2020年05月17日
少女地獄
『少女地獄』とは、日本三大奇書「ドグラ・マグラ」の作者として有名な夢野久作による作品である。久作の作品の特徴としては、児童向けの作品を発表しているものの、大人向けの作品となると随所随所にエロ・グロ・ナンセンスが横溢し万華鏡のようにクルリクルリ……といったような、独特の作風をしている。カタカナと三点リーダー(…←コレ)の多様なども特徴的。
余談になるが、クトゥルフ神話で有名なハワード・フィリップス・ラヴクラフトとほぼ同年生まれで、SF作家、死後作品が評価されるなど共通点が多いだけではなく、生まれと死没の年月が近しいなど、奇妙な符号点がある(久作は1889年1月4日〜1936年3月11日。ラヴクラフトは1980年8月20日〜1937年3月15日)。
さて、今回紹介する少女地獄とは「何でもない」、「殺人リレー」、「火星の女」の三部作に分かれた短編集であるが、テーマは「少女の苦しみ」が題材になっているものの、三部作の各話には特に繋がり性はない。
夢野久作の短編集の個人的なオススメとしては「瓶詰地獄」、「医者と病人」、「死後の恋」、「押絵の軌跡」、「犬神博士(未完)」などが挙げられる。私が一番最初に夢野久作の作品に触れたのは「ドグラ・マグラ」であるが、久作の作品に慣れてから読むようにした方が無難。ちなみに作品は当たり外れが激しいように思われる。
【内容】
少女地獄の第一部である「なんでもない」とは、虚言癖を持つ姫草ユリ子が死亡したとの報せが白鷹先生から臼杵先生の元へ送られる。手紙の内容には姫草ユリ子が第三の逃亡先として潜伏していた曼陀羅先生から預かった遺書と白鷹の日記が添付されていた。
遺書の内容は「二人の先生から寵愛を受けつつも、自身を嘘吐き扱いした。曼陀羅先生には病死したように偽装工作をしてもらう」といった内容である。
白鷹はユリ子の遺書を受け取って、内容を読んでいき、曼陀羅先生にいくつかの質問を行うのであった。その内容は「どうやって自殺したのか。彼女の言う通り偽装工作を行ったのか」といったものであり、曼陀羅は「モルヒネで自殺。偽装工作を行った」と返答し、白鷹に対して、強い義憤を抱いていた模様。
白鷹はかつてある日の自分を彷彿とし、「あなたも姫草ユリ子の被害者の一人です」と言いながら、警察の方に電話をするのであったが、曼陀羅は『何か思い当たる節があるのか』逃げるような形で、白鷹病院から立ち去ることになる。
警察に一報を知らせた臼杵であるが、ユリ子が白鷹病院に看護師として働いていた時、彼女が逃亡するキッカケとなった事件に田宮特高課長が関与しているのだが、臼杵医院に働く前から新聞沙汰になるほど話題になっていた、「誘拐された謎の女の電話事件」の全科があるため、田宮は本格的に動く意向を示している。
内容は臼杵の日記内容に移行していくのであるが、ユリ子が臼杵医院を訪れたのは丁度開業直前の。その時の彼女の姿はパラソルやバスケット姿といった少し派手な格好であった。
「こちらで働かせてほしい」との意見を示す彼女であるが、開業間際で看護師の数がもっと欲しいと思ってた臼杵は面接として、幾つかユリ子の素性を問うている。
その内容をまとめるなら、「新聞で応募をみたわけではないが看板を見て来て応募。裕福な家庭で兄はビルで缶詰奉公をしており、看護師の経験がある二十歳未満の女学校を出た身の上」と述べている。
ユリ子の果敢な行動に胸打たれた臼杵の妻とそして姉は、いじらしい態度を見せる彼女を是非働かせようと訴える。もし採用されなくても女中として雇うことを姉と妻も後押している。
臼杵自身としてはユリ子の鼻筋が少し整形の手を加えれば、美人になると確信していた。臼杵の思い通り、術後を終えた彼女は、愛嬌のある顔立ちから美人といえるほどまでの美貌を手に入れ、施術を担当した臼杵自身でさえも肝をつぶすほどのものであったらしい。
そして本格的に病院で看護師として働きはじめることになるユリ子であるが、手術における補佐としての役割は完璧なものである他、病院に通院する患者の状態把握についても完全なものであった。
病院で働いている以上、患者からの真夜中の呼び出しは当然のことであるが、臼杵が開業して以来、丑三つ時の呼び出しは皆無といえるほどなかったのである。実はこれにはユリ子が密接に関係しており、薬剤の投薬や処置法などをあらかじめ行い、臼杵の負担を減らしていたのである。
彼女の病院での活躍はそれだけではなく、子供から老人を含めたほとんどの人間に好かれるものほどのものであった。感謝の意として分厚い手紙が送られるだけではなく、病院での働きぶりは臼杵を差し置いて、「ユリ子ユリ子」とねだられるほどのものである。
そんなある日、臼杵医院の元へとある届け物が届くことになる。それはユリ子の兄からの贈り物として黒羊羹が渡されたのだが、臼杵がお礼を兄に直に述べたいと発言するのに対してユリ子は「早々に帰った」との返答。
その後も贈り物は羊羹だけに限らず、酒と樽規模の奈良漬けが送られることになる。この二品は両親から送られたものであるとのことであるが、ユリ子が直々に運んできた奈良漬けに対して「三越のモノに負けない」と発言。彼女は赤面しながら退散するのだが、臼杵のこの悪意のない言葉は図星であるだけではなく、酒の方に至っては田舎臭い熨斗紙が貼られていたのであった。
臼杵はユリ子の正体を知らないため、「少ない給料でよくここまで熱心に働いてくれるな」と感心の感情さえ抱いていた。そのうち、チョロ過ぎる対応が更にユリ子を調子に乗らせたのか、「臼杵先生は白鷹先生にソックリ」だと発言。
どうやら、冗談を言う軽薄なところ似ており、臼杵は「誰に断って俺に似ているのだ」と言いつつも、ユリ子との会話が進むに従って、白鷹は臼杵の同じ同学出身であり、OBであることが判明。白鷹は臼杵のことを目にかけていたと発言し、「電話を入れてくれ」と頼み込むもユリ子の反応は非常に渋いものであった。
臼杵から見れば遠慮や謙虚な視線のように見えたが、実際はそのようないじらしい態度とは程遠く真逆なものであり、「恨めしい」に等しいものである。臼杵はユリ子の反応を媚態の一つと解釈していたため、まだこの頃は「おきゃんな娘」程度にしか思っていなかったのである。
仄暗い態度をすぐさま一変させたユリ子は、いかにも上機嫌な様子を装って白鷹に電話を掛けにいくも、電話の返送があったのは『よりにもよって白鷹が大量の患者を診察している多忙の時間』であった。
ユリ子は困った顔で「こんな時間で電話にかけるだなんて」と言いながら、電話を通じて白鷹と電話越しに対面させることになる。この時の白鷹はユリ子の言っていた通りの人物像のソレであり、臼杵が言葉を挟めることができないほどノンブレスで喋りまくるのであった。
臼杵は「丸の内クラブの庚戌会」なる医者同士の交流会に、機会があれば来るように一方的に喋り、電話を切ることになる。
通話が終わった直後、ユリ子は目敏く臼杵の前に現れ話の中身を聞き、聞えよがしに「白鷹先生好き」といいながら、ステップをしながら離れていくのである。
それから後日、臼杵が病院に出社するとユリ子は手紙を握りしめた状態でいた。どうしたのかと聞くと、先日手紙で述べていた「庚戌会」のお誘いの件であったが、仕事の都合上で来ることができないと述べるのである。
この「庚戌会」の件は一度ならず数度に渡って行われており、風邪などの理由を出しながら臼杵を交流会への出席を邪魔した。これは恐らく、一度目の庚戌会の断りの際に臼杵が「行くと思えばいつでも行ける」といった発言が、ユリ子に強い不安を覚えさせるものであり、その都度嘘を重ねる必要があったのである。
白鷹は臼杵を誘えなかったことを「すまなかった」と謝罪の意味を込めて、歌舞伎座のチケットとカステラを送るなどの自演を行っている。
ネタバレになるが、臼杵がこれまで電話で接触した白鷹なる人物はユリ子が虚構を保つために作り上げられたキャラクターであり、実際の白鷹とは異なる人物であった。
それどころか兄おろか両親さえもウソそのものであり、贈り物は彼女の給金から捻出されたものである。実際、彼女の家族は、兄は金の持ち逃げ、両親は今日食うか食えぬかホームレス当然の赤貧洗う状態ほど貧しいものであり、とてもではないが女学校を卒業できる環境だとは思えない、身の上であったのだ。
上記の事実を裏付けるように、妻は薬局で働いていたのだが、一人でいる状態のユリ子はとてもではないが、「二十歳未満とは思えないほどの年増の女性に見え、猫背の所為かミジメな身の上にしか見えなかった」と述べている。
しかし妻の言葉を信じない臼杵は、ユリ子の正体を疑う話が出る前に「白鷹の奥さんが卒倒した事件」を耳にし、丸の内クラブに行く気満々であった。
妻は嫌な予感がするから行くのはやめておけと忠告するも、臼杵は冗談か考え過ぎだろうと思い、庚戌会に参加するため準備を整えるのであった。
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