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2024年02月27日

【オリジナル小説・PV】『反出生の青き幸』制作背景

オリジナル小説:『反出生の青き幸』
PV動画を作ってみました。

この小説と、PV動画の制作背景を紹介します。

  1. 制作した動画
  2. 作品の概要
  3. 制作の所感

1.制作した動画




2.作品の概要


3.制作の所感

本作は、主人公が
『子孫を残さない人生を目指す物語』です。

根底には、主人公の生い立ちから生まれた
「反出生主義への肯定的な気持ち」があります。

・子孫を残したくない主人公
・子孫を残せと迫る”由緒ある”主人公の家系
・子孫を残せないアンドロイドの親友たち

この3者の苦悩を通じて、

「子孫を残すことは誰にとっても幸せか?」

問いたくて作りました。



主人公の両親は、
名家の家系存続のトラブルの中で
不幸な人生になってしまいます。

それを見てきた主人公は思います。
「不幸になる子孫を再生産したくない」

一方、アンドロイドの親友たちの苦悩は
生殖能力を持たないこと、主人公と正反対です。

「子孫という形で未来へ希望を託すことができない」

※アンドロイドの苦悩については、柴田昌弘先生の名作マンガ
 『グリーン・ブラッド』を参考にさせていただきました。



僕自身、反出生主義に肯定的です。

幼少期から親子関係で
悲しい思いをすることが多かったので、

「あんな思いをする人間を再生産したくない」
「だから生殖能力を失いたい」


と思っています。

もちろん、生きていて良かったことはたくさんありますが、
「親に愛されなかった」という思いが勝ってしまいます。

「苦しみの方が多いなら、生まれない方がマシ」
そう思う僕は、生物の本能だけで見れば”エラー個体”です。



だからこそ
「子孫を残さなくても誰かの希望になれる」
ような生き様に憧れます。

現実では、自分は生殖能力のないアンドロイドになれない。
それなら一代生物のつもりで、人生を精一杯に生きたい。

本作が「子孫を残さない幸せ」について
考えるきっかけになれば嬉しいです。



⇒他作品
【オリジナル小説・PV】『ツンデレという凶器』制作背景

【オリジナル小説・PV】『彩、凛として空、彩る』制作背景



2024年02月26日

【短編小説】『500年後の邂逅』4 -最終話-

【MMD】Novel 500 Years SamuneSmall2.png
【MMD】Novel 500 Years CharacterSmall2.png

【第3話:もしも生まれ変わったら】からの続き

<登場人物>
リディアナ
 ♀主人公、20歳
 母親エレから魔法の資質を受け継ぐ

エレ
 ♀リディアナの母親
 街で1番の大魔法使い

ヴィンラック
 ♂40歳、とある村の守り人を務める
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



【第4話:500と10の想い人】



リディアナ
「…んん…ここは…?」


エレ
『よかった…目を覚ました!』


リディアナ
「…お母さん?!生きていたの?!」


リディアナはガレキの上で目覚めました。
エレは心配そうな表情で彼女を覗き込んでいました。

リディアナ
「もしかして…私が住んでいた街…?」


エレ
『そうよ。リディアナ、よく生きてたね…(涙)』


リディアナ
「お母さんこそ、なんで生きて…?」
「あの時、私をかばってタイムスリップ魔法を使ったのに。」


エレ
『大魔法使いをナメないでよ?あの程度の修羅場…。』
『あなたが生まれる前から何度もくぐり抜けてきたんだから!』


なんと、リディアナが飛ばされた時代は、
母親・エレとの別れから数日後でした。


エレは娘にタイムスリップ魔法をかけた上、
敵の最後の襲撃を退けていたのです!



リディアナ
「…やっぱりお母さんには敵わないや。」


エレ
『でしょ?まだ娘に負けるつもりはないよ!』


リディアナ
「うん、魔法力も経験値も。」
「そうやって強がるところもね。」


服で隠していますが、
エレの全身は包帯でぐるぐる巻きでした。

母親は手足に力が入らず震えを隠していることも、
娘にはお見通しでした。

エレ
『もう…そこは母の威厳を立てなさいよー///(照)』


リディアナ
「あはは、ごめんね(汗)」
「ところで、その子は誰?」


リディアナは
エレにしがみつく1人の少年に気づきました。


エレ
『この子?敵が撤退した後、ひょっこり現れたの。』
『この街の子じゃないみたい。』


リディアナ
「ご両親は?」


エレ
『覚えてないんですって。』


リディアナは、
まだ怯える少年に優しく声をかけました。

リディアナ
「大丈夫、怖くないよ。」
「私はリディアナ、あなたは?」


少年
『……ヴィンラック、です。10歳。』


リディアナ
「え?!」


少年は”偶然にも”
500年前のヴィンラックと同じ名前でした。

そういえば、どことなく彼の面影を感じます。



リディアナ
(まさか、彼の生まれ変わり?そんなわけないか。)
(けど懐かしい…初めて逢った気がしない。)


エレ
『知り合い?』


リディアナ
「ううん…500年前に、似た人がいただけ。」


エレ
『何なに?いい男?』
『あんた過去で何してきたの?聞かせなさいよー?』


リディアナ
「茶化さないでよ///(照)後でね!」


少年はにぎやかな母娘を見て、少し安心したようです。

少年
『あのッ…!お姉さん…!』


エレ
『なぁにー?(笑)』


少年
『えっと、エレさんじゃなくて…リディアナさん…!』


エレ
『なぁんだ。』


リディアナ
「もうッ!お母さんは黙っててよ!(苦笑)」
「どうしたの?」


少年
『僕…親のこととかは思い出せないけど…。』
『1つだけ覚えてるんです。』


リディアナ
「何か覚えてるの?」


少年
『はい、なぜかわからないんですけど…。』
『もしリディアナさんに逢ったら、これを。』


ヴィンラックと名乗る少年は、
腰の道具袋から小さな箱を取り出しました。
中にはかわいらしいペンダントが入っていました。

リディアナ
「…これは…ヴィンラックが持っていたペンダント…?」


草原を横切る2人、小高い丘の上。
遠い、500年前の記憶。



少年
『僕、おかしいですよね。』
『逢ったこともない人への贈り物だけ覚えてるなんて。』


ポロ、ポロ、

リディアナ
(もう…これ、”娘さんへの”プレゼントだったんでしょ?)
(そういう鈍感なところは変わってないね…。)


少年
『わわッ!急にどうしたんですか?!』


リディアナは眼にいっぱいの涙をためながら、
少年を抱きしめました。

エレ
(…よかったね…”500年後に”また逢えて。)


リディアナ
「ごめんね…もう少し、このままでいさせて…?」



(私、20歳も年上が好きだと思っていたのに…。)
(どうしてくれるの?今度は私が…。)



(500と10歳も年上になっちゃったじゃないの。)




ーーーーーENDーーーーー



⇒他作品
『雪の音色に包まれて』全4話

『永遠を解く鏡』全2話

『まぼろしの舞踏会』全4話

『まもりたいもの1つ』(1話完結)


⇒この小説のPV


⇒参考書籍






2024年02月24日

【短編小説】『500年後の邂逅』3

【MMD】Novel 500 Years SamuneSmall2.png
【MMD】Novel 500 Years CharacterSmall2.png

【第2話:娘に贈るペンダント】からの続き

<登場人物>
リディアナ
 ♀主人公、20歳
 母親エレから魔法の資質を受け継ぐ

エレ
 ♀リディアナの母親
 街で1番の大魔法使い

ヴィンラック
 ♂40歳、とある村の守り人を務める
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



【第3話:もしも生まれ変わったら】



リディアナとヴィンラックの、
もどかしくも平穏な日々が続きました。

しかし、残念ながら
歴史の教科書はウソをついてくれませんでした。
戦禍の足音は、静かに大きくなっていたのです。

リディアナ
「侵略者…?!」
(やっぱり教科書の通り、この街は1度…。)


リディアナはヴィンラックに助けられた日から、
思い出さないようにしていました。

が、人間の凶暴な本性は、
”助け合い、分け合う”を許しませんでした。

リディアナ
「どうしていつの時代も、人間はこんなに争うの?」
「誰だって幸せになりたいはずなのに…。」
「どうして自ら不幸になる道を選ぶの?!」




ヴィンラックを筆頭に、
守り人たちは迎撃態勢に入りました。

リディアナは前線で戦うことを志願しました。

しかしヴィンラックは、
彼女に村の人たちを避難させる任務を指示しました。

リディアナ
「ヴィンラック!村のみんな避難できたよ!」


ヴィンラック
『ありがとう!リディアナ、この先は危険だ!』
『みんなと一緒に逃げてくれ!』


リディアナ
「イヤ!私だって守り人よ!一緒に戦う!」
(もう守られてばかりなんてイヤだもん…!)
(今度は私が大切な人を守る!)


ヴィンラック
『…その眼は…。』


リディアナは、
かつてのヴィンラックと同じ眼をしていました。

彼が妻子を守れなかった時、
もう誰も失いたくないと覚悟を決めた時の眼でした。


ヴィンラック
『…危なくなったらムリヤリ逃がすからね。』


リディアナ
「…ありがと。」


ヴィンラック
『戦える者は前線へ!』



ーー


リディアナたち守り人は必死に応戦しましたが、
侵略者の兵力は段違いでした。

さらに、侵略者はこの時代には
まだ発明されていないはずの魔法を
いくつも使ってきました。


守り人たちは
見たこともない魔法に面喰らい、
一気に劣勢に立たされました。

リディアナとヴィンラックの魔法の応戦で、
相手にもそれなりの損害を与えました。

が、多勢に無勢。
防衛戦線はどんどん押し込まれていきました。

そして、ついに生き残りは
リディアナとヴィンラックの2人だけになりました。



ヴィンラック
『…ここまでか…。』
『リディアナ、きみを逃がす。』


リディアナ
「どうして?!私はまだ戦えるよ?!」


ヴィンラック
『敵もかなり弱っている。』
『ここから先は僕1人で十分だ。』


リディアナ
「1人なんて無謀よ!私の魔力だってまだ…。」


ヴィンラック
『…その足で戦える?』


リディアナ
「うッ…!」


リディアナは足を負傷し、
立っているのもやっとでした。

ヴィンラックは初めから
彼女のやせ我慢を見抜いていました。

リディアナ
(お母さんに助けられた時も、今回も…。)
(悔しい…!どうして私は肝心な時にケガを…!)


ヴィンラック
『危なくなったら逃がすと約束した。』
『これ以上きみを巻き込みたくない。』


リディアナ
「どうしてそこまでするの?!」


ヴィンラック
『…昔、僕は妻と娘を守れなかったって話したよね。』


リディアナ
「…うん。」


ヴィンラック
『あの時、僕は悲しみで我を忘れ、無謀に突撃した。』
『そのせいで味方に余計な被害を出してしまった…。』


リディアナ
「それが、前に言ってた”取り返しのつかない過ち”…?」


ヴィンラック
『そう、僕が故郷を滅ぼしたも同然なんだ…。』


リディアナ
「故郷?!この村は今もあるよ?!」


ヴィンラック
『実は、僕の故郷はこの村じゃないんだ。』


リディアナ
「…どういうこと…?」


ヴィンラック
『僕が返り討ちにされた時、誰かの強大な魔力に包まれた。』
『気がついたら、僕はこの村の外れで倒れていた。』


リディアナ
「それって…!」
「誰かがあなたにタイムスリップ魔法をかけたの?!」
「まさか、ヴィンラックも未来から来たの?!」


ヴィンラックは
答えを伏せるように口をつぐみました。
そして、

ヴィンラック
『あんな思いをするのは僕1人で十分。』
『…もう誰も巻き込みたくない。』


彼はそうつぶやくと、魔法の詠唱を始めました。
巨大な魔力がヴィンラックの全身を包んでいきました。

リディアナ
「この魔法は…お母さんの時と同じ…?」
「あなたもタイムスリップ魔法を使えるの…?!」


ヴィンラック
『(…ニコリ)…今度こそ守らせてほしい。』
『大切な村の人たちを。そして…。』



『誰よりも大切な、きみを。』




巨大な魔力が解放され、
眩しさで何も見えなくなりました。

リディアナ
「ヴィンラック!お別れなんてイヤだよ!」
(まだ想いを伝えられてないのに…!)


リディアナは必死に叫びましたが、
ヴィンラックの姿はもう見えませんでした。

リディアナ
「待ってよ!私、守られてばかりなんて…!」


ヴィンラック
『…リディアナ、僕と一緒にいてくれてありがとう。』
『どうか平和な時代で、幸せに…。』



(もし生まれ変わったら、また……。)




【第4話(最終話):500と10の想い人】へ続く

⇒この小説のPV

2024年02月22日

【短編小説】『500年後の邂逅』2

【MMD】Novel 500 Years SamuneSmall2.png
【MMD】Novel 500 Years CharacterSmall2.png

【第1話:時を超えるヒガンバナ】からの続き

<登場人物>
リディアナ
 ♀主人公、20歳
 母親エレから魔法の資質を受け継ぐ

エレ
 ♀リディアナの母親
 街で1番の大魔法使い

ヴィンラック
 ♂40歳、とある村の守り人を務める
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



【第2話:娘に贈るペンダント】



リディアナがヴィンラックに助けられてから
半年が経ちました。

すっかり村に馴染んだ彼女は、
ヴィンラックとともに守り人の一員になりました。

今も、母親との別れの傷が痛みます。

それでも彼女が前を向けたのは、
ヴィンラックや村の人たちの
あたたかい支えのおかげでした。

彼女は命ある今に感謝するとともに、
20歳も年上のヴィンラックに
特別な感情を抱き始めていました。




ある日のお昼頃、
ヴィンラックが日課の見回りをしていると、

リディアナ
「ヴィンラック、おつとめご苦労さま!」
「はい、お弁当!」


ヴィンラック
『いつもありがとう。』
『一段落ついたから、お昼にしようか。』


2人は草原を横切り、
お気に入りの場所に腰掛けました。

そこは小高い丘になっていて、
遠くの空や森まで見渡せる絶景スポットでした。

リディアナ
「ねぇヴィンラック、1つ聞いてもいい?」


ヴィンラック
『どうぞ。改まって何だい?』


リディアナ
「ヴィンラックはどうして村の守り人になったの?」
「それに、こんなに魔法を使えるなんて、どこで習ったの?」
「あッ、答えたくなかったらごめんね!」


ヴィンラック
『いいよいいよ。』
『もう…大切な人を失わないために鍛えたんだ。』


リディアナ
「大切な人…村のみんな?」


ヴィンラック
『もちろんそうだけど、もう2人いる。』
『いや、”もういない”…か。』


リディアナ
「いるけどいない?どういうこと?」




ヴィンラックは、
かつて従軍した防衛戦を語りました。
その戦禍の中で、妻と娘を亡くしたことも。

ヴィンラック
『あの時の僕は今以上に非力だった。』
『そして取り返しのつかない過ちを犯した…。』


リディアナ
「そんな…。」


ヴィンラックは腰の道具袋から、
小箱に入ったペンダントを取り出しました。


ヴィンラック
『これ、娘の誕生日に渡すつもりだったんだ。』
『もう渡せなくなっちゃったけどね。』


リディアナ
「かわいいペンダントね…。」
「きっと喜んでるよ…。」


ヴィンラック
『娘が気に入ってくれたら嬉しいな。』


リディアナ
「お父さんのプレゼントだもん!」
「ずっと大切にするよ!」


ヴィンラック
『ははは、そっか。』


リディアナ
「ヴィンラックの強さの秘密がわかった…。」
「そんなに大切な思いを背負ってたんだね。」


ヴィンラック
『うん、だからもっと力も魔法も磨きたいんだ。』
『もう誰も失わないために。』


リディアナ
「…ごめんなさい…。」
「イヤなことを思い出させてしまって…。」


ヴィンラック
『大丈夫だよ、乗り越えた。』


リディアナ
「本当に…?強がってない?」


ヴィンラック
『強がってないよ。』
『今の僕には村のみんなと…。』
『リディアナがいるから。』




ドキッ



リディアナ
「…え…?それって…。」
(もしかして私のこと…。)


ヴィンラック
『娘が生きていたら今年で20歳。』
『ちょうどリディアナと同い年だなって。』


リディアナ
「もう!私は娘扱いなの?!」
(…期待させるようなこと言わないでよ…。)


リディアナは頬を膨らませて、
すねる素振りを見せました。

ヴィンラック
『ごめんごめん、娘扱いしたわけじゃないよ。』
『20歳も年上の僕に言われたらそう思うよね(汗)』


ヴィンラックは
”やらかした”とばかりに苦笑いしました。

リディアナ
「まったくもう…。」
「そこは決めるところでしょー?」

(いいところだったのに…。)
(けど、こういう間が悪いところも憎めないなぁ…。)


ヴィンラック
『さ、さぁ午後の見回りに行こうか(汗)』
『戻ったら訓練の続き。』


リディアナ
「むぅー……わかった。」




午後1番の風が吹き抜け、
2人は日常へ戻っていきました。

リディアナ
(私、ヴィンラックのこと…。)
(お父さんだなんて思ってないからね!)
(ヴィンラックも、私を1人の女性として…。)


”亡くなった人には敵わない”
リディアナはそれくらいわかっていました。

それでも、彼女はヴィンラックにとって
同じくらい大切な人になりたいと願いました。

2人の関係はなかなか進展せず、もどかしい日々。
彼女はそんな幸せがずっと続けばいいなと思いました。



【第3話:もしも生まれ変わったら】へ続く

⇒この小説のPV

2024年02月20日

【短編小説】『500年後の邂逅』1

【MMD】Novel 500 Years SamuneSmall2.png
【MMD】Novel 500 Years CharacterSmall2.png

<登場人物>
リディアナ
 ♀主人公、20歳
 母親エレから魔法の資質を受け継ぐ

エレ
 ♀リディアナの母親
 街で1番の大魔法使い

ヴィンラック
 ♂40歳、とある村の守り人を務める
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



【第1話:時を超えるヒガンバナ】



ここは科学革命ではなく
「魔法革命」が起きた世界線。

革命以来、人間はわずか数百年で
次々に高度な魔法を発明しました。

ですが人間の凶暴な本性は
私たちの世界と変わりません。
違いは兵器か魔法か、それだけです。

人々の平和への願いもむなしく、
リディアナが住む街にも戦禍がやってきました。


彼女は大魔法使いの母親・エレとともに、
街の守備隊として侵略者へ対抗しました。

が、相手は兵数も魔法力も段違いでした。
リディアナたちは敗走に次ぐ敗走、
生き残った守備隊は散り散り…。

もはや、この街は陥落を待つばかり…?



ーーーーー



<西暦2140年>

エレ
『…ここも直に見つかってしまう…!』
『…守備隊のみんな…どうか無事でいて…!』


リディアナ
「お母さん!私はまだ戦えるよ…?」
「やられっぱなしなんてイヤ!」
「せめて一矢報いたいよ!」


リディアナは気丈に言いましたが、
魔力はほとんど残っていません。

さらに彼女は足首を負傷し、
立っているのもやっとでした。

エレ
『ふふ…強がっちゃって…。』
『さすが私の娘ね…。』




敵兵
『こっちだ!2人いたぞ!街の残党だ!』


ガレキの向こう側から、
侵略者たちの叫び声が聞こえました。

隠れていたリディアナとエレが
ついに敵兵に見つかってしまったのです。

エレ
『…(ニコリ)…ここまでね。』
『リディアナ、あなたを逃がすわ。』


エレは吹っ切れたように笑い、魔法の詠唱を始めました。
巨大な魔力がエレの全身を包んでいきました。

リディアナ
「まさか…その魔法…。」
「お母さん、習得できていたの…?!」


理論上は可能とされながら、
人類が未だに使用できていない魔法の1つが
「タイムスリップ」でした。

仮に習得できても、
人間にとって大き過ぎる魔力の負荷により、
使用者の命はもたないと言われていました…。

リディアナ
「ダメよ!お母さんの命が!」


エレ
『私を誰だと思ってるの?大魔法使い・エレよ?』
『これくらい何でもないわ。』


エレは娘そっくりに強がって見せました。

リディアナ
「お母さん…!痛ッ!」


リディアナは母を止めようとしましたが、
足首の傷がひどくて動けませんでした。

エレ
『あなただけでも…生き延びてちょうだい…。』


リディアナ
「イヤだよ!お別れなんて!」


リディアナは必死に叫びましたが、
魔力の光で何も見えなくなりました。

エレ
『…リディアナ、私の娘に生まれてくれてありがとう。』

(どうか平和な時代で、幸せに……。)


…………。

……。



ーーーーー



<とある村の外れ>



ヴィンラック
『…ん?草むらに誰か…。』


村の周辺を見回っていた青年・ヴィンラックは、
倒れているリディアナを見つけました。

ヴィンラック
『女の子…?ひどいケガだ!』
『息はある…早く村で手当てを!』


翌日。

リディアナ
「…んん…ここは…?」


ヴィンラック
『よかった…目を覚ました!』


リディアナ
「…あなたが手当てしてくれたんですか…?」
「あり、ありがとうございます…。」


ヴィンラック
『お礼は村のみんなに言ってくれ。』
『僕はきみを運ぶことしかできなかった。』


リディアナ
「村の…本当に助かりました…。」
「今すぐお礼に…痛ッ!」


リディアナは疲労と全身の痛みで
立てませんでした。

ヴィンラック
『今は無理しなくていい。』
『僕の名前はヴィンラック。』
『この村の守り人を務めている。きみは?』


リディアナ
「私はリディアナ。ここはどこ?」


ヴィンラック
『ここは…。』


ヴィンラックが口にした村の名前は、
リディアナが住んでいた街の”昔の名前”でした。

彼女が子どもの頃、
街の歴史の授業で習ったことがありました。
そして歴史の教科書の通りなら、村はこの後…。



リディアナ
(まさか私…本当に過去へ?!)
「ねぇ!今は西暦何年?」


ヴィンラック
『1640年だよ。』
『急に慌ててどうしたの?』


リディアナ
(ウソ…魔法革命が起きる100年も前…。)


リディアナは母親・エレのタイムスリップ魔法で、
500年前に来てしまったのです。


彼女はそれを悟った時、頭に母親の姿が浮かびました。

リディアナ
「そうだ…お母さんは…?」


ヴィンラック
『?お母さんと一緒にいたの?』


リディアナ
「ええ、倒れていたのは…私1人…?」


ヴィンラック
『そうだけど、よかったら事情を話してくれないかい?』
『どうしてこんな大ケガを?』


リディアナはヴィンラックに事情を説明しました。

彼女の故郷の街が侵略を受けたこと。
母親とともに戦い、敗れたこと。
母親は決死のタイムスリップ魔法で娘を逃がしたこと。

ヴィンラック
『そうか……辛かったね…。』


リディアナ
「信じてくれるの?」


ヴィンラック
『もちろん。』


リディアナ
「どうして?こんなの”おとぎ話”でしょう?!」


ヴィンラック
『そうかもしれない。』


リディアナ
「だったら、なぜ…?」


ヴィンラック
『経緯はどうあれ、今きみは傷ついてる。』
『それに、その涙はウソをついてるようには見えない。』


リディアナ
「涙…?」


ポロ、ポロ、

気づかないうちに、
リディアナの瞳から大粒の涙があふれていました。

リディアナ
「うぅ…お母さん…みんな…!」
「うわああああああああん!!」


リディアナはヴィンラックの胸で
ひとしきり泣きました。

ヴィンラックは何も言わず、
リディアナに寄り添いました。


ーー


数日後。


村長
『おーい、ヴィンラック。あの子は無事か?』


ヴィンラック
『村長、この通り無事ですよ。』


村長
『きみか、助かってよかったな。』


リディアナ
「助けてくれて本当にありがとうございます。」
「あの…失礼なことを聞きますが…。」


村長
『何だい?』


リディアナ
「村の皆さんはどうして私を疑わないんですか?」
「私がどこから来たのかとか、敵のスパイじゃないか、とか。」


リディアナの事情は、
ヴィンラックから村の人たちへ伝えられていました。

彼女が魔法を使えることも、
500年後の戦禍を逃れてきたことも。

村長
『きみは魔法が使えるのかい?すごいな。』
『そんな人はここらじゃヴィンラックぐらいだよ。』


魔法革命より以前、
魔法は誰でも使えるものではありませんでした。


一部の研究者や軍役に就く者が、
現代では初歩とされる魔法を身につける程度でした。

村長
『大変だったな…。』
『しかしタイムスリップとはおもしろい。』
『本当にできるなら体験してみたいものだ。』


リディアナ
「信じられません…よね…?」


村長
『確かに突飛な話だが、きみの眼を見ればわかる。』


リディアナ
「眼…?」


村長
『ウソをついていない眼だ。』
『少なくとも、誰も騙そうとしていない。』




こうして、
リディアナは寛大な村長の厚意もあり、
村の人たちと打ち解けました。

リディアナは自分を信じてくれたことを喜びつつも、
腑に落ちないことがありました。

彼女がこんなにあっさり受け入れられたのは、
村の人たちにとって”初めての経験ではない”から?

たとえば、以前にも誰かが
同じように村へやってきたことがあったら…?


なんてね、そんなわけないですよね。

タイムスリップ魔法を使える人間なんて、
500年後も”いない”ことになっているんですから。



【第2話:娘に贈るペンダント】へ続く

⇒この小説のPV

2024年02月17日

【短編小説】『国教「頑張れ教」』4 -最終話-

【MMD】Novel Ganbare KYO SamuneSmall1.png
【MMD】Novel Ganbare KYO CharacterSmall1.png

【第3話:Karoshiの悪魔】からの続き

<登場人物>
皆川 泉恵織(みながわ いえり)
 主人公、23歳

新道 友暖(しんどう ゆの)
 泉恵織の会社の先輩、25歳
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



【第4話:がんばらない勇気】



新道 友暖には2つ歳上の兄がいました。

兄は何をやらせても学校1、2を争う秀才で、
両親の期待は兄にばかり注がれていました。

妹の友暖も十分に優秀でした。
が、傑出した兄といつも比べられ、そのたびに、

友暖の父親
『友暖はがんばりが足りない。』
『そんなんじゃお兄ちゃんに追いつけないぞ。』


友暖の母親
『もっとがんばりなさい。』
『友暖の将来のためを思って言ってるのよ?』


お兄ちゃんと同じ学校、同じ会社、同じ収入…。
がんばれ、がんばらないと置いてけぼりにされるぞ?
お父さんお母さんに見捨てられるぞ?

友暖が就職した後も、

友暖
(もっとがんばって、お兄ちゃんに追いつかないと…。)
(もっとがんばって、早く仕事を覚えないと…。)


23時、24時、深夜1時、2時…。
そんな日々が1ヶ月、3ヶ月、半年…。

プツン



ある日。

友暖
(…眠い…十分寝たのにどうして?)
(うぅ…眠くて立ってられない…!)


ガクッ

部屋でボーっとしていても、

友暖
(……涙?)
(悲しい映画なんて観てないのに…?)


ポロ、ポロ、

(理由なんてないよ?)
(どうしてあふれてくるの?)


そしてついに、

友暖
(…ベッドから起き上がれない…。)
(どうして?風邪でもないのに。)


会社を休んだらダメ。
私が休んだらみんなに迷惑かけちゃう。
私がやらないと回らない仕事が…。

ダメよ、体調不良でもないのに。
がんばらなきゃ、がんばらなきゃ…。

その後、友暖は「うつ病」と診断され退職。
1ヶ月間、寝たきりになりました…。


勉強でも仕事でも兄に追いつけない。
これ以上がんばることもできない。
天井を見つめることしかできない。

ただただ、自分に絶望する日々を送りました。


ーー


<現在、とある病室>


泉恵織
「…友暖さんが”うつ病”だったなんて…。」
「今のゆるい姿からは想像できないです。」


友暖
『そうね、私もこんなに人生観が変わると思ってなかった。』


泉恵織
「人生観…。」


友暖
『危うく”がんばることが目的”の人生を生きていたわ。』
『バカらしいよね、本来は”自分の目標のため”にがんばるのに。』


泉恵織
「私も今まで”がんばること”のためにがんばってました…。」
「けど、待っていたのは次の要求だけでした。」


友暖
がんばっても誰も褒めてくれないしね。』
『1つがんばっても次はこれ、次はこれって。』
『なら適当にやって、生きてるだけでエライと思ってる方が楽よね。』


泉恵織
「私もこうなって初めて気づきました。」
「周りばっかり気にして”頑張れ教”を抜ける勇気がなかった…。」
「私も友暖さんみたいに、ゆるく楽しく生きます!」


友暖
『極端なんだから…(苦笑)』
『まっすぐなところが泉恵織のいいところね。』
『くれぐれも、ゆるい人生を”がんばり過ぎない”ようにね?』


泉恵織
「あはは…わかってますよ(苦笑)」



ーー


その後、泉恵織は1ヶ月間の休職を経て、
時短勤務の非正規雇用になりました。

週4日、5〜7時間。
無理なく働いて、残業はしません。

お金はそれほど得られませんが、
節約と自炊で丁寧に生活すれば十分足ります。

何より、彼女にとっての万病のもと
”頑張れ教”を抜け出すことができました。

子どもの頃から泉恵織の心を支配してきた
Karoshiの悪魔は、もう現れませんでした。

休日は恩人の友暖と
お金のかからない趣味を探したり、
ゆるく楽しんでいます。

将来どうなるかなんてわからないけど、
いま生きているだけで十分エライ。

他の人がどう思うか知らないけど、
私はこれでいい。


泉恵織はようやく
がんばらない自分を肯定できるようになりました。



私たちはあらゆる病気を恐れ、
除菌や禁煙、食事管理を”がんばって”います。

将来の漠然とした不安から逃れたくて、
仕事を長時間”がんばって”います。

なのに、その「働き過ぎ」が
病気の最大の原因だと気づいている人は
どれくらいいるでしょうか?


「社会人は週5フルタイム働くのが当たり前」
「人生の大半が仕事なのは当たり前」
「みんな我慢してがんばっている」
「正社員でないと世間体が悪い」
「フリーターは負け組」
「低収入は人生詰み」


そんな”シャカイのジョウシキ”は、
本当にあなたを幸せにしてくれるでしょうか?


もしかしたら、
気づかないうちに入信しているかもしれませんよ?

この国の隠れた国教



「頑張れ教」に。



ーーーーーENDーーーーー



⇒他作品
『声援は 補欠選手の 悲鳴なり』全5話

『モノクローム保育園』全5話


⇒この小説のPV


⇒参考書籍















2024年02月15日

【短編小説】『国教「頑張れ教」』3

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【MMD】Novel Ganbare KYO CharacterSmall1.png

【第2話:理由のない涙】からの続き

<登場人物>
皆川 泉恵織(みながわ いえり)
 主人公、23歳

新道 友暖(しんどう ゆの)
 泉恵織の会社の先輩、25歳
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



【第3話:Karoshiの悪魔】



泉恵織が父親から「仕事が辛いのは甘えだ」
𠮟責されてから半年が経ちました。

同僚
『皆川、すごいじゃないか!』
『1年でここまで仕事ができるようになるなんて。』


泉恵織
「あはは…休んだ人の仕事もやってたら…。」
「いつの間にか覚えちゃいました…。」


同僚
『そうか、皆川がいれば業務に穴が空いても大丈夫だな。』
『これからもその調子で”がんばって”くれよ?』


泉恵織
「…はい。」


同僚に褒められる泉恵織を、
友暖は心配そうに見ていました。

彼女の目に光がなく、
覇気が感じられなくなっていたからです。

友暖
(さすがに見てられない…!)
(このままじゃ、昔の私と同じようになっちゃう…。)
『ねぇ泉恵織、ちょっと…。』


友暖は泉恵織に声をかけようとしましたが、
一足早く上司が彼女に話しかけました。

上司
『皆川、少しはできるようになったな。』
『半年前のミスも取り返したし、1年目としてはまあまあだ。』


泉恵織
「あ、ありがとうござい…ます。」


上司
『だが細かいミスが多いぞ。』
『特に数字の間違いは取引先にも迷惑をかける。』


泉恵織
「すみません…。」


上司
『もっと良い仕事ができるようにがんばれ。』
『数字が苦手なら、がんばって克服しておくように。』


泉恵織
「は、はい……。」


友暖
『……。』




その日の午後、別部署にて。

同僚
『皆川さん大丈夫?』
『ちょっと瘦せたんじゃない?ご飯食べてる?』


泉恵織
「…大丈夫です…。」


同僚
『今日も辞めた人の穴埋めでしょ?』
『いくらできるからって、2年目の社員に代行させるなんて…。』


泉恵織
「いいんです、もっとがんばらなきゃ…。」


友暖
『あんた1人でそんなに抱えなくていいんだよ?』
『手が空いてる人に頼りな?』


泉恵織
「友暖さんには、もうたくさん頼ってますから…。」


友暖
『そんなんじゃいつか倒れるよ?』


泉恵織
「あ、あはは、大丈夫ですよ。」
「私、がんばりますから。」



ーー


さらに翌週。

上司
『皆川、新しい仕事だ。』


泉恵織
「顧客リスト?」


上司
『ああ、来週から営業担当に同行してもらう。』
『顧客のニーズに直接触れることも大事だ。』


泉恵織
「わかりました。今の業務は…?」


上司
『引き続き頼む。皆川ならがんばればできるだろう。』


泉恵織
「がんばれば…。」


上司
『ちなみに、どこも重要な取引先だ。』
『今までやらせてきた細客の事務処理とは違う。』
『気を抜かず、もっとがんばるように。』


泉恵織
「がんばり…ます…。」


それから、泉恵織は日中は営業担当との外回り、
帰社したら書類作りやメール対応に追われました。

加えて今までの業務もあり、
終電ですら帰れない日々が続きました。


友暖
『まだ帰らないの?』


泉恵織
「もう少しかかります…。」


友暖
『いったい何社受け持ってるの?』
『顧客リスト見せて。』


泉恵織
「はい…。」


友暖
『ちょっと…何この数…?!』
『こんなの終わるわけないでしょ?』


泉恵織
「上司が私に期待してくれて…。」
「がんばれって言ってくれますから…。」


友暖
『それも大事だけど…もう少し自分を労わりな?』
『今日は私も残るから、手に持ってる分こっちにちょうだい。』


泉恵織
「そんな、悪いですよ。」
「せっかく定時に帰れるのに付き合わせるなんて…。」


友暖
『辛そうなあんたを見てられないの!』
『黙って手伝われなさい!』


泉恵織
「辛くない、辛くないですよ…。」



ーー


<23時過ぎ、会社の入口>

友暖
『私はこっちだけど、帰り道ほんッッとに気をつけてよ?』


泉恵織
「友暖さん…ありがとうございます…。」


友暖はフラフラの泉恵織を見て、
イヤな予感がしました。

「Karoshi」

かつて自分の肩を叩いた悪魔が、
今度は泉恵織を狙っていることに気づいたからです。




深夜の駅のホーム。

アナウンス
『間もなく2番線に電車が到着いたします。』
『白線の後ろまでお下がりください。』


泉恵織
(明日も、あさっても、しあさっても会社に…。)


フラ、フラ、

もうろうとする泉恵織の頭の中を、
いろんな声が飛び交いました。


(モウ辞メタイ…会社行キタクナイ…)


(…ダメよ泉恵織、そんな甘えたこと言っちゃ…。)


『もっとがんばれ。』
『このくらいで根を上げるのかー?』
『上司の期待に応えないとクビだぞー?』



(辛イヨ…逃ゲタイヨ…。)



『逃げる?1年ちょっとで?』
『そんなんじゃ社会人失格だなぁ。』
『周りはもっとがんばってるのにさぁ。』


(だよね…お父さんも「逃げるな」って言ってたし…。)


(助ケテ…泣キタイヨ…。)


(ダメだってば…!)
(もっとがんばらないとそんな資格は…。)



『だろ?キミはがんばりが足りないんだよ。』
『もっと苦労してるヤツなんてゴマンといるのに。』
『みんながんばってるのに申し訳ないと思わない?』


(申し訳ないと…思う。)
(みんな苦しいのに、私だけ怠けるなんて…。)



(明日、会社ニ行カナクテイイナラ…。)


(ダメよ…私が休んだらみんなに迷惑がかかるの。)
(でも…それが本当なら…どうやって?)



『お、揺らいでるね。』
『がんばれないヤツなんてその程度か。』
『まぁいいよ、簡単な方法を教えてやるよ。』




『ここから一歩踏み出すだけさ。簡単だろ?』



暗い線路の向こうに、
電車のランプが見えてきました。

(そんな簡単なことで…。)


(モウイヤ…苦シイ…逃ゲタイ…。)



『(ニヤリ)…ほら、おいでよ。』


(会社に行かなくていい…一歩、踏み出せば…!)

プツン

……。



ホームへ入る電車が夜風を切り裂きました。

誰かに身体をわしづかみにされる感覚で、
泉恵織は我に返りました。


友暖
『…間に合った…!』


泉恵織
「ゆ、友暖さん…?どうしてここに?」


フッ

青ざめた友暖の姿を最後に、
泉恵織は意識を失いました…。


ーー


泉恵織
「……ここは…?」


友暖
『…起きたか。病院よ。』


泉恵織が目覚めたのは、病室のベッドの上でした。
窓から朝日が差し込んでいました。

あの後、友暖が救急車を呼び、
今まで付き添ってくれたのです。

泉恵織
「友暖さん…?私、どうして病院に…?」


頭がうまく動きませんが、
何者かの『がんばれ』という声は消えていました。

友暖
『昨夜、駅のホームで倒れたのを覚えてない?』


友暖は事の顛末を泉恵織に話しました。

泉恵織
「友暖さん…助けてくれて本当にありがとうございます!」
「…クマが…ずっと付き添ってくれたんですよね?」


友暖
『まぁね、ちょっとだけ眠い。』


泉恵織
「どうしてあそこにいたんですか?」
「帰り道と逆のホームですよね?」


友暖
『あなたが今夜あたり”やらかす”だろうなって思ったの。』
『止められてよかったわ。』


泉恵織
「やらかしました…誰かの”声”が聞こえて、つい。」


友暖
『声?』


泉恵織
「子どもの頃から、誰かが頭の中でささやいてくるんです。」
「”がんばれ、人生詰むぞ、みんながんばってるのに”って。」


友暖
『…やっぱりね。』


泉恵織
「信じてくれるんですか?」


友暖
『もちろんよ。昔の私もそうだったから。』
『それが”頑張れ教”の恐ろしい教義。』


泉恵織
「”頑張れ教”?」


友暖
『この国って、いろんな宗教のイベントを楽しむでしょ?』
『一見、無宗教で自由だけど違う。』
『実はほとんど”頑張れ教”の信者よ。』


泉恵織
「…身に覚えがあり過ぎて、怖いです。」


友暖
『息苦しいよね…。』
『がんばらないと”怠け者”とか”甘え”とか言われて。』
『がんばり過ぎて潰れたら”自己責任”で片付けられてさ…。』


泉恵織
「半年前、お父さんに助けを求めたんです。」
「その時に同じことを言われて…。」
「あぁ、誰も助けてくれないんだって思って。」


友暖
『辛かったね…退路を絶たれたってわけか。』
『この国は、最後の砦の親さえ”頑張れ教”に浸されてる…。』
『私、もっと強引に泉恵織を止めればよかったって後悔してるの。』


泉恵織
「後悔なんて要りません!」
「友暖さんは命の恩人です!」


友暖
『…ありがと。』
『泉恵織が助かって、むしろ私が救われたわ。』


泉恵織
「そういえば、昔の友暖さんも私みたいだったって…。」


友暖
『まぁね、だからあなたの異変に気づけたのかもね。』


いつもゆるく、ほどよく過ごしている友暖。

そんな彼女がかつて”頑張れ教”に浸され、
命の危機に瀕していたというのです。



【第4話(最終話):がんばらない勇気】へ続く

⇒この小説のPV

2024年02月13日

【短編小説】『国教「頑張れ教」』2

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【第1話:”頑張れ教”信者たち】からの続き

<登場人物>
皆川 泉恵織(みながわ いえり)
 主人公、23歳

新道 友暖(しんどう ゆの)
 泉恵織の会社の先輩、25歳
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



【第2話:理由のない涙】



23歳になった泉恵織は大学を卒業し、
とある会社で働いていました。

社会人1年目、連日の残業でくたくたです。

それでも彼女は
希望していた業界で働けるとあって、
とにかく仕事を”がんばって”いました。

友暖
『泉恵織おつかれ、はいコーヒー。』


泉恵織
『友暖さん、いつもありがとうございます。』


同じ部署の先輩である新道 友暖は、
新人の泉恵織をいつも気にかけてくれました。

がんばりやの泉恵織は、
自身のキャパシティを超えた仕事量を抱えがちでした。

それに一早く気づいた友暖は、
よく泉恵織の仕事の一部を引き取っていました。

友暖
『これとこれは私に回して。すぐ終わるから。』


泉恵織
「ありがとうございます、いいんですか?こんなに。」


友暖
『あんたが抱え過ぎなだけ。』
『終わらないなら誰かに手伝ってもらえばいいの。』


泉恵織
「そうですが…私は新人ですし、がんばらないと。」


友暖
『まったくもう…。』
(ほんと、昔の私をそのまま見てるみたい…。)


泉恵織
「友暖さんはすごいですよね。」
「私の分まで仕事してるのに、いつも定時上がりで。」


友暖
『慣れてるだけよ。』
『それに私、そこまでがんばらないって決めてるの。』


泉恵織
「がんばらないんですか?!」
「それって大丈夫なんでしょうか…?」


友暖
『大丈夫って何が?』


泉恵織
「その…みんながんばってるのに、とか…。」
「怠けてるとか、甘えてるとか思われないかなって…。」


友暖
『ああ、いいのいいの。』
『他人にどう思われようと、私は健康第一だから。』
『ほどほどにやって、ゆるく楽しく生きていればいいのよ。』




がんばらなくていい?
他人にどう思われてもいい?健康第一?
この時の泉恵織には理解できませんでした。

今までの泉恵織の周りには、
友暖みたいな”ゆるい人”がいなかったからです。


きっと友暖さんも、
新人の頃は私以上にがんばったに違いない。

こんなに仕事ができるんだもん。
きっと私以上に残業して、たくさん仕事を引き受けて…。

だから私はもっとがんばろう!

そう思い込んだ泉恵織にとって、
しんどい日々が半年続きました。


ーー


ある日、
泉恵織は仕事で大きめのミスをしてしまい、
上司からキツく𠮟られました。

友暖は泉恵織を励ますため、
強引に食事に連れて行ってくれました。

泉恵織は少し救われましたが、
今回はショックが大き過ぎました。

『がんばりが足りないからこんなミスをするんだ!』
という上司の一言が、泉恵織の心に突き刺さったのです。

泉恵織はミスを取り返すため、
毎日深夜まで仕事をがんばりました。



ある日の深夜0時すぎ。
泉恵織は何とか終電に駆け込み、
アパートまでの夜道を歩いていました。

泉恵織
「ハァ…今日もどうにか終電に乗れた…。」
「さすがに仕事キツくなってきたなぁ…。」
「けど、ずっと希望していた業界で働けてるんだ。」
「ミスだって、私のがんばりが足りなかったから!」


その時、泉恵織の心に
いつもとは違う人物の声が浮かんできました。


(辞めたいな…助けてほしいな…。)


泉恵織
「…誰の声…?」
「いつもは『がんばれがんばれ』って聞こえるのに…。」
「いやいや!そんなこと考えちゃダメ!」
「私、もっとがんばるんだから!」



(せめて、少しでも私の気持ちをわかってほしいな…。)
(弱音…吐いてもいいかな…?)


泉恵織
「…聞こえない!聞こえないんだから!」
「でも…ちょっとだけなら…。」




翌日、泉恵織はワラをも掴む思いで
実家の父親にメッセージを送りました。


仕事が辛いこと、精神的に疲れていること、
助けてほしいことを訴えました。

泉恵織の父親は仕事人間でした。
毎日、朝早くに出勤し、帰ってくるのは深夜。

たまに顔を合わせれば、
テストの成績のことで𠮟られてきました。

そんな父親だって、
社会人になりたての頃は大変だったはず。
だから、少しは私の気持ちを理解してくれるはず。

泉恵織にはそんな淡い期待がありました。

ですが、父親から返ってきたメッセージは、
あまりに辛辣でした…。



  -----泉恵織の父からのメッセージ-----

  まだ1年も働いていないくせに
  何を甘ったれたことを言っているんだ。

  お前は社会をナメている。
  学生気分が抜けていない証拠だ。

  石の上にも3年と言うだろう?
  社会人たるもの最低3年間は耐えて当たり前だ。

  それすらできていない者に
  「辞めたい」などと口にする資格はない。

  仕事が終わらないのも、ミスの件も、
  お前のがんばりが足りないだけだろう?

  お前より仕事ができる社員はもっとがんばっている。

  「辞めたい」など、
  そいつらよりがんばって
  結果を出せるようになってから言え。
  -----




泉恵織は、そっとメッセージを閉じました。

親は味方になってくれない、退路がない。
彼女はその現実から目を逸らすように、
何度もつぶやきました。

泉恵織
「…もっと”がんばらなきゃ”…もっと…。」


ポロ、ポロ…

泉恵織
「悲しくなんかないよ?」
「私のがんばりが足りないだけ。」
「私が甘えているだけ…。」

「あなたが出てくる理由なんてないよ?」
「なのにどうしてあふれてくるの?ねぇ…。」


涙さん…?



【第3話:Karoshiの悪魔】へ続く

⇒この小説のPV

2024年02月11日

【短編小説】『国教「頑張れ教」』1

【MMD】Novel Ganbare KYO SamuneSmall1.png
【MMD】Novel Ganbare KYO CharacterSmall1.png

<登場人物>
皆川 泉恵織(みながわ いえり)
 主人公、23歳

新道 友暖(しんどう ゆの)
 泉恵織の会社の先輩、25歳
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



【第1話:”頑張れ教”信者たち】



ユーラシア大陸の東の果てに、
とても不思議な国があります。

この国の人たちはクリスマスを祝い、
神社へ初詣に行き、お寺へ墓参りに行きます。

一見、とても宗教に自由なこの国の人たちは、
「自分は無宗教」と思っているそうです。

が、実はそうではありません。
多くの人たちは”ある宗教”の敬虔な信者です。

それは、この国の実質的な国教。
自分も他者も追い詰めること」を美徳とする、

『頑張れ教』



ーーーーー



<12年前、とある小学校>

泉恵織(11歳)
「あぁ…やばいよ…。」
「今回のテスト70点、75点、60点…。」
「成績下がっちゃったよぉ…(涙)」


友人
『今回は仕方ないよ、難しかったから。』
『私なんて45点だよ?泉恵織は十分すごいって!』


泉恵織
「そんなこと言ったって…。」
「お父さんとお母さんに𠮟られちゃう…。」


今回の定期テストは、
全体的にかなり点数が下がったようです。
その中で、泉恵織の成績は十分すごいように見えますが…?

担任
『えー、今回のテストの結果だが…。』
『我がクラスは学年平均で最下位だ。』
『みんな、もっと”がんばって”勉強するように。』


泉恵織
(そうなんだ…学年で1番下…。)
(私のせいかな?私が勉強をがんばらなかったから?)
(先生の言う通り、もっと”がんばらなきゃ”…。)



ーー


<泉恵織の自宅>

泉恵織の父
『まぁ、学年の平均点よりは上だが…。』
『もっとがんばれないのか?90点は取れるだろう?』
『父さんがお前くらいの頃、100点以外は怒られていたぞ?』


泉恵織
「…ごめんなさい…。」


泉恵織の父
『遊びすぎじゃないのか?もっと勉強をがんばりなさい。』
『お前の将来のためを思って言ってるんだぞ?』


泉恵織
「…がんばります…。」


深夜0時過ぎ。

泉恵織の母
『まだ勉強してるの?』


泉恵織
「うん、もっとがんばらなきゃ。」


泉恵織の母
『そう…がんばりなさい。』
『キリのいいところで寝なさいよ。』


泉恵織
「はぁい。」




深夜1時…2時…夜はどんどん更けていきました。

連日、勉強をがんばっていた泉恵織の頭に、
誰かが語りかけるようになりました。



『がんばれ、がんばれ。』
『みんながんばっているからお前もがんばれ。』

『がんばらないと人生詰むぞー?』
『がんばらないと置いてけぼりになるぞー?』


泉恵織
「うぅ…誰の声…?」
「わからないけど、がんばらなきゃ…。」
「みんな勉強がんばってるから…もっとがんばらないと…。」



ーー


そして次の定期テストが終わり、職員室では…。

担任
『どうした皆川?』
『お前だけだぞ?前回から成績を落としたのは。』


泉恵織
「……。」


担任
『前回は難しすぎたから、今回は易しめの問題にしたんだ。』
『これじゃあ、お前だけがんばっていないように見えるぞ?』


泉恵織
(悔しい…どうして良い点数を取れないの…?)
(私、あんなに勉強をがんばったのに…。)


担任
『そういえば皆川、最近目のクマがひどいぞ?』
『勉強をがんばってると思いたいが、夜更かしは程々にな。』


泉恵織
「…はい…。」



ーー


<その夜、泉恵織の自宅>

泉恵織の父
『確かにがんばって勉強していたようだが…。』
『今からつまづいていたら上位の学校を目指せないだろう?』


泉恵織
「……。」


泉恵織の父
『とりあえず今日は休みなさい。』
『明日からもっとがんばるように。』


泉恵織
「…うん、もっとがんばる…。」


深夜0時過ぎ。

泉恵織
(もっとがんばらなきゃ…!)
(がんばって良い成績を取ったら…。)
(お父さん、褒めてくれるかな…。)
(お母さん、もっと話を聞いてくれるかな?)


泉恵織の母
『泉恵織、もう寝なさい。明日も学校でしょ?』


泉恵織
「はぁい。」



『がんばれ、がんばれ。』
『もっとがんばらないと人生詰むぞー?』
『みんながんばってるのに甘えてるのかー?』


泉恵織
「あぁもう!誰よ?!」
「私、がんばってるんだから黙ってよ!」


泉恵織の母
『泉恵織!何を1人で騒いでるの?!』
『夜は静かにして!』


泉恵織
「ごめんなさい…!」



ーー


さらに次回の定期テストが終わり、
泉恵織は学年で上位の成績を取りました。

担任
『確かに学年では良いが、全国で見たら中位だ。』
『皆川ならもっとがんばれば、もっと上を目指せるだろう?』


泉恵織
「…はい…。」


担任
『それに、この手の問題は苦手なのか?』
『以前からケアレスミスが多いぞ?』


泉恵織
「…あ…。」


担任
『明らかな苦手があると不利になる。』
『次回はがんばって苦手をなくしておくように。』


泉恵織
「…はい先生…。」

(私、勉強がんばったのに…。)
(先生も、お父さんもお母さんも褒めてくれない。)
(それどころか次、次、次はもっとがんばれって…。)


ポロ、ポロ、

(私のがんばりが足りないのかな?)
(もっとがんばれば褒めてもらえるかな?)
(もっと……。)


泉恵織は周りの目がないかを気にしながら、
袖口で涙を拭いました…。



【第2話:理由のない涙】へ続く

⇒この小説のPV

2024年02月09日

【オリジナル歌詞】『復讐心ヲ超エテ』

【MMD】Novel FukusyuShin SamuneSmall1.png

虚しい心の奥で燻る
復讐ノ炎…



私を貶し続けても
あなたが救われることはないのに
どうしてまだ気が済まないの?
憎しみと妬みの渦

「生まれてこなければよかった」と泣き叫んでも
”無力な自分”しか見ない あなたには届かない
せめて憎むだけにさせてよ!

  「生きてるだけで あなたは大切よ」と
  一度きりでいい 伝えられてみたかった
  もう叶わない 復讐心ヲ超エテ
  見つけてみせる 私の生きる意味



私をひざまずかせては
勝ち誇った顔で 立ち去る背中に
私は何もできなかった
憎しみの槍 刺すことさえ

「オマエだけが幸せになるのが許せない」んでしょ?
支配できなくなるのが 怖かっただけだと
せめてウソをついてみせてよ!

  私の心 壊し続けた罪を
  償いもせず 逃げるように逝かないでよ…
  二度と消せない 復讐心ノ炎
  乗り越えてやる 私の命で



短い命 復讐に燃やすのは 虚し過ぎるから
私だけの幸せを この手で見つけるの
それが最大の復讐!

  「生きてるだけで あなたは大切よ」と
  私自身で 証明してやるから
  もう叶わない 復讐心ヲ超エテ
  見つけてみせる 私の生きる意味




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



⇒他作品・歌詞
『遠イ日ノ奇跡』

『生キテルアカシ』


⇒他作品・短編小説
『人形の翼が折れた日』全2話

『片翼の人形が救われた日』全4話



posted by 理琉(ワタル) at 19:31 | TrackBack(0) | 歌詞
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自閉傾向の強い広汎性発達障害。鬱病から再起後、低収入セミリタイア生活をしながら好きなスポーツと創作活動に没頭中。バスケ・草野球・ブログ/小説執筆・MMD動画制作・Vroidstudioオリキャラデザインに熱中。左利き。 →YouTubeチャンネル
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