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2021年11月11日

こゝろ(夏目漱石)


こゝろとは夏目漱石が執筆した作品である。
新聞に掲載された作品であるが、書籍化に関しては意外にも自費出版で没後からも売れ続けている小説といえよう。
内容は語り部である「私」が、物語の中核に当たる「先生」に接触して、世の中と人間を嫌いながらも静かかつ消極的に生活していく内容を綴る中で、かつて「先生」が犯した罪の内容が明かされるといったものである。
漱石の筆が乗ったのか、不明だが「私」のもとへ送り届けられた手紙の内容は非常に分厚いモノである。
個人的に「先生」の人格及び性格はそう嫌いなものではないが、どこまでもクズであることは否定できない。


【内容】



 私はその人を常に先生と呼んでいた。
 だからここでもただ先生と書くだけで本名は打ち明けない。
 これは世間を憚る配慮というよりも、その方が私にとって自然だからである。
 私はその人の記憶を呼び起こすごとに、すぐ「先生」といいたくなる。
 筆を執っても心持ちは同じことである。
 よそよそしい頭文字などとても使う気にはならない。



冒頭の一文。
「私」が如何に先生に対して懇意であったのか分かるのと同時に、ネタバレになるが、

「私は暗い人生の影を遠慮なくあなたの頭の上に投げかけてあげます。しかし恐れてはいけません。暗いものをじっと見詰めて、その中かあなたの参考になるものをお攫みなさい」
(中略)

「あなたが無遠慮に私の腹の中から、或る生きたものを捕まえようという決心を見せたからです。私の心臓を立ち割って、温かく流れる血潮を啜ろうとしたからです」



と、最初は「若造が」と小馬鹿にしていた「先生」であるが、真面目な態度を見せる「私」に感激して、最愛の妻にでさえも打ち明けることのなかった、かつての親友Kとの秘密――先生いわく「かつて尊敬していた人物の頭に足」を乗せたくなるほどの極力どころか、極内密にしたい内容を、文章の冒頭から察するに一番受け明かしたくない妻どころか、世間に公表するという行動を取っている。

これは、若い頃騙された頃から人を見る目がなかったという先生の気質か、それとも先生の妻である「静」が亡き後に公表されたものであるのか全く不明だが、当人がいなけれ内緒にしてほしい内容を暴露した「私(主人公)」サイドにいささかの問題があるように思えて仕方ないのはどうしてだろうか。


さて、顛末の先生と私だが、最初の頃はかなりの他人行儀であった。
出会いの場所は、当時避暑地として多く利用されていた鎌倉の海辺で「私」が、「先生」と一緒にいる外国人を目撃することになる。
当時、明治という時分、外人の存在は珍しく、人目の注視から逃れたいがちな先生の態度にしては、かなり大胆なものである。

後に先生は「私」に向けて、外人は勝手について来たというようなものを述べており、外人と行動を一緒にしたのはたった一日である。果たしてこの一日で、外国人とのどのような会話などがあったのか不明であるが、双方が海辺を離れるまでの間、これまで赤の他人とは思えないほどの親し気な行動に出ている。


「私」が先生に眼鏡を拾うたった些細な会話から、海の沖まで泳ぎ合い、それから先、先生の家で食事を共にしたりするなど、かなり展開が早い。
自分と先生はどこかで出会ったことがないかと問う中、そんなことはないと返答され、「私」は「先生」の態度や言動を以下のように思い返している。


 私は若かった。
 けれどもすべての人間に対して、若い血がこう素直に働こうとは思わなかった。
 私はなぜ先生に対してだけこんな心持が起こるのか解らなかった。
 それが先生の亡くなった今日になって、初めて解って来た。
 先生は始めから私を嫌っていたのではなかったのである。
 先生が私に示した時々の素気ない挨拶や冷淡に見える動作は、
 私を遠ざけようとする不快の表現ではなかったのである。
 傷ましい先生は、自分に近づこうとする人間に、
 近づくほどの価値のないものだから止せという警告を与えたのである。
 他の懐かしみに応じない先生は、他を軽蔑する前に、
 まず自分を軽蔑していたのとみえる。



この回想は、「私」が人間嫌いの先生に最愛の妻でさえも嫌っているのかと問うたとき、話は中断されたものの、「自分を好きになる価値はない」と述べ、話を中断させいる。
物凄く簡単に述べるなら、「先生は他人よりまず自分が嫌いであった」といえるのであるが、その理由のは大きく分けて二つの理由がある。


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