アフィリエイト広告を利用しています

広告

posted by fanblog

2024年09月20日

カミュの「異邦人」で執筆脳を考える−不安障害2

2 Lのストーリー 司法の精神医学

 「異邦人」(1942)は、アルベール・カミュ(1913-1960)が29歳のときに書いた小説である。17歳のときに肺結核の発作が起こる。肺結核のために大学教授資格試験も断念しており生涯の持病になる。主人公ムルソー(Meursault)は、1930年代の青年の喜びや苦しみを具現化した典型的な人物であり、人間とは何かという問題を分析するときの題材になる。   
 不条理は、筋道が通らないこと、道理に合わないことであり、道理は、正しい筋道、人の行うべき正しい道のことである。ムルソーは、不条理の光に照らしても、その光の及ばない固有の曖昧さを保っているとし、不条理に関しては、それに抗している。現実で具体的なもの、現在の欲望だけが重要であり、人間は無意味な存在で、無償であるという命題こそが出発点で積極性を内に秘めたムルソーがそこにいる。そこで「異邦人」の購読脳を「不条理と現実」にする。   
 キリストの処刑同様にムルソーの呟きは、無実の罪によるものと作者は考えており、この作者とは、ムルソーが法廷で視線を交わした一人の新聞記者(J’ai rencontré le regard du journaliste à la veste grise)である。
 ママンの死(maman est morte)とかアラビア人を殺す(J’avais abattu L’Arabe comme je le projetais)といった生死に関わるような体験は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の発症にもつながる。日本成人病予防協会(2014)によると、発症する要因には過去に精神疾患があったり、トラウマ(心の傷)があったり、身体的な消耗とか物事を深刻に受け止める傾向が強いかどうかが重要因子になる。二つの事件は、記憶に残りトラウマとなって何度も思い出すが、ムルソーの症状は、特別強いわけではない。第二次世界大戦中のフランスやスペインそして北アフリカには、こうした精神疾患の持ち主が多くいた。
 不安障害は、ストレスが原因で不安や心配が生じそれが解消できないと心身に様々な症状が出る。長い準備期間の後、症状発現のきっかけになる結実因子があって神経症が発症する。ムルソーの場合、几帳面で積極性を秘めた性格(un caractère taciturne et renfermé)、生死にまつわる環境(circonstances entourant le décès)、それに適応する能力(capacité d’adaptation)から生まれる結実因子をどこかで調節している。それは、不条理に抗する力があるためである。世界が不条理であることを発見した。裁判長がフラン人民の名において広場で斬首刑を受けるといったにもかかわらず。(Le président m’a dit dans une forme bizarre que j’aurais la tete tranchée sur une place publique au nom du peuple francais.)
 そこで執筆脳は、「秘めた積極性と抗力」にする。ムルソーは、嘘をつくことを拒絶する。(refus de mentir)存在し感じることのできる真理が好きだからである。積極性を内に秘めていればこそできる技である。作品そのものは、不条理に関し、それに抗して作られている。白井(2016)の仮説、法廷でムルソーと視線を交わした新聞記者とは、カミュの分身であろう。そこで、シナジーのメタファーは、「カミュと不条理に対する抵抗」にする。キリストの処刑同様にムルソーの呟きは、無実の罪によるものと作者は考えている。

花村嘉英(2020)「カミュの『異邦人』の執筆脳について」より
この記事へのコメント
コメントを書く

お名前:

メールアドレス:


ホームページアドレス:

コメント:

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバックURL
https://fanblogs.jp/tb/12712321
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。

この記事へのトラックバック
ファン
検索
<< 2024年09月 >>
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30          
最新記事
写真ギャラリー
最新コメント
タグクラウド
カテゴリーアーカイブ
プロフィール
花村嘉英さんの画像
花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
プロフィール
×

この広告は30日以上新しい記事の更新がないブログに表示されております。