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シューマッハー氏やオシム氏を救った「脳低温療法」とは? 長嶋茂雄氏も快復できた可能性

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昨年12月にスキー事故で重傷を負い、こん睡状態が続いていた元F1ドライバーのミハエル・シューマッハ氏が、事故から約半年たつ最近、こん睡から目覚めたと報じられた。シューマッハ氏は「人工的に低体温の状態に置かれていた」とされる。これは脳低温療法と呼ばれ、かつてのサッカー日本代表監督だったイビチャ・オシム氏も、2007年に脳こうそくで倒れながら、この療法で復活を果たした。窮地に陥った人を救う「脳低温療法」とは、どういうものなのだろうか?

人が死地から蘇るドラマは、いつも感動的だ。シューマッハ氏がこん睡から目覚めたとの情報は、多くの人の心を揺さぶった。また、オシム元監督の復活も「奇跡」と称された。脳低温療法とは、脳が傷害を受けた際、脳を守り蘇らせるため、33度前後まで冷やす治療法のことを指す。日本では1990年代の初めから、広くこの治療法が実施されているそうだ。

どういう症状に効果があるのか?というと、心肺停止蘇生後、脳こうそく、脳出血(クモ膜下出血)のほか、交通事故での頭部の大けがなどが対象だ。突然こうした事態に見舞われながら、現代の薬や手術では脳に大きな障害が残る可能性がある時、脳の障害の進行を食い止める効果が期待される。ただ、この療法は、多くの場合は脳が傷ついてから6時間以内に開始する必要がある。スピードが命だ。

脳低温療法はどのようにして行われるのだろうか。医学博士の片岡喜由さんの著書「脳低温療法」(岩波書店)によると、まず患者を裸にして麻酔をかけることから始まる。

そのために気管内挿管、人工呼吸器、麻酔器がセットされる。そして冷却のためのブランケットを胴体に巻く。このブランケット内では冷水が循環しており、これが体温を下げていく。

通常、体温を下げると、人体は震えが起きる。武者震いのように、全身のいたるところでリズミカルに骨格筋が収縮する。これは、冷えに対抗するために、筋肉が収縮を起こして熱を生み出そうとする反射的な動きだという。

これを抑えるため、麻酔で震えを止めるのだそうだ。冷えが十分でない時は、アルコールを浸したガーゼを直接、体の表面に置いて、扇風機を吹き付けるという原始的な方法も取られる。

患者は、脳から流れてくる血液の温度を測るため、静脈にセンサーを差し込まれる。このほか、心電図や心肺機能モニター、脳波など、重装備に覆われることになる。どれくらいの期間、低体温を続けるかについては、明確な基準はなく、ケースバイケースで判断されるという。

オシム氏の場合は、それほど期間は長くなかった。ウェブサイト「脳梗塞ネット」によると、オシム氏は2007年11月に自宅で突然倒れ、一時は「厳しい状況、命をとりとめてほしい」(川淵三郎 日本サッカー協会名誉会長)と発表された。しかし、「病院に搬送されてから約10日間にわたって受けた脳低温療法によって脳浮腫が防止され、意識障害や記憶障害など重度の障害を免れた」。

その後は、記憶も思考もほぼ完全に回復。20年前のユーゴスラビア時代、サラエボで開かれた欧州選手権予選の試合展開やスコア、得点者なども正確に思い出せるほどだというから、その治療効果の高さには目を見張るものがある。

ただ、過度の期待を戒める意見も聞かれる。この治療法は、効果にばらつきが多い、というのだ。救急医療の現場で脳低温療法を行った経験がある千葉県の男性医師(39)は「体力のある若い人で、心筋梗塞など脳にダメージがない状態なら、脳低温療法は効果的で、踏み切りやすい。

ただ、外傷や脳こうそくなど脳にダメージがある状態ではリスクがあり、議論が分かれるところ」と話す。オシム氏のケースはかなり上手くいった幸運な例ということか。他の専門家の間でも、「死ぬべき人を植物状態にしてしまい、家族に苦しみをもたらすこともある」という指摘もある。

これに対し、日本脳低温療法学会の林成之会長は「そういうことはない。間違っている。高い治療効果が得られることはわれわれの研究で確立している。難しいのは、脳の酸素や血糖値など高度な管理が求められるところ。多くの人が勘違いしているが、冷やせば治る、というものではない。緻密な管理が求められる」と指摘する。

その上で、「長嶋茂雄さんがこの治療を受けられなかったのは、非常に残念。オシムさんの方が症状は重かったが回復した。アメリカでは日本より進んでいて、心臓が止まったらこの療法を施さないといけない、とマニュアルで定められているほどだ。この治療法は年々成果が上がってきており、シューマッハだけでなく、これからもますます治療成果が出てくるはず」と話している。

※参考:日本脳低温療法研究会ウェブサイト





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