2024年01月25日
【短編小説】『まもりたいもの1つ』(1話完結)
【最期の命は”まもりたいもの”のために】
赤ずきんのおばあさんの家に、
オオカミが入ってきてしまいました。
童話の通りなら、
おばあさんは丸飲みにされてしまいます、が…?
オオカミはせっかく獲物を見つけたのに、
なぜかおばあさんに襲いかかりません。
もうすぐ赤ずきんがやってきます。
けれどオオカミは、おばあさんに変装して
布団へもぐりこむ素振りも見せません。
オオカミは言います。
「悪役にだって”まもりたいもの”がある」と。
ーーーーー
オオカミ
「奥さん、危険だから家から出ないでくださいよ?」
「俺が家の外へ出て、森の奥へ消えるまで。」
「流れ弾が当たっちゃいけねぇ。」
赤ずきんの祖母
『わ、わかったわ…。』
オオカミ
「街の猟師組合には知らせましたかい?」
「近くの森にオオカミが出るって。」
赤ずきんの祖母
『ええ…もうすぐ来るって…。』
オオカミ
「(ニコリ)…そうですかい。」
赤ずきんの祖母
『オオカミさんはどうして私を襲わないんだい?』
オオカミ
「ははは、俺にはもうそんな力は残ってませんよ。」
「ツメだってキバだってホラ、この通りでさぁ。」
オオカミは笑いながら両前足を差し出しました。
ツメはボロボロで、キバは根本から折れていました。
赤ずきんの祖母
『あれまぁ…これは例の病気だね。』
『それも、もう長くは…。』
オオカミ
「ええ、わかってますよ。自分の身体ですから。」
赤ずきんの祖母
『立っているのも辛いんじゃないかい?』
『なのに、どうしてそこまでしてくれるの?』
オオカミ
「悪役にだって”まもりたいもの”の1つくらいあるんですぜ!」
「最期くらい、かっこよく決めさせてくださいよ。」
コンコン、ガチャ、
赤ずきん
『おばあちゃん、身体の具合はいかが…。』
『……オ、オオカミ?!』
オオカミ
「待ってたぜ赤ずきん!お前も食ってやる!」
オオカミは赤ずきんに襲いかかりました…。
いえ、これは…?
襲いかかる…フリ?
赤ずきんは、
飛びかかるオオカミの下をするりと抜け、
家の外へ助けを呼びに行きました。
猟師
『どうした?!オオカミか?!』
ちょうど近くまで来ていた猟師組合の1人が、
赤ずきんの叫びを聞きつけました。
赤ずきんは駆けつけた猟師の1人に保護されました。
オオカミは赤ずきんを襲うのを諦めて、
森の奥へ逃げました。
猟師
『例のオオカミだ!逃がすな!』
猟師たちはオオカミを追いかけて、
森の奥へ入っていきました。
しばらくして、
森の奥から1発の銃声が響きました。
鳥たちは驚いて飛び立ち、
木々の葉が少しだけざわつきました。
森の奥から猟師たちが帰ってきました。
赤ずきん
『…お父さん……?』
駆けつけた猟師の1人は、
赤ずきんが幼い頃に別居した父親でした。
赤ずきんは泣きながら
父親へ抱きついて言いました。
赤ずきん
『ねぇお父さん…?』
『お母さんね、いつも言っているの。』
『”まだ許してもらえるかな?やり直せるかな…?”って。』
赤ずきんの父親は、
それを聞くと涙が止まらなくなりました。
赤ずきん
『お父さん…帰ってきてよ!』
『私、お母さんとお父さんと一緒に暮らしたいよ!』
こうしてオオカミ退治は、
すれ違っていた赤ずきんのお父さんとお母さんが
仲直りするきっかけになりました。
おばあさんは幸せな息子夫婦と孫に囲まれて、
幸せに暮らしました。
10年後、天界。
オオカミ
「……おや?思ったより早いですね。」
「こっちへ来るのが。」
赤ずきんの祖母
『ええ…もう少しあの子たちの幸せを見たかったわ。』
『病気だけはどうしようもないね。』
オオカミ
「まったくだ、もう少し待ってくれてもねぇ。」
赤ずきんの祖母
『その…ありがとうね、オオカミさん。』
オオカミ
「…何がです?」
赤ずきんの祖母
『10年前のこと。』
オオカミ
「そんな昔のことは忘れましたね。」
赤ずきんの祖母
『とぼけないでよ、息子夫婦の仲直りのために…。』
『私たちを引き合わせてくれたんでしょう?』
オオカミ
『ああ、”偶然”再会できてよかったですね。」
赤ずきんの祖母
『素直じゃないねぇ…。』
『痛かったでしょう?撃たれたところ。』
オオカミ
「あんなの大したことねぇですよ。」
「…家族を失う痛みに比べたらね。」
赤ずきんの祖母
『お前さん、家族を”失くした”のかい?』
オオカミ
「さぁね、オオカミは悪役ですからね。」
「オオカミと猟師ってお似合いでしょ?」
赤ずきんの祖母
『…ごめんね、イヤなことを思い出させて…。』
オオカミ
「何でもねぇですよ、昔の話です。」
「俺は最期に”まもりたいもの”を守れて十分幸せでしたよ。」
赤ずきんの祖母
『ずいぶん優しい悪役だねぇ。』
オオカミ
「悪役なりの美学があるんすよ。」
「悪役にだって”まもりたいもの”の1つくらいあるんです。」
「”幸せそうな家族”っていう…ね。」
ーーーーーENDーーーーー
遠い国の、深い森の入口に、
優しいおばあさんが住んでいた家があります。
その家の庭に、2つのお墓があります。
1つはおばあさんの。
もう1つには誰が眠っているんでしょうね。
わかりませんが、
お墓には今でもたまにブドウ酒と、
一輪の花が供えられているんですって。
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⇒他作品
『まぼろしの舞踏会』全4話
『片翼の人形が救われた日』全4話
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