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2024年09月20日

クロード・シモンのLe Tramway(路面電車)で執筆脳を考える3

 シモンなりに、彼の書き方で自らを現代性の中に組み込むことで革命を目指した。その際の頭の使いようは、閉じた曲線を辿り同一点を繰り返し通過する動体の運動を伴った回転といえる。思考の線は、大きな主題の間を自在に逸脱し、小さな主題に立ち換える。
 「路面電車」の舞台は、マヨルカ王国の首都ペルピニャンである。クロード少年は、通学で路面電車を利用していた。書き出しは、路面電車の運転台の様子(Rester dans la cabine au lieu d’aller s’asseoir à l’intérieur sur les banquettes, semblait être une sirte de privilege non seulement pour mon esprit d’enfant)やそこから見える風景について延々と連なるシーケンスである。一人語りでは決してなく、設計図に基づいた饒舌体といえる。車窓の風景には病院や養老院が登場し(se rendait à l’hôspital ou l’hospice, ou maison de retraite)、80歳を過ぎて肺炎による高熱で病床で喘ぐ(Toujours, je suppose, par l’efffet de cet état fiévreux qui me donnait l’impression d’être enfermé)老いたシモンもそこにいる。何年もの年数の経過が対立カテゴリーの共存や移動とともに時を重ね、螺旋状の回転により連なる長い文章がシモンのダイナミズムである。
 文章の間を隙間なく埋めるがごとく、括弧書きの箇所が非常に多い。シモンが執筆中にふと思うことなのであろうか。様々な記憶を巡せるうちに浮かぶこともできるだけ詳述するように心掛けている。これもまたヌーヴォー・ロマンの作家たちに共通する特徴にしたい。
 そこで「路面電車」の購読脳は「車窓から浮かぶ客観的な事実と時空の交錯」、執筆脳は「回転とシーケンス」、そしてシナジーのメタファーは「クロード・シモンと記憶の時間」にする。

花村嘉英(2022)「クロード・シモンのLe Tramway(路面電車)で執筆脳を考える」より
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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
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