2024年01月21日
【短編小説】『まぼろしの舞踏会』3
⇒【第2話:2つの魔法】からの続き
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<登場人物>
◎エレノア
後世「灰かぶり姫」と呼ばれる少女
継母や義姉にこき使われながらも、
優しさと誠実さで街の人々からの信望が厚い
◎セラフィス
エレノアが住む国の王子
穏やかで親しみやすく、市民とも気さくに会話できる
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【第3話:解けた鎖】
王宮では華やかな舞踏会が始まっていました。
セラフィス王子はもちろん、
美しい女性たちの憧れを一身に受けていました。
王子は幾人もの女性と踊りました。
エレノアの義姉のように外見は美しく、内面はそうでない人。
外見も内面も美しい人。
魅力的な女性はたくさんいましたが、
王子は思いました。
セラフィス
(この方もエレノアさんではない…。)
(何か理由があって来られないのだろうか…?)
その時、舞踏会場へ
1人の女性が遅れてやって来ました。
これまで見たこともないような美しさです。
見た目以上に、彼女から内面の美しさがあふれ出ていました。
継母も義姉たちも、
彼女がエレノアだと気づきませんでした。
継母と義姉たちには、外面しか見る目がなかったからです。
ですが王子は彼女を見つけた瞬間、思いました。
あの方がエレノアさんに違いない、と。
セラフィス
『私と踊っていただけますか?』
エレノア
「わ、私ですか…?」
エレノアは驚きました。
まさか王子さまに声をかけてもらえるなんて
思っていませんでした。
それでも、王子さまから誠実な人柄が伝わってきて、
エレノアは心を惹かれました。
エレノア
「はい…喜んで!」
こうして
エレノアと王子さまは楽しいひと時を過ごしました。
ーー
セラフィス
『私はセラフィスと申します。あなたのお名前は?』
エレノア
「私はエレノアと申します。」
セラフィス
『やはり…!ついに見つけました!』
『街であなたの評判を聞いて、ぜひお会いしたいと思っていたんです。』
エレノア
「わ、私なんかに…?光栄ですわ…。」
セラフィス
『後日、ぜひまたお会いしたい。』
『この街にお住まいなのですか?』
王子がそう尋ねた時、
ゴーン、ゴーン、
王宮の時計が23時55分の鐘を鳴らしました。
エレノア
「いけない!(魔法が切れちゃう!)」
セラフィス
『エレノアさん…?急に慌ててどうしたんです?!』
エレノア
「王子さま、申し訳ございません!」
「私、帰らなきゃ!」
エレノアは王子さまの問いに答える間もなく、
王宮を去ってしまいました。
彼女が履いていた金の靴の片方を残して。
ーーーーー
それから、王子は
街の定期視察のたびにエレノアを探しました。
街の人々は、灰をかぶった姿のエレノアしか
見たことがありませんでした。
そのため誰に尋ねてもエレノアの家を答えられません。
手がかりは彼女が落としていった金の靴だけでした。
数ヶ月後、街中を探し回った王子は、
ついに街外れの屋敷を訪れました。
エレノアと継母、義姉たちの屋敷です。
継母はエレノアのことを隠そうとしましたが、
セラフィス
『あなたのお嬢様は2人とも、金の靴を履けなかった。』
『そしてこの家にはもう1人、女性がいますよね?』
普段から街の人々の暮らしをよく見ている王子は、
この家が3人暮らしでないことを見抜きました。
王子は渋る継母を振り切り、
ついにエレノアと再会しました。
エレノアは舞踏会の時とは似ても似つかない、
ボロボロの身なりでしたが、
セラフィス
『やっと会えましたね…!』
金の靴がエレノアにぴったりだったことに驚いたのは、
むしろ継母と義姉たちでした。
セラフィス
『あの日から、ずっとお慕いしていました。』
『どうか私と結婚を見据えてお付き合いしていただけませんか?』
国中の女性が憧れる王子さまからの求婚です。
喜んでお受けする…はずが、
エレノア
「とても嬉しく思います…。」
「ですが私など、あなたの隣に立てるような者ではありません。」
「王子さまをお支えできるような者では…。」
なんと、エレノアは
王子からの求婚を断ってしまったのです!
エレノアは自分が幸せになることを、
自分自身が許していませんでした。
長年、虐げられたことで自己評価が下がり、
こんな自分が幸せになってはいけないと
思い込んでしまったのです。
王子はエレノアの境遇と心中を察し、
断りの理由を尋ねませんでした。
それどころか、
エレノアの奥ゆかしさにますます惹かれました。
セラフィス
『エレノアさん、お会いできて嬉しかったです。』
『今日は失礼しますが、私はあなたを諦めたくありません。』
『あなたに振り向いてもらえるよう、努める所存です。』
エレノア
(なんて潔いお方…。)
(私やっぱり王子さまが好き。だけど……。)
セラフィス
『ああ、それと奥様、お義姉さま方。』
継母
『?!』
セラフィス
『今まで随分とエレノアさんを”おもてなし”されたようですが。』
『今後は控えていただけますように。それでは。』
王子は、嫉妬に狂った継母や義姉たちが
エレノアに何をするかを察知していました。
釘を刺された継母たちは、
その日からエレノアへの仕打ちを
和らげるしかありませんでした。
ーー
その後もセラフィス王子は、
街の視察のたびにエレノアを訪ねてきました。
初めは固辞していたエレノアも、
だんだんと王子の熱意に押されていきました。
エレノアは王子への好意と同じくらいに、
彼といると”自分を縛っている鎖”を
解かれる心地よさを覚えました。
そして数ヶ月後、
ついにエレノアは王子との結婚を決意しました。
ある日、王宮からお迎えの馬車がやってきました。
エレノア
「王子さま、1つだけわがままを聞いてくださいますか?」
セラフィス
『何なりと。』
エレノア
『お義母さまとお義姉さまを、お許しください。」
セラフィス
『…どうしてですか?』
エレノア
「お義母さま方は、確かに私に優しくありませんでした。」
「ですが、そのことで何か罰を与えられるのは違います。」
「もし報復をお考えであれば、思いとどまっていただきたいのです。」
セラフィス
(何と優しいお方だろう…。)
(この方こそ、私が生涯愛する人。)
『…わかりました。』
『彼女たちにはこのまま、ひっそり暮らしてもらいましょう。』
エレノア
「…寛大なお心遣い、ありがとう…ございます…。」
エレノアはお迎えの馬車へ乗り込むまで、
涙をこらえました。
遠ざかっていく馬車を、
継母たちは憎々しい表情で見送ることしかできませんでした。
エレノアは愛する人と一緒になれましたが、
彼女にかけられた2つ目の魔法は解けていませんでした。
白い小鳥が言っていた
「本当の幸せに気づくまで続く魔法」が。
⇒【第4話(最終話):幸せを見つけるココロ】へ続く
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