2019年05月21日

クロア篇−終章6

 賊の襲撃があった翌日、賊の捕縛に功労のあった者をいたわる祝勝会が開かれた。大飯食らいのリックを考慮し、大量の食事が用意される。またしても料理人たちは過重労働に悲鳴をあげたそうだが、これが最後だと思うと料理の品質に手抜きはなかった。
 この一件に多大に貢献したチュールとミアキスも宴会に参加した。女剣士は物静かに果物をつまんでおり、その横でマキシがしきりに取材する。女剣士は魔獣学者をうっとうしそうに見るが、拒絶はしなかった。
 男剣士は左右にレジィとエメリをはべらせ、女好きぶりを見せつけた。クロアが事前に「スケベなことをしたら殴り倒す」と脅しをかけておいたので、淫猥な行動は起きずにすんでいる。
 そのほか、騎兵の指揮にあたったルッツがボーゼンによる武官への勧誘を受けていたり、幼馴染だというティオとオゼが楽しげに話していたりと、一帯は宴らしくにぎわった。その中でクロアはタオと話していた。彼は今回の騒動の最中、怪我人の治療に大いに活躍したという。その功績にクロアが礼を述べ、報酬について問う。
「希望の褒美はありますの? そういえば、わたしをどこかに連れて行く、という話も」
「それはもう果たした。ヴラドの館のことだったんだ」
「え? じゃあ……お出かけは無し?」
「そうなるな」
 クロアはせっかくの外出の機会がなくなってしまったことを残念がる。
「んー、ほかにどこかいいところがありませんの?」
「私と同行することで行ける場所、といえば魔界だろうが……行きたいか?」
「なかなか興味深いですわね」
 噂によれば魔界とは危険の多い場所だという。クロア単独で行くのは無謀だが、土地勘のある者の案内があればきっと大事には至らない。そう考えると、よい機会だとクロアは思う。
「町のごたごたが落ち着いたら、連れていってくれます?」
「わかった、しばらくここに滞在しよう」
「あなたでしたらきっと、みなが放っておきませんわ」
「それはかまわないが、さきにヴラドの寝床を用意しなくては」
「ヴラドの寝床?」
 魔人の居候には適当な空き部屋を提供する、とだけクロアは想定していた。どうもそれでは不十分らしい。
「普通の寝台ではダメだ。ほこり除けがいる」
「よそのお宅でも、ヴラドはほこりを被るくらい寝続けるというの?」
「実際にどう活動するかは知らない。だが、ほこり除けがあればやつは気に入る」
「ではそういったものをさがしてみます。その助言、ありがたく参考にしますわ」
 クロアの感謝の言葉を、なぜかタオは気難しい顔で受け取った。クロアは不思議がって「どうかなさいまして?」と聞く。
「わたくし、変なことを言ったかしら」
「いや……貴女はお人好しだな、と思って」
「そうかしら。だって、わたくしがヴラドをここに住まわせると言い出したのですのよ」
「そこが意外だった。ヴラドはひとりで館にもどると言ったんだろう? それを断ってまで面倒事をしょいこむところが、お人好しだ」
「だって、お母さまはヴラドのことがお好きなんですもの。これでお母さまがヴラドをきらっておいでだったら、こんなことしてませんわ。そのときはどんな手を使ってでも、わたくしがヴラドを追い返してやります」
「それも極端な話だな……」
 タオの表情に笑みがこぼれた。クロアも多少過激な発言をした自覚はあったので、この発言は冗談だとばかりに笑んだ。
 談笑するクロアにダムトが近寄ってきた。彼は当初、宴会に不参加だった。
「報告します。これ以上の町中の賊の足取りはつかめず、捕まえた八名で全員だと結論が出ました」
「そう、お疲れさま。これで今日の仕事はおわったわね。あなたも宴会に加わりなさい」
 ダムトはクロアの隣りの席に座る。彼は飲食物に手を付けず、周囲の者を観察した。
「ところで、アンペレ公の実子ではないという公表をする、というのは本気か?」
 タオが質問してきた。クロアは「宴会が終わったらやりますわ」と答えた。
「みなが気分をよくしたところに、冷や水をかけるわけか」
「いいじゃありませんの。いつまでも祭り気分でいてはいけませんし」
「よくもそんな理屈がこねれるな」
 タオの意見にダムトも同調する。
「だまっておけば丸くおさまるでしょうに」
「わたしがスッキリできないんだもの。そんな気持ちで何十年とこの町にいたくないわ」
「まったく、難儀な人ですね」
「そんなの、わかりきったことでしょ。それを知っててなんでわたしに仕え続けるの?」
「あなたのようなハチャメチャな人が領主になる可能性があると思うと、この土地の行く末が不安でたまらなかったものですから」
 従者の毒舌は快調だ。クロアは彼の毒を無視して、起こりうる未来を問う。
「領主になれないかもしれないわ。もしわたしが平民になったら、あなたはどうする?」
「従者を辞めて、各地を放浪しますかね。一人旅はつまらないので、退屈しない方と同行します」
「たとえばわたしはどう?」
「そうですね……貴女で手を打ってさしあげてもよろしいですよ」
 クロアは「まあ、えらそうに」と笑顔で反抗した。ダムトの言葉は不遜であっても情が感じられる。彼もまた、クロアの身分がどうあろうと友でいてくれる存在だとわかる。
(これだけの友人がいたら……わたし、公女でなくなってもさびしくないわ)
 クロアはこの場にいる獣の友を、目のとどく範囲でさがした。猫型の友は壁側に設置した椅子の上で、のびのびと寝ている。いつもと変わらぬ、すこやかな寝姿だ。そののんびりとした光景を見ると、胸がじんわりとあたたかくなった。

タグ:クロア
posted by 三利実巳 at 00:15 | Comment(0) | 長編クロア
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