2024年01月19日
【短編小説】『まぼろしの舞踏会』1
<登場人物>
◎エレノア
後世「灰かぶり姫」と呼ばれる少女
継母や義姉にこき使われながらも、
優しさと誠実さで街の人々からの信望が厚い
◎セラフィス
エレノアが住む国の王子
穏やかで親しみやすく、市民とも気さくに会話できる
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【第1話:抜け落ちた記憶】
後世で「シンデレラ」として語り継がれる物語。
不遇な少女が王子さまの寵愛を受け、
困難に耐えた末の成功譚として描かれます。
華々しいドレスや舞踏会に目が行きがちですが、
私には確かめたいことが1つあります。
シンデレラにとって、
”本当の幸せ”とは何だったのでしょうか?
白い小鳥たちからドレスや金の靴をもらえたこと?
王子さまと結婚できたこと?
彼女の気持ちに触れてみましょう。
少し、時をさかのぼりますね。
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街の婦人
『エレノアちゃん?あの子は本当に優しい子だよ。』
『けど、泣きたいはずなのに顔に出さないんだ。』
『いつも心配になるんだよ…。』
街の靴職人
『エレノアは素晴らしい子だよ。』
『お母さんを亡くしてから、本当に苦労して…。』
『なのにいつも笑顔で、俺たちにも優しくてな。』
『街の連中は、あの子に生きる活力をもらっているよ。』
街の少女
『エレノアお姉ちゃん?』
『優しくて、お仕事の合間に遊んでくれるんだ!』
『けどね、いつもボロボロの服を着ているの…。』
『あんなにきれいなのに、もったいないよね…。』
セラフィス
『ううむ……。』
『これだけ街の人々に好かれるエレノアという女性…。』
『ぜひ1度お会いしてみたい、身分など関係ない。』
『何か手はないものか…?』
ここはとある片田舎の、小さな街。
この国の王子・セラフィスは人格者として知られています。
彼は『市民の暮らしを知ってこその為政者』
という信念のもと、定期的に街を視察していました。
セラフィス王子は身分で人を差別しません。
おかげで、街の人々と気さくに話せる間柄でした。
そして、王子は街で評判のエレノアという女性に、
いつしか想いを巡らせていました。
そんな王子の想いなど露知らず、
エレノアは継母と義姉たちに虐げられる毎日を送っていました。
後世で「灰かぶり」と呼ばれるほど
みすぼらしい服を着て、朝から晩まで働かされました。
それでもエレノアの美しさと内面の良さは、
身なりでは覆い切れなかったのでしょう。
街の人々のあたたかい言葉が、その証拠です。
彼らの支えのおかげで、
エレノアは辛い毎日に耐えていられたのです。
ーー
そんな折、
エレノア
「王宮の舞踏会…?」
王宮から、街のすべての女性宛てに
舞踏会の招待状が届きました。
もちろん身分は不問です。
継母や義姉たちは、
喜んでお化粧やドレス選びに勤しんでいました。
今回の舞踏会は、
人格者として名高いセラフィス王子の
花嫁候補探しでもあったからです。
『何としてでも娘のどちらかを王宮へ入れたい』
『王族となって裕福な暮らしを保障されたい』
継母や義姉のそんな欲望を叶えるべく、
エレノアはさらにこき使われました。
継母たちの手伝いに疲弊しながらも、
おそらくエレノアだけが違和感を抱いていました。
それは、
エレノア
「この街に王宮なんてあったかな…?」
こんな片田舎に
王都を構えるような小国ではありません。
それとも、この舞踏会は
王都からわざわざ王族が訪れての開催でしょうか?
継母
『王宮?この子は何を言い出すんだい?』
『窓から見えるじゃないか。ホラ、あの丘の上だよ。』
継母は呆れた顔で窓の外を指差しました。
エレノアが窓から外を見ると、
確かに丘の上に王宮がありました。
エレノア
「見慣れているような、初めて見たような?」
エレノアには現実感がありませんでした。
何だか、ある時までの記憶が
すっぽりと抜け落ちているようでした。
エレノア
(お義母さまもお義姉さまも不思議に思っていないの?)
(私、お母さまを亡くしてから悲しみ過ぎたから…。)
(私だけがおかしくなっちゃったのかな…?)
継母
『エレノア!何をボーっとしているの?!』
『早く掃除を終わらせて、こっちを手伝いなさい!』
エレノア
「は、はいお義母さま!ごめんなさい!」
エレノアと、彼女以外の人々の記憶の食い違い。
その正体を考えるヒマも与えられないまま、
エレノアの過酷な日々が過ぎていきました。
⇒【第2話:2つの魔法】へ続く
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