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2024年01月05日
【オリジナル歌詞】『安楽命絶権(アンラクメイゼツケン)』
「いつでも終わらせられる」
それが生きる希望になるはずなのに
なぜ禁じるの? 死ぬ権利を
生きるのが苦しいと思うのはなぜだろう?
苦しみの出口が見えないから
愛情も 温もりも 抱擁も
得られない苦しみが無限に続く
天寿とやらが尽きるまで
なぜ降りられない?なぜ死ぬのは悪?
なぜ強要される?「生きてろ」と
「あなたより辛い人ならいくらでもいるよ?」と
聖者ぶるなら なぜ?なぜ?なぜ妬んでるの?!
誰にとって都合が良くて 誰の優越感のために奪うのさ?
生きる絶望を止める権利を…
この虚無感 全部引きちぎって すべて終わらせたい
生きている限り 無限に続く あまりにも永い悪夢(ユメ)
そんなに偉いのか?逃げないことだけが?
ガマンさせて道連れにするのが?
泣きたい喚きたい時も 涙さえ流せない
枯れた命が なぜ?なぜ?なぜ臨終(オワ)らないの?!
「”明日が来る”ただそれだけで何も要らないだろう」?
いつから命は そんなに偉く”成り下がった”んだ
「いつでも終わらせられるなら 生きてみてもいいな」
それが生きてく希望になる はずなのに
温もりに飢えて もがいて 涙さえ流せない
絶望から降りる権利がほしい
「死という権利」が…
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
⇒他作品
『生キテルアカシ』
『枯れゆく命』
『色恋シゴト』
それが生きる希望になるはずなのに
なぜ禁じるの? 死ぬ権利を
生きるのが苦しいと思うのはなぜだろう?
苦しみの出口が見えないから
愛情も 温もりも 抱擁も
得られない苦しみが無限に続く
天寿とやらが尽きるまで
なぜ降りられない?なぜ死ぬのは悪?
なぜ強要される?「生きてろ」と
「あなたより辛い人ならいくらでもいるよ?」と
聖者ぶるなら なぜ?なぜ?なぜ妬んでるの?!
誰にとって都合が良くて 誰の優越感のために奪うのさ?
生きる絶望を止める権利を…
この虚無感 全部引きちぎって すべて終わらせたい
生きている限り 無限に続く あまりにも永い悪夢(ユメ)
そんなに偉いのか?逃げないことだけが?
ガマンさせて道連れにするのが?
泣きたい喚きたい時も 涙さえ流せない
枯れた命が なぜ?なぜ?なぜ臨終(オワ)らないの?!
「”明日が来る”ただそれだけで何も要らないだろう」?
いつから命は そんなに偉く”成り下がった”んだ
「いつでも終わらせられるなら 生きてみてもいいな」
それが生きてく希望になる はずなのに
温もりに飢えて もがいて 涙さえ流せない
絶望から降りる権利がほしい
「死という権利」が…
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
⇒他作品
『生キテルアカシ』
『枯れゆく命』
『色恋シゴト』
2024年01月02日
【短編小説】『白だしうどんは涙色』2 -最終話
⇒【第1話:かっこ悪い希望】からの続き
<登場人物>
・終夜 彩雪(しゅうや あゆき)
主人公、19歳
地元の北国を離れ、
西方の大学へ進学した1年生
・山口 光夢(やまぐち みむ)
彩雪の同級生、地元出身の19歳
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【第2話:あなたが笑ってくれるなら】
光夢
『今さらだけど、不思議に思うことを聞いてもいい?』
いつもの部活終わりの駐輪場で、
光夢は目を丸くしながら僕へ尋ねた。
光夢
『彩雪はどうしてあんなに走れるの?』
『レギュラーでさえヘトヘトなのに1人で平然として。』
『疲れないの?』
隣で練習している女子バスケ部でも、
話題になっていたらしい。
過酷な走り込みやフットワーク練習後も、
ほとんど息を乱さない補欠選手の話題。
彩雪
「実は、こっちに来て”白だしうどん”が好きになって…。」
僕は光夢に、
練習前に食べているかけうどんのことを話した。
東西のうどんの違いにカルチャーショックを受けたことや、
僕のタフネスを支える源であることも。
光夢
『えぇ?!彩雪の地元のうどんって白くないの?!』
『そんなうどんもあるんだね…!』
地元から出たことがない光夢は、面食らったようだ。
光夢
『大学近くのうどん屋さん?』
『私も一緒に行っていい?練習前に。』
彩雪
「一緒に行けたら嬉しいけど、予定とか親とか大丈夫?」
光夢
『大丈夫!何とでもなるって!』
『彩雪と一緒にうどん食べて、スタミナ付けて…。』
『私もレギュラー目指して走るんだ!!』
それ以来、
僕たちは定期的に2人でうどん屋さんへ通った。
一般のカップルとは少し違う、
変則的なお食事デートでもあった。
僕は、僕の劣等感のために走っていた。
「どうせ試合に出られない」
投げやりで、
今にも折れそうな心を慰めるために
自分を追い込んでいた。
もしあのままだったら、
僕は心が捻じ曲がった人間として、
悲惨な人生を送っていただろう。
そんな救えない自分を、たった1人、
肯定的に見てくれる存在がいた。
底辺でもがく補欠選手の姿に
「勇気をもらった」と言ってくれた…。
それに気づいた時から、
僕はもう僕だけのために走っていなかった。
光夢が笑ってくれるなら、
前を向くための希望になれるなら、
誰よりも走って走って、走り抜いてやる!
異国の地で出逢った、美味しいうどんを食べて!
ーーーーー
彩雪
『卒業して以来か…懐かしいなぁ。』
大学卒業後、地元へ帰って数年後。
僕は長期休暇を取り、1人旅で母校がある街へ戻ってきた。
懐かしいうどん屋さんは…?よかった、まだあった。
僕は大学時代のように、かけうどん大盛りを注文した。
330円。
やっぱり値上げの波が来ていた。
僕は社会人になってもバスケを続けていた。
練習前にうどんを食べる習慣は変わっていない。
うどんを食べると力がみなぎってくる。
周りがバテバテになっても、
コート上でただ1人、無限に走っていられる。
最近、僕の地元にも関西風のうどん屋さんが増えた。
当時カルチャーショックを受けたうどんが
北国でも食べられるのは嬉しい。
彩雪
「結局、大学でも活躍できなかったなぁ…。』
『1度でもベンチ入りしてみたかった…。』
白だし、かつお節の香り。
うどんを食べるたびに、当時を思い出す。
悲しみ、悔しさ、そして光夢への罪悪感。
僕は一体、どこで間違えたんだろう?
なぜ…光夢の気持ちに気づけなかったんだろう…?
後悔は止まない。
胸を引きちぎりたい衝動に駆られる。
どれだけ後悔しても、取り返すことはできない。
失った時間も、人の気持ちも。
それでも僕はあの時、
間違いなく誰かのために懸命になれた。
お金を稼ぐとか、相手に尽くすとか、
実用的なことじゃない。ただの部活。
それでも「自分は誰かの希望になれる」
それを教えてくれた光夢に、もう1度逢いたい。
ありがとうと伝えたい。
こうして光夢の地元へ来ているのに、
決して叶わない。
彩雪
「…未練がましい…な…。」
透き通った白だしが一瞬、涙の色に見えた。
ーーーーーENDーーーーー
⇒他作品
【短編小説】『タイムシーフ・タイムバンク』全6話
【短編小説】『モノクローム保育園』全5話
【短編小説】『どんな家路で見る月も』1話完結
⇒この小説のPV
2024年01月01日
【短編小説】『白だしうどんは涙色』1
<登場人物>
・終夜 彩雪(しゅうや あゆき)
主人公、19歳
地元の北国を離れ、
西方の大学へ進学した1年生
・山口 光夢(やまぐち みむ)
彩雪の同級生、地元出身の19歳
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【第1話:かっこ悪い希望】
------------------------------------------
きっとふたりの出逢いも
遠い日の奇跡だったから
(DEEN 『夢であるように』)
------------------------------------------
彩雪
「今日もうどん美味しかった!」
「よし、練習行きますか!」
とある島国の西端。
のどかな田園風景の中に、
僕、終夜 彩雪が通う大学のキャンパスがある。
これから僕が所属する男子バスケ部の練習だ。
大学近くのうどん屋さんを出て、体育館へ向かう。
いつもここの「かけうどん大盛り・300円」を食べて、
キツイ練習のエネルギー源にしている。
お金があまりない学生にとって、
美味しいうどんをお腹いっぱい食べられるお店は
とてもありがたい存在だ。
僕は人生をリセットするため、
地元の北国からはるばる西方へ進学してきた。
学校ではいじめられ、
ずっと続けてきたバスケでは結果を出せず、
何もかもがイヤになった。
「誰も自分のことを知らない場所で人生をやり直す」
そう誓い、意気揚々と引っ越してきた。
新生活は
想像を超えるカルチャーショックの連続だった。
方言が違い過ぎて、会話が成り立たない。
瓦屋根の家が立ち並ぶ風景を見て、
江戸時代へタイムスリップしたと勘違いする。
入学式の季節に、もう桜が散っている。
暑い、雪が降らない…。
など色々あるが、
何よりショックを受けたのはうどんの違い。
なんと、だしが白い!
しかも、
彩雪
「かつお節の香り…だと…?!」
うどんの違いは「関東風・関西風」と呼ばれるそうだ。
僕が知っていたのは、濃い色のだしのうどんだけ。
初めて白いうどんと対峙した僕は、
ショックに震えながらも、その美味しさの虜になった。
お腹に優しくて、腹持ちもいい。
白だしうどんは、スポーツに打ち込む学生の救世主だった。
ーー
僕は美味しいうどんを燃料に、バスケに打ち込んだ。
が、やはり現実は残酷だった。
どれだけ練習しても、
僕の上達速度はカメより遅かった。
同じ1年生にも置いていかれるばかり。
下級生から主力になる者もいる中で、
僕は試合に出るどころかベンチ入りすら叶わない。
運動部の練習は概してキツイ。
数ヶ月もすれば半数以上が辞めている。
僕はキツイ練習を生き残ったが、
その頃には試合での活躍を諦めかけていた。
今までの僕ならここで腐っていただろうが、今回は違う。
部活前に「美味しいうどん」が待っている。
なぜかわからないが、白だしうどんを食べれば、
いつまでも走れる気がするんだ。
どうせバスケのスキルはあいつらに追いつけない。
待っているのは4年間、試合に出られずに終わる未来…。
だとしても、一矢報いるならここだ。
チームNo.1のスタミナと走力を身に付けて、
主力の連中に、
「あいつ下手だけど、走りまくるから消耗する」
「あいつだけはマークしたくない」
そう思わせられれば上等だ!
半ばヤケになった僕は、
劣等感を力に変えてコートを走り倒した。
僕はバスケットボールを扱う
スキルモンスターにはなれなかった。
代わりに、サッカー選手に匹敵する
スタミナモンスターになっていった。
支えてくれたのはもちろん、
練習前に食べる「かけうどん大盛り・300円」だ。
ーーーーー
白だしうどんを心の支えにしながら、
異国での大学生活が半年ほど過ぎた。
光夢
『彩雪!今日も練習おつかれさま!』
彩雪
「光夢も練習おつかれ!」
僕は部活が終わった後、大学の駐輪場で
女子バスケ部1年生の山口 光夢と会うようになっていた。
彼女も僕と同じように、
女子バスケ部内で活躍できずに苦しんでいた。
光夢は地元出身で、実家から大学に通っていた。
親が厳しいらしく、大学生になっても門限があるそうだ。
だから練習が終わってから帰宅までの間、駐輪場で話す。
それが僕らのささやかなデートで、幸せなひとときだった。
僕は主力でも下級生エースでもない。
最下層で泥水をすすり、もがいているだけの補欠選手。
そんな自分はかっこ悪くて、
好かれる要素などないと卑下していた。
なのに、どうして光夢は僕に興味を持ってくれたのか?
光夢
『彩雪はいつも、誰よりも走っている。』
『朝、誰より早く来てコートのモップ掛けしている。』
『毎晩、遅くまで居残り練習しているよね。』
彩雪
「それはまぁ…。」
「けど、結果が出ていないから。」
光夢
『そこだよ!彩雪の素敵なところ。』
彩雪
「そこって、どこ?」
光夢
『努力は平気で裏切るよ。』
『そして報われなければ心が折れてしまう。』
『なのに、彩雪は全然折れないでしょ?』
彩雪
「どうだろう…?」
「折れることに慣れ過ぎて、マヒしているだけかも。」
光夢
『動機が後ろ向きなのは何となくわかるよ。』
『それでも、彩雪は足を動かし続けているでしょ?』
『その姿を見て、私は勇気をもらったんだよ。』
『私も頑張ろうって!』
彩雪
「…そっか。こんな姿でも、役に立てて嬉しいな。」
光夢
『それで、練習中に目で追うようになってね…。』
『その……好きになったの…///(照)』
僕が遥か西方の大学まで、逃げてきたようなものだ。
スポーツでも人付き合いでも失敗し、
地元でそれを修復する気概もなかった。
当然、異性との交際経験はゼロ。
そんな、1軍男子とかけ離れた自分を
好いてくれる人がいるなんて信じられなかった。
灰色だった僕の心が、彩りに満ちていくのを感じた。
このあたたかさをくれた光夢を、大切にすると誓った。
⇒【第2話(最終話):あなたが笑ってくれるなら】へ続く
⇒この小説のPV
2023年12月26日
【短編小説】『タイムシーフ・タイムバンク』6 -最終話-
⇒【第5話:過去の傷の補填に生きる】からの続き
<登場人物>
◎アネーシャ・クロニス
主人公、23歳
お人好しで頼みごとを断るのが苦手
人に安心感を与える”不思議な瞳”を持ち、
聞き上手として周囲から頼られている
反面、都合よい”愚痴のゴミ箱”にされることも多い
◎マイア・シリル
アネーシャの幼馴染で親友、23歳
おしゃべり好きで社交的
気弱なアネーシャを支える姉の一面もあるが、
アネーシャを愚痴の聞き役にしている節もある
◎トーラ・アルギロス
「タイムバンク」の社員
人々から余分な時間を預り、”時間利子”を付けて返すというが…?
◎アストレイア
「タイムバンク」の頭取、トーラの上司
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【第6話:タイムバンクが不要になるまで】
アストレイア
『かつて、人間と神は日常的に交流していました。』
『世界には争いも悲しみも、妬みもありませんでした。』
『これが”金の時代”よ。』
アネーシャ
「神様と人間が交流なんて、すごい時代ですね。」
アストレイア
『今の人間には信じられないかもね。』
『やがて人間は作物を作り、富を蓄えるようになりました。』
『貧富の格差が生まれたけど、まだ人間は穏やかだったの。』
『これが”銀の時代”。少しずつ神と人間の距離ができた頃。』
アネーシャ
「格差が…イヤな予感がします…。」
アストレイア
『その通りよ。待っていたのは”青銅の時代”。』
『人間は強欲になり、憎み合い、富を奪い合うようになったの…。』
アネーシャ
「人間は何千年も前から、同じことの繰り返し…。」
アストレイア
『残念ながらそうね…。』
『神々はそんな人間に失望し…1人の人間に方舟を作らせたの。』
『争い続ける人間界を”リセット”するために。』
『神話で聞いたことがあるでしょう?』
アネーシャ
「あぁ…すべて流しちゃったんですね…。」
アストレイア
『あの時、私はそれを止められなかった。』
『けれど、神々は自分たちでリセットしたくせに…。』
『その後も争い続ける人間を見捨て、天界へ去ってしまった…!』
アネーシャ
「じゃあ人間は、とっくに神様に見放されているんですね…。」
アストレイア
『そうね…だけど私は人間を信じたかった。』
『だから、あの時の罪滅ぼしも兼ねて残ることにしたの。』
アネーシャ
「神様が罪滅ぼしだなんて…。」
アストレイア
『私は、神だから何でも許されるなんて思わない。』
『人間を一緒くたに悪と決めつけて滅ぼすのは違うわ。』
『私たち神だって、人間の信仰がなければ消えてしまうの。』
アネーシャ
「…私、間違って生きてきたのかな…。」
アストレイア
『そんなことないわ。』
『あなたは自省したり、他人を思いやったりできる。』
『ありがとうアネーシャ…私、やっぱり人間を信じるわ。』
『あなたみたいな人間がたくさんいるんだって。』
アネーシャ
「…お礼を言うのはこっちです。」
「私たちは時間が無限にあると勘違いして生きていました。」
「人間を見捨てずにいてくれて、ありがとうございます!」
アストレイア
『…お礼はトーラたち、タイムバンクの社員に言って?』
『私のわがままに付き合って、狭間の世界に残ってくれたの。』
アネーシャ
「トーラ…ありがとう!」
「あの時は誤解しちゃってごめんなさい!」
トーラ
『…私も、神々の強引なやり方は気に食わなかっただけです。』
『ですが、私は裏切り者で本当によかったと思います。』
アストレイア
『クスッ…そうね、私たちは神の裏切り者ね。』
『見ての通り、神って意外と頑固で、人間と変わらないのよ?』
アネーシャ
「そうみたいですね(笑)」
「神様って全知全能で完璧なイメージでした。」
アストレイア
『そんなことないわ。今回みたいにミスだってするの。』
トーラ
『さすがに今回はヒヤヒヤしましたよ…。』
『アネーシャさんに出逢えなかったらどうなっていたか(汗)』
アストレイア
『うふふ、トーラ、これからもよろしくね?』
トーラ
『…わかっていますとも。』
『ですが、ほどほどにしてくださいね?』
『今回の時間利子設定は高過ぎます。』
『尻拭いするこちらの身にもなってください。』
アストレイア
『善処します///(照)』
アネーシャ
「神様って、意外と親しみやすいんですね…。」
アストレイア
『でしょう?(ニコリ)』
トーラ
『…アストレイア様、名残惜しいのは承知ですが、そろそろ。』
アストレイア
『そうね、ごめんなさい。』
『アネーシャを引き止めてしまって。』
アネーシャ
「とんでもないです!」
「神様…銀行の頭取とお話できて楽しかったです!」
アストレイア
『やっぱり、あなたに頼んでよかった…。』
『アネーシャ、どうか”自分の人生”を生きてくださいね?』
『私たちタイムバンクが見守っているから。』
アネーシャ
「…はいッ!」
「私、今と未来のために生きてみます。」
「マイアも、みんなも大切にしながら。」
アストレイア
『…(ニコリ)…それじゃトーラ、案内をよろしくね?』
トーラ
『お任せください。アネーシャさん、こちらです。』
ーーーーー
空が…青い。
ちょっと行ってきただけなのに、何だか懐かしい。
不思議な体験だったなぁ。
アネーシャ
「ねぇトーラ、私はどれくらい狭間の世界にいたの?」
トーラ
『そうですね…人間界で換算して半月から1ヶ月ほど。』
アネーシャ
「そっか…行方不明の騒ぎになるって、そういうことね?」
トーラ
『はい、ご迷惑をおかけして申し訳ございません。』
アネーシャ
「ううん、スッキリした!」
「会社に何て言い訳しよっかなぁ。」
「それより、マイアに逢いたいな。」
「今度こそ、私が愚痴ってやろうかな!」
トーラ
『その…本当に、ありがとうございます。』
『アストレイア様と、私たちを救ってくださって。』
アネーシャ
「こちらこそ、ありがとう。」
「おかげで私、今と未来に生きられそうだよ!」
トーラ
『(ニコリ)…これからも、タイムバンクをお引き立てください。』
トーラは満面の笑みを讃えながら、
青空へ消えていった。
マイア
『アネーシャ!』
ふと、背後から聞き慣れた声がした。
アネーシャ
「マイア…。」
マイア
『よかった…!生きてた!!』
『もう逢えないかと思った……うわあああああん…!』
アネーシャ
「ちょッ…!急に抱きついてどうしたの?!///(照)」
マイア
『ずっと連絡付かなくて…!』
『行方不明ってニュースで見て…!!』
『もう!心配させないでよバカーッ!』
ああそっか。
私にとっては数時間だけど、
人間界では”半月から1ヶ月”だもんね。
マイア
『ぐすッ…アネーシャ、今まで本当にごめんね!』
『私、アネーシャに甘え過ぎていた…!』
『今朝、不思議な夢を見たの…。』
アネーシャ
「夢?」
マイア
『うん、幼い頃、お母さんに話を聞いてもらえなかった夢…。』
『そこでしゃぼん玉がたくさん出てきて…。』
『アネーシャが現れて、抱きしめてくれたの!』
それ、私がタイムバンクで
マイアの時間貯金箱を開けた時かな。
マイアの夢に現れたなんてね。
マイア
『それで、ようやく気づいたの。』
『私、アネーシャを”お母さん代わり”にして甘えていたって…!』
過去の傷の補填、親のカウンセリングの人生。
アストレイアが言っていた通りだ。
マイア
『これからは私も成長する!』
『アネーシャみたいに”聞く力”を付ける!』
『だからお願い!見捨てないで……!』
アネーシャ
「見捨てるわけないよ。」
「大切な幼馴染で、親友でしょ?」
「私も、少しずつ自己主張できるようになるよ。」
マイア
『…もう…その優しい目で見つめないでよ…。』
『また甘えたくなっちゃうじゃない…。』
アネーシャ
「私の目?確かに、神様に呼ばれるくらいだから…。」
マイア
『神様…?』
『ちょっとアネーシャ!今までどこへ行っていたの…?』
アネーシャ
「あ…口が滑った…(汗)」
マイア
『聞かせてよ、飲みながら!』
『本当だよ?私、”聞けるようになる”から。』
アネーシャ
「ふふッ、まだ日が高いのに?」
マイア
『今日はいいの!アネーシャが無事だった祝い酒!』
アネーシャ
「よーし!行くか!」
「肴は”タイムバンク本社の話”ね!」
ーー
アストレイア
『……うふふ、楽しそうね。』
トーラ
『よろしいんですか?』
『アネーシャさんがマイアさんへ口外しても。』
アストレイア
『それは自由よ。』
『”大切な人との今”を大事にできるなら、そんな肴もいいでしょう?』
トーラ
『…無粋な質問をしました。』
アストレイア
『トーラのそういう真面目なところがいいわね。』
『今度、2人をここへ呼びましょう。』
『天界のお酒、お口に合うかな?』
トーラ
『まったく…我々の恩人とはいえ気に入り過ぎですよ。』
『諸々、手配するこちらの身にもなってくださいね?』
『仮にもあなたは神なんですから。』
アストレイア
『いいじゃないの。』
『自分の時間を大切に生きる人間を見られる。』
『それは神として最高の幸せよ?』
トーラ
『…ええ…幸せです。』
『アストレイア様はこれからも信じるんですよね?』
『”人間にタイムバンクが不要になる未来”を。』
アストレイア
『もちろんよ。私はここに残ります。』
『タイムバンクが出しゃばる必要がなくなるまで…ね?』
ーーーーーENDーーーーー
⇒他作品
【短編小説】『モノクローム保育園』全5話
【短編小説】『黒い羊と無菌狂』全2話
⇒この小説のPV
⇒参考書籍
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2023年12月25日
【短編小説】『タイムシーフ・タイムバンク』5
⇒【第4話:タイムバンク本社へ】からの続き
<登場人物>
◎アネーシャ・クロニス
主人公、23歳
お人好しで頼みごとを断るのが苦手
人に安心感を与える”不思議な瞳”を持ち、
聞き上手として周囲から頼られている
反面、都合よい”愚痴のゴミ箱”にされることも多い
◎マイア・シリル
アネーシャの幼馴染で親友、23歳
おしゃべり好きで社交的
気弱なアネーシャを支える姉の一面もあるが、
アネーシャを愚痴の聞き役にしている節もある
◎トーラ・アルギロス
「タイムバンク」の社員
人々から余分な時間を預り、”時間利子”を付けて返すというが…?
◎アストレイア
「タイムバンク」の頭取、トーラの上司
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【第5話:過去の傷の補填に生きる】
ここは、人間から時間を預かるタイムバンク本社。
時間の金庫に置かれた箱から、
ゆっくりと浮かんでくるしゃぼん玉。
そこに映る幼い頃のマイアから、
だんだんと声が聞こえてきた。
マイア
『ねぇねぇお母さん。今日ね、学校でね…。』
マイアの母
『ごめん、忙しいから後でね?』
マイア
『お母さん、見て見て!』
『これ、工作の授業で作ったの!』
マイアの母
『ふーん…。』
マイア
『お母さん…?』
マイアの母
『今はごはんを作っていて忙しいの。』
『後で見るから、いい子にしていてね?』
マイア
『…わかった。後で見てね?約束だよ?』
今日ね、こんなことがあって嬉しかったよ。
友達とケンカしちゃって、
あんなことを言われて悲しかったの。
お母さん…?聞いてよ…!
いつも忙しそう…話しかけちゃいけないの?
私、いい子にしているよ?
なのに、お母さんはいつも「後で」って言って…。
いい子でもダメなの?
私、お母さんにとって要らない子なの…?
しゃぼん玉の1つに、
幼いマイアが1人で泣いている姿が映り込んだ。
その途端、たくさんのしゃぼん玉が一気に噴き出した。
お母さんに話したい
私の存在を認めてほしい
私の気持ちに共感してほしい
いい子じゃなくても愛してほしい
まるで、抑圧されたマイアの願い。
それが部屋を埋め尽くしたかと思うと、
パン!
そしてまた、ゆっくりとしゃぼん玉が浮かんできた。
映し出されたのは中学生のマイア、高校生の、大学生の…。
そうして今の姿まで進んだところで、
また少女に戻っての繰り返し。
ーー
アネーシャ
「このしゃぼん玉は何?」
私はいつの間にか溢れた涙を拭い、
アストレイアへ尋ねた。
アストレイア
『これはマイア…あなたの親友から預かった時間よ。』
しゃぼん玉に映ったのは、マイアの生い立ちから今まで。
アネーシャ
「どうしてしゃぼん玉にマイアの過去が映ったの?」
アストレイア
『それは…説明するより見てもらいましょう。』
私は別の小部屋へ案内された。
マイアの小部屋と同じく、中央に小さな箱が置いてあった。
アストレイア
『ここはアネーシャの時間の部屋。』
アネーシャ
「私の…?私、まだ時間を預けていませんよ?』
そう、私はトーラからの時間貯蓄の話を保留したままだ。
アストレイア
『ええ、まだ預かっていないわ。』
『箱からしゃぼん玉が出ていないでしょう?』
アネーシャ
「あ…。』
アストレイア
『だから、今はしゃぼん玉の実物は見せられない。』
『代わりにあなたの記憶から再現させてもらうわ。』
『あなたから時間を預かったら、こんなしゃぼん玉が出るでしょう。』
アストレイアがそう言うと、
箱のすき間から灰色のしゃぼん玉が浮かんできた。
どんよりした”夕方の曇り空”を映したしゃぼん玉が。
ーー
ドンドンドン!
アネーシャ
「お母さん!お願い!おうちに入れてよ!」
ドアを叩くのは、幼い頃の私。
いくら叩いても、誰も出ない。
私は玄関からぐるっと回って窓の方へ。
家の中では、お母さんが変わらぬ様子で過ごしていた。
私はまた玄関へ戻り、ドアを叩いた。
やはり反応がない。
そんなことがひとしきり続いた後、
やっと家に入れてもらえた私は、
アネーシャ
「お母さん…ごめんなさい…。」
アネーシャの母
『……気をつけなさい…。』
お母さんは、私へ冷たい視線を浴びせながら背を向けた。
そして、何もなかったように過ごし始めた。
アネーシャ
「お父さんお帰りなさい!今日ね、学校でね…。」
アネーシャの父
『仕事で疲れているから後でな。』
アネーシャ
「はぁい…。」
お父さん、休めたかな?そろそろいいかな?
アネーシャ
「お父さん!さっきの話ね…!」
アネーシャの父
『眠いんだ、話しかけないでくれないか?』
アネーシャ
「お父さん…。」
私、お母さんの役に立つ!
お父さんに褒めてもらう!
そのためにたくさんお手伝いする!
そしたら私の相手してもらえるかなぁ?
私はそう思って、宿題を早めに済ませた。
お父さんのシャツを畳んだり、お母さんのお皿洗いを手伝った。
なのに、
アネーシャの母
『…次はお洗濯ね。』
アネーシャの父
『もっと良い成績を取れるだろう?』
『次は頑張りなさい。』
…私、お父さんとお母さんの役に立ったよ?
…足りなかったの?
もっと役に立てば、こっちを向いてくれるの…?
灰色のしゃぼん玉には
中学生の私、高校生、大学生の私が映っていき、
パン!
………。
ーーーーー
アストレイア
『いかが?』
『これが、あなたから預かるはずだった時間よ。』
アネーシャ
「……”過去”なんですね…?」
アストレイア
『そう、私たちは人間の”過去の時間”を預かったの。』
『だから”時間のしゃぼん玉”に映るのは、その人の過去。』
アネーシャ
「どうして過去の時間を?」
「神様なら、今や未来の時間を預かることもできるんじゃ…?」
アストレイア
『そんなことはしませんよ。』
『人間の可能性を奪うようなことは。』
アネーシャ
「人間の可能性?」
アストレイア
『私たちタイムバンクは、あなたたちに誤解を与えてしまいました。』
『人間の時間を奪うのが目的ではないか”と。』
アネーシャ
「うぅ…ごめんなさい、早合点して…。」
アストレイア
『いいえ、こちらが悪かったわ。』
『私にはそんな目的はないの。人間には…。』
『過去の傷に囚われて、貴重な人生を浪費してほしくないだけ。』
アネーシャ
「過去?心の傷?」
アストレイア
『私たちは何千年も人間を見てきました。』
『けれど、”過去の補填”のために時間を使う人間がほとんどなの。』
アネーシャ
「補填のため?」
アストレイア
『アネーシャはよく悩んでいますよね?』
『他人の愚痴のゴミ箱にされがちだと。』
アネーシャ
「はい…みんな、私には言いやすいみたい。」
「断れない私が悪いんですけど…。」
アストレイア
『そうやって他人を愚痴のゴミ箱にするのはね。』
『あなたという”親の代役”で、自分の過去の傷を慰めるためよ。』
アネーシャ
「親の代役?そういえば、マイアのしゃぼん玉で見た…。」
「私は、マイアのお母さんの代役?」
アストレイア
『そう。本人は無意識だけどね。』
『”親に満たしてもらえなかった役割を担う人”を探しているの。』
アネーシャ
「じゃあ、私が断れないのも?」
アストレイア
『嫌われたくないのは”見捨てられ不安”よ。』
『源泉はさっき見た通り、関係が希薄だった親に見捨てられる恐怖。』
アネーシャ
「…心当たりがあり過ぎて、怖いです。」
アストレイア
『人間には、他の動物より遥かに長い寿命があります。』
『なのに誰もが誰かを親代わりにして…。』
『他人から奪った時間を、過去の傷の補填にばかり使っている。』
『現在と未来のために時間を使える人間は、ほとんどいないの…。』
アネーシャ
「私もそうでした…。」
「自分の人生を始められてすらいなかった…。」
アストレイア
『そうね…極端に言うと”親をカウンセリングする人生”ね。』
アネーシャ
「じゃあ、みんながイライラし始めたのは?」
「過去の時間をたくさん預けて、傷の補填ができなくなったから?」
アストレイア
『そうよ。前世紀にも何度か時間を預かったけど、効果がなくて。』
『今回は今までで1番高い時間利子を付けたの。』
『時間の使い方を意識する人間が増えてくれると期待して。』
アネーシャ
「結果は…他人の時間を奪い合う人で溢れてしまったと…。」
アストレイア
『その通りよ。裏目に出てしまったわ。』
『迷惑をかけて本当にごめんなさい…。』
アネーシャ
「どうして私を呼んだんですか…?!」
「私だって、過去に囚われて生きていた1人ですよ?」
アストレイア
『アネーシャは、決して人を傷つけませんでした。』
『他人に時間を奪われ、どれだけ疲弊してもね。』
アネーシャ
「それは嫌われるのが怖いからです…。」
「褒められた動機じゃないですよ…?」
アストレイア
『動機はどうあれ、あなたは自分より相手の話に耳を傾けました。』
『そんな優しいあなたなら、私たちの願いを叶えてくれると思ったの。』
『”他の神々のように人間を見捨てたくない”という願いを。』
アネーシャ
「神様は人間を見捨ててしまったんですか?!」
「私は何をすればいいんですか?!」
アストレイア
『人間たちから預かった時間を、みんなへ返してほしいの。』
『そのために”時間の貯金箱”のフタを開けてほしい。』
『そうすれば元通りになるでしょう。』
アネーシャ
「真ん中にある、しゃぼん玉が出ている箱?」
アストレイア
『そう。』
アネーシャ
「小さいけど、すごく重そうですよ?!(汗)」
アストレイア
『重いわね。』
『時間に盲目な人には持ち上げられないでしょう。』
アネーシャ
「じゃあ私にも…。」
アストレイア
『大丈夫。人の心を癒してきた”聞き上手”のあなたならね。』
『まずは、大切な幼馴染の時間を返してあげて?』
ーー
私たちは、マイアの時間貯金箱がある部屋へ戻った。
アネーシャ
「私に開けられるかな…?」
時間貯金箱のフタに触れると、
…軽い…!
そのまま、箱のフタを開けた。
パァァ
時間貯金箱からしゃぼん玉が溢れ、
青い空間へ消えていった。
気のせいかな?
初めに見たしゃぼん玉は、涙のように見えた。
けど、目の前で踊るしゃぼん玉たちは、
少しあたたかい色をしていた。
これでマイアの心の傷が、
少しでも癒えてくれたらいいな。
アストレイア
『あぁ…まだ、この箱を開けられる人間がいたのね…!』
『”青銅の時代”、神々は何て愚かなことを…!』
アストレイアの瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれた。
アネーシャ
「青銅の時代?何があったんですか…?」
多くの人間が、無自覚に他人の時間を奪っていること。
そんな人間を、神々は見捨ててしまったこと。
なのに、アストレイアだけがここに残っているのはなぜ?
彼女は少しためらいながら、”神々の過ち”を話し始めた。
⇒【第6話(最終話):タイムバンクが不要になるまで】へ続く
⇒この小説のPV
2023年12月24日
【短編小説】『タイムシーフ・タイムバンク』4
⇒【第3話:他人の時間の争奪戦社会】からの続き
<登場人物>
◎アネーシャ・クロニス
主人公、23歳
お人好しで頼みごとを断るのが苦手
人に安心感を与える”不思議な瞳”を持ち、
聞き上手として周囲から頼られている
反面、都合よい”愚痴のゴミ箱”にされることも多い
◎マイア・シリル
アネーシャの幼馴染で親友、23歳
おしゃべり好きで社交的
気弱なアネーシャを支える姉の一面もあるが、
アネーシャを愚痴の聞き役にしている節もある
◎トーラ・アルギロス
「タイムバンク」の社員
人々から余分な時間を預り、”時間利子”を付けて返すというが…?
◎アストレイア
「タイムバンク」の頭取、トーラの上司
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【第4話:タイムバンク本社へ】
アネーシャ
「今の話、どういうことですか?」
私は勇気を振り絞り、2人の会話に割り込んだ。
男
『?!!』
トーラ
『アネーシャさん?!どうしてここに?!』
アネーシャ
「勝手に聞いちゃいました、ごめんなさい。」
「人間を見放すとか方舟とか、どういうことですか?」
トーラ
『…。』
アネーシャ
「あなたたちは何者?」
「私たちから時間を預かって何をするつもり?」
男
『私たちはタイムバンクのビジネスとして…。』
アネーシャ
「真の目的は何なの?」
「私たちの時間を奪って、あなたたちのために使うつもり?!」
男
『決してそんなことは…。』
アネーシャ
『じゃあどうして?!』
『街の人たちはどうしてあんなふうになってしまったの?!』
『あなたたちが他人の時間を奪うよう仕向けたんでしょ?!』
トーラ
『アネーシャさん、落ち着いてください。』
『あなたにはすべてをお話します。』
アネーシャ
「…ごめんなさい、失礼なことを言って…。」
「よかったら聞かせてください。」
「親友を助けたいんです。」
パチッ
私は乱れた息を整えながら2人を見つめた。
マイア曰く「アネーシャの瞳は落ち着く」という目で。
トーラ
(…彼女が愚痴のゴミ箱にされるわけだ。)
(やはり彼女は聞き上手の枠を超えている。)
(これほどの包容力の持ち主なら、お連れできるだろう…。)
アネーシャ
「…?」
トーラ
『あなたには少し…難しいお願いをすることになります。』
『そこで、私たちの上司から直接お話しをさせてください。』
アネーシャ
「上司?」
トーラ
『はい、タイムバンクの頭取です。』
アネーシャ
「頭取って銀行のトップ?!」
「わ、私がお会いしてもいいんですか?!」
トーラ
『もちろんです。』
『今から連絡を取ってもよろしいですか?』
アネーシャ
「は、はい。」
トーラ
『では失礼して。』
『はい、ええ…そうですか、彼女なら…。』
『わかりました、今からお連れします。』
アネーシャ
(今から?)
トーラ
『お待たせしました。』
『頭取のアストレイア様が”ぜひお会いしたい”と。』
アネーシャ
「こ、このままの服でいいんですか?」
「帰ってスーツに着替えて…。」
トーラ
『ははは、大丈夫ですよ。』
『……我々についてきてくれますか?』
『アストレイア様は”あなたに託したい”そうです。』
『不思議な瞳と、類まれな”聞く力”を持っているあなたに。』
アネーシャ
「私、どこへ連れて行かれるんですか?」
トーラ
『タイムバンクの本社です。』
『ご安心ください、帰りも私が付き添います。』
人間から時間を集めるタイムバンクの本社?
もしかしたら危険な目に遭うかもしれない。
けど、何もできずに時間を奪われるなんてイヤ。
ここまで足を突っ込んでしまったなら、
騙されたと思って、行ってやろうじゃないの…!
アネーシャ
「わかりました、行きます。タイムバンク本社へ!」
ーー
マイア
『アネーシャ…どうしたんだろ…?』
『メッセージに既読が付かないし、会社も休んでいるみたい…。』
私がタイムバンクの本社へ行っていた時間は
どれくらいだったんだろう。
あの時は時間の感覚がなかった気がする。
その間、マイアは
私とずっと連絡が取れないことを心配していた。
そうこうしているうちに、
ある日のニュースで私が行方不明と報道されたようだ。
マイア
『ウソでしょ…?アネーシャが行方不明…?』
マイアの数字は「24分の6」。
タイムバンクへ時間を預けた効果は確かに出ていた。
マイア、自由時間が増えたんだよ?
なのに、どうしてそんなに泣くの?
マイア
『アネーシャ……ごめんね…!』
『私、あなたに甘え過ぎていた…!』
『なのに言えなかった…謝罪も、お礼も…。』
大切な人は、いなくなって初めて大切さに気づく。
私はマイアがそこまで後悔しているなんて、
知る由もなかった。
ーーーーー
アネーシャ
「ここが、タイムバンクがあるところ…?」
周りは青と紫の波がゆらゆら揺れる空間。
時計の針や数字がそこかしこへ現れては消えていく。
どう見ても人間の世界じゃないよね?
トーラを信じたいけど、
私、このまま異空間へ連れ去られるのかな…。
アネーシャ
「…ここはどこ?」
トーラ
『ここは人間界と天界の狭間です。』
アネーシャ
「天界…?神様がいるの?」
トーラ
『他の神々はここよりさらに上層の天界にいます。』
『この狭間の世界には頭取だけが残っています。』
アネーシャ
「頭取も神様?あなたも?」
トーラ
『私は神ではありません。』
『人間界で言う”使い魔”か”妖精”でしょうか。』
『頭取は神ですが…詳細はご本人から直接お聞きください。』
アネーシャ
「神様…タイムバンクも天界に?」
トーラ
『タイムバンクはこの先です。』
『もう少しで扉が見えてきます。』
私はもう驚かなくなっていた。
この異空間も、神々の存在も、何もかもファンタジー。
それを言ったらタイムバンクの時点でそうだよね。
私の”危機感メーター”が壊れたまま進んで行くと、
空間に浮かぶ巨大な扉が見えてきた。
トーラ
『着きました。タイムバンク本社です。』
アネーシャ
「大きな扉…こんなの開けられるの?」
トーラ
『えぇ、簡単に。軽く押してみてください。』
ギィィ
羽のように軽い扉を開けた先には、
優しい笑顔の女性が立っていた。
白と水色を基調としたローブをまとい、
ウエーブがかった長い銀髪はシルクのよう。
アストレイア
『アネーシャ、よく来てくれました。』
『私はタイムバンクの頭取を務めるアストレイアと申します。』
アネーシャ
「は、初めまして!(汗)」
「アネーシャ・クロニスと申しますッ!」
アストレイア
『ふふッ、そんなに緊張しなくていいのよ?』
『あなたのことはトーラから聞いています。』
『やはり人を包み込むような、優しい瞳をしていますね。』
ふわり
アネーシャ
「あ…ありがとうございます。」
(何だろう…側にいると、すごく落ち着く…。)
アストレイア
『…よかった、落ち着いてくれましたね。』
『さっそくですが、あなたに見せたいものがあるの。』
『私に付いてきて?』
アネーシャ
「は、はい!」
ニコリ
アストレイアは微笑むと、彼女の後ろにある扉を開けた。
ーー
扉をくぐり、細い廊下を少し歩くと、
いくつもの小部屋への岐路へ突き当たった。
アネーシャ
「…ここは…?」
アストレイア
『ここは皆さんの時間を預かっている”金庫”よ。』
アストレイアはそう答え、1つの小部屋のカギを開けた。
アストレイア
『さぁ入って?』
アネーシャ
「入ってって…いいんですか?金庫ですよね?」
アストレイア
『あなただから特別に開錠したの。』
私がおそるおそる小部屋へ入ると、
中央に小さな箱が置いてあるだけだった。
よく見ると、箱のフタのすき間から
しゃぼん玉が浮かんでは消えていった。
アストレイア
『しゃぼん玉をよく見て?』
アネーシャ
「あれは…誰か映っている?」
「子どもの頃のマイアだ!」
しゃぼん玉は透明ではなく、
幼馴染の幼少期の姿が映っていた。
アストレイアは、一体どうやって時間を預かっているの?
神様が管理するような場所に、どうして私が招かれたの…?
⇒【第5話:過去の傷の補填に生きる】へ続く
⇒この小説のPV
2023年12月23日
【短編小説】『タイムシーフ・タイムバンク』3
⇒【第2話:あなたの時間をお預かりします】からの続き
<登場人物>
◎アネーシャ・クロニス
主人公、23歳
お人好しで頼みごとを断るのが苦手
人に安心感を与える”不思議な瞳”を持ち、
聞き上手として周囲から頼られている
反面、都合よい”愚痴のゴミ箱”にされることも多い
◎マイア・シリル
アネーシャの幼馴染で親友、23歳
おしゃべり好きで社交的
気弱なアネーシャを支える姉の一面もあるが、
アネーシャを愚痴の聞き役にしている節もある
◎トーラ・アルギロス
実在が噂される「タイムバンク」の社員を名乗る
人々から余分な時間を預り、”時間利子”を付けて返すというが…?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【第3話:他人の時間の争奪戦社会】
アネーシャ
「ごめん!その日は行けないの…。」
友人
『そう、じゃまたね。』
私がタイムバンクからの
”時間預かりの申し出”を保留してから数ヶ月後。
私はタイムバンクのトーラと出逢ってから、
少しずつ頼みごとを断れるようになってきた。
とはいえ、勝率はまだ2割。
8割は自分に敗北し、友人の愚痴を聞いて帰ってくる。
それにしても、
最近は何だか友人からのお誘いが増えた気がする。
内容もただ遊ぶんじゃなくて、
本当に私へ”鬱憤の呪詛”を唱える会になってきた。
深夜に長時間の通話をかけてくる人も出てきた…。
それに、別れ際の友人たちの表情も変わってきた。
これまではスッキリした表情だったのに、
最近は会う前より疲れた顔をしている。
私、何か傷つけることを言っちゃった?
ほとんど相づちしかしていないけど…何だろう?
彼女らの焦りも伝わってきた。
競い合うように私に声をかけてきたり、
なるべく多く話を聞いてもらおうとしたり。
アネーシャ
「何かおかしい…よね?」
「こんなに頻繫に誘われることはなかったし。」
いつから?
タイムバンクの人と接触してから?
そういえば、
友人たちはみんな時間を預けたと言っていた。
知っている限り、返事を保留したのは私だけ。
イライラ、ソワソワしていないのも私だけ。
本当に時間が利子付きで返ってくるなら、
時間は増えているはず。
むしろ他人に時間を奪われている私の方が
ソワソワしていてもおかしくないのに。
タイムバンクのシステムはどうなっているの?
ーーーーー
私が周囲の変化に気づいてから、さらに数ヶ月後。
街の人々は明らかに憔悴し、利己的な行動へ走るようになった。
マイア
『あーもう!アネーシャ、今日はごめんね!』
『せっかく付き合ってもらったのに。』
『今度、埋め合わせするから!』
アネーシャ
「だ、大丈夫だよ…仕事で色々あったんでしょ?」
マイアもこのありさま。
ただ、ピリピリしているかと思えば、
アネーシャ
「コラー!飲みすぎ!抱きつくなぁッ!///(照)」
マイア
『えへへ〜、いいれしょ〜?(酔)』
アネーシャ
「本当に最近どうしたの…?」
「いつもはこんなに酔わないのに…。」
マイア
『え〜?いつも通りだよ〜?』
アネーシャ
「もう…甘えるなら彼氏に甘えなさいよ?」
マイア
『今いないも〜ん…(涙)』
アネーシャ
「脳内彼氏でもいいから!」
マイア
『今日はアネーシャが彼氏役やってよ〜。』
アネーシャ
「しょうがないなぁ…///(照)」
マイア
『へへ〜…やっぱりアネーシャの目を見ると落ち着くわ〜。』
アネーシャ
「はいはい、ありがと!」
こんなふうに、
意外としっかりしているマイアでさえ、
深酒したり甘えてきたりすることが増えた。
もっとも、彼女はまだ自制できている方。
私の周りにいる”口が達者な人”は、
他人の時間を奪うことに躍起になった。
彼らはイヤなことがあれば、
私のように気弱な知り合いを呼び出し、
愚痴を吐き出した。
お人好しで断るのが苦手な人は、
どんどん時間を奪われていった。
その結果、街の人は愚痴ってスッキリする人と、
疲弊した人へ二極化した?
時間を大量に預ける人と、
ほとんど時間の蓄えがない人という
”時間の格差社会”になった?
いいえ。
街には生き生きした人なんて見当たらない。
イライラしながら足早に歩く人と、
疲れた顔で歩く人でいっぱい。
以前は、忙しく働いている人でも
「24分の5」くらいの人が多かった。
なのに今は、
他人へ愚痴って時間を奪っていた人も、
残り自由時間「24分の1」「24分の0」ばかり。
他人から時間を奪ったら、
もっと多くの時間利子が返ってくる。
そしたら、もっともっと欲しくなる。
しかも自分の愚痴をぶつけて
スッキリできるんだから一石二鳥?
それは逆効果。
愚痴や悪口は自分が1番近くで聞いている。
だから自分の精神を痛めつけて、ますます弱っていく。
「もっと時間を奪いたい」
「もっとスッキリしたい」
それが偽りだなんて気づかないほど、
余裕のない人でいっぱいになってしまった。
ーーーーー
アネーシャ
「やっぱりおかしいよ!」
「みんなイライラして、何かに追われるように焦って…。」
本来、真っ先にそうなるのは私。
何しろ普段から時間を奪われ、時間の貯蓄が少ないんだから。
なのに、今では私に愚痴っていた人
=時間をたくさん預けた人がもっとも焦っている。
-----
(トーラ)
『あなたの時間をお守りします。』
『高い時間利子を付けてお返しします。』
-----
アネーシャ
「もしかして、タイムバンクの話はウソ…?」
「時間利子と謳って、本当は時間を奪うのが目的…?」
だとしたら、もう1度トーラに会わなきゃ!
本当のことを言ってくれるかわからないけど、
マイアや街の人たちがおかしくなったままなんてイヤ!
そう思って繫華街へ来てみたけど、手がかりはない。
名刺にも連絡先は載っていない。
アネーシャ
「やっぱり闇雲に探しても見つからないよね…。」
私はとぼとぼ歩きながら、ふと路地裏に目をやると、
トーラ
『そっちはどうだ?見つかったか?』
男
『まだだ。お前は?』
トーラ
『候補が1人いるにはいるが、まだ…。』
男
『頼めない…か。』
『ここまでして人間に”時間の大切さ”を意識させたんだ。』
『アストレイア様の願いを人間1人に背負わせるのは酷だな…。』
トーラ
『あぁ…だが彼女なら”貯金箱”を開けられそうな気がする。』
『あの瞳を見た時、思わず目的を話してしまいそうになった。』
男
『あとは信じてもらえるかどうか、だな。』
トーラ!見つけた!
もう1人は…マイアのところに来たタイムバンクの人?
けど、何だか怪しげな話をしている…?
男
『人間から時間を預かって、もう半年近くになる。』
『このまま成果が出なければ、アストレイア様まで人間を見放して…。』
トーラ
『そうだな…”青銅の時代”と同じことが起きる。』
男
『…方舟か。』
トーラ
『ああ、だがアストレイア様が去ってしまったら…。』
『方舟も間に合わないかもしれない。』
男
『もう彼女を連れて行ったらどうだ?』
『じっくり説得しているヒマもないだろう?』
トーラ
『やむを得ないな…。』
『行方不明でニュースになるだろうが、仕方ない…。』
どうやらトーラたちも私に用があるらしい。
それにしても、人間を見放す?方舟?行方不明?
物騒な言葉が立ち並ぶ。
本当に人間がどうにかされちゃうの?
マイアもいなくなるの?
タイムバンクは一体…何をしようとしているの?!
⇒【第4話:タイムバンク本社へ】へ続く
⇒この小説のPV
2023年12月22日
【短編小説】『タイムシーフ・タイムバンク』2
⇒【第1話:聞き上手と時間泥棒】からの続き
<登場人物>
◎アネーシャ・クロニス
主人公、23歳
お人好しで頼みごとを断るのが苦手
人に安心感を与える”不思議な瞳”を持ち、
聞き上手として周囲から頼られている
反面、都合よい”愚痴のゴミ箱”にされることも多い
◎マイア・シリル
アネーシャの幼馴染で親友、23歳
おしゃべり好きで社交的
気弱なアネーシャを支える姉の一面もあるが、
アネーシャを愚痴の聞き役にしている節もある
◎トーラ・アルギロス
実在が噂される「タイムバンク」の社員を名乗る
人々から余分な時間を預り、”時間利子”を付けて返すというが…?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【第2話:あなたの時間をお預かりします】
翌朝、土曜日。
仕事はお休みだけど、
アネーシャ
「うぅ……まだ昨日の疲れが…。」
私がベッドでぐだぐだしていると、
ふいに音声通話の着信音が鳴った。
アネーシャ
「(もう…朝から誰?)…はい。」
男
『突然のご連絡で失礼します。』
『私は”タイムバンク”の者です。』
アネーシャ
「え?!」
昨夜、マイアが言っていた”ファンタジーの人”だ。
私、まだ夢の中?
男
『先日、あなた方へ数字をお出ししたのは私どもです。』
アネーシャ
「そ、そうなんですか…。」
男
『それについて、アネーシャさんへお話があります。』
『あまりにもタイムシーフ(時間泥棒)に時間を奪われているあなたへ。』
こんな突拍子もない話を、誰が信じるだろう。
知らない人に着いて行っちゃダメよ?
変な詐欺か、高額なツボの販売だから。
私の危機感メーターがそう告げる一方、
私の心に「タイムシーフ」という言葉が突き刺さった。
時間泥棒…か…。
私、頼みごとを断れないばかりに、
私に依存する人に時間を奪われる≒時間泥棒されている。
怪しいけど、少しでも自分を変えるきっかけになるなら…。
アネーシャ
「わかりました。待ち合わせ場所は…。」
当たって砕けよう。
販売だったらさすがの私でも断る。
数字のことも気になるし。
ーー
待ち合わせ場所のカフェに着くと、
銀髪で長身の青年が私を迎えた。
男
『アネーシャさん、ご足労ありがとうございます。』
『私はタイムバンク社員のトーラ・アルギロスと申します。』
アネーシャ
「こ、こちらこそ…ご丁寧に…(汗)」
うぅ…圧倒的なイケメンを前に、私の心がぐらついた。
ダメよアネーシャ!気をしっかり持って!
いくらイケメン相手でも何も買わないし、
どこにも入信しないんだからね!
名刺だって本物とは限らないし!
1人であたふたする私をよそに、
トーラはいきなり核心を話し始めた。
トーラ
『お気づきかもしれませんが、この数字は時間です。』
『分母は1日24時間、分子はその日に使える自由時間です。』
アネーシャ
「時間…?そういえば24時間…。」
「これって体力や精神力じゃないんですね。」
トーラ
『ははは、RPGゲームならおもしろいしょうね。』
『そこはご期待に添えませんで。』
柔和な笑顔を見せるトーラ。
油断しちゃダメよ?商談の雰囲気作りかも…。
アネーシャ
「昨日、私の数字が”4”からどんどん減っていったんです。」
「あれは私の自由時間が削られたってことですか?」
トーラ
『その通りです。』
『昨日、アネーシャさんの自由時間は4時間ありました。』
『ですがマイアさんのお話に付き合って目減りしてしまった。』
アネーシャ
「そういえば、マイアの数字は”4”から”5”へ…。」
トーラ
『あれはアネーシャさんの自由時間を奪ったからです。』
『本来、”ご自身で解決すべき葛藤”の時間をね。』
アネーシャ
「それが”タイムシーフ=時間泥棒”?」
トーラ
『そうです。確かに友達付き合いは大切ですが…。』
『自分の課題を他人に投げつけるのは時間泥棒になります。』
あぁ…心当たりがありすぎる…。
占いで自分のすべてを当てられたようで、
思わず何か買ってしまいそう…。
ストップストップ!
聞きたいことがあるんでしょ?!目的よ目的!
アネーシャ
「タ、タイムバンクは時間の貯蓄を勧めに来るんですよね?」
「だったら時間泥棒されている私より、マイアのところへ行った方が…。」
「わ、私の少ない時間を切り取っても足しになりませんよ…?」
トーラ
『確かに、商売としては訪問の順番が違いますね。』
『ですが私たちは、時間を奪われがちな方からお会いしています。』
『”大丈夫ですか?あなたの時間を奪われていますよ?”と伝えるために。』
アネーシャ
「わざわざ残り時間が少ない人から?」
トーラ
『ええ、そういう方は時間の大切さに敏感です。』
『他人から時間を奪っている人は時間に鈍感です。』
『そういう人に時間の大切さを説いても実感しにくいんです。』
アネーシャ
「時間の意識と、成約率の問題?」
トーラ
『その通りです。』
『だからアネーシャさんにはぜひ当行をご利用いただきたい。』
『あなたの時間をお守りします。』
人に時間を奪われ、疲弊しがちな私にとっては渡りに船。
それが好転するなら、少しくらい預けてもいいかな…?
けど、この状況は
子どもの頃に読んだ児童文学作品に似ている。
”時間貯蓄銀行”のスタッフが同じこと言ってきて、
人間から時間を奪って自分たちのものにする話。
トーラにそんな悪意は感じないけど、もう少し聞いてみたい。
アネーシャ
「よければ詳しく聞かせてくれませんか?」
「いつの時間を預って、どうやって時間利子を付けるのかを。」
私は目を見開き、トーラへ純粋な疑問をぶつけた。
相手に心を開かせるらしい、不思議な目を。
………。
…。
トーラ
『……そ、それは…。』
アネーシャ
「…?」
トーラ
(ッ!!危ない…真の目的を話すところだった…。)
(やはり彼女の目は”特別”だ。)
(包み込むような優しさに溢れている。)
(単なる聞き上手を超えて、心をすべて開いてしまいそうだ。)
(彼女になら頼めるかもしれない。が…。)
(出逢ったばかりであんな”重責”を背負わせるのは早計か…?)
トーラが言葉を詰まらせる間に、
私はこれまで友人に言えなかった返事を口にした。
アネーシャ
「…せっかくですが、お返事は保留させてください。」
「もう少し自分で何とかしてみたいんです。」
トーラ
『か、かしこまりました。』
『後日、改めてお伺いします。』
いつも断り切れない私が、
どうしてすんなり保留できたんだろう?
直感だけど、
この人は私を愚痴の聞き役にしたり、
悪意で近づいたんじゃないってわかったから。
タイムバンクなんて怪しさ満点。
断ったら何が起きるかわからない。
なのに、トーラにはなぜか
「断っても嫌われない」という妙な安心感があった。
ーーーーー
トーラとの不思議な出逢いがあってから数日後。
私の知らないところで、マイアが荒れていた。
マイア
『あーもう!あの鬼上司!』
『あんな仕事量、定時までに終わるわけないでしょ!』
『モヤモヤするなぁ…またアネーシャと飲むか…。』
マイアが私へのメッセージを打ち込んでいると、
マイア
『…音声通話?』
男
『突然のご連絡で失礼します。』
『私はタイムバンクの者です。』
マイアにも、
タイムバンクの別のスタッフが接触してきた。
マイア
『タイムバンクって…噂は本当だったの?』
マイアはすぐにスタッフとの待ち合わせに応じた。
「おもしろそうだから」って。
男
『マイアさんの時間を稼ぐ能力はすばらしい。』
『毎日4〜5時間は自由時間がありますよね?』
マイア
『何?この数字って時間だったの?』
『確かに”24”はずっと変わっていないもんね。』
男
『その通り、時間です。』
『そして、あなたは自由時間を稼ぐのが上手い。』
マイア
『時間を稼ぐ?どういうこと?』
男
『たとえば誰かに悩みを相談したり…。』
『”人を上手く頼る”ことでご自身の時間を節約しています。』
マイア
『あー、そう言われたら私、割と自由時間あるわ。』
『最近アネーシャに頼りきりだったかも。』
(悪いことしちゃったなぁ…。)
男
『そこですよ。』
『あなたは自由時間があるのに、仕事に追われています。』
『今日も上司と色々あったのでしょう?』
マイア
『見ていたの?』
『まぁいいや、タイムバンクなら何でもありか。』
『そう、時間はあるはずなのに最近気分が晴れないの。』
男
『でしたら、上司と揉める時間を当行へ預けませんか?』
『あなたが今まで稼いだ自由時間と一緒に。』
マイア
『時間を預ける?後で返してくれるんですよね?』
男
『もちろん、高い時間利子を付けてお返しします。』
『今よりもっと時間に余裕ができます。』
『そうすればイライラすることも減るでしょう。』
マイア
『費用は?』
男
『お金なんて要りませんよ。』
『我々のビジネスはあくまで時間の貸し借りですから。』
マイア
(ふーん…何だかウソっぽいけど…。)
(本当に自由時間が増えるならいいか。)
『わかりました。私の時間を預けます。』
男
『ご利用ありがとうございます。』
ーー
数日後。
マイア
『何だか身体が軽くなったみたい。』
『上司とぶつかることもなくなったし。』
マイアはタイムバンクへ時間を預けてから、
心の余裕が出てきたみたい。
マイア
『こんなに良いなら、アネーシャにも勧めようかな?』
(あの子への罪滅ぼしも兼ねて…。)
マイアなりに、
私を愚痴のゴミ箱にしている自覚はあったようだ。
これ以上はさすがに悪いと思ったのか、
私にタイムバンクを紹介しようと思ってくれた。
マイア
『待って。せっかくだから…。』
『もう少し時間を増やしてから紹介してもいいか。』
『あの子、時間なさそうだし。』
結局、マイアは
先にもっと時間を稼いでタイムバンクへ預けることを選んだ。
マイア
『もっと時間を稼ぐにはどうしたらいいの?』
考えた末に、マイアは、
アネーシャ
「まったくもう…今日のお題は何?」
マイア
『今日はねー…上司が…。』
アネーシャ
「それ、この前も聞いたよ?」
マイア
『そうだっけ?ごめん、じゃあね…。』
やっぱり、お酒を飲みながら私へ管を巻くことだった…。
私は「この前も聞いた」と言えるだけ成長したと思う。
それでも、ノコノコと出向いているあたりは進歩していない。
タイムバンクからの申し出を保留した私と、
時間を預けたマイア。
やっていることは今までと同じ。
私は疲れるけど、これだけなら”平和な日常”で済んだ。
その”平和な日常”は、
タイムバンクへ時間を預ける人が増えるにつれて、
徐々に崩れていくなど、想像できなかった。
⇒【第3話:他人の時間の争奪戦社会】へ続く
⇒この小説のPV
2023年12月21日
【短編小説】『タイムシーフ・タイムバンク』1
<登場人物>
◎アネーシャ・クロニス
主人公、23歳
お人好しで頼みごとを断るのが苦手
人に安心感を与える”不思議な瞳”を持ち、
聞き上手として周囲から頼られている
反面、都合よい”愚痴のゴミ箱”にされることも多い
◎マイア・シリル
アネーシャの幼馴染で親友、23歳
おしゃべり好きで社交的
気弱なアネーシャを支える姉の一面もあるが、
アネーシャを愚痴の聞き役にしている節もある
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【第1話:聞き上手と時間泥棒】
アネーシャ
「今日も断れなかった…。」
「それと、やっぱりずっと聞いちゃった…。」
ある夜、
幼馴染のマイア・シリルと遊びに行った帰り道。
私、アネーシャ・クロニスは、
疲れた身体を引きずって自宅を目指していた。
マイア
『ねぇアネーシャ!ちょっと悩みがあって…。』
『あなたの意見を聞かせてくれない?』
マイアはそう言って、
私に「悩み相談」をお願いしてきた。
その日は特に予定がなかったけど、
疲れ気味だったし、本当は断りたかった。
ほぼ毎回、
マイアの聞き役に徹して終わるのが既定路線だから。
私は”頼みごとを断れない自分”を変えたくて、
自己啓発本を読み漁った。
「自分の本音に素直になりましょう」
「断って嫌われるならその程度」
「3回に2回は断りましょう」
たいていの本にそう書いてあるけど、
今のところ実践できていない。
マイア
『アネーシャ、最近どう?彼氏できた?』
アネーシャ
「か、彼氏?!///(照)まだできてな…。」
マイア
『そうそう、聞いてよ!私なんてこの前さぁ…。』
マイアも他の友人も、
私のことを聞いてくるフリで、
実は自分が話したいだけだとわかっている。
私の悪い癖は、
そこでつい”聞き役”に徹してしまうところ。
マイア
『アネーシャの目を見ると安心しちゃって。』
『つい何でも打ち明けたくなるんだ。』
どうやら、私の目にそんな雰囲気があるらしい。
私を信頼してくれるのは嬉しいけど、
心を開き過ぎて愚痴ばかりになっていくのがしんどい。
アネーシャ
「いい加減、断れるようにならなきゃ…。」
毎回そう決意するけど、
嫌われるのが怖くて「いいよ」と言ってしまう。
ーー
別の日も、私はテーブル越しに
マイアの話を受け止めていた。
アネーシャ
(今日もマイアの愚痴を聞いて終わるのかな…。)
そんな自分に嫌気が差し始めた頃、
マイア
『ところで、アネーシャは知ってる?』
『”タイムバンク”の噂。』
アネーシャ
「タイムバンク?」
マイア
『なんかねー、あまりにも時間に追われるようになると…。』
『自分の時間が数字として見えるようになるんだって!』
アネーシャ
「時間が数字として見える?」
マイア
『うん、そしたらタイムバンクの人が来て…。』
『あなたの時間を貯蓄しませんか?』
『後日、利子付きでお返しします。』
『時間に追われる毎日を変えましょう。』
『みたいな勧誘をされるんだって!』
アネーシャ
「不思議ね…。そんなことが本当にできたら…。」
マイア
『ね!すぐやりたいよね!』
『けど時間の貯蓄なんてできるわけないよね…。』
『そんなことができたら、私なら仕事辞めるわ(苦笑)』
アネーシャ
「あはは(苦笑)そうだよね…。」
「もしできるなら、いつの時間を預かるんだろう?」
「過去?未来?今?」
マイア
『どうだろ?タイムバンクなんて噂だから。』
『おもしろいけど、まぁファンタジーだよね。』
珍しいな。マイアが私に話を振って…。
じゃなくて!ファンタジーの話をするなんて。
タイムバンク…時間の貯蓄…か。
思えば私、
本当は断りたい付き合いに
だいぶ時間を取られているなぁ。
自業自得だけどさ。
もし私の残り時間が見えたら…なんてね。
あり得ないか。ファンタジーだよね。
ーーーーー
ところが、ある金曜日の朝。
アネーシャ
「ふあ……もう朝…?」
半分寝ながら目覚まし時計を探していると、
アネーシャ
「何…?!この数字…?!」
私の身体の前に、黒い数字が浮かんでいた。
真ん中に横線が走り、
下の数字は「24」、上の数字は「4」?
確かに昨夜まではなかった。
取れるのかな?手を伸ばしてみても触れない。
そういえば、この前のマイアの話…。
(マイア)
『時間に追われ過ぎるとタイムバンクの人が来て…。』
…まさか…いいえ、寝ぼけているだけ。
アネーシャ
「いけない…もうこんな時間…。」
「会社に遅刻しちゃう!」
私は慌てて身支度を始めた。
出社しても私の数字は消えなかった。
周りの人にも数字は出ていて、
お互いに見えているみたい。
やっぱり昨日までは出なかったようで、
周囲は謎の数字にざわざわしていた。
私の数字は、
下は「24」のままで、上は「3」に減っていた。
どうやら分数を表しているようだ。
24分の…何だろう?
モヤモヤしたまま仕事に追われ、夕方。
定時退社が現実味を帯びてきた頃、
マイア
『アネーシャ、この後空いてる?飲みに行こうよ。』
『明日はお休みでしょ?思い切り飲んでも大丈夫だよ。』
うーん…今日は正直ちょっと…。
この変な数字のことも気になるし。
なのに、私の返信内容は、
アネーシャ
「いいよ。」
違ーう!!!私のバカバカ!ヘタレ!
どうして断れないの?!
いつも通り”愚痴の聞き役”になるって
わかっているのに…。
私は自己嫌悪が止まらないまま定時退社し、
マイアとの待ち合わせ場所へ向かった。
ーー
マイア
『おつかれ!急に声かけて悪いね。』
『今日はおごるから許して?』
てへッ☆
というテロップが出てきそうな
マイアの数字は「24分の4」だった。
朝の私と同じだ。
やっぱりみんなに共通の何か?
同じように減っていくのかな?
思いつつも、
流されるままサシ飲みが始まって2時間。
私はやっぱりマイアの愚痴を聞いていた…。
せっかくマイアのおごりだったのに、
お酒の味はほとんど覚えていない。
マイア
『今日はありがとね!それじゃ!』
解散する頃には、
スッキリした顔のマイアと、ぐったりを隠す私がいた。
つ、疲れた…。
私の数字を見ると「24分の1」。
対して、後ろ姿のマイアの数字は「24分の5」。
あれ?「4」から「5」に増えている?
これって減るだけじゃないんだ。
もしかして体力?精神力?HPやMP?
だとしたら、
愚痴ってスッキリしたマイアの数字が増えて、
聞き役に疲れた私の数字が減ったのもわかる。
マイアは数字を気にしない様子で、
軽やかに帰宅していった。
私は今日も疲れた身体を引きずって帰宅。
アネーシャ
「すぐ寝たい…けど。」
「シャワーだけは浴びて…か…ら……。」
その後、私はベッドへ倒れるように眠りに落ちた。
私の数字が「24分の0」になっていたことに、
ちっとも気づかなかった。
⇒【第2話:あなたの時間をお預かりします】へ続く
⇒この小説のPV
2023年12月06日
【オリジナル歌詞】『枯れゆく命』
この身をすべて委ねて 甘えられる誰かを
枯れゆく命で 求め彷徨う
愛という命の水を
与えられずに生きる運命(さだめ)を背負い
誰を恨めど 根の渇き止まず
誰も信じられずに 心閉ざすばかり
この身をすべて委ねて 甘えられる誰かを
求めて彷徨う 人の装いで
幼さも弱さも 決してさらけ出せずに
叶わぬ願いは 夢幻の彼方へ
命の種は告げた
そこに在ること 逆らうことは罪と
差し伸べられた 愛の水瓶も
こぼれ落ちてく すくい方さえわからない
夜空の星たちを 掴みたいと願えど
無慈悲な種には 聴こえることはない
幾年月重ねて 朽ちるその刻まで
温もり知らずに 逝(たびだ)つのだろうか
この身をすべて委ねて 甘えられる誰かは
人の世に居ないと 受け入れる強さよ
枯れゆくその命で 来世に期するのは
愛という命の水の温もり
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
⇒他作品
【オリジナル歌詞】『存在ヲ許サレタイ』
【オリジナル歌詞】『生キテルアカシ』
【オリジナル歌詞】『生まれるのやめましょう』
⇒参考書籍
枯れゆく命で 求め彷徨う
愛という命の水を
与えられずに生きる運命(さだめ)を背負い
誰を恨めど 根の渇き止まず
誰も信じられずに 心閉ざすばかり
この身をすべて委ねて 甘えられる誰かを
求めて彷徨う 人の装いで
幼さも弱さも 決してさらけ出せずに
叶わぬ願いは 夢幻の彼方へ
命の種は告げた
そこに在ること 逆らうことは罪と
差し伸べられた 愛の水瓶も
こぼれ落ちてく すくい方さえわからない
夜空の星たちを 掴みたいと願えど
無慈悲な種には 聴こえることはない
幾年月重ねて 朽ちるその刻まで
温もり知らずに 逝(たびだ)つのだろうか
この身をすべて委ねて 甘えられる誰かは
人の世に居ないと 受け入れる強さよ
枯れゆくその命で 来世に期するのは
愛という命の水の温もり
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
⇒他作品
【オリジナル歌詞】『存在ヲ許サレタイ』
【オリジナル歌詞】『生キテルアカシ』
【オリジナル歌詞】『生まれるのやめましょう』
⇒参考書籍
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