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2020年04月20日
「10万円」だけでは弱い 安倍政権は何故「休業補償」をしないのか
「10万円」だけでは弱い
安倍政権は何故 「休業補償」をしないのか
〜現代ビジネス 橋 洋一 4/20(月) 6:31配信〜
「1世帯30万円」は理解不能だった
先週末の4月17日、安倍首相のちゃぶ台返しがあった。「所得制限つき、1世帯あたり30万円の現金給付」が覆り「所得制限なし、1人一律10万円の現金給付」と為った。これ迄の本コラムの読者であれば、この政策変更は正しいと考える筈だ。筆者は評価する。
4月7日に閣議決定された緊急経済対策で、1世帯に30万円を所得制限つきで現金給付すると決定したが、余りに不評だった。本コラムでも指摘したが、国民の所得が行政当局に判るのは後1年先である。そうした状況で、個人の所得が低下した事を申告により客観的に判断するのは先ず無理だ。
総務省による実施要領をみても「世帯主の月間収入(本年2月〜6月の任意の月)が新型コロナウイルス感染症発生前に比べて減少し、且つ年間ベースに引き直すと住民税非課税水準と為る低所得世帯を対象とする」など、元役人の筆者から見ても理解不能だった。
世帯主の収入だけを見れば好いのか「任意の月」とは2月〜6月の5つの内好きなものを選ぶと云う意味で好いのか「年間ベースに引き直す」とはどの様な作業なのか等疑問は尽き無い。こう為ると「言い値」で申請して呉れ、という事に為り、不正申請も多く為るだろうし誰にも正確にチェック出来無く為るだろう。
詰り「1世帯に30万円を所得制限付きで給付」と云うのは、こうした非常時には不適切な制度だ。それが撤回されたのは、末端の事務的混乱を避ける意味でも必然だったと筆者は思っている。
「これで終わり」では無い
報道では、公明党の山口那津男代表が安倍首相に強く働きかけたと云う。その結果、4月7日、緊急経済対策の発表と同日に閣議決定された令和2年度補正予算案は、組み換えられる事と為った。
新聞では「異例」とか「安倍首相の面子丸つぶれ」とか書かれて居るが、制度的に欠陥の有るものをストップした事は、国民に取って好い選択だった。最も、こうした非常事態では簡素でスピーディな制度の方が望ましいので、初めから「所得制限なし、一律10万円」にした方が好かった。
もともと、安倍首相や山口代表は「一律10万円」派で在ったが、麻生財務相・岸田政調会長と財務省の「所得制限つき一世帯30万円」案に押されてしまった。何れにせよ正されて好かった。
財務省が「所得制限つき」を主張したのは、表向きは生活に困って居る世帯への支援と云う名目で有るが、実際の理由は所得制限をする事で予算総額を抑えられるからだ。所得制限つき一世帯30万円では4兆円の国費が必要だが、所得制限なし一律10万円なら12兆円に増える。
何はともあれ、この安倍首相のちゃぶ台返しにより、所謂「真水」が25兆円程度に為った。マクロ経済効果としてはこの方が大きい。コロナショックは、最近のIMFの経済見通しに依れば「大恐慌以来」と云われる程だから、対策としてはこちらが望ましい。但し、これで終わりと云う訳にもいか無い。次の経済対策の手を打つ必要がある。何が考えられるのか。
まずは「休業補償」を急げ
先ず第一には、休業補償だ。前提と為るのは、これ迄の7都府県だけで無く全国の都道府県に拡大された緊急事態宣言である。これも4月17日に発表された。安倍首相は、人との接触率を7〜8割減少する様に国民に訴え掛けて居る。
これは、複雑な数理モデルから導き出される答えであるが、筆者は諸々の現状を考えると、国民への訴えとして妥当な内容と考えている。これに就いては、筆者に評論家の須田慎一郎氏が質問をして居るので、それに答える事として居る。20日以降に、「ニューソク通信社」https://www.youtube.com/channel/UCf12PYOjXPjX38TFvPNm37gにアップされる筈だ。
但し、これを実行する為には、現在の自粛要請の法的根拠である改正された新型インフルエンザ等対策特別措置法では心許ない。ソモソモ諸外国と異なり、日本では外出禁止を要請しても罰則が無い。民主党政権時代に作られた法律なので、私権制限の側面は殆ど無い。
それなのに、恰も政府が十分な私権制限が出来る歌謡に改正法を批判して居た人も居たが、今はダンマリだ。緊急事態宣言を出すと、憲法での非常事態条項まで議論が及ぶから、緊急事態宣言をすべきでないといった本末転倒な議論すらあった。そうした人々は何処に消えたのだろうか。
そうした議論は、現在の様な非常事態では出来無い。と為ると、国民全員に給付金をバラ撒き、協力して貰うしかない。その意味で、全国への緊急事態宣言と、全国民へ一律10万円給付は時宜を得た政策だ。
未だ「緊縮病」は根強い
一方、企業や事業者は休業自粛で、最早倒産寸前の処も増えて居る。先週の本コラムで、筆者は磯崎陽輔元参院議員の「休業補償したら財政破綻する」とのツイートを批判した。一般論だが、事業が厳しく為ると、事業主は経費を減らそうとする。この時、人件費迄削減すると休業や解雇に繋がる。
解雇の場合、労働者には失業保険が手当され、休業の場合には事業主に手当に要した費用が雇用調整助成金として支給される。共に、原資は事業主と労働者が雇用保険としてこれ迄毎月支払って来たカネで、雇用を守る為のセーフティネットだ。
どちらも不正受給はいけ無いが、これ迄労使が雇用保険料を支払い確りと積み上げて来たものであるので、法律に基づくものは大いに活用して好い。
尚、雇用調整助成金は、ナカナカ審査が通ら無いと云う話もあるが、それではこれ迄何の為に雇用保険料を支払って来たのか。官僚は自らの天下り先には潤沢に資金を使って来たではないか。国民は、そうした事を好く覚えて居るものだ。
国は未だ休業補償に及び腰であるが、雇用調整助成金の枠組みの中では、或る程度の対応をしようとして居る。これは、経費の内人件費以外の固定費等に付いては補償したく無い、人件費の部分はこれ迄労使が支払って来た雇用保険料で賄う・・・と云う意思表示だ。
結局の処、雇用調整助成金は事業主が払って来たにも関わらず、イザと為ると「恵んで遣る」と云うお上目線で、緊縮病のケチケチ根性丸出しなのだ。
10兆円は捻出出来る
では休業補償には、一体どれ位の金額が必要なのか。大雑把ではあるが考えてみよう。緊急事態宣言の対象は全都道府県に拡大されたが、全国のGDP合計は500兆円。休業要請するのは、経済活動別分類で云えば、宿泊・飲食サービス業、教育、その他のサービスが中心だ。
それ等の付加価値額が全体の10%程度として、経費と利益を全て補償したとすれば年間ベース50兆円。仮に補償期間を3ヵ月として経費率8割とすれば、経費全てを補償する場合、50×0.25×0.8=10兆円 全額で無く8割補償とすれば、必要金額は8兆円程度にしか為ら無い。
この程度であれば、国債を発行し日銀が買いオペ対象にするだけで、インフレを起こす事も無く簡単に捻出出来る。ソモソモ、本コラムで何度も指摘して来た事だが、筆者は「100兆円基金」で在ってもインフレ無しで用意出来ると云う立場なので、非常時に於いては、この程度のカネを用意して政策に使う事は当然だと思っている。
一方、地方公共団体には、日銀の通貨発行益と云う奥の手は無い。財政余裕度を示す財政調整基金(2018年度末)に付いてベスト5を書けば、東京都は8,428億円だが、大阪府1,489億円、愛知県1,102億円、神奈川591億円、千葉465億円と云う状況で、1兆円を超す支出を地方公共団体に求める事は到底出来無い。
財政に余力の有る東京都は、1店舗50万円・2点店舗以上の事業者に100万円と休業要請に応じた事業者に給付金を出せる。大阪府は個人事業者に50万円・中小企業に100万円と頑張って居る。隣の兵庫県は、大阪府に倣った様に見える。しかし、個人事業者に最大50万円・中小企業に最大100万円と、何れも「最大」が付いて居る。財政調整基金29億円(全国44位)の兵庫県では、最大で対応するのは難しいだろう。
地方自治体は夫々頑張って居るが、此処は国の出番だ。政府は緊急経済対策に於いて、地方創生臨時交付金1兆円として居るが、それを10兆円位に増額し、地方自治体の休業補償を支援したら好い。
奥の手もある
次の一手としては、消費減税も未だ有る。コロナショックが収まる迄経済活動は縮小するだろうから「10万円給付」は今回だけでは無く次も有効な対策である。中小企業向けの持続化給付金・一般企業向けの雇用調整助成金・失業者向けの雇用保険給付等もあるが、筆者としては、消費を戻す為に、その前に消費減税を主張したい。
ソモソモ、消費増税を昨年10月に遣ら無ければ、ここ迄経済は低迷しなかった。それに安倍首相は「リーマンショック級の事が起こら無ければ消費増税」すると言ったが、実際にリーマンショック級、それ以上の事がコロナショックで起こったのだ。であれば、消費減税をする大義名分がある。安倍首相には思い切った休業補償と消費減税を、次の「ちゃぶ台返し」で打ち出して欲しい。
最後に、感染拡大の状況を見て置こう。4月7日の緊急事態宣言の効果が、今後1週間以内に出て来るだろう。その効果を見極めるには、その後更に1週間を要する。そして5月6日以降、宣言が再延長されるかどうかと云う判断に為る。来週の本コラムではどの様な事が言えるのか、今は未だ判らない。
橋 洋一 経済学者 以上
国民の恐怖に全く無関心 コロナが暴いた安倍首相のヤバい資質
国民の恐怖に全く無関心
コロナが暴いた安倍首相のヤバい資質
〜現代ビジネス 4/19(日) 6:01配信〜
野口 悠紀雄 早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問
コロナウイルス禍で、様々な事がアカラサマに為った。政治家の資質もそうだ。一方の極に、明確な哲学に基づき感動的な言葉で国民に犠牲と協力を求め、政府が行う事を約束したドイツ首相のメルケル。そして、もう一方の極には・・・国民の恐怖に全く無関心な指導者の存在が在る。
危機に当たって国民の先頭に立ったエリザベス1世
国が存亡の危機に直面した時、先頭に立って国民を奮い立たせた指導者は、歴史上何人も居る。1588年7月、イングランド沖にスペイン無敵艦隊が、イングランドに神の鉄槌を下すべくその威容を現した。エリザベス女王は、捕らえられて火炙りにされる事を覚悟したに違い無い。彼女は、鎧に身を固め、捕虜に為る危険を冒して最前線に赴き全軍の先頭に立った。そして、歴史に残る演説(ティルベリー演説)を行なった。
我が愛する民よ(My loving people) 貴方達の中で生き、そして死ぬ為に、戦いの熱気の真っ只中に私は来た。例え塵に為ろうとも・・・我が神、我が王国、我が民、我が名誉、そして我が血の為に!
これを聞いた兵士達は、例え死んでも悔いは無いと思ったに違い無い。
国民に犠牲を求め、政府の役割を約束したメルケル
ドイツ首相のメルケルは、3月18日に、実に感動的でしかも明確な内容の演説を行なった。先ず、
「全ての国民の皆さんが、この課題を自分の任務として理解された為らば、この課題は達成される、私はそう確信して居ます。ですから申し上げます。事態は深刻です。(中略)第2次世界大戦以来、我が国に於いてこれ程迄に一致団結を要する挑戦は無かったのです」と、問題の深刻さを規定した。そして、継ぎに「公的な生活を中止すること」が必要だとした。但し、
「理性と将来を見据えた判断を持って国家が機能し続ける様、供給は引き続き確保され、可能な限り多くの経済活動が維持出来る様にします」とした。
更に「経済的影響を緩和させる為、そして何よりも皆さんの職場が確保される様、連邦政府は出来る限りの事をして好きます。企業と従業員がこの困難な試練を乗越える為に必要なものを支援して行きます。そして安心して頂きたいのは、食糧の供給に着いては心配無用であり、スーパーの棚が1日で空に為ったとしても直ぐに補充される」と、政府の役割を約束した。
最後に「私達がどれ程脆弱であるか、どれ程他者の思い遣り在る行動に依存して居るかと云う事、それと同時に、私達が協力し合う事でいかにお互いを守り、強める事が出来るかと云う事です。状況は深刻で未解決ですが、お互いが規律を遵守し、実行する事で状況は変わって行くでしょう」とした。
今国家の指導者が為すべき事は「この危機と恐怖に耐え抜いて欲しい、私も全力を尽くす」と自分の言葉で訴える事だ。メルケルのこの演説は、全てのドイツ国民の心を動かすものだった。こうした指導者を持つドイツ国民を、心底羨ましく思う。言葉だけでは無い。ドイツの医療は機能し続けて居り、死亡率は欧米諸国の中で目立って低い。
「私は犬を抱いて自宅で寛いで居るよ」
それに比べて、我が国の首相は何をしたか? 4月12日「私は犬を抱いて自宅で寛いで居るよ」と云う動画が「うちで踊ろう」と云う音楽と共にSNSに流された。これを見た多くの国民は「コレが本当に首相の投稿で在る筈は無い。悪質なフェイクだ」と思った。「何か月も前に撮影されたものを、首相を中傷する為、誰かが、今そうして居るかの様に投稿したのだ」と思った。
しかし、これは本当に首相が流したものだった。在り得ない事ではないか? 我々は、今極限の恐怖の中に居る。医療が崩壊しつつ有るので、コロナに感染したらどう扱われるか分から無い。これは、底知れぬ恐怖だ。
持病が悪化しても、恐くて病院に行け無い。医療関係者他ちは、医療崩壊寸前の現場で必死の努力を続けて居る。在宅勤務せよと政府は言っているが、満員電車で通勤しなくては為ら無い人が沢山居る。収入が激減したので、これから生活を維持出来るかどうか分から無い。メルケルが正しく指摘して居る様に、これは、第2次大戦以降、経験した事が無かった事態だ。
そうした中で、最高権力者とその周りの人々だけが、この恐怖から逃れて居る。コロナは誰にも平等と云うが、感染した場合の扱われ方は違う。彼等は、熱が出ても保健所に連絡して指示を受ける必要は無いだろう。そうし無くとも手厚く看護される。そして、所得減少は歳費削減2割だけだ。
国民が極限の恐怖に直面する中で、恐怖を全く感じて居ない人達が居ると云う事が良く分かった。私の友人が2月下旬に言った。「コロナに感染するなら早い方が好い。入院出来るから。医療が崩壊 してからでは放置される」そして、「権力者はこの恐怖は理解出来無いだろう」と言った。余りに恐ろしい予言なので何とか忘れ様として居たが、思い出してしまった。
「うちで踊ろう」と云うのだが、今の日本で踊りたく為る人が一体何人居るのだろう? 国家が破綻するかも知れないと云う事態に於いて、犬を抱いて寛いで居られる人が居る。それは冷厳たる事実だ。しかし、塗炭の苦しみに喘ぐ国民にその姿をワザワザ見せる必要は無い。
暴動が起き無いのは、暴動を起こす余裕さえ国民が持って居ないからだ。あのトランプでさえ、戦時大統領だと言って居る。エリザベスやメルケルには比ぶべくも無いが、それでも、寝食を忘れて危機に当たると云うメッセージを国民に送って居るのだ。世界の指導者の中で「私は、今、自宅で優雅に寛いで居ます」と公言した人が居るだろうか?
経済対策 国は国民を見捨てた
この首相が率いる政府は、コロナ感染に対して何をして呉れたか? 4月7日に、新型コロナウイルス感染症緊急経済対策が閣議決定された。先ず、布マスクを全家計に配る事とされた。何の為に配るのか? 布マスクは感染拡大を防止があるとは言われて居ないので、これで何が出来るのか? 心理的な安心感か?
これに必要な費用は466億円と言われる。遣るべき事は幾らでも有るのに、それに充てる財源が466億円消えて無く為る。こうした政策でも、実行を強いられる現場には大きな負担に為る。そのマイナス効果の方がズッと大きい。
役所の下っ端で働いた経験から言うと、遣り甲斐の有る仕事なら、ドンなに辛くても耐えられる。しかし、馬鹿気た仕事で深夜2時迄振り回されるのは耐えられ無い。 次に現金給付30万円。これは散々批判を浴びた後、連立与党・公明党の強硬な抗議も在って4月17日に一律10万円給付に異例の変更が行われた。
ソモソモ、この制度は悪用される危険があった。悪徳経営者なら、先ず所得制限を満たす従業員の給与を減らす。現金給付を受け取らせてその穴埋めをさせる。これだけで巨額の収入!減収証明書の偽造対策を講じると云う。しかし、雇い主が給与を実際に切り下げ、被用者が30万円貰い後で山分けするのは偽造では無い。これにどう対処するのか?
現金給付の総額は、3兆円程度と言われる。その多くが、悪賢い人達の懐に入る。困って居る人と損害を受けた人を助けるので無く、悪賢い人達に不当な利益を与える制度に為る。こんな制度が現実に登場し、閣議決定される等信じられ無い。これは、マスク2枚の様にジョークでは済まされ無い問題だ。
そして、休業要請は自治体に任せるが、政府は範囲拡大には反対した。更に「強制で無く要請だから補償しない」として居る。
営業自粛しても、家賃、光熱費、維持費は払う必要がある。勿論、従業員の給与もある。関係者まで含めれば、収入減少者の範囲は極めて大きく為る。
マスクは配ったし、これから30万円配る。営業自粛要請や協力手当は自治体が遣って呉れる。政府は補償金を出さ無い。首相は自宅で寛ぐ。コレが、日本政府が発している明確なメッセージだ。要するに、国民は捨てられたのだ。こうしたメッセージを明確に出して居る国は他に無い。
繰り返すが、メルケルは「企業と従業員がこの困難な試練を乗越える為に必要なものを支援して好きます」と約束して居るのだ。
首を斬られる時、髭の心配をする政府
外出減少率は、目標で有る8割には為って居ない。本来であれば、政府は、十分な休業補償金を支出して休業要請をより厳格にし、コロナ感染 の拡大を何としても食い止め無ければ為ら無い。経済を意図的に落ち込ませる一方で、 連鎖倒産防止 の為に全力を尽くさ無ければ為ら無い。今迄経験した事の無かった難しい運営が求められている。これを実行するには、従来とは全く異なる発想が要求される。
イングランド銀行は、政府の短期国債を直接に引き受ける事に依って、市中にマネーを供給する。巨額の納税猶予や賃金補助を行なうからだ。日本でも、本当は同じ事が必要だ。日本でも、短期国債の日銀引き受け発行は、財政法第5条の下で可能な事だ。何の制度改正も必要無く、政府が決断するだけで出来る。
だから、休業補償金も、年度内に審査して一部は回収する給付金にすれば、必要なだけ幾らでも給付出来る。それにも関わらず、麻生財務相は「経済対策とプライマリーバランスの関係を考慮する必要がある」とした。
財政健全化は、平時に於いて重要な目標だ。コレと緊急時の対応を混同しては為ら無い。財政の健全性は、中長期的な観点から必要とされる事だ。現在の様な異常時にそれに拘り、納税猶予や休業補償を中途半端なものにすれば、経済が立ち行か無く為る。
今は、全てに優先して感染拡大を防止し無くては為ら無い。黒沢明監督「7人の侍」で、野武士の襲撃から村を守る為、侍を雇おうとする提案を村人達で協議する場面がある。「娘が心配だ」と云う声が上がる。長老は一喝した。「野伏せり来るだぞ! 首が飛ぶつうのに、ヒゲの心配してどうするだ!」今の日本政府の指導者達は、是非、この言葉を思い出して欲しい。
コロナが暴いたもの
コロナ後の世界(それが実現する事を、何と切望する事だろう)は、今年2月迄の世界の連続では有り得ない。余りに多くの虚構が暴かれてしまったからだ。コロナが去った時、我々は只呆然と立ち竦むだけだろう。コロナ は、様々なものの本当の姿を暴いてしまった。政治家の資質、所得が消滅して行く経済で国が何を無しうるか。権力者が本当は何を考えて居るのか。今年1月の古新聞を見る。アノ頃の世界の、何と平和だった事か。
野口 悠紀雄 早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問
スワローズファン必携【スワローズカード】
2020年04月19日
「無策な安倍政権」を未だに支持し続ける人が居る理由 内田樹の緊急提言
「無策な安倍政権」を未だに支持し続ける人が居る理由
内田樹の緊急提言
〜文春オンライン 内田樹 4/19(日) 11:00配信〜
内田 樹氏
新型コロナウィルス禍への日本政府の対応は「サル化」の一例に過ぎない。「今さえ好ければ」と考える「サル」から脱却し長い目で考える時間意識を取り戻さ無ければ明日は無い。
『 サル化する世界 』と云う本を書きました。こう云うタイトルにしたのは、この四半世紀程で日本人の考え方がハッキリ変わった様に思えたからです。と云っても、人間が別のものに生まれ変わったとか、新しい段階に至ったと云う事ではありません。人間を取り巻く環境が変化し、それを取り込んで人間の意識も変化したと云う事です。最も変化したのは時間意識です。
僕が生まれた1950年の日本の労働人口の50%は農業従事者でした。人々はソレと気付かずに「農業的な時間」「農事暦」を呼吸して生きて居た。朝日と共に起きて陽が落ちたら眠る・・・春に種を蒔き、日照りや冷夏や風水害や病虫害を恐れ、無事に秋を迎えたら収穫を寿(ことほ)ぐ・・・そう云う「農業的な時間」の中で生きて居ました。それが日本人の時間意識の土台を形作って居た。
会社の「有るべき姿」より当期の数字が優先する
しかし、それから70年経って産業構造が高次化して行くに連れて、日本人の時間意識もその時代に支配的な産業構造に適応して変化して行った。そして、今はグローバルスケールで展開する金融資本主義の「取引の時間」に人間の方が適応馴化(てきおうじゅんか)させられて居る。
今、金融商品の取引は1,000分の1秒単位でアルゴリズムが行って居ます。だから、経営者達は当期より先の事は考え無く為りました、考えても仕方が無いからです。収益が悪化して株価が下がれば先が無い。10年後・20年後の会社の「有るべき姿」より当期の数字が優先する。
我が社の設立意図は何で在ったかと云う様な事は誰も覚えてサエ居ない。今の企業には過去も未来も無いと云う事です。この忙(せわ)しない時間に馴染んだ人からは、長いタイムスパンの中で己の行動の適否を思量すると云う習慣そのものが失われた。
別に頭が悪く為ったとか人間性が劣化したと云う話ではありません。時間意識が環境に適応して変わっただけです。1,000分の1秒の世界にリアリティーを感じる人間は、もう「農業的な時間」を殊の良否を考量する「ものさし」には使わ無く為ったと云う事です。
「今さえ好ければ、未来の自分がどう為ろうと知った事か」
しかし、極短いタイムスパンでしかものを考えられ無いと云う縮減された時間意識に馴染んでしまうと、もう人間的成熟と云う事そのものが望め無く為る。「自己陶冶(じことうや)」と云うのは、長い時間を掛けてジックリと己を熟成させる事です。
過去を振り返り未来を遠く望み、今此処で自分は何を為すべきかを熟慮する。モッと成熟した人は「世界の始まり」から「世界の終わり」に至る広漠たる宇宙的な時間の中に身を置く事さえ出来る。
己の一生が一瞬に過ぎ無い事・己が踏破出来る空間が芥子粒(けしつぶ)程のものに過ぎ無い事を覚知して、その儚(はかな)さ卑小さの覚知を通じて、自分は今此処で何を為すべきかを考える。それは、時間意識が四半期に迄縮減した人には無理な話です。
「農業的な時間」さえ実感で気無い人達に「宇宙的時間」が実感出来る筈も無い。ですから「自己陶冶」と云う言葉そのものが死語に為ってしまった。陶器を焼き金属を鋳造する様なユッタリした時間を経て、次第に形成されて行くものとして自分を捉える事が無く為った。
「朝三暮四」(ちょうさんぼし)の故事が教える様に、縮減した時間意識の内に生きる人は「朝方の自分」が「夕方の自分」と同一で在ると云う実感さえ無い。「今さえ好ければ、未来の自分がどう為ろうと知った事か」と云う刹那主義に陥り「こんな事を何時までも続けて居たら何時か大変な事に為る」と判って居ても「何時か」にリアリティーを感じられ無いので「こんな事」をダラダラと続ける。そう云う傾向の事を僕は「サル化」と呼んだのです。
コロナ禍に見る「最悪の事態」を想定しない日本人
日本の新型コロナウィルス禍への対策のドタバタ振りは「サル化」の好個の例です。危機管理に必要なのは、過去の出来事を記憶する力と未来のリスクを想像する力です。
過去の事例を振り返って同じ失敗を繰り返さ無い様に,改めるべき点を改める。未来に付いては「最悪の事態」を想定して、その被害を最小化する手立てを工夫する。「もう過ぎてしまった事」と「未だ起きて居ない事」に 有り有りとしたリアリティーを感じる感受性が無いと危機管理は出来無い。
しかし、今の日本人はそれが出来ません。過去の失敗の事は忘れてソコから何も学ば無い、不測の事態には備え無い。プランAが失敗した場合のプランB・プランCを考えて置くと云う事をしない。「参謀本部の立案した作戦が全て成功したら皇軍大勝利」と云うノモンハンやインパール以来のメンタリティから何も変わって居ません。
「最悪の事態」を想定して、どの場合にどう遣って被害を最小化するかと云う議論を始めると「縁起でも無い事をするな」と遮(さえぎ)られる。ソンな事を考えると悲観的に為り意気阻喪(いきそそう)すると云うのです。そして、最悪の事態に備えると云う発想そのものが敗北主義として退けられる。「敗北主義者が敗北を呼び込むのだ」と嫌われる。僕は武道家ですから最悪の事態に備えるのが習い性ですが、日本社会ではそれが通りません。
コロナは世界各国に配布された「センター試験」
今回の新型コロナウィルスに依るパンデミックは「センター試験」の様なものだと僕は思って居ます。コロナウィルス禍にどう適切に対応すべきかと云う「問題」が世界各国に同時に配布された。未だ誰も正解を知ら無い、条件は同じです。
他の問題でしたら・・・外交でも財政でも教育や医療でも、国毎に抱える問題は違います。だから、簡単に比較する事は出来ません。でも、このパンデミックは違う。全ての国が同じ条件で適切な対応を求められて居る。
そして、アジアでは、今の処、台湾・韓国・中国が感染拡大を阻止する事に成功して居るらしい。そして、「こうすれば感染拡大は防げる」と云う教訓を開示した。都市封鎖・感染者の完全隔離・個人情報の開示と徹底的な検査・・・と夫々に遣り方は違いますが、兎に角ホボ抑え込んだ。
でも、日本は何一つ成功して居ません。世界に「こうすれば、抑えられる」と報告出来る成果が一つも無い。幸い日本は深刻な感染爆発に至って居ませんけれど、それがどの様な防疫政策の「成果」なのかは誰も知ら無い。検査数を抑えて居るだけで、実は感染の実態を政府も把握して居ないのでは無いかと云う疑念が海外メディアから呈示されて居ますが、政府はそれに対して説得力の有る説明をして居ません。
中韓に学ぶ事が出来無い安倍政権
日韓はホボ同じ時期に感染が始まりました。韓国は終息に向かって居り「こうすれば大丈夫」と云う経験知を積み上げて居ます。日本では深刻な感染爆発は未だ起きて居ないけれど、それを抑止する手立てを講じたからではありません。
朝令暮改的な指示を出して「遣って居る感」を演出して居るだけです。国内メディアはそれでも誤魔化せるでしょうけれども海外メディアは容赦有りません。諸国は先行する成功事例に学ぼうとして居ます。何処も中国の都市封鎖策に、韓国・台湾が実施した完全隔離・検査体制の充実と云う成功例を組み合わせた「解答」を真似し始めた。
パンデミックに付いては「カンニング」は有りです。真似出来る成功事例は何でも真似すれば好い。それが人類の為なんですから。
でも、日本はそれが出来無い。安倍政権のコアな支持層は、嫌韓・嫌中言説を撒き散らして来た人達です。韓国・中国の成功例を真似する事は「中韓の風下に立つ」事であり、安倍政権の支持層に取っては耐え難い屈辱だからです。
だから、政府はその支持層に配慮して「日本独自」の感染防止策を実施して居る様に見せ掛ける事に懸命に為って居る。しかし、そんな独創的なアイディアを立てられる様な能力は日本政府には有りません。
コロナ対応で明暗分かれたアメリカと中国
パンデミックと云う最悪の事態に備えて、感染症対策に予算を注ぎ込んで居れば「日本独自」の防疫策を提言出来る体制が出来て居たかも知れません。しかし、日本社会では「最悪の事態に備える」事は敗北主義なので、日本版CDC・疾病管理予防センターも遂に作られ無いママこの事態を迎えてしまったのでした。
ですから、コロナウィルス禍が終息した時に、日本は防疫対策では「先進国で最低点」に近い評価を覚悟し無ければ為ら無いでしょう。でも、それは偶然の不運では無く、日本人の「最悪の事態に備え無い」傾向がもたらした必然的な帰結なのです。
コロナウィルス禍でトランプ大統領もその危機管理能力の低さを露呈しました。「アメリカ・ファースト」政策に依って国際協調に背を向けて来たアメリカですが、今回のコロナ禍でもトランプは「アメリカさえ好ければそれで好い」と云う自国第一主義を剥き出しにし、秋の大統領選に備えて支持者へのアピールを優先させ、国際社会に対して指導的メッセージを発信するミッションを放棄しました。
その一方で、感染対策に付いて経験知を積んだ中国は、医療資源を世界各国に送り出して居ます。感染症が終息した時に、世界の多くの国が「アメリカやヨーロッパの国々が自国第一主義的に振る舞って居る中で、中国だけが支援の手を差し伸べて呉れた」と云う印象を持つ事に為ると思います。
習近平はコロナ禍を通じて「中国は寛大で友好的な大国」だと云うイメージを世界に宣布する事を目指して居ます。ロシアも積極的に他国に支援を送る事で国際的地位の向上を図って居ます。政治的意図はクールですが、行為そのものは人道的です。トランプは自分の目先だけのコロナ対応で、アメリカがどれ程国際的威信を失ったかに気が付いて居ない。
それにしても、どうしてこれ程無能無策な政権が40%を超える支持率を維持し続けて居るのでしょうか。イデオロギー的に安倍政権を支持して居ると云う人は、自民党支持層の半分以下だと思います。では、後の支持者達は何を支持して居るのか。
自分より「上位」の人を批判してはいけ無いと云う風潮
世論調査ではシバシバ「他に居ないから」と云うのが支持理由の第1位に挙げられます。それは言い換えると「安倍晋三が総理大臣に適格なのは現に総理大臣だから」と云うトートロジーに他なりません。コラムニストの小田嶋隆さんが、前にツイッターで麻生太郎を批判した事がありました。すると「そう云う事は自分が財務大臣に為ってから言え」と云うリプライが飛んで来たそうです。財務大臣以外に財務大臣の政策や資質の適否に付いて論じる資格は無いと。
このロジックは、実はこの10年程日本社会に広く蔓延して居るものです。僕も政治に付いて意見を言うと「だったら自分が国会議員に立候補しろ」と云う風に絡んで来る人が居ます。国会議員以外は国政に付いて議する資格は無いらしい。同じロジックをアチコチで聴きます。
ユーチューバーが他の人のコンテンツを批判したら「フォロワーが同じ位に為ってから言え」と言われ、ネットで富豪の言動を批判したら「アレ位金持ちに為ってから言え」と言われる。権力者や富裕者を批判することは、同レベルの権力者や富裕者だけにしか許され無いと云う不思議な論法が行き交って居るのです。
自分より「上位」の人間を批判する動機は嫉妬であり羨望である。そう為りたくても為れ無い人間の僻(ひが)みである、見苦しいから止めろと。それは要するに「絶対的な現状肯定」と云う事です。貧乏人や弱者は「身の程を知れ」「分際を弁(わきま)えろ」と云う事です。
「桜を見る会」の何処が悪いのかと不思議がる人も居る
そう云う言葉を口にするのが、実際にはお金も無い地位も無い社会的弱者で有る・・・と云うのが不可解です。桜を見る会の問題でも、総理大臣が自分の支持者を呼んで税金で接待する事の何処が悪いのか、と本気で不思議がって居る人が居ます。
別に好いじゃないか、何が悪いのか? 権力者と云うのは「何をしても罰され無い人」の事では無いのか? 法の支配に服し無い人の事では無いのか? 安倍晋三は権力者なのだから、何をしても罰され無いし法の支配に服さ無いで好い筈だ。
そう云うポストに就く為に久しく努力して来て、その甲斐在って権力者に為ったのだから、下々の者にそれを批判する権利は無い・・・批判したかったら自分が安倍晋三のポストに就いてミロ・・・と。そう云うロジックがリアリズムだと本気で信じて居る。
「身の程を知れ」と云う死語が甦って来た日本
僕の少年時代には「身の程を知れ」と言って叱り着ける大人が未だアチコチに居ました。でも、高度成長期を境にそんな事を言う大人は綺麗に居なく為った。当然です。高度成長と云うのは、国民全員が「身の程知らず」の欲望に焼かれ「分際を知らず」に枠を食み出し「身の丈に合わ無い」仕事を引き受けて、それに依って経済大国に成り上がった時代だからです。
国力が向上し、国運に勢いが有る時には誰も「身の程」ナンか考えやしません。真空管を作って居た町工場がハリウッドの映画会社を買収し・神戸の薬局が世界的スーパーに為り・宇部の紳士服店が世界的な衣料メーカーに為る時代に「身の程を知れ」と云うのは死語でした。でも、その死語が又甦って来た。それは日本の国力が低下し、国運が衰微して来た事の徴(しるし)です。
現政権が支持されて居るのは「日本が落ち目だから」
人間はパイが大きく為って居る時には分配比率を気にしません。自分のパイが前より増えて居ればそれで満足して居る。でも、一度パイが縮み始めると態度が一変する、隣の人間の取り分が気に為る。一体どういう基準で分配して居るのか査定基準を開示せよ・格付けのエビデンスを出せ・・・と云う様な事を言い出す。生産性がどうの社会的有用性がどうの成果がどうの・・・と煩く言い出すのは全て「貧乏臭さ」「ケチ臭さ」の徴候です「落ち目に為った国」に固有の現象です。
現政権が支持されて居るのは、端的に日本が落ち目だからです。貧乏臭い国では人々は隣人の「身の程知らず」の振る舞いを規制する事には随分熱心だけれども、創意工夫には何の関心も示さ無く為る。隣の人間の箸の上げ下ろしに迄煩く口を出すのは、限られた資源を奪い合う為です、国を豊かにする為では無い。
今は船が沈み掛かって居る時です。積み荷の分配で議論して居る暇は有りません。この船の船底の何処かに大穴が空いて居る。それを見付けて穴を塞ぐのが最優先です。その為の時間はもう余り残されて居ません。
内田 樹(うちだ たつる)思想家・武道家・神戸女学院大学名誉教授 1950年東京都生まれ 東京大学文学部仏文科卒業 東京都立大学大学院博士課程中退 専門はフランス現代思想 武道論・教育論・映画論等 凱風館館長 多田塾甲南合気会師範 著書に『ためらいの倫理学』(角川文庫)『街場のアメリカ論』(文春文庫)『私家版・ユダヤ文化論』(文春新書 第6回小林秀雄賞受賞)『日本辺境論』(新潮新書 新書大賞2010受賞)等がある 第3回伊丹十三賞受賞
週刊文春 2020年4月9日号 以上
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2020年04月16日
コロナ禍で 政府に中々伝わら無い国民の不安
コロナ禍で 政府に中々伝わら無い国民の不安
〜東洋経済オンライン 植田 統 4/16(木) 15:10配信〜
弁護士・名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授 植田 統氏
新型コロナウイルスの感染拡大には未だに収束の兆しが見え無い。政府のコロナ対策の遅れには国民から批判が集まったが、緊急事態宣言は小池百合子都知事や国民の声に押されて4月7日に発出された。政府は11日に為って基本的対処方針を変更し、全国的に飲食店等への外出自粛を強く促すとしたが、7都府県の知事との隔たりも生じて居る。
政府に対して新型コロナ対策に対する後ろ向きの態度を感じて居る読者も多いのではないだろうか。11日には安倍晋三首相から「出勤者が多過ぎる、7割の社員は在宅勤務にして欲しい」と云う要請も出て来た。更に12日には安倍首相に依る星野源とのコラボ動画のSNSへの投稿も炎上した。恐らく自宅で過ごそうと云う呼び掛けで在ったのであろうが、一部の国民からは・・・生活出来無い人が居るのに優雅過ぎると批判を招いた。
国民の多くが466億円も掛けて全世帯に配布をして欲しいとは思って居ないアベノマスクも、もう17日以降には家に届き始めてしまう。筆者も、こうした政府の遅過ぎる対応・一貫性の無い対応・的外れな対応を批判したいのは山々である。しかし、批判だけをして居ても、政府には国民が何を政府に期待して居るのかが伝わら無い。ソコで、本稿では「新型コロナ対応で政府に遣って欲しい事」と題して、具体的提言をしてみたいと思う。
医療機関への経済的支援
医療の現場では、通常の患者への対応に加えて、新型コロナの感染が疑われる患者・感染した患者が急増して来た。この事から、医師や看護師、その他医療従事者への仕事の負荷が高まり、最早現場は限界に近付いて居る。仕事が激務であるばかりでは無く、サージカルマスク・防護服・フェースシールド等の在庫も底を尽いて居る事から、医療従事者は最前線で感染の恐怖とも戦わざるを得ない。家族への感染を恐れて家に帰らず、病院に寝泊まりする医療従事者や車の中で一夜を明かす医療従事者が多く居ると云う。
こうした医療従事者を救う為に、彼等がホテルで休養を取れる様に宿泊費をサポートする事等を考えた方が好いのではないだろうか。
日本に在る特定感染症指定医療機関は4医療機関・第一種感染症指定医療機関は55医療機関・第二種感染症指定医療機関の内感染症病床を有する指定医療機関は351医療機関で有るから合計でも410医療機関。仮に1医療機関当たり1,000万円の支援を行ったとしても41億円の負担に留まる。2,000万円ずつ支援しても82億円だ。アベノマスクの466億円に比べれば、遥かに安く、且つ、効果的な支援で有る。政府は、早急に予算措置を講じて欲しい。
医療用品生産への投資と買い取り制度の創設
医療の現場では、サージカルマスク・防護服・フェースシールド等が大幅に不足して居る。厚生労働省の推計に依れば、当面必要な量は、サージカルマスクが2億7000万枚・防護服が180万枚・フェースシールドが900万枚との事であるが、厚生労働省が調達出来るのは、サージカルマスクで4月中に70万枚しか無く、防護服は月間の供給量が16万枚しか無いと云う状況である。
圧倒的な需要超過状態に有るのだから、異業種からの参入が在っても好さそうであるが、企業の動きは鈍い。サージカルマスク、特に高性能医療用マスクN95では1年程掛かる厚生労働省国家検定規格認証の壁が有る。防護服では安い輸入品と比較した場合、コストの壁が立ちハダカル。
更に、重症者の治療に必要と為る人工呼吸器も不足して居る。アメリカでは、GM・フォード・クライスラーの自動車メーカーが、医療機器メーカーと連携して生産を開始する。アメリカ政府が民間企業に協力を要請出来る「国防生産法」を発動した為だ。しかし、日本では、通常4カ月程度掛かる政府の承認が壁と為り、異業種からの参入は進んで居ない。
この様に必要な医療用資材・機材の国内生産の拡大が進ま無い理由のもう一つは、新型コロナの感染拡大が短期間で終わった場合に、大量の在庫を抱え、又、投資が回収出来無く為るリスクが有る。
こうして様々な壁を取り払う為には、政府が承認・認証制度を軽減する、政府が製品の買い取り制度を作る・投資を補助する仕組みを作る等・・・ビジネス上のリスクを低くする制度の早急な整備が必要である。
安倍首相は15日、医療用マスクや防護服を生産する企業の幹部・・・企業数は正確には判ら無いが10社程度と想定される・・・とテレビ電話方式の会議を持ち、余剰在庫を全量買い取る事を表明した様であるが、これを制度化する事が早急に望まれる。
保健所の機能拡充
新型コロナに感染したかも知れない患者が、最初にコンタクトする先が保健所である。現在保健所は、電話相談・PCR検査の検体採取の医療機関の紹介・検体の搬送と云う3つの業務を担って居る。
しかし、保健所のスタッフの数は少なく急増する電話対応にテンてこ舞い。スタッフは残業に次ぐ残業で有り、彼等も我慢の限界に近付いて居る。保健所は、都道府県・市町村に属する施設であるので、先ずは、各県・各市が、県庁・市役所の職員を応援に出すべきであるが、今や新型コロナ問題は全国的問題なのだから、政府・厚生労働省も保健所を支援する方策を考えるべきであろう。
特に、PCR検査の実施に付いては、今の様な医療機関の帰国者・接触者外来だけではキャパが足り無い。その上、院内感染リスクも有るのだから、医療機関の外でのドライブスルー検査・休業して居る公共施設や市役所等への検査場所の設置等を行うべきである。その時規制が壁に為ると云うなら、その撤廃を早急に進める事が政府の役割であろう。
こうして、PCR検査を拡大し、感染者の数・新型コロナの広がりを正確に掴む体制を早急に整える必要がある。
東京都医師会は、自ら都内20カ所にPCR検査所を設置する方針を発表した。恐らく20か所では、マダマダ数が足らず、50カ所・100カ所程度を設置しないと感染拡大には対応出来無いものと思われる。此処は政府・東京都も医師会の動きをバックアップし、補助金を出す・人を派遣して医療業務以外の事務作業を支援する・自衛隊を出動させて検査所の設置をスピードアップする・・・等の施策を早急に打って行くべきであろう。
植田 統 弁護士・名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授 以上
「新型コロナ経済政策」と「サラ金」
お粗末過ぎる共通点をご存知か
〜現代ビジネス 4/19(日) 7:01配信〜
東京財団政策研究所の 小林慶一郎研究主幹
経済学者10人が提言した「コロナ対策」
新型コロナウイルスの感染拡大で経済に深刻な影響が出る事が懸念される中、或る政策提言が話題を呼んでいる。その内容は、収入が一定以下に為った人が国から無審査・無担保で1年間、毎月15万円迄を借りられる制度を作ると云うものだ。マイナンバーで紐付けをし、納税と共に返済させる事で貸し倒れリスクを減らす事が出来ると云う。
この提言をまとめた中心メンバーは、東京財団政策研究所の小林慶一郎研究主幹や一橋大学国際・公共政策研究部の佐藤主光教授等の経済学者10人だ。
一橋大学国際・公共政策研究部の佐藤主光教授
彼等の提言は世界から見れば「落第点以下」
「必要な所に速やかにおカネを配る事が出来るシステムを組む事が必要だ」と小林氏は語って居る。この学者達は他にもテレワークやオンライン診療の推進等を訴えて居るが、無収入者への貸与金に着いては、本当にコロナ対策なのかと笑ってしまう程だ。彼等の提言は、世界から見れば「落第点以下」である。それはどう云う事か。
コロナ対策では、G7各国は協調路線を取り、財政政策と金融政策を組み合わせ景気後退に依る失業防止を目標として居る。それは詰り、マクロ経済政策だ。
財政政策に於いては、当座の有効需要を作る為に、減税や給付金の形式の政策が選択される。その金額は、およそGDPの5%。日本で言えば、消費税減税や現金給付を含めて、最低でも25兆円規模の財政政策がG7の一員として求められて居る。
マクロ経済政策的な観点を一切持って居ない
同時に金融緩和も行われる。もし金融緩和無しで財政政策をすると、日本に於いて言えば、円高が進み、折角生まれた内需が外需の減少に依って相殺されてしまうからだ。これは「マンデル=フレミング・モデル」と呼ばれるもので、提唱者であるマンデル氏が、この功績でノーベル経済学賞を受賞した事からも、世界の経済の「常識」で在る事が判る。
冒頭の経済学者10人の提言がお粗末なのは、こうしたマクロ経済政策的な観点を一切持って居ない事だ。飽く迄カネを「貸す」形式に拘って居る事、肝心の減税に関して全く言及されて居ない事は、どう考えても可笑しい。
おカネが無い人にカネを貸し、返せ無く為ったら公的年金から天引きすると云うのだから、考えはサラ金と殆ど変わり無い。海外の大学でこんなレポートを出したら先ず落第が決定するだろう。提言に関わった10人の経済学者の顔ブレを見ると、仕方の無い事なのかとも思う。東日本大震災後の復興増税から、昨年10月の消費増税に至る迄、増税を訴え続けて来た人達だからだ。
ハッキリ言えば、こうした御用学者達の提言を政治家や財務官僚が聞き続けて来たから、日本経済は幾度と無くピンチを迎えて居るのだ。自分達の増税路線は間違って居たと言うのが先だろう。
「コロナ・ショック」は、最早リーマン・ショック級のインパクトが避けられ無い。各国の政策担当者は、そう認識して居るだろう。冒頭の政策の提唱者達は、リーマン・ショックの時も真面な提言をして居なかった。そうした人達が政府審議会等で実権を握り、財務省に緊縮財政を吹き込んデ居る・・・これが日本の現状だ。
週刊現代2020年4月4日号より ドクターZ 以上
コロナ危機で総理への道が見えた小池百合子「無能確定」の安倍晋三
コロナ危機で 総理への道が見えた小池百合子
「無能確定」の安倍晋三
〜プレジデントオンライン 4/16(木) 15:16配信〜
記者会見する東京都の小池百合子知事 2020年4月10日午後 東京都庁 写真 時事通信フォト
「これ程無能な人間を他に知りません」
〜新型コロナウイルスの感染拡大に伴う初の「緊急事態宣言」は、この国のリーダー達の手腕を浮き彫りにする事に繫がった。
政権奪還から7年半もの長期政権を築いて来た安倍晋三首相には、初動の遅れや国民の不安に寄り添わ無い政策に批判が集まり内閣支持率が低下。一方で、強力なリーダーシップと国民目線で「命を守る」と発信し続ける東京都の小池百合子知事や大阪府の吉村洋文知事には、インターネット上で賛美する声が相次いで居る。コロナ危機で現れた国民が求めるリーダー像・・・その違いを追った〜
「これ程無神経な人間を他に知りません」映画監督の白石和彌氏・「止められる気骨の有るスタッフは居なかったのかな」作家の辻仁成氏。
4月7日の緊急事態宣言後初めての週明けを迎えた13日、テレビでは朝の情報番組から昼のワイドショー迄安倍首相の公式ツイッターへの批判が相次いだ。歌手・星野源氏の曲「うちで踊ろう」と共に優雅に寛ぐ様子を投稿した首相のコラボ動画には芸能界も厳しく反応し「空気を読む事が出来無かったと云う事」落語家の立川志らく氏「一寸バカにされて居る気がする」お笑い芸人の加藤浩次氏等の批判が渦巻いた。.
安倍に置き去りにされた全国民
史上最長と為った安倍政権は「3本の矢」に代表される景気浮揚策や強硬な外交・安全保障政策等に依って保守層を中心に「安倍信者」を生み、高い支持率を維持して来た。
だが、コロナ危機到来後の言動には「信者」の失望感も強く、最早「大宰相」の姿はソコには無い。ウイルス拡大の震源地と為った中国や感染急拡大が見られた韓国からの入国制限は3月5日迄遅れ、欧米並みの強いリーダーシップを国民が求めて居たタイミングで首相が発信したのは「1世帯に布マスク2枚の配布」
緊急経済対策に盛り込まれた「1世帯当たり30万円給付」「中小企業200万円・個人事業主100万円を支給」も要件が厳格過ぎると批判され、殆どの国民は置き去りに為る「温度感」の違いが現実に表れて居る。
産経新聞社とFNNが4月11〜12両日に実施した世論調査では、新型コロナを巡る政府の対応を「評価しない」が一気に25.1ポイント増えて64.0%に上った。全国紙政治部記者が解説する。「首相は人と人との接触を『極力8割』抑制すると呼び掛け、接客を伴う飲食店への出入り自粛を強く要請したが、休業に伴う補償はし無いと繰り返して居る。しかし、出歩く人が少無く為れば飲食店の客も売り上げも減る訳で、閉店するかどうかの判断を店側に丸投げするのは無責任だ」共同通信社に依る世論調査(4月10〜13日)では国が損失補償すべきとの回答は8割を超えた。
株を上げた、小池都知事と吉村府知事
コロナ危機で安倍政権の脆弱性が露呈した一方で、国民が求めている強いリーダー像と重為って居るのが小池都知事と吉村府知事だ。
「都民の命に関わる問題であり、医療現場は逼迫して居る。待つ事は出来無い」「危機管理の要諦は最初に大きく構えて、状況が良く為れば緩和して行く。様子を見てから広げて行くべきでは無い」(小池氏)
「府民の命を守る為に、ガッと皆で自粛して抑え込むのが重要だ」「新型コロナウイルス対策特別措置法自体が欠陥だらけで、国会議員はチャンと仕事しろよと思って居る」 (吉村氏)
2人の知事が発信するメッセージは明快で、国が1カ月間の緊急事態宣言の期間(5月6日迄)の内、半分の2週間を使って「外出自粛の効果を見極める」とした点や、特措法に基づく知事の権限が不明瞭な点に疑問を投げ掛け「命ファースト」でスピード感のある対策を講じるべきと訴え続けた。
東京都と大阪府は、未だ国民のコロナウイルスへの危機感が余り無かった1月24日に一早く対策本部を設置し、海外からの帰国者対応や感染拡大防止策等の検討を重ねて来た。人口が多く、公共交通機関が張り巡らされ、近隣自治体から通勤・通学者等が集まる大都市の為感染者数は多いが「海外の様に医療崩壊させる事無く、時に国を牽引するリーダーに共感する人々は多い」(自民党中堅議員)
小池百合子総理、爆誕か
首相が記者会見等で国民にメッセージを発する頻度が少ない一方で、2人は連日の様にメディアを通じて外出自粛や医療体制の状況等を伝えて居り、その疲労感は誰の目にも明らかだ。ツイッターでは「#百合子がんばれ」「#吉村寝ろ」がトレンド入りして話題に為った。
そんな中、首都圏を中心に小池都知事のリーダーシップに注目が集まって居るのを背景に、或る自民党関係者は「コロナの終わり方次第では、小池百合子総理が現実に為るかも知れない」と危機感を募らせる。2017年の衆議院選挙で希望の党代表として大敗した小池都知事は当時、女性の活躍を阻む「ガラスの天井」よりも厚くて硬いで有ろう「鉄の天井を知った」等と発言。女性初の総理大臣への野望はこれ迄、常に持って来た。
サテ、小池都知事と吉村府知事は、世論調査で8割が求めて居た国の緊急事態宣言を政府が速やかに出す様要請し、小池都知事は特措法に基づく施設の使用制限の要請に難色を示して居た政府に何度も直談し、宣言対象の7都府県知事が休業要請出来る様牽引した。
知事の権限・責任の範囲に於いて国との調整等不要だ
「何故、小池都知事が違う事を遣るのか理解出来無い」と批判しながら、一転して東京都に足並みを揃えた神奈川県の黒岩祐治知事や、大阪・兵庫間の往来自粛を呼び掛けた吉村府知事に「大阪は何時も大袈裟」と不快感を示した兵庫県の井戸敏三知事とは、その「危機感」も「発信力」も雲泥の差が有る。
休業要請を巡っては、政府の対策本部が3月28日付の「基本的対処方針」で、蔓延防止策として都道府県が「地域での感染状況を踏まえて、的確に打ち出す」として居たものの、4月7日に急遽改正「都道府県は国に協議の上、必要に応じ専門家の意見も聞きつつ、外出の自粛等の協力の要請の効果を見極めた上で行う」と緊急事態下としては不可解な文言で自治体の権限を大幅に縛った事が現場の混乱に繋がった。
元大阪府知事の橋下徹氏は4月7日、ツイッターを更新し「緊急事態の時程、各組織の権限・責任の明確化、指揮命令系統の明確化が重要だ。だから法の適用が必要だった。東京都も大阪府も、知事の権限・責任の範囲に於いて国との調整等不要だ。緊急事態なのだから、各々権限と責任の範囲で行動すべきだ」と指摘して居る。
相変わらずの田崎史郎の ウルトラC安倍擁護に冷笑
安倍首相に依る緊急事態宣言には、日本経済への打撃を考慮した経済産業省や財務省から猛反対があり、発出が遅れる事に繋がった。休業要請に伴う「補償」に後ろ向きな経産省OBの著名人等は、休業要請とセットで「感染拡大防止協力金」を手当てすると発表した小池都知事を繰り返し批判。
ワイドショーでは、安倍政権に近いとされる政治評論家の田崎史郎氏が「吉村知事、発言のブレが一寸激し過ぎる。それ位ブレる方に権限を与えたらどう為るのかと不安を持つ」と批判したり、首相に依る緊急事態宣言が遅れた理由を小池都知事に責任転嫁したりして「炎上」を招いて居るが、ポジショントークとも受け取れる主張への共感は広がっては居ない。
過つては、テレビや新聞等で評論家やジャーナリスト等が批判を集中すれば、牙を向けられたリーダーの好感度は大きく低下した。だが、SNS等ネットを情報の収集・発信ツールにする人が増えた今では、その影響も薄れて来て居る。今回のコロナ危機下で見られて居る変化を民放記者は自虐的に解説した。
「外出自粛や在宅勤務の急増で、首相や知事達に依る記者会見の生中継を家で見る人が多く為った。この『見える化』が自分自身で真贋を調べる時間の増加に繋がり、政治的スタンスから執拗に『政敵』を攻撃する発言が嫌われて居る一方で、不安を抱く国民の心理に寄り添う首長には共感が集まって居る」
第1次安倍政権時には「KY=空気が読め無い」と云う言葉が流行ったが、危機下のリーダー達には国民の「空気」を読む事も必要の様だ。
政経ジャーナリスト 麹町 文子 以上
新型コロナ恐慌が 「アベノミクスの化けの皮」を剥がす日
寺島実郎【週刊エコノミストOnline】
〜mainichibooks.com 寺島実郎 4/19(日) 10:10配信〜
(出所)経済協力開発機構 国際通貨基金
〜恐怖心が理性を超える時、社会心理は不安に駆り立てられる。その不安をテコに官邸主導の「国難政治」が、日本を奇妙な方向に引っ張って居る。正気を取り戻す時である〜
寺島実郎氏
「官邸主導」の限界
3月16日時点で、世界151カ国・地域で16万人を超す感染者が出て居り、WHO・世界保健機関は3月11日に「パンデミック(世界的流行)」を宣言した。これにより東京五輪にオレンジ信号が灯った。終息宣言が出無い限り、開催は危うく為り、遅くとも2カ月前の5月末迄に終息宣言が求められるが、当然、震源地の中国での終息宣言が不可欠で、皮肉にも中国が東京五輪の「引き金」を握る事態に為った。
安倍晋三首相は3月2日から全国の小中高の休校を要請した。この要請は、海外では日本政府による緊急事態宣言と受け止められ、日本への渡航・日本人の入国制限を加速させる結果と為った。文部科学省や厚生労働省の現場を信頼せず、少数の官邸官僚が主導する政策判断が事態を屈折させた。
未だ1件の学級閉鎖が起こって居る訳でも無く、ウイルス特性が高齢者に多くの発症者をもたらして居る現実を考えた為らば、学校現場の現実を踏まえた段階的積み上げに基づく意思決定が為されるべきで、議論の方向が「休校に伴う関係者への休業補償」に向かい、数千億円の公的負担が休業補償に投じられる事態と為った。
3月13日に米国は非常事態宣言を行ったが、目玉政策は500億ドルの国費を検査・医療体制の整備に投入すると云うもので、今最優先されるべきは、ウイルス検査・医療・研究への資金投入と体制整備であり、休業補償では無い。
「国難」と云う言葉は、先日迄は北朝鮮のミサイル発射に使われ、官邸主導で大騒ぎした揚げ句、米国からの防衛装備品購入拡大と云う結果に行き着き、本質的解決には為って居ない。政治主導・官邸主導と云うと「リーダーシップの発揮」として「遣って居る感」が印象付けられるが、所掌の現場から乖離(かいり)した偏狭な意思決定に堕す危険がある。
「株高」の幻想
「アベノミクス」と云われる異次元金融緩和を軸にしたインフレ誘導政策も対米過剰同調だけを際立たせる近隣緊張外交も「官邸レベルの国」に日本をしてしまった。新型コロナ対応も日本の英知を結集した展開にし無ければ為ら無い。
日本経済へのインパクトを視界に入れて置きたい。新型コロナ等無くとも、アベノミクスは愁嘆場に来て居た。出口無き異次元金融緩和を続けて来た為、此処で景気刺激策を打とうにも、政策手段が限られて居る。これ以上の金融緩和の深掘りも財政出動も限られて居る。
世界的株安連鎖の中で、日本株も乱高下を続けて居るが、日本は異様な対応を続けて居る。3月16日、日銀がETF・上場投資信託買いを年6兆円から12兆円へと拡大すると発表した。中央銀行が直接株式市場に資金を入れること自体異様な事だが、今や日本の上場株式の筆頭株主が日銀に為ってしまった。
日銀ETF買いの現在のポジションは約29兆円、GPIF・年金積立金管理運用独立行政法人の購入分と合わせて、約85兆円の公的資金が株価維持の為投入されて来た事に為る。日経平均が1万9,500円を割り込むと公的資金で購入した株は含み損と為る。産業の実力以上に景況感を引き上げて来た「株高」幻想が崩れた時が日本経済の本当の正念場である。
経済人は「マネーゲーム」では 、産業の実体を直視し無ければ為ら無い。2019年の日本の実質GDP・国内総生産成長率は0・7%で、日本の実体経済はアベノミクスの7年間、水面上ギリギリの水準で推移して来たのに、株価だけが「根拠無き熱狂」を続けて来た。
我々は、日本の産業現場を直視しデジタル・トランスフォーメーションDXと言われる時代の構造改革戦略を再設計し無ければ為ら無く為って居る。鉄鋼、エレクトロニクス、自動車と云う日本の基幹産業の実態を直視すべきだ。
「鉄は国家なり」と言われた日本製鉄は4基の高炉を止めると云う。「技術の日産」は強欲なグローバル経営者に依るマネーゲームに翻弄(ほんろう)され、モノ作り日本のシンボルだった東芝は原発事業で大きく躓き「ハゲタカ」投資家の犠牲に為って居る。
国際連帯税の導入を
気が付けば、創出付加価値の総和である日本のGDPの世界比重は、平成が始まる前年の1988年の16%から、2018年には6%に迄下落した(前図)
三菱総研の「未来社会構想2050」報告に依れば、2050年には1・8%に迄埋没すると云う。金融の水膨れに依存し危機感無く迷走して居る処にコロナが襲って居る状況で、コロナは原因で無く、問題の本質を炙り出したと云う事だ。
コロナの問題も、政策科学のレベルで対応すべきである。感染症ウイルスの問題は、国境を越えた「移動と交流」の拡大の影の問題であり、言わば「グローバル・リスク」だ。昨年の日本への外国人来訪者は3,188万人、日本人出国者は2,008万人と5,000万人を超す人々が国境を越える。これに伴うリスクを制御する政策が必要なのである。
例えば、新型コロナウイルスの致死率は、3月16日時点で3・5%(日本は2・0%、WHO)であり、感染力は強いが弱毒性・バイオ・セーフティー・レベル〈BSL〉−2である。為すべきは致死率7割と云われるエボラ出血熱などの「BSL−4」に対応出来る体制を整える事である。
実は、BSL−4施設・高度安全実験施設は、世界24カ国に59カ所在るが、日本には国立感染症研究所(東京)の1カ所のみで、要約2カ所目が長崎大学に建設中だ。検査、臨床、研究、ワクチン開発、専門人材育成等不可欠の施設であり、少なくとも日本に後数カ所の建設を推進すべきであろう。
また、その財源確保の為、グローバル化の恩恵を受ける個人・企業に責任を共有させ「航空券連帯税」「金融取引税」等の欧州が先行して居る国際連帯税の導入に日本も参画すべきである。
人物略歴 寺島実郎(てらしま・じつろう)日本総合研究所会長 1947年生まれ 1973年早稲田大学大学院修了 同年三井物産入社 常務執行役員を経て2016年4月から現職
以上
※注・管理人 麹町 文子氏の肖像とプロフィールを探したのですが、上記のものしか入手出来ず、万が一違って居たら謝ります・・・ゴメンナサイ。無論、顔や経歴よりも文章の中身が大切なのは云う迄も有りません。氏の「コロナより安倍晋三が恐怖だ!」は素晴らしく的を得た表現でした。今年の流行語大賞の上位にランクされる事請け負います・・・
コロナで露呈した「日本経済の脆弱性」の根因
コロナで露呈した「日本経済の脆弱性」の根因
〜東洋経済オンライン デービッド・アトキンソン 4/16(木) 5:35配信〜
コロナ問題に対応する為の「テレワーク導入」も、小さい企業程進みが遅いと言います(撮影 尾形文繁)
〜オックスフォード大学で日本学を専攻、ゴールドマン・サックスで日本経済の「伝説のアナリスト」として名を馳せたデービッド・アトキンソン氏。退職後も日本経済の研究を続け、日本を救う数々の提言を行って来た彼は、このママでは「@人口減少によって年金と医療は崩壊する」「A100万社単位の中小企業が破綻する」と云う危機意識から、新刊『日本企業の勝算』で、日本企業が抱える「問題の本質」を徹底的に分析して居る。
日本企業の「生産性が低い」問題の根源は「規模が小さい企業が多過ぎる」産業構造に有ることを明らかにして来たこれ迄の連載に続き、今回はコロナ問題で露呈した日本の産業構造の脆弱性を解説して貰った〜
小さい企業程「テレワーク導入」が出来無い
コロナウイルスの蔓延に依り、多くの日本企業が窮地に陥って居ます。特に中小企業の経営は厳しく、今後多くの中小企業が経営破綻する事が危惧されて居ます。当然ですが、この様な危機への対応力は一般に企業規模が大きい程強く、小さい程弱く為ります。国全体で見ても同様に、企業の平均規模が大きい程危機に強く、小さい程危機に弱く為ります。
また、この様な有事の際には「企業さえ潰れ無ければ好い」と云う訳ではありません。そこで働く従業員の命や健康を守る事も大切です。実はこの面で見ても、規模が小さい企業程従業員を危険に晒し易い可能性があります。
東京商工会議所が2020年3月に実施した調査に依ると、テレワーク導入率は従業員数300人以上の企業が57.1%だったのに対して・50人以上300人未満の企業では28.2%・50人未満の企業では14.4%に留まって居ました。
50人未満の企業の経営者も、悪意を持って導入を先送りして居る訳では無いでしょう。規模が小さ過ぎて、時間的にも金銭的にも人員的にも余裕が無く、導入出来無いのだと推察出来ます。こう云った企業が多い国程、当然、テレワークの導入率は構造的に低下しますので「Stay at home」に悪影響を及ぼします。
更に、小規模事業者が増えれば増える程、その国の生産性が低く為るので財政が圧迫されます。すると、小規模事業者が多い分だけダメージが大きいのに、それに対応する為の予算が限られてしまうのです。
この様に見て行くと「中小企業は国の宝だ」と云う日本の「常識」が本当に正しいのか疑問に思えて来ます。私は、今回のコロナ危機で日本の産業構造の弱さが露呈したと考えて居り、その原因は中小企業に有ると見て居ます。今回は、過つて「日本の宝」だった中小企業が、何故産業構造の弱さの原因と云えるのかを解説して行きます。
中小企業の価値は「人をムダに使う」事に有る
日本では、中小企業が矢鱈と大事にされて居ます。「中小企業は国の宝だ」「日本の技術を守って居るのは中小企業だ」と云う声を聞く事も少なくありません。確かに、そう云う一面も無い事は無いでしょう。一般的に、中小企業は大企業より顧客との距離感が近く、又、意思決定が早く、身動きが取り易いのは確かです。
一方、中小企業は規模が小さく為る程、人力に頼る傾向が強く為ります。従業員が少なく分業が出来無いので、専門性が高まらず機械化もナカナカ進みません。その結果、効率化が進ま無いので、その分、余計に労働力が必要に為るのです。だからコソ生産性が低いのです。
人口が増加し労働力が溢れて居る時代には、中小企業の存在は貴重です。何故為らば、中小企業は人間に依り多く依存する「労働集約型」で、或る意味、人をムダに沢山使って呉れるからです。
中小企業自体の労働生産性が低くても、これ等の企業が雇用を増やし就業率が高まれば、国の全体の生産性も高まります。その意味では、中小企業の存在も生産性の向上に貢献して居たと言えるのです。生産性とは、GDPを総人口で割ったものです。(生産性=GDP/総人口)
又、労働生産性とはGDPを就労人数で割ったものです。 (労働生産性=GDP/就労人数) 此処から、生産性は労働生産性に労働参加率をかけた値である事が判ります。
生産性 = GDP/総人口
= (GDP/就労人数)×(就労人数/総人口)
= 労働生産性×労働参加率
・・・この式からは、生産性を高める為には「労働生産性」を高めるか「労働参加率」を高めれば好い事が判ります。例えば或る国の労働生産性が1,000万円で、労働参加率が50%で有れば、国全体の生産性は500万円です。この国で中小企業が沢山生まれ、それ等の企業が雇用を増やした結果、労働参加率が60%迄高まったとしましょう。すると、労働生産性が全く伸び無かったとしても、生産性は500万円から600万円に上がるのです。
人口が増加して居た時代に於いては、中小企業は「労働参加率」を高める役割を果たして居ました。その意味で「国の宝」と言え無い事も有りませんでした。しかし、日本は既に人口減少の時代に突入し、この傾向は今後数十年に渉って続きます。人をムダに多く雇う中小企業の存在は、強みでは無く為り逆に弱みに変わります。
何故為らば、企業と云うものは規模が小さければ小さい程、労働生産性が低いからです。日本企業の99.7%は中小企業ですから、日本の生産性が低いと云う事実は、日本の中小企業の労働生産性が低い事をそのママ反映して居るのです。
日本の中小企業の真の姿
中小企業庁に依ると、2016年時点で日本には357万社の中小企業が在ります。先程も述べた通り、全企業の99.7%を中小企業が占めて居ます。この様に数多在る中小企業を一括りにして「中小企業は日本の宝だ」と考えるのはそもそも乱暴過ぎます。
勿論357万社も在れば、玉石混淆なのは当たり前です。中には「玉=宝」も在るでしょうが、そうでは無い「石」も沢山混じって居る筈です。確かに、日本の中小企業の中にも、宝と云って好い企業も含まれて居るかも知れません。しかし、平均値で見ると日本の中小企業は余りにも生産性が低く、払って居る給料も極端に低いのです。仮に宝が含まれて居るとしても、全体としては、中小企業はトテモ宝だと評価するには当たら無いのです。
「嫌々、私の知って居る町工場は凄い技術を持って居るんだよ。マサに宝だよ」
こう云う、自分の知って居る特殊事例を取り上げ一般化して、それが恰も日本の中小企業全体に当て嵌る様な物言いをする声も耳にしますが、先ずは日本の中小企業全体の実態・エビデンスを直視すべきです。
先程も紹介した様に、日本には357万社の中小企業が在ります。日本の中小企業の内、中堅企業は53万社で・小規模事業者は305万社でした・・・平均従業員数は中堅企業が41.1人だったのに対し、小規模事業者は足ったの3.4人です。驚くべき事に、1000万人もの労働者がこの豆粒の様な小規模事業者で働いて居るのです。
実は、50%強の日本企業の売上は1億円にも達して居ません。こう云った企業は当然、経営に余裕が有りませんから、有事の時には直ぐ経営が困難に為ります。中小企業を「日本の宝」と言う人が想像して居るのは、今紹介した様な企業群とは異なる会社では無いかと推察します。恐らくは中堅企業を想定して居るのではないでしょうか。
小さい企業が多いと様々な弊害が起こる
従業員が3.4人しか居ない小規模事業者では、到底輸出等出来ません。ドイツの学者の調査に依ると、継続的に海外に輸出をするには、従業員数158人の規模が必要であるとされて居ます。
従業員数が3.4人の会社には、最先端技術もキャッシュレス化もビッグデータもイノベーションも、殆ど無縁です。小さい企業程緊急時のテレワーク導入率が低いのは、この記事の冒頭で見た通りです。日本だけでは無く世界的に見ても、企業の規模が小さく為る程、最先端技術の普及率が低下する事が報告されて居ます。
又、企業の平均従業員数が少なく為る程、有給休暇取得率が低下します。企業の規模が小さい程、1人ひとりの社員に掛かる負荷が重く休みを取る余裕が無く為るからです。同じ理由で、中小企業の占める割合が大きく、企業の平均規模が小さい国程、女性の活躍も進んで居ません。これは世界中で確認出来る傾向です。
人口減少と高齢化に依って増加する現役世代の負担を緩和する為には、女性活躍の推進が極めて大切です。しかし、日本では女性活躍を進めたくても、小さい企業ばかりの産業構造に為ってしまって居る為、ナカナカ進める事が出来無いのです。
企業の規模が小さく為ると、労働者の専門性が低下します。企業数が増えれば増える程、国全体の設備投資の重複が増えて生産性が低下します。結果として、支払える給料も減ってしまうのです。小規模事業者が多い国程財政が悪化して、少子化が進んでしまう事も判って居ます。この点に付いては、この連載の中で改めてご説明します。
この様に「中小企業は国の宝」と云うには、中小企業が多い事の弊害が多過ぎます。失業者が増え無い様に統合・合併を促進し、企業規模を拡大させる政策に舵を切る事が求められます。
デービッド・アトキンソン David Atkinson 小西美術工藝社社長 元ゴールドマン・サックスアナリスト 裏千家茶名「宗真」拝受 1965年イギリス生まれ オックスフォード大学「日本学」専攻 1992年にゴールドマン・サックス入社 日本の不良債権の実態を暴くリポートを発表し注目を浴びる 1998年に同社managing director(取締役)2006年にpartner(共同出資者)と為るが、マネーゲームを達観するに至り、2007年に退社 1999年に裏千家入門 2006年茶名「宗真」を拝受 2009年 創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手掛ける小西美術工藝社入社 取締役就任 2010年代表取締役会長・2011年同会長兼社長に就任し、日本の伝統文化を守りつつ伝統文化財を巡る行政や業界の改革への提言を続けて居る
以上
ドイツの市民が「コロナ対策」に、こんなに満足しているワケ 河内 秀子
ドイツの市民が 「コロナ対策」に
こんなに満足して居るワケ
〜現代ビジネス 河内 秀子 4/15(水) 6:31配信〜
写真 現代ビジネス
「満足して居る」が72%
世界中を揺るがす新型コロナウイルス感染症。緊急事態を前に各国のトップは前例の無い中での素早い決断を迫られて居る。危機的な状況下、各国が抱える様々な問題が露わに為り、国や政府とソコに住む人々との関係性迄もが剥き出しに為って行く様に思える。そんな中、政府に対する満足度が急上昇して居る国がドイツである。
ベルリン在住 フリーライター 河内 秀子氏
ドイツ公共放送連盟・ARDが4月2日に実施した世論調査に依れば、メルケル首相率いる連立政権に対する満足度は、2017年10月に発足した今期の政権では最高の63%と為った。又、コロナ禍の危機管理に対しては、満足して居る・非常に満足して居ると云う答えが72%と云う結果に為って居る。先月行われた同様のアンケートでは、連立政権への不満度が65%と云う結果だったが逆転した形だ。
ドイツでは新型コロナウイルスは、2月迄は感染経路もハッキリして居て飽く迄も「外から来たウイルス」のイメージだった。しかし、イタリアに程近い南ドイツでは、3月頭から連日報道されるニュースにも「もう、直ぐそこ迄近付いて居る」と云う焦燥感が見られる様に為った。
南ドイツ、バイエルン州の州首相マルクス・ゼーダー氏は3月2日、連邦政府にこのウイルスの危険を警告し景気対策を呼び掛けて居る。学校の閉鎖・外出制限も真っ先に提案・実行した。
しかし、ベルリンを含む北ドイツでは、感染者数が圧倒的に少なかった事もあって温度差が有り「パニックを煽るべきでは無い」と云う論調で、ドイツ全土では足並みが揃わ無かった。
ドイツで初めて新型コロナウイルスに依る死者が出たのは3月10日。感染者数も瞬く間に1,500人を超え、感染者数が2日で倍増する事も有った。この頃から強い危機感がドイツ全国で共有され、3月13日から大半の国立博物館・美術館や劇場は閉館・イベントは中止に為った。
食料品や日用品を売る店以外は閉店を余儀無くされ、3月16日から学校や保育園も閉鎖・3月23日からは外出制限と接触禁止に依って仕事の形態も急激に変わった。誰もが日常生活に大きな制約を強いられ、今後の経済状況への不安も有る筈だ。
ドイツの経済対策の規模は7500億ユーロ・約90兆円だ。国内総生産に対する割合で見ると日本と余り変わら無いと云う。しかし、ドイツの政府への信頼・満足度は前述の通り急激な右肩上がりを見せて居る・・・その理由は、一体何処に在るのだろうか。
市民と同じ目線で語り掛けるメルケル
先ずドイツの政府やメディアが取り組んだのが、場所や年代等に依って違いが大きい危機感を国民で共有する事だ。メディアは、正確なデータや詳細な情報の視覚的に判り易く、且つ素早い発信に努めて居る。これはフェイクニュースを封じる為にも重要な取り組みだ。
ベルリンの新聞Berliner Morgenpost紙等のメディアは、インタラクティブなインフォグラフィックを次々と出して居り、集中治療ベッド数の空き状況が判る図等も公開して居る。
又北ドイツ放送は、2月26日から、欧州最大級の大学病院・シャリテのウイルス学研究所所長・クリスティアン・ドロステン氏によるPodcast「コロナ・アップデート」をスタート。
ウイルスの専門家であり、政府のアドバイザ−でも有る人物・・・日本で言う「専門家会議」のメンバーに当たるだろうか?が、現状を伝え、現時点で判って居るデータを元に何を注意すべきかを語る。「前のデータを元に以前私はコウ発言したが、間違った見解だった」とアップデートする事も忘れ無い。視聴者からの質問にも答えて呉れる。3月からドイツ中で最も人気のPodcastだ。
アンゲラ・メルケル首相は、そう云った数字や情報を伝えるだけで無く人々の「気持ち」に訴え掛けた。3月18日、メルケル首相が行ったテレビ演説だ。ソモソモ、首相は15年間に及ぶ任期の中で、新年以外に国民に向けてのスピーチを行った事は無い。テレビ演説が行われると云うだけで、今回の事態の緊迫度が国民に伝わる。
「戦争」「見え無い敵」等の言葉で煽る事も無く「Mutti・おかん」の愛称を持つ彼女らしさを強調し大きな信頼感を得た。「沢山の人が仕事に行けず、子供達は学校に行けず、劇場や映画、お店も閉まって居ます。何よりも辛いのは、これ迄当たり前だった人との出会いが無い事かも知れませんね。そんな中で誰もが、今後どう為るんだろうと沢山の疑問や悩みを抱えて居ると思います」と、先ず問題を共有した。
その上で、何故様々な制限をする必要が有るのか、全ての人を保護して、経済的・社会的・文化的な被害を少しでも減らす為に、今必要な事は何かを説明する。
「医療崩壊が起こってしまったら何が起こるか。コレは単なる統計上の抽象的な数字の話では無く、お父さんやお爺さん・お母さんや御婆さん、パートナー等・・・人の話なのです。大企業だけで無く、中小企業・レストラン・フリーランスに取って既に厳しい状況で、来週は更に大変に為るでしょう。しかし、私は断言します。連邦政府は、経済的な影響を緩和する為、そして何よりも職を維持する為に出来る事は全てします。私達は、企業や働く人達がコノ大変な試練を乗り越える為に必要なものは全てを投入出来ますし、又そうするでしょう」
この言葉に続いて「滅多に感謝され無い人達にも、お礼を言わせて下さい」と、スーパーマーケットのレジで働く人にも心を配るのも忘れ無い。
通り一片の演説とは違う、首相の心からの言葉だと感じさせる。「メルケル首相は、そして連邦政府は、この国に住む全ての人を助ける!」と云う力強いメッセージが伝わって来た。
メルケル首相の15年間の任期の中で、最大の人気を集めたこの演説は、具体的な経済支援対策の提案が行われる前に、アラユル職種の人に大きな信頼感を与えたと言えるのではないだろうか。
前述のアンケートに依れば、ドイツ全体の経済状況の悪化に対する不安は75%で・自らの経済状況への不安を感じて居ると云う人は34%・自らの職を失うのでは・・・と云う不安を持つ人は18%だ。しかし、そんな中に在って、保健・医療機関や医師への信頼度は77%と高い。そして実に93%が、3月23日からの「接触制限」措置を支持して居る。
ベルリン「即時支援金」の背景
では、経済政策の方はどうだろう。3月末、ベルリン州政府が行った・・・ドイツが国として行ったのとは又違う新型コロナ経済対策が話題を呼んだ。日本のSNSやメディアでも数多くのニュース?が飛び交ったので、覚えて居る方も多いかも知れない。
ベルリンに住むフリーランス達に、申請から2〜3日で5000ユーロ・約60万円が口座に振り込まれたと云うものだ。申請から振り込み迄平均2日と云うその対応の早さ、金額・納税者番号を持って居て、フリーランスでコロナ危機に依って困窮状態に陥った状況で有れば誰でもと云う「無差別性」が注目を浴びたのだろう。
この即時支援・Soforthilfeには、数多くの受給者からの感謝の声が集まり、又ベルリン芸術家職業組合等からも「ベルリンの政治家が、街の芸術家達の窮状を理解して居ると云う事を証明した」と高く評価されて居る。
筆者自身、実際に受給したこの補助金の内容や背景から、その満足度の理由を考察してみたい。先ず、筆者が住むベルリンは、ドイツの首都で有りながら「ドイツでは無い」と言われる事が多い街だと云う事を理解して置いて欲しい。
連邦制を執って居るドイツでは、16有る州の権限が大きく、教育制度や文化政策等に付いては州にも立法権が有る。地方色も豊かだが、それ以上に「ベルリンは、典型的なドイツと違う」点が多く、又それを誇りにして居る節がある。
東西ドイツの再統一から今年で30年。未だ首都に為って・・・返り咲いてから日が浅い。第二次世界大戦の前から自由と芸術の街であり、東西が分断されて居た時代も反体制的でパンクな気風が有った。現在もそうした雰囲気が残って居る。
現在は、政府・行政の機能は置かれて居るものの、ベルリンの連邦議事堂で話し合われて居る事が、実際に強い影響力を持ってその外で反映されて居るかは微妙な処だ。市内に大企業は少なく、経済的な中心は他州・特に南側に在る。
ドイツは現在、アンゲラ・メルケル首相が属するキリスト教民主同盟・CDUと、ドイツ社会民主党・SPDの連立政権だが、ベルリンの州政府は2016年から、ドイツ社民党・SPDと左翼党・LINK、同盟90/緑の党・Bündnis 90/DIE GRÜNENが率いて居る。こうした特徴を頭に入れた上で、連邦政府とベルリンの経済政策を見てみよう。
ドイツ全体での経済対策の規模は、前述の通り7500億ユーロ・約90兆円だ。事業者・企業向けには、融資や救済基金等が準備されて居り、又「操業短縮手当」休業を余儀無くされた労働者の給与を国が助成する・・・の支給要件が緩和された。家賃や、様々な条件は在るものの、電気・ガス・水道・電話やネット・所得税の前払い等の月々の支払いも7月迄一時的に停止する事も出来る。
社員5人迄の零細企業や自営業、筆者の様に一人で仕事をして居る様なフリーランスには、ドイツの連邦による「即時支援金」として、3ヶ月分の運転資金に使える9000ユーロ・約107万円の申請が可能と為った。これも申請から数日で支払われる。この支援プログラムに対しては、ドイツは3月30日から500億ユーロ・約5.92兆円を確保して居る。
州のプログラム
このドイツ連邦による「即時支援金」に加え、各州が独自の「即時支援金」のプログラムを提案・実行した。ベルリンでは、3月27日から、社員5人迄の零細企業や自営業・個人フリーランスに対して、5000ユーロ・約59万円の補助金の申請がスタートした・・・4月12日の時点で、約14万件の申請が有り、州銀行傘下のベルリン投資銀行から13億ユーロ・約1540億円を支払い済み。現在は、資金切れの為申請はストップして居る。
ベルリン市の市長の一人で・・・ベルリン市には3人の市長が居る、文化・欧州担当官のクラウス・レーデラー氏に話を聞いた処、ドイツ連邦(国)からの即時支援金9000ユーロ・約107万円と、ベルリン市・州政府による即時支援金5000ユーロ・約60万円の最も大きな違いは、後者が生活を保つ為に使う事が許されて居る点だと云う。
例えば、州が給付する後者は家賃や買い物の支払いにも使う事が出来る。一方、国が給付する前者は、ビジネスマネジメントに関連したものにしか使用が認められて居ない。例えば、仕事場の家賃や資材経費等がこれに当たる。何故、国レベルでは無く夫々の州が独自の支援プログラムを出す必要が在ったのだろうか。
国の政策から零れ落ちる人を助ける
「ベルリンでは、ドイツ連邦政府からの援助金がカバーし切れ無い分野が多いと云う事が先ず一つ有りました」とレーデラー氏は言う。確かに、筆者の様な自宅をオフィスとして仕事をして居るライターやデザイナー・翻訳家・ミュージシャン等、固定経費が少ない仕事に従事して居る人に取っては、国が給付する即時支援金は余り意味が無い。しかし、仕事がキャンセルされれば補償も無く、即座に収入がゼロに為るのもフリーランスの宿命だ。
「そして又、連邦共和国は州の権限が大きく、文化は州夫々の問題と云う原則を持って居ます。ベルリンだけで無く数多くの州が、国が対象として居ないグループ・・・その中にアーティストも含まれますが・・・彼等の為の様々なプログラムを行いました」
ちなみに、日本ではアーティストへの支援が注目を浴びたが、これはドイツに於いて文化が生活の中に根付いて居ると云うだけで無く「文化芸術」が重要な「産業」の1つで有る事にも由来して居る。博物館・美術館の数は全国で約6,800。世界中で開催されて居るオペラ公演の約3分の1がドイツの舞台で演じられ、全国80以上のオペラ座がある。
特に首都で有り人口約380万人を抱えるベルリンには、劇場・博物館・美術館・図書館やギャラリー等、市内に810以上もの文化施設が存在する。それに加えクラブ等は数はハッキリしないものの、ベルリンのクラブ委員会に依ると、2019年は14.8億ユーロ・約1,754億円もの収益を挙げて居り、9,000人以上もの人が働いて居ると云う。大企業は少ない代わりにフリーランス人口の割合も、ドイツ平均の9.9%より高く11.9%と為って居る。
3月18日、個人フリーランス等を対象に即時支援金が決定。当初、申請の数は2万人と想定されて居た。金額以外はその詳細が判ら無いママに、3月27日12時よりオンラインの申請がスタート。その瞬間にサーバーが落ち、再開迄1時間が掛かった。申請の処理速度は遅く初日の申請処理は約1万人弱。
「この調子では、お金を貰うのは1ヶ月後か」「サイトの説明が不十分」等の不満も見受けられたが、翌日からは担当スタッフを増員・処理速度をアップしサイトも更新した。そして申請受理から僅か2〜3日で、指定の銀行口座に5,000ユーロのお金が振り込まれたのである。「月末と云う事も在って、兎に角早さを重視した」とレーデラー氏は云う。詳細な審査は後回しにして、現時点では無作為審査のみだと云う。
「此処で暮らす人」達の目線で信頼を勝ち得る
州の規模も異なるので簡単に数字を比較するのは難しいが、ドイツでも3本の指に入る大きな負債を抱えるベルリンと云う州・街が、何故どうしてこの様な早い決断をする事が可能だったのだろうか。「可能だった」のでは無い。「可能にした、そうし無ければいけ無かったのだ」とレーデラー氏は言う。
「勿論、最終的に何処かにツケが回って来る事は判って居ます。でも、今マサにその存在自体が脅かされて居る様な人達が居る為らば、先ず、何よりも早くそうした人々を助け無ければいけ無いでしょう。又事実として、ベルリンはドイツの中でも最もフリーランス・個人フリーランスの密度が高い街です。
その多くがアーティストですが、それだけで無く美容師やタクシー運転手・配管工でも同様です。資金繰りに大きな余裕が無く即時支援金が必要と為る職業グループも多い。ですから、ベルリン州政府は、非常に早くこの援助プログラムに合意しました」
又、この「フリーランス」には、職業の限りが無い処も重要な点だ。例えば、セックスワーカーが含まれて居る事も忘れてはいけ無い。3月16日から性風俗施設は閉鎖されて居る。3月31日、ベルリン=ブランデンブルク放送のニュースでは、性的サービス職業組合のスポークスマン、ヨハンナ・ヴェーバー氏がインタビューに答え「他の職業の、個人フリーランサーと全く差異無く、同じ様に即時支援金を申請する事が出来た」と語った。
又、東欧等から来て性風俗産業に従事して居る人達に対しては、ドイツの連邦家族省は、この危機的状況に際し、売春保護法で制定されて居た「性風俗施設での宿泊を禁止する」と云う一節を廃止し、そこに住む事を許可して居る。
この即時支援金に関しては、今後、提出された納税者番号等の情報を元に申請の真偽に付いては審査を行って行く予定だと云うが、申請の時点では「コロナ危機に依って、存在が危機的状況に在る」事だけを、確約する必要があるだけだ。レーデラー氏はしかし未だ足り無いと言う。
「日々の収入で成り立って居る小規模な民間の文化施設等は、国からの融資では助ける事が出来ません。この状況がコロナ以降も続けば返済は困難に為ります。資金繰りに困って居た人が、借金を抱える様な、更に悪い状況にしてはいけ無い。此処には返済不要な補助金が必要です。全ての問題に効く解決策は有りません。ですから、出来る限りバリエーションを考え無ければ」
レーデラー氏への上記のメールインタビューは、4月8日に回答されたものだが、翌4月9日、同氏は「ベルリンは、現在存続が危ぶまれる民間の文化施設に対し3000万ユーロ・35.5億円の即時支援を行う」と、新しい即時支援金・Soforthilfe IVを発表した。
「全ての人を救う」
「ドイツは凄い、それに比べて日本は・・・」と云う様な、単純な比較は意味が無いと思う。こう云った支援・対処が生まれる中には、感染の広がりや国境を接する国での惨状を見ての危機感の違い・政治制度や歴史・夫々の産業の貢献度等様々な背景がある。
ベルリンの即時支援を実際に目の当たりにし、メルケル首相の演説等を聞いて居ると、国を州を率いる政治家達が「ドイツで暮らす人達全てを、可能な限り救おう」と云う姿勢が、アラユル形でアピールされ、それが信頼を勝ち得て居る大きな要因に為って居ると云う実感がある。
市民・・・敢えて国民では無く「ドイツに暮らす全ての人」と云う意味を込めて、メルケル首相がテレビ演説で使った言葉を選びたい・・・が、主権者として、政策を決める政治の仕組み「民主主義」が確りと機能して居る。これが、ドイツの満足度の高さの理由では無いだろうか。
フリーライター 河内 秀子 東京都出身 2000年からベルリン在住 2003年 ベルリン美術大学在学中からライター・コーディネーターとして活動 雑誌『Pen』『derdiedas 』等でもベルリンやドイツの情報を発信させて頂いて居ます 趣味は漫画と東ドイツとフォークが刺さったケーキの写真収集 食べ歩き 蚤の市やマンホール・コンクリ建築も大好物 Twitterで『#日々是独日』ドイツの風景を1日1枚アップして居ます@berlinbau
【管理人のひとこと】
詳細で判り易いレポートを有難うございました。この様な、実際の現場の空気を知る事が出来るのが何よりの「生きた情報」なのでしょう。ドイツの国民性・・・ベルリン市の他との違いも初めて知りました。この様な社会政策を作り上げるドイツの為政者と比較し我が国を観ると、確かに政治家・官僚の根本的・本質的な違いが浮き出て来ます。立ち位置と目線がマルっ切り天と地程異なって居るのです。
日本のソレは、今でも「お上」の立ち位置と目線しか感じられ無い、旧態依然の「上からの施し・遣って遣る・・・」そのものなのですね。AAコンビの一人の財務大臣が「俺も昔、国民に無差別に配って遣ったが、何の経済的効果も生まなかった。二度と恵んで遣ら無い・・・」と云ったとか。多寡が無差別に1万か2万の支給で好景気が生まれると期待する方が可笑しいのです。布マスク2枚と同じ効果しか期待しては為ら無いと考えるのが常識。
我が国でも「無条件一人10万円支給」が本題に上がりましたが、どれだけのスピード感で執行出来るかで「非常時での官としての能力」が問われます。審議会・委員会・国会の議論を延々として・・・支給が6月頃にでも為ったら世界から笑われてしまいますよ。フランス革命前のマリーアントワネットの様に寛ぐ誰かさんを見せ付けられ、指を咬んで泣く庶民・・・がそのまま私達なのです。為政者が、マルで別世界に住む人かの様な感受性しか持ち合わせて無いのが国民の大いなる不幸なのですね。
コロナ給付金 日本だけが「不正受給」を過剰に恐れて居る
コロナ給付金 日本だけが「不正受給」を過剰に恐れて居る
〜現代ビジネス 笹野 大輔 4/15(水) 7:01配信〜
マスクを手放せ無いハズレ男
布マスクは、宛(さなが)ら「はずれ券」の様なものだ
今日本では休業要請と補償はセットで無ければ為ら無い・・・と云う声が挙がって居るが、政府から国民に支給されるのは、30万円か布マスク2枚、その後又追加マスクあり。しかも30万円は殆どの人が該当し無いので、宛ら布マスクは、ハズレ券の様なものだ。
これが非常時でも給料の下がら無い政治家や国家公務員が考えた結果なのであれば、イッソノコト国から届いた布マスクに油性マジックで「ハズレ」とでも書いて着用すれば好い。そうすれば彼等の目に触れるのかも知れない。
ニューヨーク 半旗が飾られて居る
一方で、アメリカ・ニューヨークでは感染者数が現在の日本位の頃(約8,000人)、時期で云えば3月20日頃、もう既に新型コロナに依る失業保険の給付が始まって居た。ニューヨークでは、3月22日に医療従事者やスーパーマーケット・ドラッグストア等必要不可欠な職業以外は出勤禁止の命令が出たが、3月13日にトランプ大統領の非常事態宣言、3月16日にニューヨークの全ての飲食店・学校・裁判所が閉鎖された事に依り、それ以外の業種の自主的な閉鎖・解雇が始まり、在宅勤務が可能な人はテレワークの導入が進んで居た。
詰り、新型コロナ感染拡大が現在の日本の状態に為る前から、主にアメリカの中小企業がレイオフ・一時解雇を積極的に活用して居た。レイオフされた人は失業保険金を毎週貰い、それが現在も続いて居るので実質的な支援金に為って居る。
日本の報道ではアメリカの失業者数の増加ばかり取り上げて居たが、報道の裏でアメリカ人の最低限の生活は補償されて居たのである。アメリカ・ニューヨークの失業保険受給の方法は後述するが、インターネットでの登録に1日・申請してからは2日で銀行口座に失業保険金が振り込まれて居る。
これは新型コロナに依るアメリカ人の経済的損失が大きかった為に、何時もより迅速に支給されて居り、通常で有れば4週間から6週間掛かって居た。
文 ニューヨーク在住 ジャーナリスト 笹野 大輔氏
全く足り無いが・・・
3月17日には、国からの支援金は大人一人に付き1000ドルで調整に入ったが、3月25日、大人1,200ドル・約13万円、子供(17歳未満)も一人に付き500ドル・約5万4,000円、確定申告を済ませた人で年収が9万9000ドル・約1,072万円以下の人は受け取れる、と曖昧では有るが早期にアメリカ政府は国民への支援金を決めた。
そして先週、具体的な金額が公表され、年収が7万5,000ドル・約813万円以下の人は1,200ドル・約13万円、収入が少なく確定申告をして居ない人やリタイアした人にも一律1,200ドル・約13万円を支給する事に為り、4月10日から順次受け取りが始まった。2回目の支給も検討中。
ちなみに支援金は、年収が7万5,000ドル・約813万円より高い人の場合でも支給されるが、減額されて行く。年収8万ドル・約867万円の人は950ドル・約10万円、年収8万5,000ドル・約921万円の人は700ドル・約7万5000円、年収9万ドル・約975万円の人は450ドル・約5万円、年収9万5000ドル・約1,029万円の人は200ドル・約2万円、年収9万9000ドル・約1,072万円以上の人は支給無し、と云う具合だ。ハズレは年収1,072万円以上の人と云う事に為るが、年収が高い所為か不満の声は出て居ない。
但し、この国からの支援金の1200ドル・約13万円を希望の光の様に思って暮らして居る人は少ないだろう。全く足り無いからだ。ニューヨークではワンルームマンションの1ヶ月分の家賃も支払え無い。だから、同じ13万円でもアメリカと日本、そして例えばマレーシア等では物価が違うので金額の比較は簡単には出来無い。だが、政府の支援金額の決定と失業保険金に依る実質的な支援のスピード面で、日米で格段の違いが有る事は理解し易いだろう。
ニューヨーク州の失業保険申請画面。質問はステップ毎に進んで行く。画像はステップ5「(新型コロナ)パンデミック失業支援」のチェック画面
穴が有れば埋めて行くしか無い
勿論、ドンな制度でも零れてしまう人が出て来る。それはニューヨークでも同様だ。しかし、ニューヨークでは穴が有れば埋めて行く作業も早い。例えばレストランの様な業種で有れば、オーナーは社員をレイオフ(一時解雇)する事に依り、失業保険金の支給を受けさせる事で、社員の生活を取り敢えず確保出来る。
只、オーナーは高額な店舗の家賃で資金繰りに困る事に為る。社員も同様で食べる事、電気ガス水道と云った生活に於けるインフラの支払いは失業保険金から出来ても、自宅アパートの家賃で困って来る。すると、ニューヨークは90日間家賃(店舗・住宅)の支払いが無くても、ビルのオーナーやアパートのオーナーは立ち退きを迫る事は出来無いと宣言した。(住宅ローンの場合も90日間)それでも何処かに穴が有るので政治家や官僚は連日埋めて行って居るのだ。
ニューヨークでの失業保険金の申請は以下の通りに為る。先ずはインターネットでの登録だが、氏名・生年月日・職業・運転免許証の番号、そしてソーシャルセキュリティ(日本ではマイナンバー)の番号を入力。申請には、質問に「はい、いいえ、数字を選択」で答えて行く方式だ。
「新型コロナで職を失いましたか?」「何時からソコに勤務して居ましたか?」「最後に働いた日は何時ですか?」「会社から有給休暇を貰って居ますか?」「他の団体から支援金を貰いましたか?」「退役軍人ですか?」等あるが、年収も月給も時給も入れる項目も無ければ金額を入力する処も無い。唯一金額に触れる質問は「この期間に(直近の1週間が表示される)に504ドル・約5万5000円以上貰いましたか?」で、此処でも「はい、いいえ」のチェックを入れるだけに成って居る。(※週504ドルはニューヨーク州の失業保険金の支給最高額)
正確に数えた訳では無いが、50問位の質問に答えると申請が受理される。感覚としては、インターネットで好く有る性格診断の様な形だ。勿論、会社からの離職票も雇用保険被保険者証も要らず、印鑑も写真も通帳も要らないので、何かファイルをアップロードする事も無い。当然、説明会も無ければ失業認定も無い。人に依っては質問の不備が有り電話対応に為る事が有るが、大抵はインターネットだけで済む様に出来て居る。
不正受給を恐れて居ては
ニューヨークの知り合いの歯科助手3名がホボ同時に申請したが、3名共申請が受理されて2日目に1週間分の失業保険金が支払われて居た。金額は504ドル・約5万5000円。支払い方法は、銀行振り込みかデビットカード。デビットカードの場合は、カードの裏にマスターカードのマークが付いて居り、スーパーやドラッグストアのレジでマスターカードのマークが付いて居れば使用出来る。現金が必要で有れば、一部の銀行でデビットカードを現金化も出来る。
デビットカード
そして又1週間経てば又インターネットで申請するのだが、質問は5つ位に絞られ、1つは「この期間に(直近の1週間が表示される)に504ドル・約5万5000円以上貰いましたか?」と云う質問がある位で、所要時間は1分以内で再申請が終わる。毎週日曜日に再申請して火曜日入金。ソレでこの3名は既に4週間が過ぎ、4週間必ず入金されて居る事を確認した。
ニューヨークの失業保険の受給は26週間だったが39週間に延長された。又、失業保険金は州とは別に連邦政府から一律追加で毎週600ドル・約6万5000円が7月31日迄毎週支払われる事にも為った。
新型コロナ感染拡大に於いて、アメリカ・ニューヨークの失業保険の申請で興味深い点は、ニューヨーク州からの支給額は人により毎週104ドル・約1万1,000円から504ドル・約5万5,000円の幅で州に依り金額は変わる、或る意味でドンブリ勘定で有り、或る程度の不正受給は黙認して居る処である。非常時のスピード支給の為なら一部の悪人の不正には目を瞑り、大多数の善人を優先して居るのである。
不正受給を恐れて居ては善人への支給が何ヶ月も先に為ってしまう。現にコノ3名は2名が正社員・1名がパートタイムで週3回のみ出勤だったが、3名共同額の失業保険金を受け続けて居る。だが、コレがアメリカでの最低限の生活を支援する方法に為って居るのだ。
「一時解雇」と云う選択
日本では、2月24日MBS(毎日放送)の<「バス売却して運転手の給料に宛てる」客激減で社長が苦渋の選択>と云う記事に有る様に、観光バス会社を運営して居た会社が、中国等からの観光客が激減した為、10台在ったバスを売りながら9人の運転手の給料を払うと云う事態に為って居る。
お金を政府機関から借りるにしても、全くメドが付か無い中では無理もある。そして何よりこのバス会社の社長が心優しいからバスを売る決断をされた訳だが、今日本で小さな店舗を営業して社員を雇って居る社長達も同様の状況だろう。
バス会社の話は、レイオフ・一時解雇の説明をする際に判り易い。例えばバスを売り続けて社員に給料をもう払え無く為ると、倒産に為り会社事無く為ってしまう。或いは、バスは残ったとしても、事業を再開した頃には運転手9人とバス3台と云う事にも為り兼ね無い。だから、アメリカではレイオフ・一時解雇が盛んに行われて居る。
レイオフを実行出来るので有れば、バス10台を会社に残せるかも知れないし、事業再開の時運転手達を再雇用すればバスを買い直す必要も無く、バスも運転手も直ぐに稼働出来るので給料も払える様に為る。勿論、両者とも痛みは伴う。
だが、非常時に無傷で居られる事は難しく、もしそうで有りたいので有れば、ベーシックインカムの議論を急ぐべきだろう。只、議論をして居るだけでは実効性が無いので、現状では、食べるに困ら無い勉強に困ら無い生活のインフラに困ら無い・・・と云う最低限の処を日本政府がサポートすべき時期に来て居る。
生活が懸かって居ては休業も出来無い
アメリカでも制度の穴はマダマダ有るが、給料を貰う為に電車通勤を続けると云う事態では無い。人命に集中する為には、綺麗事を言って「お店を休業してください」と唱えても、生活が懸かって居ては休業も出来無いのだ。そうすると元気で無自覚な人が街に出て、新たな新型コロナ感染者を増やして行く。
この連鎖を止める為には、ドンな形で在っても日本は国民への支援金が必要に為る。出来無い理由を探して居る場合では無い。中途半端な対策では新型ウイルスの感染拡大を止められ無いのだ。
現在ニューヨークでは、徹底した人との接触を避ける行動により、感染者数や入院者数が「高止まり」して居る状態に為った。ニューヨーク州知事は4月30日に感染のピークを迎えるとして居たが、少し早まる気配を見せて来たのだ。
国や自治体からの外出規制要請は、何かしらの生活への補償が有ってコソ徹底されるものであって「日本人は優秀だから自粛要請を守って来る筈」と云う類のものでは無い。守ら無い人にも事情が有るのだ。筆者が現在の日本に住んで居たなら、ハズレマスクをして出勤して居るのかも知れない。
笹野 大輔 ジャーナリスト 以上
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2020年04月15日
岩田健太郎×内田樹 日本のコロナ対応の遅さは「最悪の事態想定しないから」
岩田健太郎×内田樹 日本のコロナ対応の遅さは
「最悪の事態想定しないから」
〜〈AERA〉AERA dot. 4/15(水) 8:00配信〜
いわた・けんたろう 1971年生まれ 医師 神戸大学病院感染症内科教授 うちだ・たつる 1950年生まれ 思想家 武道家 神戸女学院大学名誉教授 (写真 楠本涼)
〜前例無き緊急事態宣言が打ち出された長い夜。ウイルスとの闘いは次なるフェーズへと移った。宣言から遡ること4日前・・・神戸大学病院感染症内科の岩田健太郎教授が、本誌コラムニストの思想家・内田樹氏とAERA2020年4月20日号で緊急対談した。その中から、此処では「外出自粛の要請」迄に時間が掛かった政府の対応について論じる〜
・・・緊急事態宣言が発令されたのは4月7日のこと。対談が行われた3日は、政府が発出を躊躇って居る段階だった。一方で、医師等からは一刻も早い「宣言」を望む声があった。
内田樹(以下 内田)行政が決断を下すのにこれ程時間が掛かるのは、どう云う理由に依るのでしょうか?
岩田健太郎(以下 岩田) 一番考えられる原因は「プランB」を用意して居なかった事です。日本政府や厚生労働省は伝統的に、事前の予測に基づく計画を予定通り実行することに関しては極めて有能です。今回で云えば、感染症を抑え込む為に病院に何床ベッドが必要か・治療に当たる医師や医療スタッフが何人何処に必要か、綿密な計画を優秀な官僚が立てて居た筈です。
問題は、事態がそのレールから外れた時です。当初のプランAが軌道に乗って居る内は安心ですが、それが崩れた時の想定をして居ない。予想して居た患者数を大幅に超えてプランが破綻した時に、方向転換のタイミングが極めて遅いんです。
内田 シナリオが複数用意されて居ない訳ですね。
岩田 はい、政治家も官僚も路線変更に抵抗して「未だ上手く進んで居る」と現状のプランにシガミ付き、酷い場合には「このプラン以外は有り得ない」と言い出します。典型的なのが東京五輪です。
「来年の7月にオリンピック開催して大丈夫ですか?」と複数のメディアに聞かれましたが、生物学的に来年7月迄にウイルスが日本から根絶される保証は一つも有りません。ですので「ダメかも知れません」と答えました。しかし政治家達は「日本にはワクチンや薬を開発する力が有るし、出来る筈だ。それ以外に無い」と言う訳です。
内田 日本政府がコロナに対して3月半ば迄真剣な対応を執ら無かったのは「東京五輪を中止したく無い」と云う強い願望が有ったからだと思いますが。
岩田 誰も決断を下さず「オリンピックの開催は無理だよね」と云う空気を徐々に醸成して行って、要約延期に踏み切った感じがしますね。東京のロックダウンの様な制限が遅れて居るのも、経済的損失を恐れて「封鎖止む無し」の空気の醸成を待って居る感じがします。しかし、手術せずに痛み止めを飲み続けて居ても、何れ必ず手遅れに為ります。一刻も早い「大手術」の決断が必要です。
内田 僕もそう思います。
岩田 私達医者は予言者ではありません。治療に当たっては常に複数のシナリオを作ります。今回の新型コロナも1月に武漢で発生した時に、八つ程想定シナリオを作りました。残念ながらその中で最悪のシナリオが現実に為りつつありますが、基本的にどのシナリオに為っても対応出来る様準備して置く事が大切なんです。
内田先生がお詳しい武道で云えば「相手はこう来る」と決め打ちするのでは無く、どう攻撃して来ても対処出来る様にして置くと云う感じでしょうか。
内田 好く判ります。プランAがダメだった時の為にプランB、プランCを用意して置くと云う発想そのものが日本社会には有りません。何処でもそうです。僕は何事に依らず取り敢えず「最悪の事態」を想定して置くと云う、日本社会では少数派なんですけれども、大学在職中はそれで好く叱られました。「最悪の事態を想定すると、それが現実に為るんだ」と。
岩田 そんな事が(笑)
内田 ほんとにそうなんです。人口減で18歳人口が減って行くのだから、大学の教育水準を維持する為には定員を減らし、ダウンサイジングする事が必要だと僕は思ったんですけれど、それは絶対ダメだと怒鳴られました。
予算が減り人員が減りと云う環境に置かれたら、研究も教育も遣る気が無く為るのだと。人間と云うのは「右肩上がり」の話をして居ないと生きる力が出無い生き物なんだ。内田君は人間と云うものが判って居ないと説教されました。
岩田 そこ迄、ですか。
内田 でも今思い返すと、その説教には一理有りました。確かに日本人はそうなのかも知れない。「最悪の事態」を想定して、ウッカリそれを口に出すと集団のパフォーマンスが下がると云う事が日本の場合は経験的事実として有るんじゃないでしょうか。
過つて帝国陸軍の戦争指導部も、皇軍大勝利と云うシナリオを起案する参謀だけが出世して、後退戦での被害を最小限に食い止める方法を考える現実主義者は冷遇された。今回、日露戦争以来の「プランBを考えることをしない国民性」が際立った様に思います。
文・構成 大越裕 ※AERA 2020年4月20日号より抜粋 以上
内田樹 「専門家不在のコロナウイルス対策会議は日本社会の脆弱性を露呈した」
〜連載「eyes 内田樹」2020.2.26 07:00 AERA#内田樹〜
内田樹(うちだ・たつる) 1950年 東京都生まれ 思想家・武道家 東京大学文学部仏文科卒業 専門はフランス現代思想 神戸女学院大学名誉教授・京都精華大学客員教授・合気道凱風館館長 近著に『街場の天皇論』主な著書は『直感は割と正しい 内田樹の大市民講座』『アジア辺境論 これが日本の生きる道』など多数
〜哲学者の内田樹さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、倫理的視点からアプローチします〜
コロナウイルスの感染は、この原稿が掲載される日にどう為って居るか予測が着かない。多分事態は今以上に危機的に為っていると私は予測して居る。今回の事件に日本社会の本質的な脆弱性が露呈されたと思っている人は少なく無いだろう。
私が日本社会の弱さと思うのは「社会的共通資本」と云う概念が定着して居ないことである。社会的共通資本とは人間が集団として生きる為にそれ無しでは生きて行けないものの事である。海洋・森林・河川と云った自然環境、上下水道・交通網・通信網・電力等の社会的インフラ、そして行政・司法・教育・医療等の制度資本がコレに当たる。
これ等の制度設計・管理運営は専門家が専門的知見に基づいて、理性的かつ非情緒的に行うべきものであって、政治と市場はこれに関与しては為らないとされる。
別に政治イデオロギーは常に有害であるとか、金儲けは悪であるとか言って居る訳では無い。政治と市場は複雑系だと言って居る話である。複雑系では僅かな入力の変化が巨大な出力変化をもたらす。政治と市場に人々が熱狂するのは、予測もしなかった急激な変化が連続的に起こるからである。変化が好きな人間には深い愉悦をもたらす。
だが、社会的共通資本の管理では目まぐるしく変化する事よりも、定常的で有ることが最優先される。政権交代したら水道が出無くなったとか、株価が下がったので学校や病院が閉じたと云う様な事が在っては困るからだ。
感染症対策は専門家が専門的知見に基づいて管理すべき事案であって、政党支持率や景況とは関係が無い。と云うことを、どれだけの人が自覚して居るだろうか。今回のコロナウイルスの政府の対策会議は1月30日の第1回から2月14日の第9回迄一人の感染症専門家も無しで開かれて居た。会議時間は10分から15分。此処で感染症対策に付いてのテクニカルな議論が深められたと信じる人は居ないだろう。政治家や官僚や財界人では無く、先ず専門家がハンドルすべき重大事案がこの世には存在する。そのことに付いての合意が日本社会には存在しない。
内田樹 ※AERA 2020年3月2日号 以上
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繰り返す「バブル崩壊」化けの皮が剥がれたアベノミクスは泥沼
繰り返す「バブル崩壊」化けの皮が剥がれたアベノミクスは泥沼
〜ダイヤモンド・オンライン 立教大学大学院特任教授 金子 勝 4/15(水) 6:01配信〜
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リーマンショックから10年余り 又繰り返されたバブル
新型コロナウイルスの感染拡大で世界中の経済活動が急激に遮断された為に、世界は「大恐慌」への崖っプチに立たされて居る。NY株式市場のダウ平均株価は3月9日2,013ドルも下落し、12日にWHO・世界保健機関がパンデミック宣言を出したのを契機に、2,352ドル下落と再び2,000ドル以上も下がった。
15日には、FRB・連邦準備制度理事会が4年3カ月振りに再びゼロ金利を採用、量的緩和策を再開したにも関わらず、16日には1日で3,000ドル近い2,997ドルもの株価下落が起きた。ホンの1カ月前の2月12日には、ダウは2万9,551ドルの史上最高値を更新したばかり。
高過ぎる株価を警戒する声が無かった訳でも無いが、又もやバブル崩壊を繰り返す事に為った。安倍政権は4月7日「総事業規模108兆円」の緊急経済対策を決め米国も2兆ドルの対策を打ち出して居るが、マクロ政策で景気を支える政策発想から抜け出せて居ない。
文 立教大学大学院特任教授 金子 勝氏
規制の抜け道探り 新金融商品 「次のバブル」作り出し回復狙う
リーマンショック(2008年9月)の様な大きなバブル崩壊で酷い目に遭っても、何故、繰り返しバブルに誘惑されるのだろうか・・・ソモソモ経済学は「投機」の合理性を説明して居るが「投機」の破壊性の説明は無い。マクロ経済モデルには、必ずしも「バブル崩壊」が組み込まれて居る訳でも無い。しかし当事者や政策責任者に取って、バブルが繰り返される理由は難しく無い。
バブル崩壊に依って生ずる巨額の不良債権をキチンと処理する事は酷い苦痛をもたらす。本来なら、会計粉飾が厳しく問われるが、経営責任や監督責任を避ける為に一番容易い方法は、もうひとつの別のバブルを作り上げる事だからだ。そしてソレを煽る「経済学者」や「エコノミスト」は山程居る。
米国も又リーマンショック後、不良債権と化した証券化商品が複雑で且つ巨額だった為、本格的な不良債権処理が実行出来無かった。FRBはゼロ金利政策を執ると共に、国債の買い入れによる量的金融緩和で金融機関に流動性を大量に供給しただけで無く、住宅ローン担保証券を大量に購入して住宅バブルを直接救済する道を執った。
短期的には財政金融政策を総動員する事は必要だったが、景気が回復してからも長く金融緩和が続けられた。結局、より一層大きなバブルを作り出す事で経済を回復させようとして来たのだ。
確かにオバマ政権は、銀行のファンドへの出資制限やヘッジファンドの報告義務等、所謂「ボルカー・ルール」を導入、実効性には問題が在ったとは云え、金融機関の投機に歯止めを掛け様とした。それが2010年のドッド・フランク法・金融規制改革法と為り、金融安定監督評議会・FSOCと金融調査局が設けられた。
しかし、新たな規制が導入されれば、抜け道を探して常に規制当局を免れる新たな形式のファンドと金融手法が生み出されて行く。
SEC・米国証券取引委員会とは別に、CFTC・米国商品先物取引委員会の「規制」下に置かれるCTA・商品先物投資顧問業者が台頭して来た。CTAはコンピューターのプログラムによる高頻度取引・high-frequency tradingを駆使し、アラユル先物取引へのトレンディー戦略と分散投資に基づいて儲ける様に動く。
それは、株式先物を含むアラユル領域の先物取引に関して、瞬時に動向を捉えコンピュータの自動プログラムに依って大量の高速取引で儲ける。その結果、リーマンショック以上のボラティリティー・浮動性が生じる様に為って居る。
トランプ政権の大規模減税やFRBの低金利政策で資金が有り余る中で、大手企業等を中心に自社株買いが進み、一方でハイリターンを狙って格付けの低い社債が買い込まれた。
超緩和で「株高・円安」誘導 アベノミクスはバブル政策
財政金融政策を使うと一時的には経済を回復させるので、それが「合理的」に見えるのだが、不良債権や過剰債務が抜本的に処理されず常に火種は残る。ゾンビ企業が残り古い産業構造が残る事で、経済は活性化し無いママだ。それでも米国の場合は、IT大手企業等に依って、新技術を基に新たなサービスが生み出されたから、株価バブルの一方で実体経済の地力も上がった。
だが日本はどうか。技術革新が生まれず産業構造の転換が出来無いママ、競争力を失い先端分野では韓国や中国の後塵を拝して来た。その最後の局面で執られたのがアベノミクスだった。それは究極の無責任のバブル作りだった事が明らかに為りつつある。
2013年4月に始まったアベノミクスは、インフレターゲット政策に基づいて「2年」で「2%の物価目標」実現を掲げながら(2年間ならイザ知らず)目標を達成出来無いまま7年間も「大規模金融緩和」を続けて来た。アベノミクスが、実態として働いて居たメカニズムとはどの様なものだったか・・・
一つは、産業衰退の下で、超低金利と日銀が国債を大量に購入して株高・円安を誘導し、更に賃下げで辛うじて大手輸出企業主導の経済成長で何とか持たせ様とする政策だった。大規模の金融緩和は円安誘導を、そして「働き方改革」や「生産性革命」(手っ取り早い「入管難民法」の様な外国人雇用の拡大)は賃金抑制をもたらすものだった。
いま一つは、賃金抑制で消費が盛り上がら無い中で、日銀が国内金融機関に資金を供給しても融資先が無く為り、アベノミクスは必然的に株式や不動産(特に大都市圏のマンション)へバブル的な資金を流す事に為った。更に、それでも国内投資先に限界が有る為に、資金は、国内がマイナス金利に為る中、プラスの金利だった米国に流れ米国の資産バブルを支えて来た・・・要するに、アベノミクスとは国内外の両面に渉ってバブル誘導政策だったのだ。
特に国内では、日銀はETF・指数連動型上場投信を購入し、GPIF・年金積立金管理運用独立行政法人も加わって、意図的な株価吊り上げを行って来た。2013年4月2日の日経平均株価は1万2,003円だったが、今年1月20日には2万4,083円迄、ホボ2倍迄上がった。同じ様に、大都市圏の新築マンション価格も上昇して来た。
誰もがこのママでは衰退が加速して行く事に薄々気付いて居乍ら、行く処迄行くしか無いと現実を見無い様にする。ぬるま湯の心地好さに浸かりながら「我が亡き後に洪水よ来たれ」とばかり「今だけ・金だけ・自分だけ」と云う刹那主義が進行して来た。ソコへ、リーマンショックからホボ10年を経て、新型コロナウイルス大流行に伴う世界的なバブル崩壊が襲って来た。
金融政策は「伸び切ったゴム」 売るに売れ無い株を持ち続ける日銀
だが今回のバブル崩壊はこれ迄以上に厳しい状況だ。従来のバブル崩壊と何が違うのか・・・一つは、新型コロナウイルスの感染拡大と共に、実体経済の悪化からバブル崩壊が深まって行くと云う逆方向を辿って居る点だ。
今一つは、アベノミクスで7年間も異常な金融緩和政策を続けて来た為に、伸び切ったゴムの状態に為ってしまい、中央銀行としての政策余地が狭く為って居る事だ。
政策金利はマイナス金利迄下がり、これ以上金利を引き下げれば、利ざや縮小に陥って居る地域金融機関の経営困難が深まる。東京オリンピックは来年に延期されたが、実体経済の悪化が長引けば本格的な不動産バブル崩壊に繋がる可能性が有り、そう為れば地方銀行や信用金庫等の弱小の金融機関の経営は一層苦しく為って行くだろう。
大手金融機関も安穏として居られ無い。サウジアラビアとロシアの間で明確な減産の合意が出来無い為に、原油が1バレル=20ドル台で推移して居るが、原油安が長引いた場合、米国のシェールオイル企業の経営を悪化させる。それは、ハイリスクハイリターンのシェールオイル企業の債券が組み込まれたCLO・ローン担保証券が破綻を招く危険性を強める。
FRBやイングランド銀行・カナダ中央銀行がCPや社債の買い取りを始めたが、日本の金融機関はCLOに多額の投資をして居り、もし株式市場に続いてクレジット市場が値崩れを起こすと、企業や金融機関の経営に大きな打撃を与える。
日銀は大規模金融緩和と共にETFの買い取り額を拡大させて来た。今や総額は30兆円を超え、日本の株価総額の5%弱を占める様に為って居る。売れば忽ち暴落する為に、売るに売れ無い株を買い続ける事に為る。そして今回の株価暴落で日銀自身がバランスシートに打撃を受ける事に為って居る。
3月10日の参院財政金融委員会で、黒田東彦日銀総裁は「日銀が保有するETFの時価が簿価を下回る損益分岐点は、平均株価が1万9,500円程度」とした。そして18日の参院財政金融委員会では「株価1万7,000円前後だと含み損が2兆〜3兆円だ」と答弁した。株価が1万6,000円迄下落すると含み損は4兆〜5兆円に上ると推測される。日銀が信用を保つには引当金を積ま無ければ為ら無い。含み損を抱える一方で、売れば株価が更に下がる。日銀の株買いも国債購入と同様に「出口無きネズミ講」に陥って居る。
消費税減税はデフレ招く 政策破綻の安倍政権
此処に来て高まるのは財政政策へのシフトだが、危うい政策論が飛び交う。その象徴が「消費税減税」だ。コロナショックで消費が落ち込む中、緊急経済対策作りの過程でも、アベノミクス支持の自民党若手議員・一部野党が主張して居たが、消費税減税は寧ろデフレスパイラルをもたらす危険性が極めて大きい。
消費が落ち込んで、物価が下落しそうな状況で消費税減税を実施すれば、人々はより価格が下がるのを待って買い控えをするだろう。一方で事業者は、税率が高い時に仕入れた原材料在庫が製品と為って売れる時には、価格と税率が下がって居るので次々と損失が出て来る。
このタイムラグが解消されたとしても、その後も物価が段々下がって行けば、常にデフレ圧力に依って事業者は収益が圧迫されるので、一層の賃金下落と雇用削減を引き起こす。そして人々は更に低価格志向を強めて行くだろう。皮肉にも、消費税減税で一番苦しむのは、価格支配力の無い中小零細業者だ。
アベノミクスは、バブルを散々煽って来た挙げ句、いざバブルが崩壊すると、デフレを加速する政策を遣り兼ねず最早政策として破綻して居る。
本来、どの様な対策が必要なのか・・・安倍政権は4月7日、緊急事態宣言と共に総事業費108兆円規模の緊急経済対策を出した。その内、財政支出は39兆円とされ、首相は大胆な政策を強調して居る。だがコロナショックに対して従来の需要喚起策では効果は限られる。元々財政金融政策は「伸び切ったゴム」で有る為に苦しい。
産業衰退に加えて、最大の貿易相手国で有る中国・米国・韓国も新型コロナウイルスに襲われて居る。米中の間では貿易摩擦も続いて居り、日本は従来の様な円安と賃下げによる輸出主導の景気回復は出来無いだろう。財政金融政策を拡大し続けて来たが、結局は、低成長で終わり財政再建の道は絶望的に為るかも知れない。マルで「アリとキリギリス」の寓話の様な顛末である。
今、当面の政策として重要なのは、売り上げが急減し資金繰りに困って居る中小零細企業の倒産回避と雇用の確保だろう。野党が要求した26兆円の納税猶予は機敏な措置だが、6兆円の直接給付は緊急度に基づいて居らず迅速さに欠けて居る。
急いで雇用助成金の支給基準を緩和し大幅に増額すべきだろう。特にインバウンドが消えて打撃を受けて居る観光業・宿泊業・外食業・小売業等は至急に支給し無ければ、雇用、特に非正規雇用の削減を引き起こす。収入が減った家計への生活支援もスピード感に欠ける。
収入が減って住民税非課税に為った世帯や(給与明細で)所得が半減した世帯に30万円を給付し、中小・小規模事業者に対しては最大200万円の給付金を出すが、手続きが煩雑で6月迄支給されそうに無い。
緊急経済対策は、取り敢えず、無利子・無担保の繋ぎ融資の40兆円を超える企業金融支援が見せ掛けの規模を大きくした。だが、日本経済の中期的な回復が見通せ無いなら借金は只の重荷に為る。
⊡ より即効性の高い雇用維持策を執ると同時に 新型コロナ問題が収束した後を見据えて、
⊡ 産業の再生や先端技術開発支援
⊡ エネルギー転換を突破口にして 内需を厚くする地域分散ネットワーク型システムの構築
・・・等で、多くの人々の未来に明るい見通しを与える事コソが不可欠だ。コロナショックの経済への打撃を抑える本筋の政策は、先ずは感染拡大の防止であり医療体制の整備で有り治療薬やワクチンの開発だ。新型コロナ・ウイルス問題の収束が遅れれば遅れる程、経済政策は効か無いからだ。
立教大学大学院特任教授 金子 勝 1971年に東京教育大学附属駒場高等学校卒業 映画史家の四方田犬彦は同級生で共に詩の同人誌を刊行して居た 1975年に東京大学経済学部卒業 財政学を専攻 指導教官は林健久 東京大学在学中は 東京大学教養学部学生自治会委員長として学生運動を指導して居た
1980年に東京大学社会科学研究所助手 茨城大学人文学部講師 法政大学経済学部助教授・教授を経て、2000年から慶應義塾大学経済学部教授 慶應義塾大学の課外活動では 2003年より慶應義塾大学「モーニング娘研究会」の顧問を務めて居る 2018年4月からは、慶應義塾大学名誉教授・立教大学大学院特任教授を務めている 執筆活動の他『サンデーモーニング』(TBS)や『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日)等にテレビ番組にも出演して居る 『ニュースにだまされるな!』(朝日ニュースター)では司会を務めた 脱原発こそ日本経済を明るくする鍵だと主張し 2014年東京都知事選挙では脱原発を公約に掲げた細川護煕を支持した 日本による対韓輸出優遇撤廃に反対する<声明>「韓国は「敵」なのか」呼び掛け人の1人
以上
【管理人のひとこと】
金子先生の本質は、管理人の理想とする世界と同じ方向を目指して居ると自負している。彼の人間性も・・・例えば安倍晋三氏の真逆な性格で、自分が信ずる道そのママの人生を送って居られる様に想像する。例えば経済を抜きにしても、弱い者側に建つリベラルな立ち位置も、原発に正当な評価をすることも・・・歴史を学びそこから何かを得ようと努力し学ぶ姿であったり、それによって先を想像し得る先見性で在ったりする。
今回先生の批評は本筋を突く真っ当なものと受け止めるが、普段より可成り慎重な物言いにトーンダウンして居る様に受け取れる。先生は、早口で話し下手なので、喋るより文章の方が先生の意思がそのまま通ずる様なので、解説も分析も説得力も大いに高まる訳だ。
コロナ禍の経済政策で私達の様な素人は、現金給付や消費税撤廃を要求したく為るのだが・・・消費が落ち込んで、物価が下落しそうな状況で消費税減税を実施すれば、人々はより価格が下がるのを待って買い控えをするだろう。一方で事業者は、税率が高い時に仕入れた原材料在庫が製品と為って売れる時には、価格と税率が下がって居るので次々と損失が出て来る・・・とのご指摘に目から鱗が剥がれた様だった。
詰り、現在の状況は過去の政策故の結果なので、政策を元に戻したからと云ってそのまま昔の状況に戻る訳では無い。それには別の何かを組み容れ無ければ為ら無い様です。有難う御座いました・・・