2014年12月07日
「盛り塩」は牛のエサだって本当?
日本人の文化に密接な「塩」。生きるために必要なのはもちろん、土俵入りやお葬式の清めなど儀式に使われる機会が多いのは、神聖なものと考えられていたにほかならない。
飲食店の店先の「盛り塩」も清めかと思っているひとが多いだろうが、じつは牛のエサ。塩が大好物の牛を足止めし、お客を呼び込むための工夫だったのだ。
■「盛り塩」で皇帝を呼び寄せる?
給料を意味するサラリーの語源がsalt(塩)といわれるように、昔から塩は重要なものとして扱われてきた。日本では、
・塩 … 海の幸
・米 … 陸の幸
・酒 … 穀霊
のシンボルであり、供え物に使われているのを誰もが一度は見たことがあるだろう。祝儀のさいに塩を盛った升(ます)酒がふるまわれる「なめ塩」や、病人の回復を祈るお見舞いに使われる「見せ塩」なども、塩は神聖なもので、人間に活力を与えると信じられていたからだ。
飲食店の軒先で、小さい皿に塩が盛られた「盛り塩」を見かけたことがあるだろう。これも清めの意味を持つのは確かだが、ルーツをたどると商売のためで、牛車を止めるための牛のエサなのだ。
ことの始まりは秦の始皇帝が建てた大宮殿・阿房宮(あぼうきゅう)で、ここに3千人もの美女を住まわせ、夜な夜な「夜ばい」に出かけていた。美女たちにとって皇帝のちょう愛を受けるのは大変名誉で喜ばしいことだったが、もし順番制だったとしても最長8年ほど待たなければならないので、どうにかして呼び寄せようと工夫がなされたに違いない。
そのひとつが軒先の盛り塩で、牛の好物である塩で皇帝の乗る牛車を足止めする、文字通りのエサだったのだ。
■1日70gの塩分が必要!
本当に塩で呼び寄せられるのか? これは牛に限らずYesで、カリウムの多い植物を大量に食べる草食動物は、塩欠乏になりやすい。そのため塩が大好物の動物が多いのだ。
動物のからだにはナトリウムとカリウムが含まれ、どちらか一方が増えるとバランスを保とうとする。草食動物はエサに多量のカリウムが含まれているため、塩分であるナトリウムが必要以上に排出されてしまい、塩欠乏症になりやすい。
牛が塩欠乏症になると、
・食欲減退、体重減少
・乳が出なくなる
・水を飲まなくなる
などが起き、不足気味になるとほかの牛の汗をなめたり、土を食べるなどして補おうとする。そのため成長期の牛には、エサの約0.2%相当の塩が必要なのだ。とくに乳牛は、乳に約0.06%のナトリウムが必要なため、0.25%ほどに増量される。
馬や羊も同様で、1日の目安として、
・牛 … 70g
・馬 … 40〜60g
・山羊 … 20g
・羊 … 15g
もの塩が必要なのだ。
日本にも似たような話があり、殿様を乗せた牛を呼び寄せるはなしが「塩俗問答集」に納められている。現代では街なかで牛を見かけることはなくなったが、盛り塩=商売繁盛祈願として名残をとどめているようだ。
・牛を代表とする草食動物は、塩が大好物
・「盛り塩」の始まりは、牛のエサ
・牛車を足止めして、客を呼び込むのがねらい
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