2021年11月16日
こゝろ(夏目漱石) 4
故郷へ帰宅した「私」は病床の父と将棋するなどの、緩やかな日常を送ることになるのだが、大学を卒業した現在、就職口をさがすために親から催促されて、先生に手紙を出すことになるのだが、就職に関する手紙の返事はついぞ受け取ることはなかった。
崩御の報せと乃木大将の自死が、父の精神面に何らかの影響を与えたのかもしれないが、一気に体調が悪化していくことになる。
かなり体調の崩れた父を交代で見守る中、「もう長くはないだろう」と思い、「私」はかつて先生から郵送されたかなり分厚い、手紙をパラパラと読み返すのだが、その最後の一文に記された言葉、
「この手紙があなたの手に落ちる頃には、私はもうこの世にはいないでしょう。とくに死んでいるでしょう」
の一文を見て、急いで汽車に乗り東京へ向かう中、「私」は先生がこれまで時期がこないと話せないと散々に言われていた過去と秘密を知ることになる。
……私はこの夏あなたから二、三度手紙を受け取りました。
このまま人間の中に取り残されたミイラのように存在して行こうか、それとも……その時分の私は「それとも」という言葉を心のうちで繰り返すたびにぞっとしました。駆け足で絶壁の端まで来て、急に底の見えない谷を覗き込んだ人の様に。
(中略)
このまま人間の中に取り残されたミイラのように存在して行こうか、それとも……その時分の私は「それとも」という言葉を心のうちで繰り返すたびにぞっとしました。駆け足で絶壁の端まで来て、急に底の見えない谷を覗き込んだ人の様に。
などといった出だしから、始まる。
最後の文辺りである「この手紙があなたの手に落ちる頃には、私はもうこの世にはいないでしょう」が、冒頭とどう結びつくのだろうかと読み進めていくのだが、内容を簡潔に纏めるならば、
先生は昔、田舎では裕福な家系だった。
↓
母の伝言に従い伯父は、先生を東京にやるも財産を盗んでいた。
↓
人が信用できなくなった先生は、後に奥さんとなるお嬢さんの家で下宿する事になる。
↓
疑心暗鬼になっていた先生の心が次第にほぐれ、同じように同郷から来て凝り固まった考えを持つ幼馴染「K」を連れ込み、懐柔させることにする。
↓
やがて先生の目からみた「K」とお嬢さんは、非常に仲睦まじいものに見え、嫉妬を覚えるようになる。
↓
やがて「K」もお嬢さんのことが好きだと明らかになり、先生は「精神的に向上心のないものは馬鹿だ」と常日頃からKの口癖であった言葉で、恋の感情を否定する。
↓
非難的な態度に留まらず、先生はお嬢さんの母に抜け駆けに近い形でお嬢さんを妻にする許可を得るも、Kに対する罪悪感が遅れながらやってくる。
↓
明日、Kに正直に謝罪しようと考えるも日の出を迎える前にKは自死しており、先生に対する簡単な謝罪と、下宿になった一家に対する謝罪という簡潔な遺言を見る。
↓
Kの死後、先生が毎月通っていた雑司ヶ谷に墓が作られた。
↓
先生は伯父に金をだまし取られたよりも酷い殺人の罪を犯したことにより、誰よりもあくどい人間だと自覚して、緩やかに「私」が出会った消極的な姿になっていく。
↓
母の伝言に従い伯父は、先生を東京にやるも財産を盗んでいた。
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人が信用できなくなった先生は、後に奥さんとなるお嬢さんの家で下宿する事になる。
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疑心暗鬼になっていた先生の心が次第にほぐれ、同じように同郷から来て凝り固まった考えを持つ幼馴染「K」を連れ込み、懐柔させることにする。
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やがて先生の目からみた「K」とお嬢さんは、非常に仲睦まじいものに見え、嫉妬を覚えるようになる。
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やがて「K」もお嬢さんのことが好きだと明らかになり、先生は「精神的に向上心のないものは馬鹿だ」と常日頃からKの口癖であった言葉で、恋の感情を否定する。
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非難的な態度に留まらず、先生はお嬢さんの母に抜け駆けに近い形でお嬢さんを妻にする許可を得るも、Kに対する罪悪感が遅れながらやってくる。
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明日、Kに正直に謝罪しようと考えるも日の出を迎える前にKは自死しており、先生に対する簡単な謝罪と、下宿になった一家に対する謝罪という簡潔な遺言を見る。
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Kの死後、先生が毎月通っていた雑司ヶ谷に墓が作られた。
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先生は伯父に金をだまし取られたよりも酷い殺人の罪を犯したことにより、誰よりもあくどい人間だと自覚して、緩やかに「私」が出会った消極的な姿になっていく。
というものである。
本当は直接会って、私に話をしておきたかった先生であったが、手紙という形で秘密を打ち明けている。
一種懸念として残るのは、先生は既に死んでいるのか、未遂に終わったのか……「私」と残された奥さんの関係が読者の想像にゆだねられているところであろう。
一言で述べて、先生の性格は擁護できないほどのクズであり、褒めるべき点はない。悪人というより性悪と表現した方が適切であろうが、個人的に先生は最後まで悪人であったように思われる。
しかも、手紙の一部内容にはKとお嬢さんが仲良く談笑しているだけでも、かなりの嫉妬、もとい執着心を見せている。先生が常にKに対して抱いていた劣等感も後押ししていた。
良心の呵責こそあれども、先生は卑屈な悪人であったことはどこか否定できないように思われる。
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