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2024年09月20日

クロード・シモンのLe Tramway(路面電車)で執筆脳を考える2

2 Lのストーリー

 クロード・シモン(1913-2005)の「路面電車」は、晩年に書かれた小説である。アフリカ南部の島国マダガスカルで生まれ、フランスの古都でワインの産地ペルピニャンで育つ。第一次世界大戦から第二次世界大戦の終わりまでは、四半世紀に渡り世界のどこかで戦いがあり、経済も混乱していた。シモンは、イギリスに留学し勉強するも竜騎兵として招集され、戦争に巻き込まれる。その後、脱走し、レジスタンス活動に参加する。
 1945年、処女作「ペテン師」を発表し、執筆活動に従事する。前衛的な小説群といわれる、ル・モンド誌の造語ヌーヴォー・ロマンの旗手として注目される。平岡(2003)によると、ヌーヴォー・ロマンは、小説を改革するための技巧上の工夫のみならず対象世界に立ち向かう態度の新たな浄化であり、対象世界を言語化以前の状態で言語化するという試みに挑戦する論理の模索である。一方、あまりに技巧に走り、小説を息苦しくした結果、小説の息の根を止めてしまうこともある。しかし、早く読める小説だけを小説と呼ぶぐらいならば、 ヌーヴォー・ロマンは、小説と呼ばれなくてもよい。
 また、ヌーヴォー・ロマンの作家たちは、ただ目に写る耳に聞こえるままの対象の姿や音を写生しながら、事物を繊細に描写する。例えば、路面電車(la mortice du tramway mesurait environ sept mètres de long, les patries avant ou arrière par lesquelles on y avait accès et se trouvait, soit dans un sens soit dans l’autre, la cabine du wattman était faite de tôles d’acier et peinte en jaune, la partie médiance de bois se faisant face était, à l’extérieu, recouverte de lattes verticales de bois verni, marron. P86)意識や心理を含めた対象世界を凝視し、細密化することから物語が分泌される。それからお決まりで唐突な場面転換が来る。
 例えば、シモンの場合、拡散的断章構成の実験がつきものである。シニフィアンとシニフィエの分離による逸脱で、志が画家であったこともあり、場面を彩る色彩の逸脱も画家の発想に近い。表象と意味で見ると、病人には大人g扱うことばの意味は理解できないとある。(un malade est tenu pour un mineur, sinon même un enfant, aux capacités mentales diminuées au point qu’il n’est plus capable de prendre des decisions ni même saisir le sens des mots employees par les adultes…p111)

花村嘉英(2022)「クロード・シモンのLe Tramway(路面電車)で執筆脳を考える」より
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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
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