2023年12月23日
【短編小説】『タイムシーフ・タイムバンク』3
⇒【第2話:あなたの時間をお預かりします】からの続き
<登場人物>
◎アネーシャ・クロニス
主人公、23歳
お人好しで頼みごとを断るのが苦手
人に安心感を与える”不思議な瞳”を持ち、
聞き上手として周囲から頼られている
反面、都合よい”愚痴のゴミ箱”にされることも多い
◎マイア・シリル
アネーシャの幼馴染で親友、23歳
おしゃべり好きで社交的
気弱なアネーシャを支える姉の一面もあるが、
アネーシャを愚痴の聞き役にしている節もある
◎トーラ・アルギロス
実在が噂される「タイムバンク」の社員を名乗る
人々から余分な時間を預り、”時間利子”を付けて返すというが…?
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【第3話:他人の時間の争奪戦社会】
アネーシャ
「ごめん!その日は行けないの…。」
友人
『そう、じゃまたね。』
私がタイムバンクからの
”時間預かりの申し出”を保留してから数ヶ月後。
私はタイムバンクのトーラと出逢ってから、
少しずつ頼みごとを断れるようになってきた。
とはいえ、勝率はまだ2割。
8割は自分に敗北し、友人の愚痴を聞いて帰ってくる。
それにしても、
最近は何だか友人からのお誘いが増えた気がする。
内容もただ遊ぶんじゃなくて、
本当に私へ”鬱憤の呪詛”を唱える会になってきた。
深夜に長時間の通話をかけてくる人も出てきた…。
それに、別れ際の友人たちの表情も変わってきた。
これまではスッキリした表情だったのに、
最近は会う前より疲れた顔をしている。
私、何か傷つけることを言っちゃった?
ほとんど相づちしかしていないけど…何だろう?
彼女らの焦りも伝わってきた。
競い合うように私に声をかけてきたり、
なるべく多く話を聞いてもらおうとしたり。
アネーシャ
「何かおかしい…よね?」
「こんなに頻繫に誘われることはなかったし。」
いつから?
タイムバンクの人と接触してから?
そういえば、
友人たちはみんな時間を預けたと言っていた。
知っている限り、返事を保留したのは私だけ。
イライラ、ソワソワしていないのも私だけ。
本当に時間が利子付きで返ってくるなら、
時間は増えているはず。
むしろ他人に時間を奪われている私の方が
ソワソワしていてもおかしくないのに。
タイムバンクのシステムはどうなっているの?
ーーーーー
私が周囲の変化に気づいてから、さらに数ヶ月後。
街の人々は明らかに憔悴し、利己的な行動へ走るようになった。
マイア
『あーもう!アネーシャ、今日はごめんね!』
『せっかく付き合ってもらったのに。』
『今度、埋め合わせするから!』
アネーシャ
「だ、大丈夫だよ…仕事で色々あったんでしょ?」
マイアもこのありさま。
ただ、ピリピリしているかと思えば、
アネーシャ
「コラー!飲みすぎ!抱きつくなぁッ!///(照)」
マイア
『えへへ〜、いいれしょ〜?(酔)』
アネーシャ
「本当に最近どうしたの…?」
「いつもはこんなに酔わないのに…。」
マイア
『え〜?いつも通りだよ〜?』
アネーシャ
「もう…甘えるなら彼氏に甘えなさいよ?」
マイア
『今いないも〜ん…(涙)』
アネーシャ
「脳内彼氏でもいいから!」
マイア
『今日はアネーシャが彼氏役やってよ〜。』
アネーシャ
「しょうがないなぁ…///(照)」
マイア
『へへ〜…やっぱりアネーシャの目を見ると落ち着くわ〜。』
アネーシャ
「はいはい、ありがと!」
こんなふうに、
意外としっかりしているマイアでさえ、
深酒したり甘えてきたりすることが増えた。
もっとも、彼女はまだ自制できている方。
私の周りにいる”口が達者な人”は、
他人の時間を奪うことに躍起になった。
彼らはイヤなことがあれば、
私のように気弱な知り合いを呼び出し、
愚痴を吐き出した。
お人好しで断るのが苦手な人は、
どんどん時間を奪われていった。
その結果、街の人は愚痴ってスッキリする人と、
疲弊した人へ二極化した?
時間を大量に預ける人と、
ほとんど時間の蓄えがない人という
”時間の格差社会”になった?
いいえ。
街には生き生きした人なんて見当たらない。
イライラしながら足早に歩く人と、
疲れた顔で歩く人でいっぱい。
以前は、忙しく働いている人でも
「24分の5」くらいの人が多かった。
なのに今は、
他人へ愚痴って時間を奪っていた人も、
残り自由時間「24分の1」「24分の0」ばかり。
他人から時間を奪ったら、
もっと多くの時間利子が返ってくる。
そしたら、もっともっと欲しくなる。
しかも自分の愚痴をぶつけて
スッキリできるんだから一石二鳥?
それは逆効果。
愚痴や悪口は自分が1番近くで聞いている。
だから自分の精神を痛めつけて、ますます弱っていく。
「もっと時間を奪いたい」
「もっとスッキリしたい」
それが偽りだなんて気づかないほど、
余裕のない人でいっぱいになってしまった。
ーーーーー
アネーシャ
「やっぱりおかしいよ!」
「みんなイライラして、何かに追われるように焦って…。」
本来、真っ先にそうなるのは私。
何しろ普段から時間を奪われ、時間の貯蓄が少ないんだから。
なのに、今では私に愚痴っていた人
=時間をたくさん預けた人がもっとも焦っている。
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(トーラ)
『あなたの時間をお守りします。』
『高い時間利子を付けてお返しします。』
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アネーシャ
「もしかして、タイムバンクの話はウソ…?」
「時間利子と謳って、本当は時間を奪うのが目的…?」
だとしたら、もう1度トーラに会わなきゃ!
本当のことを言ってくれるかわからないけど、
マイアや街の人たちがおかしくなったままなんてイヤ!
そう思って繫華街へ来てみたけど、手がかりはない。
名刺にも連絡先は載っていない。
アネーシャ
「やっぱり闇雲に探しても見つからないよね…。」
私はとぼとぼ歩きながら、ふと路地裏に目をやると、
トーラ
『そっちはどうだ?見つかったか?』
男
『まだだ。お前は?』
トーラ
『候補が1人いるにはいるが、まだ…。』
男
『頼めない…か。』
『ここまでして人間に”時間の大切さ”を意識させたんだ。』
『アストレイア様の願いを人間1人に背負わせるのは酷だな…。』
トーラ
『あぁ…だが彼女なら”貯金箱”を開けられそうな気がする。』
『あの瞳を見た時、思わず目的を話してしまいそうになった。』
男
『あとは信じてもらえるかどうか、だな。』
トーラ!見つけた!
もう1人は…マイアのところに来たタイムバンクの人?
けど、何だか怪しげな話をしている…?
男
『人間から時間を預かって、もう半年近くになる。』
『このまま成果が出なければ、アストレイア様まで人間を見放して…。』
トーラ
『そうだな…”青銅の時代”と同じことが起きる。』
男
『…方舟か。』
トーラ
『ああ、だがアストレイア様が去ってしまったら…。』
『方舟も間に合わないかもしれない。』
男
『もう彼女を連れて行ったらどうだ?』
『じっくり説得しているヒマもないだろう?』
トーラ
『やむを得ないな…。』
『行方不明でニュースになるだろうが、仕方ない…。』
どうやらトーラたちも私に用があるらしい。
それにしても、人間を見放す?方舟?行方不明?
物騒な言葉が立ち並ぶ。
本当に人間がどうにかされちゃうの?
マイアもいなくなるの?
タイムバンクは一体…何をしようとしているの?!
⇒【第4話:タイムバンク本社へ】へ続く
⇒この小説のPV
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