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2024年02月15日

【短編小説】『国教「頑張れ教」』3

【MMD】Novel Ganbare KYO SamuneSmall1.png
【MMD】Novel Ganbare KYO CharacterSmall1.png

【第2話:理由のない涙】からの続き

<登場人物>
皆川 泉恵織(みながわ いえり)
 主人公、23歳

新道 友暖(しんどう ゆの)
 泉恵織の会社の先輩、25歳
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



【第3話:Karoshiの悪魔】



泉恵織が父親から「仕事が辛いのは甘えだ」
𠮟責されてから半年が経ちました。

同僚
『皆川、すごいじゃないか!』
『1年でここまで仕事ができるようになるなんて。』


泉恵織
「あはは…休んだ人の仕事もやってたら…。」
「いつの間にか覚えちゃいました…。」


同僚
『そうか、皆川がいれば業務に穴が空いても大丈夫だな。』
『これからもその調子で”がんばって”くれよ?』


泉恵織
「…はい。」


同僚に褒められる泉恵織を、
友暖は心配そうに見ていました。

彼女の目に光がなく、
覇気が感じられなくなっていたからです。

友暖
(さすがに見てられない…!)
(このままじゃ、昔の私と同じようになっちゃう…。)
『ねぇ泉恵織、ちょっと…。』


友暖は泉恵織に声をかけようとしましたが、
一足早く上司が彼女に話しかけました。

上司
『皆川、少しはできるようになったな。』
『半年前のミスも取り返したし、1年目としてはまあまあだ。』


泉恵織
「あ、ありがとうござい…ます。」


上司
『だが細かいミスが多いぞ。』
『特に数字の間違いは取引先にも迷惑をかける。』


泉恵織
「すみません…。」


上司
『もっと良い仕事ができるようにがんばれ。』
『数字が苦手なら、がんばって克服しておくように。』


泉恵織
「は、はい……。」


友暖
『……。』




その日の午後、別部署にて。

同僚
『皆川さん大丈夫?』
『ちょっと瘦せたんじゃない?ご飯食べてる?』


泉恵織
「…大丈夫です…。」


同僚
『今日も辞めた人の穴埋めでしょ?』
『いくらできるからって、2年目の社員に代行させるなんて…。』


泉恵織
「いいんです、もっとがんばらなきゃ…。」


友暖
『あんた1人でそんなに抱えなくていいんだよ?』
『手が空いてる人に頼りな?』


泉恵織
「友暖さんには、もうたくさん頼ってますから…。」


友暖
『そんなんじゃいつか倒れるよ?』


泉恵織
「あ、あはは、大丈夫ですよ。」
「私、がんばりますから。」



ーー


さらに翌週。

上司
『皆川、新しい仕事だ。』


泉恵織
「顧客リスト?」


上司
『ああ、来週から営業担当に同行してもらう。』
『顧客のニーズに直接触れることも大事だ。』


泉恵織
「わかりました。今の業務は…?」


上司
『引き続き頼む。皆川ならがんばればできるだろう。』


泉恵織
「がんばれば…。」


上司
『ちなみに、どこも重要な取引先だ。』
『今までやらせてきた細客の事務処理とは違う。』
『気を抜かず、もっとがんばるように。』


泉恵織
「がんばり…ます…。」


それから、泉恵織は日中は営業担当との外回り、
帰社したら書類作りやメール対応に追われました。

加えて今までの業務もあり、
終電ですら帰れない日々が続きました。


友暖
『まだ帰らないの?』


泉恵織
「もう少しかかります…。」


友暖
『いったい何社受け持ってるの?』
『顧客リスト見せて。』


泉恵織
「はい…。」


友暖
『ちょっと…何この数…?!』
『こんなの終わるわけないでしょ?』


泉恵織
「上司が私に期待してくれて…。」
「がんばれって言ってくれますから…。」


友暖
『それも大事だけど…もう少し自分を労わりな?』
『今日は私も残るから、手に持ってる分こっちにちょうだい。』


泉恵織
「そんな、悪いですよ。」
「せっかく定時に帰れるのに付き合わせるなんて…。」


友暖
『辛そうなあんたを見てられないの!』
『黙って手伝われなさい!』


泉恵織
「辛くない、辛くないですよ…。」



ーー


<23時過ぎ、会社の入口>

友暖
『私はこっちだけど、帰り道ほんッッとに気をつけてよ?』


泉恵織
「友暖さん…ありがとうございます…。」


友暖はフラフラの泉恵織を見て、
イヤな予感がしました。

「Karoshi」

かつて自分の肩を叩いた悪魔が、
今度は泉恵織を狙っていることに気づいたからです。




深夜の駅のホーム。

アナウンス
『間もなく2番線に電車が到着いたします。』
『白線の後ろまでお下がりください。』


泉恵織
(明日も、あさっても、しあさっても会社に…。)


フラ、フラ、

もうろうとする泉恵織の頭の中を、
いろんな声が飛び交いました。


(モウ辞メタイ…会社行キタクナイ…)


(…ダメよ泉恵織、そんな甘えたこと言っちゃ…。)


『もっとがんばれ。』
『このくらいで根を上げるのかー?』
『上司の期待に応えないとクビだぞー?』



(辛イヨ…逃ゲタイヨ…。)



『逃げる?1年ちょっとで?』
『そんなんじゃ社会人失格だなぁ。』
『周りはもっとがんばってるのにさぁ。』


(だよね…お父さんも「逃げるな」って言ってたし…。)


(助ケテ…泣キタイヨ…。)


(ダメだってば…!)
(もっとがんばらないとそんな資格は…。)



『だろ?キミはがんばりが足りないんだよ。』
『もっと苦労してるヤツなんてゴマンといるのに。』
『みんながんばってるのに申し訳ないと思わない?』


(申し訳ないと…思う。)
(みんな苦しいのに、私だけ怠けるなんて…。)



(明日、会社ニ行カナクテイイナラ…。)


(ダメよ…私が休んだらみんなに迷惑がかかるの。)
(でも…それが本当なら…どうやって?)



『お、揺らいでるね。』
『がんばれないヤツなんてその程度か。』
『まぁいいよ、簡単な方法を教えてやるよ。』




『ここから一歩踏み出すだけさ。簡単だろ?』



暗い線路の向こうに、
電車のランプが見えてきました。

(そんな簡単なことで…。)


(モウイヤ…苦シイ…逃ゲタイ…。)



『(ニヤリ)…ほら、おいでよ。』


(会社に行かなくていい…一歩、踏み出せば…!)

プツン

……。



ホームへ入る電車が夜風を切り裂きました。

誰かに身体をわしづかみにされる感覚で、
泉恵織は我に返りました。


友暖
『…間に合った…!』


泉恵織
「ゆ、友暖さん…?どうしてここに?」


フッ

青ざめた友暖の姿を最後に、
泉恵織は意識を失いました…。


ーー


泉恵織
「……ここは…?」


友暖
『…起きたか。病院よ。』


泉恵織が目覚めたのは、病室のベッドの上でした。
窓から朝日が差し込んでいました。

あの後、友暖が救急車を呼び、
今まで付き添ってくれたのです。

泉恵織
「友暖さん…?私、どうして病院に…?」


頭がうまく動きませんが、
何者かの『がんばれ』という声は消えていました。

友暖
『昨夜、駅のホームで倒れたのを覚えてない?』


友暖は事の顛末を泉恵織に話しました。

泉恵織
「友暖さん…助けてくれて本当にありがとうございます!」
「…クマが…ずっと付き添ってくれたんですよね?」


友暖
『まぁね、ちょっとだけ眠い。』


泉恵織
「どうしてあそこにいたんですか?」
「帰り道と逆のホームですよね?」


友暖
『あなたが今夜あたり”やらかす”だろうなって思ったの。』
『止められてよかったわ。』


泉恵織
「やらかしました…誰かの”声”が聞こえて、つい。」


友暖
『声?』


泉恵織
「子どもの頃から、誰かが頭の中でささやいてくるんです。」
「”がんばれ、人生詰むぞ、みんながんばってるのに”って。」


友暖
『…やっぱりね。』


泉恵織
「信じてくれるんですか?」


友暖
『もちろんよ。昔の私もそうだったから。』
『それが”頑張れ教”の恐ろしい教義。』


泉恵織
「”頑張れ教”?」


友暖
『この国って、いろんな宗教のイベントを楽しむでしょ?』
『一見、無宗教で自由だけど違う。』
『実はほとんど”頑張れ教”の信者よ。』


泉恵織
「…身に覚えがあり過ぎて、怖いです。」


友暖
『息苦しいよね…。』
『がんばらないと”怠け者”とか”甘え”とか言われて。』
『がんばり過ぎて潰れたら”自己責任”で片付けられてさ…。』


泉恵織
「半年前、お父さんに助けを求めたんです。」
「その時に同じことを言われて…。」
「あぁ、誰も助けてくれないんだって思って。」


友暖
『辛かったね…退路を絶たれたってわけか。』
『この国は、最後の砦の親さえ”頑張れ教”に浸されてる…。』
『私、もっと強引に泉恵織を止めればよかったって後悔してるの。』


泉恵織
「後悔なんて要りません!」
「友暖さんは命の恩人です!」


友暖
『…ありがと。』
『泉恵織が助かって、むしろ私が救われたわ。』


泉恵織
「そういえば、昔の友暖さんも私みたいだったって…。」


友暖
『まぁね、だからあなたの異変に気づけたのかもね。』


いつもゆるく、ほどよく過ごしている友暖。

そんな彼女がかつて”頑張れ教”に浸され、
命の危機に瀕していたというのです。



【第4話(最終話):がんばらない勇気】へ続く

⇒この小説のPV

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自閉傾向の強い広汎性発達障害。鬱病から再起後、低収入セミリタイア生活をしながら好きなスポーツと創作活動に没頭中。バスケ・草野球・ブログ/小説執筆・MMD動画制作・Vroidstudioオリキャラデザインに熱中。左利き。 →YouTubeチャンネル
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