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2024年09月20日

エリアス・カネッティの『マラケシュの声』の執筆脳について3

3 「マラケシュの声」の五感を交えたLのストーリー

 「マラケシュの声」の購読脳を「観察と叙事」にする。駱駝との出会い、商業地区の強い臭いなど五感表現に特徴があるエリアス・カネッティは、佐藤(1979)によると、戦後の現代文明を分析し、叙事的な才能と深い思弁能力を兼ね備えた文化観察者である。確かにマラケシュで遭遇した事実をありのままに述べていく。しかし、カネッティの文体では、接続法のU式による推測が読者の注目を引く。
 カネッティは、マラケシュ滞在中に見た光景を描いていくため、視覚情報もさること、追想の記事には叫びや臭い、味、接触といった感覚情報も考察の対象になっている。こうした感覚情報からカネッティの執筆時の脳の活動を探るために、まず五感情報の伝達の様子についてまとめてみよう。
 カネッティが場面を説明する際に視覚や聴覚そして嗅覚を使用するため、外界からの刺激が最終的に伝わる大脳皮質のうち後頭葉や聴覚野そして嗅覚野が分析のヒントになる。特に、嗅覚は、他の五感と異なり大脳辺縁系にダイレクトに伝わり、喜怒哀楽や本能的な快不快など人間の情動に深く関わっている。一方、他の感覚の刺激は、視床を経由して大脳へと伝わる。「森鴎外と感情」というシナジーのメタファーを取り上げた際にも、本能を司る情動については説明している。(花村2017)
 一方、共生の読みは、叙事を好むカネッティの文体から「分析と思弁」にする。経験によることなく合理的な判断による理性を根拠に純粋な思考だけで作品が構成される。つまり、課題や問題が与えられたときに生じる一連の精神活動の流れを経て、周囲の状況に応じた現実的な判断や結論へと至っている。Lの縦横で信号の流れは、何かの分析→直感→専門家を想定する。また、縦横の中間にロジックが入ればミクロとマクロの間に来るメゾのデータは安定する。

花村嘉英(2019)「エリアス・カネッティの『マラケシュの声』の執筆脳について」より
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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
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