテゴリー化される。このプロセスは、経験を通した学習になる。このプロセルのカラムの特徴は、@旧情報、A新情報である。

情報の認知3(計画、問題解決、推論)  
 受け取った情報は、計画を立てるプロセスでも役に立つ。その際、目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。しかし、獲得した情報が完全でない場合は、推論が必要になる。このプロセルのカラムの特徴は、@計画から問題解決へ、A問題未解決から推論へである。

花村嘉英(2022)「アナトール・フランスの『クランクビーユ』で執筆脳を考える」より

アナトール・フランスのCrainquebille(クランクビーユ)で執筆脳を考える6

分析例

1 裁判所に居合わせた男ジャン・レルミットがクランクビーユの裁判について解説する場面。  
2 この小論では、「クランクビーユ」の執筆脳を「裁判と無謬性」と考えているため、意味3の思考の流れ、無謬性に注目する。    
3 意味1@視覚A聴覚B味覚C嗅覚D触覚 、意味2 @喜A怒B哀C楽、意味3無謬性@ありAなし、意味4振舞い @直示A隠喩B記事なし。     
4 人工知能 @裁判、A無謬性。   
 
テキスト共生の公式   
 
ステップ1 意味1、2、3、4を合わせて解析の組「現実と実体」を作る。
ステップ2 法の精神として人のことばではなく常に正しくある剣を優先せよとしたため、「裁判と無謬性」という組を作り、解析の組と合わせる。    

A @視覚+C楽+@あり+@直示という解析の組を、@裁判+A無謬性という組と合わせる。
B @視覚+B哀+Aなし+@直示という解析の組を、@裁判+A無謬性という組と合わせる。
C @視覚+B哀+Aなし+@直示という解析の組を、@裁判+A無謬性という組と合わせる。 
D @視覚+C楽+@あり+@直示という解析の組を、@裁判+A無謬性という組と合わせる。
E @視覚+C楽+@あり+@直示という解析の組を、@裁判+A無謬性という組と合わせる。   

結果 表2については、テキスト共生の公式が適用される。

花村嘉英(2022)「アナトール・フランスの『クランクビーユ』で執筆脳を考える」より

アナトール・フランスのCrainquebille(クランクビーユ)で執筆脳を考える5

【連想分析1】

表2 受容と共生のイメージ合わせ
裁判について解説する場面

A Non pas que Matra (Bastien), né à Cinto-Monte (Corse), lui paraisse incapable d'erreur. Il n'a jamais pensé que Bastien Matra fût doué d'un grand esprit d'observation, ni qu'il appliquât à l'examen des faits une méthode mais l'agent 64. 意味1 1、意味2 4、意味3 1、意味4 1、人工知能1+1

B Un homme est faillible, pense-t-il. Pierre et Paul peuvent se tromper. Descartes et Gassendi, Leibnitz et Newton, Bichat et Claude Bernard ont pu se tromper. Nous nous trompons tous et àtout moment.
意味1 1、意味2 3、意味3 2、意味4 1、人工知能1+2

C Nos raison d'erreur sont innombrables. Les perceptions des sens et les jugements de l'esprit sont des sources d'illusion et des causes d'incertitude. Il ne faut pas se fier au témoignage d'un homme: Testis unus, testis nullus. 意味1 1、意味2 3、意味3 2、意味4 1、人工知能1+2

D Mais on peut avoir foi dans un muméro. Bastien Matra, de Cint-Monte, est faillible. Mais l'agent 64, abstraction faite de son humanité, ne se trompe pas. C'est une entité. Une entité n'a rien en elle de ce qui est dans les hommes et trouble, les corrompt, les abuse. 
意味1 1、意味2 4、意味3 1、意味4 1、人工知能1+1

E Elle est pure, inaltérable et sans mélange. Aussi le tribunal n'a-t-il point hésité à repousser le témoignage du docteur David Matthieu, qui n7est qu'un homme, pour admettre celui de l'agent 64, qui est une idée pure, et comme un rayon de Fieu descendu à la barre. 意味1 1、意味2 4、意味3 1、意味4 1、人工知能1+1

花村嘉英(2022)「アナトール・フランスの『クランクビーユ』で執筆脳を考える」より

アナトール・フランスのCrainquebille(クランクビーユ)で執筆脳を考える4

3 データベースの作成

 データベースの作成法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている。
 こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容はそれぞれの言語ごとに構文と意味の解析をし、何かの組を作ればよい。しかし、共生は作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。

【データベースの作成】

表1 「クランクビーユ」のデータベースのカラム
文法1 態  能動、受動、使役。
文法2 時制、相  現在、過去、未来、進行形、完了形。
文法3 様相  可能、推量、義務、必然。
意味1 五感  視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
意味2 喜怒哀楽  情動との接点。瞬時の思い。
意味3 思考の流れ 無謬性ありなし
意味4 振舞い  ジェスチャー、身振り。直示と隠喩を考える。
医学情報  病跡学との接点 受容と共生の共有点。購読脳「現実と実体」と病跡学でリンクを張るためにメディカル情報を入れる。  
情報の認知1 感覚情報の捉え方  感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。例えば、ベースとプロファイルやグループ化または条件反射。
情報の認知2 記憶と学習 外部からの情報を既存の知識構造に組み込む。その際、未知の情報についてはカテゴリー化する。学習につながるため。記憶の型として、短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述)を考える。
情報の認知3 計画、問題解決、推論 受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。
人工知能 裁判と無謬性 エキスパートシステム 裁判とは、物事を治め管理すること。無謬性とは、誤りを含まないこと。

花村嘉英(2022)「アナトール・フランスの『クランクビーユ』で執筆脳を考える」より

アナトール・フランスのCrainquebille(クランクビーユ)で執筆脳を考える3

 第64号の巡査の思い違いも巡査としての役割から調節され実証として採用された。つまり、吾人は過失を犯している、吾人の五官による感覚と精神による判断は、瞑想の源であり、不確かさの原因である。一個人の人間の証言は信じてはならない。しかし、番号こそ信用しうる。バスティアン・マトラは過失を犯しうる、しかし、人間性を引いた警官第64号は誤りを犯すことがない。(Bastien Matra est faillible. Mais L’agent 64, abstraction faite de son humanité, ne se trompe pas. C’est une entité.)
 刑務所を出たクランクビーユの生活は、何一つ変わっていなかった。以前に比べて居酒屋に出入りするようになったぐらいである。道行く人は、刑務所から出てきた男には関わりたくはない。ロール婦人も然りである。クランクビーユは、誰一人軽蔑はしていない。しかし、彼女にだけ我を忘れて三度も罵しってしまった。
皆がクランクビーユを疥癬患者扱いした。青物が売れなくなり根性がひがみ客の女たちを罵った。野卑な、付き合いの悪い、喧嘩っ早い男になってしまった。(Il devenait incongru, mauvais coucheur, mal embouché, fort en gueule.)飲酒の癖がついていた。しばしば朝の競り市にも間に合わなかった。堕落した自分に気づき、一心で激しくて強い気持ちを持っていた当時の生活は、過去のものとなった。
 とうとう一文無しになってしまった。夜遅い時刻に街に出た。巡査が一人ガス燈の灯影に立っていた。40歳位であろうか。近づいていき「犬め!」といってみた。巡査は、人が勤めをしているときにそんなことをいうもんじゃないという。(Quand un homme fait son devoir et qu’il endure bien des souffrances, on ne doit pas l’insulter par des paroles futiles.)クランクビーユは、雨の中を暗がりの中へ消えて行く。   
 山場は裁判の場面と考え、「クランクビーユ」の購読脳を「現実と実体」、執筆脳を「裁判と無謬性」とし、シナジーのメタファーは、「アナトール・フランスと裁き」にする。「クランクビーユ」は、アナトール・フランスが考える裁きに対する司法官の精神とその方向性とが融合した純度の高い小説である。

花村嘉英(2022)「アナトール・フランスの『クランクビーユ』で執筆脳を考える」より

アナトール・フランスのCrainquebille(クランクビーユ)で執筆脳を考える2

2 Lのストーリー

 アナトール・フランス(1844−1924)の「クランクビーユ」は、1901年に出版された。還暦を過ぎた老青物商人がパリの街を荷車に載せた野菜とともに練り歩く昔ながらの日常の話である。クランクビーユは、いつものように得意先の婦人らに声をかけては新鮮などこにも負けない野菜を売っていた。 
 十月に入りモンマルトルも秋めいてきた。些細な出来事があった。昼過ぎに靴屋のバイヤー婦人が老商人の車にやってきて葱を物色する。15スーでは高いから14スーにしてほしい。今店に行って金をとってくるから少し待つようにいう。しかし、第64号の巡査が現れ、クランクビーユに立ち止まらずに歩けと伝える。(C’est alors que l’argent 64 survint et dit à Crainquebille. Circulez!)
 法律を軽蔑しているわけではない。お代を待っているだけだと説明する。モンマルトル通りは、車の雑踏が頂点に達し、巡査は、混雑を緩和することしか頭になかった。靴屋の婦人はなかなか戻らず、別に反抗したわけではないが、警官を侮辱した違反者とでっち上げられ、クランクビーユは拘束された。(C’est sous cette forme que spontanément il recueillit et concréta dans son oreille les paroles du délinquant.)現場に居合わせた医者のマチュー博士が思い違いをしていると説明したにも関わらず。刑務所に連れていかれても野菜を積んだ自分の車の心配をしていたところへ弁護士が事情聴取に訪れた。  
 「犬め!」といったいわないで裁判が進行する。弁護士のルメルル先生は、第64号のマトラ巡査が過労もあり聴覚上の幻覚症状があったとか強執病で纏執発作にとらわれていた可能性もあり、一方でクランクビーユの発することばが犯罪の性質を有するかどうかも問題になるとした。結局ブリッシュ裁判長は、クランクビーユを15日間の拘留と50フランの罰金に処した。(M. le president Bourriche lut entre ses dents un jugement qui condamnait Jérôme Crainquebille à quinze jours de prison et cinquante France d’amende.)罰金は、すぐさま情けが出た。

花村嘉英(2022)「アナトール・フランスの『クランクビーユ』で執筆脳を考える」より

アナトール・フランスのCrainquebille(クランクビーユ)で執筆脳を考える1

1 はじめに

 文学分析は、通常、読者による購読脳が問題になる。一方、シナジーのメタファーは、作家の執筆脳を研究するためのマクロに通じる分析方法である。基本のパターンは、まず縦が購読脳で横が執筆脳になるLのイメージを作り、次に、各場面をLに読みながらデータベースを作成し、全体を組の集合体にする。そして最後に、双方の脳の活動をマージするために、脳内の信号のパスを探す、若しくは、脳のエリアの機能を探す。これがミクロとマクロの中間にあるメゾのデータとなり、狭義の意味でシナジーのメタファーが作られる。この段階では、副専攻を増やすことが重要である。 
 執筆脳は、作者が自身で書いているという事実及び作者がメインで伝えようと思っていることに対する定番の読み及びそれに対する共生の読みと定義する。そのため、この小論では、トーマス・マン(1875−1955)、魯迅(1881−1936)、森鴎外(1862−1922)に関する私の著作を先行研究にする。また、これらの著作の中では、それぞれの作家の執筆脳として文体を取り上げ、とりわけ問題解決の場面を分析の対象にしている。さらに、マクロの分析について地球規模とフォーマットのシフトを意識してナディン・ゴーディマ(1923−2014)を加えると、“The Late Bourgeois World”執筆時の脳の活動が意欲と組になることを先行研究に入れておく。 
 筆者の持ち場が言語学のため、購読脳の分析の際に、何かしらの言語分析を試みている。例えば、トーマス・マンには構文分析があり、魯迅にはことばの比較がある。そのため、全集の分析に拘る文学の研究者とは、分析のストーリーに違いがある。言語の研究者であれば、全集の中から一つだけシナジーのメタファーのために作品を選び、その理由を述べればよい。なおLのストーリーについては、人文と理系が交差するため、機械翻訳などで文体の違いを調節するトレーニングが推奨される。

花村嘉英(2022)「アナトール・フランスの『クランクビーユ』で執筆脳を考える」より

ジャン・ポール・サルトルの「嘔吐」で病跡学を考える10

5 まとめ

 サルトルの執筆時の脳の活動を調べるために、まず受容と共生からなるLのストーリーを文献により組み立てた。次に、「嘔吐」のLのストーリーをデータベース化し、最後に文献で留めたところを実験で確認した。そのため、テキスト共生によるシナジーのメタファーについては、一応の研究成果が得られている。
 この種の実験をおよそ100人の作家で試みている。その際、日本人と外国人60人対40人、男女比4対1、ノーベル賞作家30人を目安に対照言語が独日であることから非英語の比較を意識してできるだけ日本語以外で英語が突出しないように心掛けている。 

参考文献

片野善夫 ほすぴ181号 ヘルスケア出版 2021
花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る V2ソリューション 2022
Jean-Paul Sartre La nausée (「嘔吐」白井浩二訳)Gallimard 2006
Jean-Paul Sartre Wikipedia

花村嘉英(2022)「ジャン・ポール・サルトルの『嘔吐』で病跡学を考える」より

ジャン・ポール・サルトルの「嘔吐」で病跡学を考える9

表3 情報の認知

  同上   情報の認知1 情報の認知2 情報の認知3
A 表2と同じ。 2     2     2
B 表2と同じ。 2     2     2
C 表2と同じ。 3     2     1
D 表2と同じ。 3     2     2
E 表2と同じ。 3     2     2

A 情報の認知1はAグループ化、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。
B 情報の認知1はAグループ化、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。
C 情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2はA新情報、情報の認知3は@計画から問題解決へである。
D 情報の認知1はAグループ化、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。
E 情報の認知1はAグループ化、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。   

結果  
 この場面でサルトルは、 アニーと私の人生について語り、世界の実存が非常に醜いため、かえって家族で寛いでいる気分になる。吐きたい気分は、私の人生についての観念の下にある。サクソフォーンの調べに合わせて行き来しながら苦しむべきだと心で語るため、購読脳の「吐き気と実存」からサルトルの置かれた立場「自己への関心と執筆」という執筆脳の組を引き出すことができる。

花村嘉英(2022)「ジャン・ポール・サルトルの『嘔吐』で病跡学を考える」より

ジャン・ポール・サルトルの「嘔吐」で病跡学を考える8

【連想分析2】

情報の認知1(感覚情報)  
 感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。このプロセルのカラムの特徴は、@ベースとプロファイル、Aグループ化、Bその他の条件である。
 
情報の認知2(記憶と学習)  
 外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。未知の情報は、またカテゴリー化される。このプロセスは、経験を通した学習になる。このプロセルのカラムの特徴は、@旧情報、A新情報である。

情報の認知3(計画、問題解決、推論)  
 受け取った情報は、計画を立てるプロセスでも役に立つ。その際、目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。しかし、獲得した情報が完全でない場合は、推論が必要になる。このプロセルのカラムの特徴は、@計画から問題解決へ、A問題未解決から推論へである。

花村嘉英(2022)「ジャン・ポール・サルトルの『嘔吐』で病跡学を考える」より

ジャン・ポール・サルトルの「嘔吐」で病跡学を考える7

分析例

1 アニーと私の人生について語る場面。  
2 この小論では、「嘔吐」の執筆脳を「自己への関心と執筆」と考えているため、意味3の思考の流れ、関心に注目する。   
3 意味1@視覚A聴覚B味覚C嗅覚D触覚 、意味2 @喜A怒B哀C楽、意味3関心@ありAなし、意味4振舞い @直示A隠喩B記事なし
4 人工知能 @関心、A執筆   
 
テキスト共生の公式   
 
ステップ1 意味1、2、3、4を合わせて解析の組「吐き気と実存」を作る。
ステップ2 私の人生を語るため心の声を漏らすため、「自己への関心と執筆」という組を作り、解析の組と合わせる。  

A A聴覚+B哀+@あり+A隠喩という解析の組を、@追求+A救済という組と合わせる。
B @視覚+B哀+@あり+A隠喩という解析の組を、@追求+A救済という組と合わせる。
C @視覚+B哀+@あり+@直示という解析の組を、@追求+A救済という組と合わせる。 
D A聴覚+B哀+@あり+A隠喩という解析の組を、@追求+A救済という組と合わせる。
E A聴覚+C楽+@あり+A隠喩という解析の組を、@追求+A救済という組と合わせる。   

結果 表2については、テキスト共生の公式が適用される。

花村嘉英(2022)「ジャン・ポール・サルトルの『嘔吐』で病跡学を考える」より

ジャン・ポール・サルトルの「嘔吐」で病跡学を考える6

【連想分析1】
表2 受容と共生のイメージ合わせ

アニーと私の人生について語る場面

A Des pensée sur Anny, sur ma vie gâchée. Et puis, encore au-dessous, la Nausée, timide comme une aurore. Mais à ce moment-là, il n'y avait pas de musique, j'étaient morose et tranquille..意味1 2、意味2 3、意味3 1、意味4 2、人工知能 1
B Tous les ovjets qui m'entouraient étaient faits de la même matière que moi, d'une espèce de souffrance moche.意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 2、人工知能 1
C Le monde était si laid, hors de moi, si laids ces verres sales sur les tables, et les taches brunes sur la glace et le tablier decMadeleine et l'air aimable du gros amoureux de la patronne, si laide l'existence même du monde, que je me sentais à l'aise, en famille.意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能 1
D A présent, il y a ce chant de saxsophone. Et j'ai honte. Une glorieuse petite souffrance vient de naître, une souffrance modèle. Quatre notes de saxophone.意味1 2、意味2 3、意味3 1、意味4 2、人工知能 1
E Elles vont et viennent, elles ont l'air de dire: Eh bien, oui! (245) 意味1 2、意味2 4、意味3 1、意味4 2、意味5 2

花村嘉英(2022)「ジャン・ポール・サルトルの『嘔吐』で病跡学を考える」より

ジャン・ポール・サルトルの「嘔吐」で病跡学を考える5

4 分析

 データベースの作成法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている。
 こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容はそれぞれの言語ごとに構文と意味の解析をし、何かの組を作ればよい。しかし、共生は作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。

【データベースの作成】
表1 「嘔吐」のデータベースのカラム
文法1 態 能動、受動、使役。
文法2 時制、相 現在、過去、未来、進行形、完了形。
文法3 様相 可能、推量、義務、必然。
意味1 五感 視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
意味2 喜怒哀楽 情動との接点。瞬時の思い。
意味3 思考の流れ 関心ありなし
意味4 振舞い ジェスチャー、身振り。直示と隠喩を考える。
医学情報 病跡学との接点 受容と共生の共有点。購読脳「吐き気と実存」を共生にスライドさせるため、メディカル情報をここに置く。  
情報の認知1 感覚情報の捉え方 感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。例えば、ベースとプロファイルやグループ化または条件反射。
情報の認知2 記憶と学習 外部からの情報を既存の知識構造に組み込む。その際、未知の情報についてはカテゴリー化する。学習につながるため。記憶の型として、短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述)を考える。
情報の認知3 計画、問題解決、推論 受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。
人工知能
自己への関心と執筆 エキスパートシステム 関心とは、ある物に対し向けられている積極的な心構えまたは感情のこと。執筆とは、筆をとって書くこと。

花村嘉英(2022)「ジャン・ポール・サルトルの『嘔吐』で病跡学を考える」より

ジャン・ポール・サルトルの「嘔吐」で病跡学を考える4

 偶然性は、消去できる見せかけの仮象ではない。絶対的なものである。無償である。そのことを理解すると、気持ちがむかつき、吐き気をもようすことになる。
 もう少し、自分のことを語るのは止める。なんの役に立つのか。吐き気、恐怖、実存、これらのことはすべて自分の胸にしまっておく方がよい。
 最も強い強烈な恐怖や吐き気の際に、自分が救われることを期待していた。まだ若いし、やり直す十分な力がある。しかし、何をやり直すのであろうか。私は死に、一人で自由であり、けれどもこの自由は、死に似ている。
 今日、私の肉体は衰弱しているため、吐き気は耐えられない。しかし、病人でも、病気の意識を忘れてしまうほどの幸福で衰弱なときがある(Aujourd’hui mon corps est trop épuisé pour la supporter. Les maladies aussi ont d’heureuses faiblesses qui leur ôtent, quelques heures, la conscience de leur mal)。吐き気は、また戻ってくるとわかっていても、短い猶予を与えてくれた。
 また発作がおきるのではないかとか次はもっと激しい発作かもしれないといった不安が消えなくなる予期不安は、パニック障害でよく見られる症状である。
 ブーヴィルのエリアは、非常に静かで清らかである。ビクトル・ノワール通り、ガルヴァ二通りをよく散策した。吐き気もここを大目に見ている(emploierais-je ces derniers moments à faire une longue promenade dans Bouville, à revoir le boulevard Victor-Noir, l’avenue Galvani, la rue Tournebride? La Nausée l’avait épargné)。ペンを放さずに持っていれば、吐き気を遅らせることができる。頭に浮かぶことを書きながらそれをする。
 過度なストレスは、体に置く影響を及ぼすが、適度なストレスだとよい影響になることがある。ストレスを受けたときに、脳内にβエンドルフィンや副腎皮質刺激ホルモンが分泌され、集中力や注意力を高めてくれる。吐き気のありかは、台なしになった私の人生に関する観念の下にある。私の人生の上には、機械的な計算があった。吐き気は、曙のようにおどおどしている。
 そこで、サルトルの「嘔吐」の購読脳は「吐き気と実存」にし、執筆脳は「自己への関心と執筆」にする。シナジーのメタファーは、「サルトルと自覚存在」である。

花村嘉英(2022)「ジャン・ポール・サルトルの『嘔吐』で病跡学を考える」より

ジャン・ポール・サルトルの「嘔吐」で病跡学を考える3

3 作家サルトル

 La nauée「嘔吐」の中から吐きたいメンタルな気持ちを書き出していく。同時に心のありようである人間らしさは、脳の働きによるもので、脳内を動き回り心を左右する神経伝達物質についても説明する。心の状態を左右しているのは、神経伝達物質の種類と量である。
 あの男は、吐き気を待っている。胸がむかついた。吐き気がしたのかと思ったが、そうではない。1917年の冬は、捕虜でもあり、食べ物の事情が非常に悪く、病気になった。私は、病人である。
発作が起こる(Une belle crise)。確かに人間はすばらしい存在である。私の頭からつま先まで発作が全身を揺らす(ça me secoue du haut en bas)。一時間前に発作が起こることを知っていたが、認めたくはない(Il y a une heure que je la voyais venir, seulement, je ne voulais pas me l’avouer)。世界が実存することを知っている。吐きたいと思うことが頭を悩ます。
 ここでは、興奮性の神経伝達物質であるノルアドレナリンが分泌している。主な作用は、興奮、覚醒、恐怖、怒り、不安、集中力と関係している。パニック障害の特徴がある症状といえる。
 鉄道員の店で吐き気があり、公園でも別のものが、今日はとびきり強い吐き気があった。
 吐き気は、直ちに離れることはない。私は、吐き気に襲われることはない。吐き気は、病気でも咳込みでもなく、私自身となった。
 実存の鍵とは、吐き気の、つまり私自身の生活の鍵であり(j’avais trouvé la clef de l’Existence, la clef de mes Nausées, de ma propre vie)、これを発見すると、あらゆるものが不条理に行きつく(tout ce que j’ai pu saisir ensuite se ramène à cette absurdité fondamentale)。
 人間の観念は、視覚、嗅覚、味覚からはみ出ている(Ce noir-là, présence amorpha et veule, débordait, de loin, la vue, l’odorat et le gout)。異常な瞬間が来る。身動きもせず、凍りついていると、何か新しいものが現れる。吐き気を理解し、それに精通した。ことばにするのは容易であり、偶然性こそが大切である。実存とは必然でなく、単にそこにあることをいう。実存するものは、出現し、偶然の実存に任せるが、実存するものを演繹することはない。

花村嘉英(2022)「ジャン・ポール・サルトルの『嘔吐』で病跡学を考える」より

ジャン・ポール・サルトルの「嘔吐」で病跡学を考える2

2 人間サルトル

 ジャン・ポール・サルトル(1905−1980)は、幼少時に父親が死に、母方の祖父の下で育った。3歳で右目を失明し、強度の斜視になる。
 1933年から1934年までベルリンに留学し、気象学を学んだ。1935年、想像力の実験のため、友人の医師ラガシュによりフェネチルアミン系の幻覚剤メスカリンを注射してもらう。甲殻類が身体を這いまわる幻覚に襲われ、鬱症状が続いた。甲殻類は嫌いであった。ベルリンに留学し執筆を始めた「嘔吐」は、フランスに戻ってル・アーブルやパリで教鞭をとる傍ら、1938年に出版される。
 戦中戦後にフッサールの現象学やハイデッカーの存在論、そしてソビエトの諸外国への信仰を擁護する立場からマルクス主義に傾倒していく。そこには、カミュやポンティとの決別もあった。ソビエト寄りの共産党には加入せず、次第に反スターリン主義の毛沢東のグループを支持するようになる。
 その後、マルクス主義は、発見学として捉えられ、その中で個人の意識の縦は、精神分析学の成果を、社会の横の統合は、アメリカ社会学の成果を取り入れた。これにより、20世紀の知恵をまとめるべく構造的、歴史的人間学を基礎づけた。
 公的な賞に関してすべて辞退している。ノーベル賞は、辞退の書簡の到着が遅れたため、ノーベル文学賞決定後の辞退となる。1964年のことである。
 1973年、激しい発作に襲われる。右目の失明に加え、左目の眼底出血により両目を失明する。そのため、内妻のヴォ―ヴォワールとの対話を録音し、自力での執筆ができなくなったことを共同作業で補うとした。主体重視の実存主義からユダヤ教への思想の転換もあり、サガンと交流するようになった。
 1980年肺水腫で亡くなり、モンパルナス墓地に埋葬された。養女のエル・カイムらの編集により、死後、多数の著作が出版されている。

花村嘉英(2022)「ジャン・ポール・サルトルの『嘔吐』で病跡学を考える」より

ジャン・ポール・サルトルの「嘔吐」で病跡学を考える1

1 はじめに

 病跡学については、作家を一人の人間として見たときにいえる病気の症状や小説の中に描かれているメディカル情報が考察の対象になる。サルトルの場合、斜視で眼が不自由であった。1973年には左目の視力が健常時の半分もなくなり、読み書きができなくなる。ボケの症状が現れ、一日のうち3時間ぐらいしか正常でいられなくなった。半盲状態になると、エジプト人の秘書に本を読んでもらい、対話して過ごした。 
また、白井(2006)によると、サルトルは、30年以上にも渡り神経症を患っていたため、自身の実存を正当化するために文学を絶対視していた。しかし、飢餓状態に比べれば、芸術など一文の値打ちもないとする。
 原題のLa nauéeは、嘔吐物を意味せず、吐きたい気持ちを表す。そこで小説の中からメンタルな症状を覗いて見たい。「嘔吐」の中には、パリでの生活から見えてくる吐きたくなるような場面がいくつも現れる。吐き気をもようす場面を中心に病気の跡を辿り、人間サルトルの症状と合わせて病跡学の考察とする。
 政治への関心は、少なからず文学活動に影響を与えた。文学の政治参加は、小説により労働者階級を開放させることである。
 「嘔吐」執筆時は、自身を単独者と見なしており、社会の絆をよそに自分には社会におうものなどなく、社会の方も自身に手を出すことはないと考えていた。「嘔吐」ではブルジョワを下劣と批判したことが単独者としての文学からの帰結になった。つまり、サルトルが人生とは何かを真面目で真剣に追求した結果、小説「嘔吐」が生まれた。 

花村嘉英(2022)「ジャン・ポール・サルトルの『嘔吐』で病跡学を考える」より

クレジオの“Pawana”(クジラの失楽園)で執筆脳を考える8

5 まとめ

 クレジオの執筆時の脳の活動を調べるために、まず受容と共生からなるLのストーリーを文献により組み立てた。次に、「パワナ」のLのストーリーをデータベース化し、最後に文献で留めたところを実験で確認した。そのため、テキスト共生によるシナジーのメタファーについては、一応の研究成果が得られている。
 この種の実験をおよそ100人の作家で試みがある。その際、日本人と外国人60人対40人、男女比4対1、ノーベル賞作家30人を目安に対照言語が独日であることから非英語の比較を意識してできるだけ日本語以外で英語が突出しないように心掛けている。 


参考文献

花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?新風舎 2005
花村嘉英 森鴎外の「山椒大夫」のDB化とその分析 中国日语教学研究会江苏分会 2015
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 川端康成の「雪国」から見えてくるシナジーのメタファーとは−「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日语教学研究会上海分会 2018
花村嘉英 計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る V2ソリューション 2022
Jean-Marie Gustave Le Clézio Pawana(「クジラの楽園」菅野訳)Gallimard 1992
Le Clézio Wikipedia

花村嘉英(2022)「クレジオの“Pawana”(クジラの失楽園)で執筆脳を考える」より

クレジオの“Pawana”(クジラの失楽園)で執筆脳を考える7

表3 情報の認知

同上 情報の認知1 情報の認知2 情報の認知3
A 表2と同じ。 3 2 2
B 表2と同じ。 2 2 2
C 表2と同じ。 2 2 2
D 表2と同じ。 2 2 1
E 表2と同じ。 2 2 2

A 情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。
B 情報の認知1はAグループ化、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。
C 情報の認知1はAグループ化、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。
D 情報の認知1はAグループ化、情報の認知2はA新情報、情報の認知3は@計画から問題解決へである。
E 情報の認知1はAグループ化、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。   

結果  
  
 この場面でスカモン船長は、小説の中の現在にあたる1911年から過去の1856年1月について語り、過去と現在を揺れ動く意識が歴史の背景と結びついているため、クレジオは、歴史の犠牲者としてスカモン船長をこの場面に登場させた。そのため、購読脳の「捕鯨と現在過去の対比」からクレジオの置かれた立場「語りの効果と再生」という執筆脳の組を引き出すことができる。  

花村嘉英(2022)「クレジオの“Pawana”(クジラの失楽園)で執筆脳を考える」より

クレジオの“Pawana”(クジラの失楽園)で執筆脳を考える6

【連想分析2】

情報の認知1(感覚情報)  
 感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。このプロセルのカラムの特徴は、@ベースとプロファイル、Aグループ化、Bその他の条件である。
 
情報の認知2(記憶と学習)  
 外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。未知の情報は、またカテゴリー化される。このプロセスは、経験を通した学習になる。このプロセルのカラムの特徴は、@旧情報、A新情報である。

情報の認知3(計画、問題解決、推論)  
 受け取った情報は、計画を立てるプロセスでも役に立つ。その際、目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。しかし、獲得した情報が完全でない場合は、推論が必要になる。このプロセルのカラムの特徴は、@計画から問題解決へ、A問題未解決から推論へである。

花村嘉英(2022)「クレジオの“Pawana”(クジラの失楽園)で執筆脳を考える」より

クレジオの“Pawana”(クジラの失楽園)で執筆脳を考える5

分析例

1 スカモン船長が小説の現在1911年から過去の1856年1月について語る場面。  
2 この小論では、「パワナ」の執筆脳を「語りの効果と再生」と考えているため、意味3の思考の流れ、再生に注目する。   
3 意味1@視覚A聴覚B味覚C嗅覚D触覚 、意味2 @喜A怒B哀C楽、意味3関心@ありAなし、意味4振舞い @直示A隠喩B記事なし。    
4 人工知能 @語りの効果、A再生。   
 
テキスト共生の公式   
 
ステップ1 意味1、2、3、4を合わせて解析の組「捕鯨と現在過去の対比」を作る。
ステップ2 小説の現在1911年から過去の1856年1月について語るため、「語りの効果と再生」という組を作り、解析の組と合わせる。   

A @視覚+C楽+@あり+@直示という解析の組を、@語りの効果+A再生という組と合わせる。
B A聴覚+C楽+@あり+@直示という解析の組を、@語りの効果+A再生という組と合わせる。
C [@視覚+A聴覚] +C楽+@あり+@直示という解析の組を、@語りの効果+A再生という組と合わせる。 
D @視覚+C楽+@あり+@直示という解析の組を、@語りの効果+A再生という組と合わせる。
E [@視覚+D触覚]+B哀+@あり+@直示という解析の組を、@語りの効果+A再生という組と合わせる。   

結果  表2については、テキスト共生の公式が適用される。

花村嘉英(2022)「クレジオの“Pawana”(クジラの失楽園)で執筆脳を考える」より

クレジオの“Pawana”(クジラの失楽園)で執筆脳を考える4

【連想分析1】
表2 受容と共生のイメージ合わせ

スカモン船長が過去を語る場面
A Moi, Charles Melville Scammon, en cette année de 1911, approchant de mon terme, je me souviens de ce premier janvier de l'année 1856 quand le Léonore a quitté Punta Bunda, en route vers le sud. 意味1 1、意味2 4、意味3 1、意味4 1、人工知能 1
B Je n'ai voulu donner aucune vers explication à l'équipage, mais Thomas, mon quartier-maître, avait surpris une conversation avec le second capitaine, M.Roys, dans la salle des cartes. 意味1 2 、意味2 4、意味3 1、意味4 1、人工知能 2
C Nous parlions de ce passage secret, du refuge des baleines grises, là où les femelles venaient mettre au monde les petits. 意味1 1+2、意味2 4、意味3 1、意味4 1、人口知能 2
D M. Roys ne croyait guère à l'existence d'un tel refuge qui, selon ce qu'il disait, ne pouvait être né que dans l'imagination de ceux qui croyaient aux cinetières des éléphants ou au pays des Amazones. 意味1 1、意味2 4、意味3 1、意味14 1、人工知能 2
E Purtant, le bruit s'est répandu et une sorte de fièvre s'est emparée de tout l'équipage. C'était bien cela qu'on allait chercher au sud, ce refuge secret, cette cachette fabuleuse, où toutes les baleines du pô le étaient réunies. 意味1 1+5、意味2 3、意味3 1、意味1 1、人工知能 2

花村嘉英(2022)「クレジオの“Pawana”(クジラの失楽園)で執筆脳を考える」より

クレジオの“Pawana”(クジラの失楽園)で執筆脳を考える3

3 データベースの作成

 データベースの作成法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている。
 こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容はそれぞれの言語ごとに構文と意味の解析をし、何かの組を作ればよい。しかし、共生は作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。

【データベースの作成】

表1 「パワナ」のデータベースのカラム

項目名 内容  説明
文法1 態    能動、受動、使役。
文法2 時制、相 現在、過去、未来、進行形、完了形。
文法3 様相  可能、推量、義務、必然。
意味1 五感  視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
意味2 喜怒哀楽  情動との接点。瞬時の思い。
意味3 思考の流れ 関心ありなし
意味4 振舞い  ジェスチャー、身振り。直示と隠喩を考える。
医学情報 病跡学との接点 受容と共生の共有点。購読脳「捕鯨と現在過去の対比」と病跡学でリンクを張るためにメディカル情報を入れる。  
情報の認知1 感覚情報の捉え方 感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。例えば、ベースとプロファイルやグループ化または条件反射。
情報の認知2 記憶と学習 外部からの情報を既存の知識構造に組み込む。その際、未知の情報についてはカテゴリー化する。学習につながるため。記憶の型として、短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述)を考える。
情報の認知3 計画、問題解決、推論 受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。
人工知能
効果と再生 エキスパートシステム 効果とは、場面にふさわしい状況を人為的に作ること。再生とは、精神的に生まれ変わること。

花村嘉英(2022)「クレジオの“Pawana”(クジラの失楽園)で執筆脳を考える」より

クレジオの“Pawana”(クジラの失楽園)で執筆脳を考える2

2 Lのストーリー

 J.M.G.ル・クレシオ(1940−)の「パワナ」は、語りの効果を大切にしている。(菅野1995)クレシオの文体によるものでもあり、老人の独白に細工が加えられている。19世紀のアメリカの捕鯨産業全盛の時代につながるように、港の騒音について語り(je l’ai appris sur les quais de Nantucket, avec les cris des oiseaux dépeceurs, le bruit sourd de jaches)、捕鯨産業を湧きたたせた人間のエネルギーがイメージされるように、インディアンの船乗りが活躍している(En ce temps-là, tous les marins chasseurs de baleines étaient des Indiens de Nantucket)。個人の物語しか語らぬ語り手のジョン老人がかつて少年であったころ(c’est là que j’ai marché, quand j’avais huit ans)も含めて自分でも気づかぬうちに歴史上価値のある人物になっている。 
 ナンタケットの活況と表裏をなす残虐さが人間にはある。表層に現れない死の影を見ても盛況な時代は懐かしい過去である。現在と過去の対立は、「パワナ」の小説構造で重要である。双方の間を流れる郷愁の情愛は、確かに濃密である。クジラの楽園を破壊した苦渋の出来事もしばしば再生されて現在と交わり続ける(Je marche maintenant sur cette plage déserte, et je me souviens de ce que c’était)。
 回想の語り手はもう一人いる。スカモン船長である。船長の意識は、1856年のクジラの楽園の発見と破壊から物語の現在がある1911年の間をさまよい、歴史の背景と結びついている(approchant de mon terme, je me souviens de ce premier janiver de l’année)。1860年前後でアメリカの捕鯨産業は、石油開発やスチールの製造技術の進歩により衰退した。それまで灯油として使われた鯨油や服飾用だったクジラの髭は、時代遅れになっていく。現在と過去の対立は、歴史の背景と結びついていく。
 菅野(1995)によると、スカモン船長は、クレジオによる再生である。再生とは、精神的に生まれ変わることである。知覚したイメージを記憶して心で再現する人間の精神活動の一つ、表象に似ている。例えば、以前に経験した事象や学習した事柄を思い出すことは、脳が生み出す意識、感情、思考、判断のような精神活動の類である。 
 「パワナ」の購読脳は、「捕鯨と現在過去の対比」、執筆脳は、「語りの効果と再生」であり、シナジーのメタファーは、「クレジオと語りの効果」にする。「パワナ」は、クレジオの世界探索の欲求とのその方向性とが融合した純度の高い結晶である。

花村嘉英(2022)「クレジオの“Pawana”(クジラの失楽園)で執筆脳を考える」より

クレジオの“Pawana”(クジラの失楽園)で執筆脳を考える1

1 はじめに

 文学分析は、通常、読者による購読脳が問題になる。一方、シナジーのメタファーは、作家の執筆脳を研究するためのマクロに通じる分析方法である。基本のパターンは、まず縦が購読脳で横が執筆脳になるLのイメージを作り、次に、各場面をLに読みながらデータベースを作成し、全体を組の集合体にする。そして最後に、双方の脳の活動をマージするために、脳内の信号のパスを探す、若しくは、脳のエリアの機能を探す。これがミクロとマクロの中間にあるメゾのデータとなり、狭義の意味でシナジーのメタファーが作られる。この段階では、副専攻を増やすことが重要である。 
 執筆脳は、作者が自身で書いているという事実及び作者がメインで伝えようと思っていることに対する定番の読み及びそれに対する共生の読みと定義する。そのため、この小論では、トーマス・マン(1875−1955)、魯迅(1881−1936)、森鴎外(1862−1922)に関する私の著作を先行研究にする。また、これらの著作の中では、それぞれの作家の執筆脳として文体を取り上げ、とりわけ問題解決の場面を分析の対象にしている。さらに、マクロの分析について地球規模とフォーマットのシフトを意識してナディン・ゴーディマ(1923−2014)を加えると、“The Late Bourgeois World”執筆時の脳の活動が意欲と組になることを先行研究に入れておく。 
 筆者の持ち場が言語学のため、購読脳の分析の際に、何かしらの言語分析を試みている。例えば、トーマス・マンには構文分析があり、魯迅にはことばの比較がある。そのため、全集の分析に拘る文学の研究者とは、分析のストーリーに違いがある。言語の研究者であれば、全集の中から一つだけシナジーのメタファーのために作品を選び、その理由を述べればよい。なおLのストーリーについては、人文と理系が交差するため、機械翻訳などで文体の違いを調節するトレーニングが推奨される。

花村嘉英(2022)「クレジオの“Pawana”(クジラの失楽園)で執筆脳を考える」より

ドリス・レッシングの Hunger” 「飢え」で執筆脳を考える11

4 まとめ

 レッシングの執筆時の脳の活動を調べるために、まず受容と共生からなるLのストーリーを文献により組み立てた。次に、「飢え」のLのストーリーをデータベース化し、最後に文献で留めたところを実験で確認した。そのため、テキスト共生によるシナジーのメタファーについては、一応の研究成果が得られている。  
 この種の実験をおよそ100人の作家で試みがある。その際、日本人と外国人60人対40人、男女比4対1、ノーベル賞作家30人を目安に対照言語が独日であることから非英語の比較を意識してできるだけ日本語以外で英語が突出しないように心掛けている。 

参考文献

花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默−ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方−トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日語教学研究会上海分会論文集 2018  
花村嘉英 川端康成の「雪国」に見る執筆脳について-「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日語教学研究会上海分会論文集 2019
花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する−危機管理者としての作家について 中国日語教学研究会上海分会論文集 2020
花村嘉英 三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学を考える 中国日語教学研究会上海分会論文集 2021
花村嘉英 計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る V2ソリューション 2022
ウィキペディア ドリス・レッシング
Doris Lessing Hunger in collected African stories 2 Triad Grafton books 1979
Doris Lessing Wikipedia
Hunger(Doris Lessing)Wikipedia 

花村嘉英(2022)「ドリス・レッシングの Hunger” 「飢え」で執筆脳を考える」より

ドリス・レッシングの Hunger” 「飢え」で執筆脳を考える10

表3 情報の認知

A 表2と同じ。 情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 1
B 表2と同じ。 情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2
C 表2と同じ。 情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 1
D 表2と同じ。 情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2
E 表2と同じ。 情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2

結果 Tennent氏は、週に一度独房を訪れ、囚人と対話をする。人種差別から不幸な境遇にあるJabavuを気使いながら、Mizi氏の手紙を手渡す。罪を認めて正直にあれと。一人ではないアフリカ人私たち皆の思いである。Jabavuの飢えは、初めて拒絶されることなく、優しくWeの中に流れていく。そのため、購読脳の「犯罪と成長」からレッシングの執筆脳「抵抗と表明」という執筆脳の組を引き出すことができる。  

花村嘉英(2022)「ドリス・レッシングの Hunger” 「飢え」で執筆脳を考える」より

ドリス・レッシングの Hunger” 「飢え」で執筆脳を考える9

【連想分析2】

情報の認知1(感覚情報)  
 感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。このプロセルのカラムの特徴は、@ベースとプロファイル、Aグループ化、Bその他の条件である。
 
情報の認知2(記憶と学習)  
 外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。未知の情報は、またカテゴリー化される。このプロセスは、経験を通した学習になる。このプロセルのカラムの特徴は、@旧情報、A新情報である。

情報の認知3(計画、問題解決、推論)  
 受け取った情報は、計画を立てるプロセスでも役に立つ。その際、目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。しかし、獲得した情報が完全でない場合は、推論が必要になる。このプロセルのカラムの特徴は、@計画から問題解決へ、A問題未解決から推論へである。

花村嘉英(2022)「ドリス・レッシングの Hunger” 「飢え」で執筆脳を考える」より

ドリス・レッシングの Hunger” 「飢え」で執筆脳を考える8

分析例

1 英国人牧師Tennent氏が独房を訪れる場面。   
2 この小論では、「飢え」の執筆脳を「抵抗と表明」と考えているため、意味3の思考の流れ、抵抗に注目する。  
3 意味1@視覚A聴覚B味覚C嗅覚D触覚 、意味2 @喜A怒B哀C楽、意味3抵抗@ありAなし、意味4振舞い @直示A隠喩B記事なし
4 人工知能 @抵抗、A表明 
 
テキスト共生の公式   
 
ステップ1 意味1、2、3、4を合わせて解析の組「犯罪と成長」を作る。
ステップ2 飢えと金が問題だと強調しているため、「抵抗と表明」という組を作り、解析の組と合わせる。

A @視覚+@喜+@あり+A隠喩という解析の組を、@抵抗+A表明という組と合わせる。
B @視覚+B哀+Aなし+A隠喩という解析の組を、@抵抗+A表明という組と合わせる。
C 「@視覚+D触覚」+A怒+@あり+@直示という解析の組を、@抵抗+A表明という組と合わせる。 
D @視覚+B哀+Aなし+@直示という解析の組を、@抵抗+A表明という組と合わせる。
E 「@視覚+A聴覚」+C楽+Aなし+@直示という解析の組を、@抵抗+A表明という組と合わせる。   

結果  表2については、テキスト共生の公式が適用される。

花村嘉英(2022)「ドリス・レッシングの Hunger” 「飢え」で執筆脳を考える」より

ドリス・レッシングの Hunger” 「飢え」で執筆脳を考える7

【連想分析1】
表2 受容と共生のイメージ合わせ  英国人牧師Tennent氏が独房を訪れる場面

A They bring him food and water, but he does not eat or drink unless he is told to do so, and then he eats or drinks automatically, but is likely to forget, and sit immobile, with a piece of bread or the mug in his hand. 
意味1 1、意味2 1、意味3 1、意味4 2、人工知能1 

B And he sleeps and sleeps as if his soul is drugging itself so that he may slip easily into death. He does not think of death, but it is there with him, in his cell, like a big, black shadow. 意味1 1、意味2 3、意味3 2、意味4 2、人工知能1 

C And so a week passes, though Jabavu does not know it. On the eight day the door opens and a white preacher comes in. Jabavu is asleep, but the warder kicks him till he wakes, then gives him a shake so that he stands up, and finally he sits when the preacher tells him to sit. He does not look at the preacher.
意味1 1+5、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能1 

D This man is a Mr Tennent from the Church of England, who visits the prisoners once a week. He is a tall man, lean, grey, stooping. He moves slowly, speaks slowly, and gives an impression of distrusting even the words he chooses to use. 意味1 1、意味2 3、意味3 2、意味4 1、人工知能2 

E He is a deeply doubting man, as are so many of his persuasion. Perhaps, if he were from another church, that which the Africans call the Romans, he would enter this cell in a different way. Sin is this, a soul is that, there would be definite things to say, and his words would have the ring of faith which does not change with changing life. 意味1 1+2、意味2 4、意味3 2、意味4 1、人工知能2 

花村嘉英(2022)「ドリス・レッシングの Hunger” 「飢え」で執筆脳を考える」より

ドリス・レッシングの Hunger” 「飢え」で執筆脳を考える6

【データベースの作成】

表1 “Hunger”のデータベースのカラム

項目名 内容 説明
文法1 態  能動、受動、使役。
文法2 時制、相  現在、過去、未来、進行形、完了形。
文法3 様相 可能、推量、義務、必然。
意味1 五感 視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
意味2 喜怒哀楽 情動との接点。瞬時の思い。  
意味3 思考の流れ 抵抗ありなし 。
意味4 振舞い ジェスチャー、身振り。直示と隠喩を考える。  
医学情報 病跡学 受容と共生の共有点。購読脳「犯罪と成長」と病跡学でリンクを張るためにメディカル情報を入れる。
情報の 認知1 感覚情報の捉え方 感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。例えば、ベースとプロファイルやグループ化または条件反射。
情報の 認知2 記憶と学習 外部からの情報を既存の知識構造に組み込む。その際、未知の情報についてはカテゴリー化する。学習につながるため。記憶の型として、短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述)を考える。
情報の認知3 計画、問題解決、推論 受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。
人工知能 抵抗と表明 エキスパートシステム 抵抗は、抑圧に対し感情的に逆らうこと。表明とは、考えや決意を表して明らかにすること。

花村嘉英(2022)「ドリス・レッシングの Hunger” 「飢え」で執筆脳を考える」より

ドリス・レッシングの Hunger” 「飢え」で執筆脳を考える5

3 データベースの作成・分析

 データベースの作成方法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている。
 こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容は、それぞれの言語ごとに構文と意味の解析をし、何かの組を作ればよい。しかし、共生は、作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。

花村嘉英(2022)「ドリス・レッシングの Hunger” 「飢え」で執筆脳を考える」より

ドリス・レッシングの Hunger” 「飢え」で執筆脳を考える4

 JabavuとJerryは、窃盗をしては酒を飲みカードで遊ぶ。しかし、Jerryは、Jabavuを憎んでいる。BettyがJabavuに気持ちを寄せていることもある。Jabavuは、窃盗団へのJerryの誘いを断った。Bettyが殺された。JabavuとJerry が疑われる。互いにやっていないという。酒場で飲んでいた人たちが怪しい。Jabavu のコートに血がついている。ナイフの切跡もある。アフリカでは人を殺しても捕まらない。(P.314)
 Jabavuは、助けてもらった恩のあるMizi氏の家に忍び込み金品を盗もうとする。(Hunger P.316)裏切りだ。警察がやって来てJabavuに手錠を掛けて刑務所に連行する。煉瓦の壁で石の床でできた独房に入れられても、取調べで無言を通す。一週間が過ぎた。八日目に英国出身の白人の牧師Tennent氏がやって来た。(P.325)背の高い痩せた男で信仰の自由を認めている。汚い椅子に腰かけて、Jabavu に話しかける。とても不幸なようだけど、助けてあげよう。
 窃盗団に入ったのは、間違っている。しかし、初めての犯行だったことは悪くはない。でも法を犯した罪は償うことになる。禁固1年だろう。Mizi氏からの手紙を渡すと、Jabavuの頬から涙が零れる。真実を言うように書かれていた。自身も証人として出向くからである。アフリカの刑務所にいる人たちのことを自由と正義のために考えろ、一人ではない。私たちWeという語が使われている。 
 Iを使っていた時代には、ナイフのような厳しく醜い時代があった。Weのおかげで獣が激怒する飢えが初めて拒絶されることなく、優しくWeの中に流れていく。Jabavu は手紙を読むと、Tennent氏に戻し、言うことをきくという。繰り返しWeと言うと、彼の空っぽの手の中に兄弟たちの温かい手があるように見えた。(P.331)
 レッシングは、この小説の中に1970年前後の南部アフリカで発生していた社会問題を描いている。空腹、金、窃盗、殺人、警察、牢獄、裁判は、日常茶飯事であった。そこで、“Hunger”の購読脳を「犯罪と成長」にし、飢えをもたらすアパルトヘイトという人種差別を問題視しているため、執筆脳は「抵抗と表明」にする。“Hunger”のシナジーのメタファーは、「レッシングと表明」である。

花村嘉英(2022)「ドリス・レッシングの Hunger” 「飢え」で執筆脳を考える」より

ドリス・レッシングの Hunger” 「飢え」で執筆脳を考える3

 部落では常に飢餓状態にあり、人生を通して飢えた声で話している。(Hunger P.240)白人のギリシア人の商家は、思うほど豊かで強くはない。Jabavuは、自分の足に歩けと命じる。しかし、足は動かない。子供たちが見ている。自転車に乗ったアフリカ人の警察官が破れたぼろのズボンを履いた Jabavu の不幸な顔を見て英語で尋ねた。道がわからないのか、仕事を探しているのかと。(P.243)
 仕事を探すには、通行許可書が必要になる。事務所へ行かなければならない。有色人種や黒人がいる。許可書を貰うために医者の診察を受けなければならない。白人の医者は、伝染病を探す。マラリア、住血吸虫病、十二指腸虫などである。(P.249)Jabavu は、食べるものがなくて飢えていると訴える。警官が Jabavu に二週間仕事を探すことができる許可書を渡す。Jabavu は喜んだ。Mizi氏を紹介してもらった。
 事務所から歩いて行くと、煙を出している工場とか白人の墓地がある。見たことがない世界である。1シリングしかなく、飢えと金が問題である。工場だと一月に1ポンド、白人の家では一月3ポンド稼げる。(P.270)
 Mizi氏は声が多きいが、Jabavu は、何を言っているのかわからない。白人とは異なるアフリカ人のための法律を討論している。Samu氏も発言する。恥を知れ!最低賃金の集会での叫びである。 Mizi氏は、アフリカ人に良い生活をもたらそうとしている人物である。しかし、Jerryという若い男が Mizi氏は危険な男で警察が嫌っていることを告げる。(P.279)
 Jabavu は、町の街区へ行き映画を見る。カウボーイやインディアンが登場し、自分も騎乗し叫んでいる感じになる。また、Bettyという女がJabavuを好いている。インド人の商店で Jerryと新しいシャツに取り換えた。
 Jabavu は、Jerry と白人の家の物や商店の品物を盗む。時計、灰皿、スプーン、フォークなど。インド人の商店に戻り金を貰う。Jabavu は、ギャングの一味になった。Bettyは、Jerryの女で警察の友達である。街へ向かう部落の少年を使って窃盗させ、金の一部を渡す。他人に言えば、Jerryがナイフで殺すという。

花村嘉英(2022)「ドリス・レッシングの Hunger” 「飢え」で執筆脳を考える」より

ドリス・レッシングの Hunger” 「飢え」で執筆脳を考える2

2 “Hunger”のLのストーリー 

 ドリス・レッシング(1919-2013)の“Hunger”「飢え」は、The Sun Between Their Feet: Collected African Stories, Vol. 2に収録されている小説で、部落出身のJabavuという黒人少年が白人の世界に現れ、そこでの経験を通して成長する物語である。主役の成長に焦点を当てているため、一種の発展小説といえる。
レッシングは、1919年、イギリス人の両親のもとイランに生まれ、1925年父がトウモロコシや作物を作るために購入した南ローデシア(ジンバブエ)の地に移住した。少女時代は、ハラレにあるドミニクコンバート女学校で教育を受け、15歳で家を離れ南アフリカで看護婦として働いた。1937年に電話のオペレーターになり結婚する。二児をもうけるも1943年に離婚した。
 その後ロンドンに移住し、反核運動や反アパルトヘイトの活動に関与した。また、ハンガリーやアフガニスタンへのソビエトの進攻に反対し、ニューヨークタイムズに論説を発表した。創作活動については、1950年に「草は歌っている」でデビューし、50以上の小説を出版している。2007年にこれまでの最高齢になる88歳でノーベル文学賞を受賞した。1990年代後半は、脳卒中を患っていた。 
 Jabavuには3歳年上の姉がおり、彼女は、埃を吸って死んだ。Jabavu は、17歳になる部落出身の少年で飢餓状態にある。しかし、南にある大都会Johannesburgに憧れている。アフリカ人は、健康のために豆、野菜、肉そしてナッツを食べる。彼の母は、35歳にもならない若い女性である。(P.213) 
 誰かが戻ってくるあるいは村を通って通り過ぎると、Jabavuは、走って素晴らしい生活の話、冒険、興奮を聞きに行く。Pavuという仲間と一緒に街を目指す。街から送金できるため、両親は反対しない。Jabavuは、そう思っている。(P.227)Jabavuは、何も恐れていない。しかし、夜になっても街には着かない。空腹で飢えており胃もくたびれていて、足は、骨が内側で柔らかくなるかのように震えている。(P.236)

花村嘉英(2022)「ドリス・レッシングの Hunger” 「飢え」で執筆脳を考える」より

ドリス・レッシングの Hunger” 「飢え」で執筆脳を考える1

1 先行研究

 文学分析は、通常、読者による購読脳が問題になる。一方、シナジーのメタファーは、作家の執筆脳を研究するためのマクロに通じる分析方法である。基本のパターンは、まず縦が購読脳で横が執筆脳になるLのイメージを作り、次に、各場面をLに読みながらデータベースを作成し、全体を組の集合体にする。そして最後に、双方の脳の活動をマージするために、脳内の信号のパスを探す、若しくは、脳のエリアの機能を探す。これがミクロとマクロの中間にあるメゾのデータとなり、狭義の意味でシナジーのメタファーが作られる。この段階では、副専攻を増やすことが重要である。 
 執筆脳は、作者が自身で書いているという事実及び作者がメインで伝えようと思っていることに対する定番の読み及びそれに対する共生の読みと定義する。そのため、この小論では、トーマス・マン(1875−1955)、魯迅(1881−1936)、森鴎外(1862−1922)の私の著作を先行研究にする。また、これらの著作の中では、それぞれの作家の執筆脳として文体を取り上げ、とりわけ問題解決の場面を分析の対象にしている。さらに、マクロの分析について地球規模とフォーマットのシフトを意識してナディン・ゴーディマ(1923−2014)を加えると、“The Late Bourgeois World”執筆時の脳の活動が意欲と組になることを先行研究に入れておく。 
 筆者の持ち場が言語学のため、購読脳の分析の際に、何かしらの言語分析を試みている。例えば、トーマス・マンには構文分析があり、魯迅にはことばの比較がある。そのため、全集の分析に拘る文学の研究者とは、分析のストーリーに違いがある。文学の研究者であれば、全集の中から一つだけシナジーのメタファーのために作品を選び、その理由を述べればよい。なおLのストーリーについては、人文と理系が交差するため、機械翻訳などで文体の違いを調節するトレーニングが推奨される。
 なお、メゾのデータを束ねて何やら観察で予測が立てば、言語分析や翻訳そして資格に基づくミクロと医学も含めたリスクや観察の社会論からなるマクロとを合わせて、広義の意味でシナジーのメタファーが作られる。

花村嘉英(2022)「ドリス・レッシングの Hunger” 「飢え」で執筆脳を考える」より

パール・バックの“The child who never grew”(母よ嘆くなかれ)で発達障害と執筆脳について考える12

5 まとめ

 バックの執筆時の脳の活動を調べるために、まず受容と共生からなるLのストーリーを文献から組み立てた。次に、「母よ嘆くなけれ」のLのストーリーをデータベース化し、最後に文献で留めたところを実験で確認した。そのため、テキスト共生によるシナジーのメタファーについては、一応の研究成果が得られている。
 この種の実験をおよそ100人の作家で試みがある。その際、日本人と外国人60人対40人、男女比4対1、ノーベル賞作家30人を目安に対照言語が独日であることから非英語の比較を意識してできるだけ日本語以外で英語が突出しないように心掛けている。 


参考文献

日本成人病予防協会監修 健康管理士一般指導員受験対策講座 テキスト3 ヘルスケア出版 2014 
花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?新風舎 2005
花村嘉英 森鴎外の「山椒大夫」のDB化とその分析 中国日语教学研究会江苏分会論文集 2015
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 川端康成の「雪国」から見えてくるシナジーのメタファーとは−「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日語教学研究会上海分会論文集 2018
花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する−危機管理者としての作家について 中国日語教学研究会上海分会論文集 2020
花村嘉英 三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学を考える 中国日語教学研究会上海分会論文集  2021
花村嘉英 計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る 
V2ソリューション2022
Pearl Buck The child who never grew A Memoir 1950
Pearl S. Buck Wikipedia

花村嘉英(2022)「パール・バックの“The child who never grew”(母よ嘆くなかれ)で発達障害と執筆脳について考える」より

パール・バックの“The child who never grew”(母よ嘆くなかれ)で発達障害と執筆脳について考える11

表3 情報の認知

同上 情報の認知1 情報の認知2 情報の認知3
A 表2と同じ。 2 2 1
B 表2と同じ。 3 2 1
C 表2と同じ。 3 2 1
D 表2と同じ。 3 2 1
E 表2と同じ。 3 2 2

A 情報の認知1はAグループ化、情報の認知2はA新情報、情報の認知3は@計画から問題解決へである。
B 情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2はA新情報、情報の認知3は@計画から問題解決へである。
C 情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2はA新情報、情報の認知3は@計画から問題解決へである。
D 情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2はA新情報、情報の認知3は@計画から問題解決へである。
E 情報の認知1はBその他の条件、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。   

結果     
 この場面で母親は、学習時に娘が緊張していることに気がつく。右手に触ってみると汗をかいている。結局、何も学んでやしない。娘を発達障害から救済しようと考えているため、購読脳の「愛娘と知的障害」から作者の立場といえる「追求と救済」という執筆脳のを引き出すことができる。 

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パール・バックの“The child who never grew”(母よ嘆くなかれ)で発達障害と執筆脳について考える10

【連想分析2】

情報の認知1(感覚情報)  
 感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。このプロセルのカラムの特徴は、@ベースとプロファイル、Aグループ化、Bその他の条件である。
 
情報の認知2(記憶と学習)  
 外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。未知の情報は、またカテゴリー化される。このプロセスは、経験を通した学習になる。このプロセルのカラムの特徴は、@旧情報、A新情報である。

情報の認知3(計画、問題解決、推論)  
 受け取った情報は、計画を立てるプロセスでも役に立つ。その際、目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。しかし、獲得した情報が完全でない場合は、推論が必要になる。このプロセルのカラムの特徴は、@計画から問題解決へ、A問題未解決から推論へである。

花村嘉英(2022)「パール・バックの“The child who never grew”(母よ嘆くなかれ)で発達障害と執筆脳について考える」より

パール・バックの“The child who never grew”(母よ嘆くなかれ)で発達障害と執筆脳について考える9

分析例

1 母親が娘の緊張に気がつく場面。     
2 この小論では、「母よ嘆くなかれ」の執筆脳を「追求と救済」と考えているため、意味3の思考の流れ、追求に注目する。  
3 意味1@視覚A聴覚B味覚C嗅覚D触覚 、意味2 @喜A怒B哀C楽、意味3追求@ありAなし、意味4振舞い @直示A隠喩B記事なし
4 人工知能 @追求、A救済 
 
テキスト共生の公式   
 
ステップ1 意味1、2、3、4を合わせて解析の組「愛娘と知的障害」を作る。
ステップ2 母親が学習時の娘の緊張に気がつくため、「追求と救済」という組を作り、解析の組と合わせる。  

A @視覚+@喜+@あり+@直示という解析の組を、@追求+A救済という組と合わせる。
B D触覚+@喜+@あり+@直示という解析の組を、@追求+A救済という組と合わせる。
C D触覚+A怒+@あり+@直示という解析の組を、@追求+A救済という組と合わせる。 
D @視覚+B哀+@あり+@直示という解析の組を、@追求+A救済という組と合わせる。
E @視覚+B哀+@あり+@直示という解析の組を、@追求+A救済という組と合わせる。   

結果  表2については、テキスト共生の公式が適用される。

花村嘉英(2022)「パール・バックの“The child who never grew”(母よ嘆くなかれ)で発達障害と執筆脳について考える」より

パール・バックの“The child who never grew”(母よ嘆くなかれ)で発達障害と執筆脳について考える8

【連想分析1】
表2 受容と共生のイメージ合わせ

母親が娘の緊張に気がつく場面 人工知能
A The details of those months is unimportant now, but I will simply say that I found that the child could learn to read simple sentences, that she was able, with much effort, to write he name, and that she loved songs and was able to sing simple ones. 意味1 1、意味2 1、意味3 1、意味4 1、人工知能1
B What she was able to achieve was of no significance in itself. I think she might have been able to proceed further, but one day, when, pressing her always very gently but still steadily and perhaps in my anxiety rather relentlessly, I happened to take her little right hand to guide it in writing a word.意味1 5、意味2 1、意味3 1、意味4 1、人工知能1
C It was wet with perspiration. I took both her hands and opened them and saw they were wet. I realized then that the child was under intense strain, that she was trying her very best for my sake, submitting to something she did not in the least understand, with an angelic wish to please me. She was not really learning anything. 意味1 5、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能1
D It seemed my heart broke all over again. When I could control myself I got up and put away the books forever. Of what use was it to push this mind beyond where it could function? be She might after much effort be able to read a little, but she could never enjoy books. 意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能1
E She might learn to write her name, but she would never find in writing a means of communication. Music she could hear with joy, but she could not make it. Yet the child was human. She had a right to happiness, and her happiness was to be able to live where she could function. 意味1 5、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能2

花村嘉英(2022)「パール・バックの“The child who never grew”(母よ嘆くなかれ)で発達障害と執筆脳について考える」より

パール・バックの“The child who never grew”(母よ嘆くなかれ)で発達障害と執筆脳について考える7

【データベースの作成】

表1 「母よ嘆くなかれ」のデータベースのカラム

項目名 内容 説明
文法1 態 能動、受動、使役。
文法2 時制、相 現在、過去、未来、進行形、完了形。
文法3 様相 可能、推量、義務、必然。
意味1 五感 視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
意味2 喜怒哀楽 情動との接点。瞬時の思い。
意味3 思考の流れ 追求ありなし
意味4 振舞い ジェスチャー、身振り。直示と隠喩を考える。
医学情報 病跡学との接点 受容と共生の共有点。購読脳「愛娘と知的障害」と病跡学でリンクを張るためにメディカル情報を入れる。  
情報の認知1 感覚情報の捉え方 感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。例えば、ベースとプロファイルやグループ化または条件反射。
情報の認知2 記憶と学習 外部からの情報を既存の知識構造に組み込む。その際、未知の情報については、カテゴリー化する。学習につながるため。記憶の型として、短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述)を考える。
情報の認知3 計画、問題解決、推論 受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。
人工知能
追求と救済 エキスパートシステム 追求とは、後を追いかけて求めること。救済とは、救い助けること。

花村嘉英(2022)「パール・バックの“The child who never grew”(母よ嘆くなかれ)で発達障害と執筆脳について考える」より

パール・バックの“The child who never grew”(母よ嘆くなかれ)で発達障害と執筆脳について考える6

4 分析

 データベースの作成方法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている。
 こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容は、それぞれの言語ごとに構文と意味の解析をし、何かの組を作ればよい。しかし、共生は、作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。

花村嘉英(2022)「パール・バックの“The child who never grew”(母よ嘆くなかれ)で発達障害と執筆脳について考える」より

パール・バックの“The child who never grew”(母よ嘆くなかれ)で発達障害と執筆脳について考える5

 日本成人病予防協会(2014)によると、学習障害とは、知的発達の遅れはないが、利く、話す、読む、書く、計算するといった能力のうち特定のものの習得が困難な状態を指す。中枢神経に何らかの機能障害があるという。
 彼女にとって楽しい場所は彼女の家である。9歳まで娘と過ごし、彼女の最後の家を探した。(P45)一方、障害児の施設では責任者に問いただす。キャロルは、何も学ぶことができないと。しかし、できるという。一人でできなければ、誰かが助けるからである。但し、精神年齢は上がらない。(P53) 
しばらくして娘を施設に連れて行った。成長するためである。彼女は私に縋るも、別離のときである。無論、ときどき会いに来るし、娘も戻ってこられる。 
 子供たちは、楽しそうである。幸せな子供たちで、苦痛を知らない。まずは幸せがあり、全てがそれについて来る。一月会わずに過ごす。手紙も書けないのは、残虐行為のようである。しかし、婦長はいう。彼女は、学んでいるときが幸せだと。(P57) 
 娘は、私に我慢を教えてくれた。はっきりといえないが、伝達するために別の方法がある。精神の発達障害は、他の善良な性質で補うことができる。これは、社会性成熟度診断法により明らかになっている。(P63)回避できない悲しみと一緒に生活するときは、心地よさを見出す方法も学ぶことになる。 
 親の責任を問う。一つは、できるだけ施設を訪問し、子供を預かる人を見る。もう一つ、暮らしの雰囲気が有望であることが大切である。(P67)
 アメリカの知的障害の50%は、教育を通して社会の生産的なメンバーになれる。6歳未満の知能の成人が19種類の仕事を行い、全体の20%の仕事を非熟練労働者が担当している。教育こそが社会の組織を救済す一例である。(P72)
 脳への血液供給量が減少することにより精神薄弱の症状が現れる。手術による改善は、30%余りであり、警戒心、強い欲求、短気な性格が治ってくる。適切な教育や環境が整えば、半分以上の知的障害者が普通の社会で生活し、仕事をすることができる。悲劇の多くが不要だと認識してもよい。
 そこで“The child who never grew”の購読脳は「愛娘と知的障害」にし、執筆脳は「追求と救済」にする。双方を統合したシナジーのメタファーは、「パール・バックと愛娘の病跡」にする。 

花村嘉英(2022)「パール・バックの“The child who never grew”(母よ嘆くなかれ)で発達障害と執筆脳について考える」より

パール・バックの“The child who never grew”(母よ嘆くなかれ)で発達障害と執筆脳について考える4

 身体障害は、避けられない悲しみである。メンタルの成長がない子供たちに罪はない。中国では、何代もの家族が同じ屋根の下で暮らし、相互に責任を負っている。こうした家族の家は、無力の人を世話する場合に理想である。(P40)しかし、アメリカの施設には、大好きな母も中国人の看護婦もいない。 
 娘が母親から離れる前に一年かけてできる限り彼女の能力を試してみた。娘の将来に関し最善の選択をするためである。読んだり、書いたり、色を識別したりなど。確かに音楽が好きで、楽譜を学び、歌を歌った。(P41)
自閉症は、3歳ぐらいまでに現れ、中枢神経に何らかの機能不全があるとされる。キャロルの場合、言葉の発達が遅れている。会話が続かない、ことばのオウム返しが気になる。
 南京の暴動ため、外国人は中国を離れた。母と娘は、春になって日本の長崎に行った。小さな日本の木造の家で楽しい夏を過ごした。原始的な方法で家事をこなし、木炭の火鉢で米や魚を料理し、果物を食べた。娘とともに鉄道で日本を旅した。宿泊の際には、女中が世話をしてくれた。食事も風呂も寝具も用意してくれた。娘に対する違和感はない。彼女は受け入れられた。(P43)
 クリスマス前に中国の上海に戻った。娘は平易な文章を読むことができ、自分の名前を書き、歌が歌えた。しかし、彼女の両手が濡れているのに気づいた。強い緊張のためである。全然楽しくはない。本当は何も学んでいなかった。到達度は、かなり低く、学習障害の症状が見られる。緊張が強ければ、ストレスが強く心の病気になる。

花村嘉英(2022)「パール・バックの“The child who never grew”(母よ嘆くなかれ)で発達障害と執筆脳について考える」より

パール・バックの“The child who never grew”(母よ嘆くなかれ)で発達障害と執筆脳について考える3

3 作家パール・バック 

 瞳が綺麗な笑顔の可愛い赤ん坊であった。しかし、キャロルが3歳のときに、会話の習得に異常を感じ、小児科の専門医を訪ねた。医者は、子供の過去や病歴そして高熱、風邪について質問してきた。しかし、生まれてから身体の異常などはなく、健全であり、怪我もしたことがなかった。中国では、何かが悪いそれしかいえない。アメリカに連れて行けば、何が悪いのかを突き止めることができる。(The child who never grew P17)
日本成人病予防協会(2014)によると、子供の心の病気は、発達の過程が正常からずれた発達障害と生育や対人関係などに起因すると考えられる行動と情緒の障害がある。キャロルの場合、前者の症状が見て取れる。
 アメリカのミネソタ州にあるクリニックで検査を受ける。小児科の先生は、検査結果を見て、身体的な問題はないとした。彼女は、音楽に興味を示した。しかし、メンタル面の遅れについては、理由がわからない。(P22)話しは上手くなく、読み書きもできないであろう、と彼は指摘した。彼のいうことを受け入れながらも、母親として試案をつづけた。(P25)
発達障害は、自閉症、アスペルガー症候群、学習障害、注意欠陥・多動性障害といった脳機能の障害であり、その症状は、通常低年齢で現われる。
 キャロルは、確かに教会の音楽、特に讃美歌が好きである。ジャズは嫌いだが、クラシックは聞く。例えば、ベートーベンの第五交響曲に興味を示すも(P29)、趣味や関心は、特定のものに限られる。

花村嘉英(2022)「パール・バックの“The child who never grew”(母よ嘆くなかれ)で発達障害と執筆脳について考える」より

パール・バックの“The child who never grew”(母よ嘆くなかれ)で発達障害と執筆脳について考える2

2 人間パール・バック

 パール・バック(1892-1973)は、ウェスト・ヴァージニア州のヒルスボロで生まれ、生後4カ月で両親とともに中国の江蘇省の鎮江に渡った。そのため、英語と中国語は、堪能であった。その後、中国で過ごすも大学教育を受けるにあたり米国に帰国し、再び宣教師として中国に戻る。南京の大学で英文学を教えることになり、米国人宣教師のジョン・ロッシング・バックと結婚する。知的障害があるキャロルを授かる。1926年の南京事件の際は、長崎の雲仙に避難した。その様子は、「津波」に書かれている。その後、中国に戻り、本格的に作家として執筆活動に入った。   
 “The child who never grew”(1950)は、娘キャロルの回想であり、成長が止まってしまった我が子の病気の跡を辿るストーリーである。
 出産ができなくなり、六人の孤児を養子として育て、ウェルカムハウスという養子仲介機関を設立した。その後、米国、アジアを問わず、子供の教育のためにパール・バック財団を設立し、平和活動の支援もした。
1960年にテレビ映画「津波」の撮影のために来日したこともある。

花村嘉英(2022)「パール・バックの“The child who never grew”(母よ嘆くなかれ)で発達障害と執筆脳について考える」より

パール・バックの“The child who never grew”(母よ嘆くなかれ)で発達障害と執筆脳について考える1

1 先行研究

 文学分析は、通常、読者による購読脳が問題になる。一方、シナジーのメタファーは、作家の執筆脳を研究するためのマクロに通じる分析方法である。基本のパターンは、まず縦が購読脳で横が執筆脳になるLのイメージを作り、次に、各場面をLに読みながらデータベースを作成し、全体を組の集合体にする。そして最後に、双方の脳の活動をマージするために、脳内の信号のパスを探す、若しくは、脳のエリアの機能を探す。これがミクロとマクロの中間にあるメゾのデータとなり、狭義の意味でシナジーのメタファーが作られる。この段階では、副専攻を増やすことが重要である。 
 執筆脳は、作者が自身で書いているという事実及び作者がメインで伝えようと思っていることに対する定番の読み及びそれに対する共生の読みと定義する。そのため、この小論では、トーマス・マン(1875−1955)、魯迅(1881−1936)、森鴎外(1862−1922)の私の著作を先行研究にする。また、これらの著作の中では、それぞれの作家の執筆脳として文体を取り上げ、とりわけ問題解決の場面を分析の対象にしている。さらに、マクロの分析について地球規模とフォーマットのシフトを意識してナディン・ゴーディマ(1923−2014)を加えると、“The Late Bourgeois World”執筆時の脳の活動が意欲と組になることを先行研究に入れておく。 
 筆者の持ち場が言語学のため、購読脳の分析の際に、何かしらの言語分析を試みている。例えば、トーマス・マンには構文分析があり、魯迅にはことばの比較がある。そのため、全集の分析に拘る文学の研究者とは、分析のストーリーに違いがある。文学の研究者であれば、全集の中から一つだけシナジーのメタファーのために作品を選び、その理由を述べればよい。なおLのストーリーについては、人文と理系が交差するため、機械翻訳などで文体の違いを調節するトレーニングが推奨される。

花村嘉英(2022)「パール・バックの“The child who never grew”(母よ嘆くなかれ)で発達障害と執筆脳について考える」より
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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
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