2024年01月20日
【短編小説】『まぼろしの舞踏会』2
⇒【第1話:抜け落ちた記憶】からの続き
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<登場人物>
◎エレノア
後世「灰かぶり姫」と呼ばれる少女
継母や義姉にこき使われながらも、
優しさと誠実さで街の人々からの信望が厚い
◎セラフィス
エレノアが住む国の王子
穏やかで親しみやすく、市民とも気さくに会話できる
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【第2話:2つの魔法】
ついに王宮の舞踏会の日がやってきました。
心を躍らせる継母と義姉をよそに、
エレノアは早朝から仕事に追われていました。
彼女たちの髪すきやドレスの準備をする時間までに、
普段の家事をすべて終わらせるよう命じられたからです。
エレノアは無理難題を吹っかけられながらも、
どうにか仕事を終わらせました。
ですが、継母も義姉もわかっていました。
エレノアも舞踏会へ行きたいと言い出すこと。
そして、自らの器量も人格もエレノアに敵わないこと…。
継母
(エレノアを王子さまに逢わせてはいけない。)
(この子が選ばれてしまう…!)
エレノア
「お義母さま、私も舞踏会へ…。」
継母
『エレノア!今までサボっていたのかい?』
『まだこんなに仕事が残っているじゃないの!』
継母はエレノアの言葉をさえぎり、
部屋の暖炉を指差しました。
暖炉の灰の中には、
今週の夕食用に仕込んだはずのマメたちと、
エレノアの外出用の服と靴が投げ込まれていました。
継母
『舞踏会へ行くなら、あれを片付けてからにしなさい。』
『そんなに汚い服で行けるなら、だけど。』
継母はそう吐き捨てると、
義姉たちを連れて、いそいそと王宮へ向かいました。
エレノアは言葉を失いました。
とても舞踏会が始まるまでに片付けられる量ではありません。
たとえマメ拾いが終わっても、
灰まみれの服と靴では、門番が通してくれないでしょう。
エレノアは涙をこらえながら灰をかき分け、
仕事を終わらせました。
もう舞踏会が始まる時間になっていました。
ーー
エレノア
「もうダメ…間に合わない……!」
絶望したエレノアは、
家の裏手にある母親の墓前で泣きました。
エレノア
「お母さま…私…前を向いて生きてきました…。」
「けど、もう限界みたいです…。」
彼女が抱きしめた灰まみれの服と靴に、
涙が次々に落ちました。
涙は茜色の空に照らされて、キラキラ輝きました。
エレノア
「…小鳥さん…今日も来てくれたの…?」
「今日は私にとまっちゃダメよ?」
「灰まみれになっちゃう。」
母のお墓の後ろに、1本の木がありました。
その木には、よく白い小鳥たちが来てくれました。
白い小鳥たちはエレノアを仲間と思ったのか、
よく彼女の肩や腕にとまるようになっていました。
??
『やれやれ…こんな時まで他者の心配ですか?』
『あなたは底抜けにお人好しですね。』
エレノア
「…?!誰の声…?」
周りを見渡しても、誰もいません。
エレノア
「天のお迎えですか…?」
「ちょうどいいです、私はそろそろ…。」
??
『そう早まりなさんな。ここですよ、ここ。』
なんと!
声の主はエレノアの肩にとまった白い小鳥でした。
エレノア
「小鳥さんがしゃべって…?」
白い小鳥
『驚かせてしまいましたね。』
『さすがに見てられなくて正体を明かしました。』
エレノア
「小鳥さんの正体?」
白い小鳥
『はい、私はとある魔女さまの使いです。』
『あなたをずっと見守ってきました。』
エレノア
「私を?」
白い小鳥
『エレノアさん、ずいぶん辛い生活を送ってきましたね。』
エレノア
「あはは…私、辛いのかな…?」
「もうわかんないや。」
ポタ、ポタ、
エレノア
「あ、あれ?おかしいな、悲しくなんかないのに…。」
白い小鳥
『魔女さまが言っていましたよ。』
『”お前さん、曲がっていないんだね”と。』
『あなたは決して人を悪く言ったり、運命を呪ったりしなかった。』
エレノア
「そう、かな…。」
「私、お母さまがいなくなってから必死で…。」
「何も考えられなくて…。」
白い小鳥
『理由はともかく。』
『あなたがきれいな心の持ち主なのはわかります。』
『そこで私たちが幸せへの手助けをしたいと思いまして。』
エレノア
「幸せの?一体何を…。」
白い小鳥
『舞踏会、行きたいんでしょう?』
エレノア
「行きたいけど、こんな格好じゃ…。」
白い小鳥
『魔女さまの魔法で、行けるようにして差し上げます。』
白い小鳥はそう言うと、
どこからともなく美しいドレスと金の靴を出しました。
灰まみれだったエレノアの姿も、
いつの間にかきれいになっていました。
エレノア
「あ……。」
白い小鳥
『さぁ着てください。』
ドレスも金の靴も、エレノアの身体にぴったり合いました。
エレノア
「こんなに良くしてくれて、本当にいいの?」
白い小鳥
『今さらですよ。』
『街の人たちもあなたの幸せを望んでいます。』
エレノア
「街のみんなが?それなら嬉しいな…。」
白い小鳥
『ただし2つ注意してください。』
エレノア
「2つ?」
白い小鳥
『魔女さまといえど、魔力は無限ではありません。』
『1つ目、衣装の魔法の効果は今日の24時までです。』
『2つ目、魔法そのものの効果は”本当の幸せに気づくまで”です。』
エレノア
「衣装は24時までなのはわかるけど…。」
「”魔法そのもの”ってどういうこと?」
白い小鳥
『2つ目は急がなくていいです。』
『そのうちわかりますから。』
『答えはすでに”あなたの中にある”かもしれませんね。』
エレノア
「そのうちわかる?私の中に?」
白い小鳥
『のんびりしている場合じゃありませんよ?』
『あちらに馬車も用意したので、早く王宮へ向かってください。』
エレノア
「うん。小鳥さん、魔女さん、本当にありがとう。」
こうして灰かぶりのエレノアは、
魔女と白い小鳥の助けで舞踏会へ行けるようになりました。
それにしても意味深な魔法ですね。
”本当の幸せに気づくまで”とは、
いったいどういうことでしょう?
⇒【第3話:解けた鎖】へ続く
この記事へのトラックバックURL
https://fanblogs.jp/tb/12389054
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。
この記事へのトラックバック