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玉置浩二『スペード』五曲目「夢見る人」です。
いきなりバンジョーみたいなストロークが聴こえますが、なんなんでしょうかね?クレジットにバンジョーはないですから、ギターで似たような音を出したんでしょうか。もしくはバンジョーもギターの一種だということにして強引に「Guitars」のクレジットに含めてしまったのでしょうか。真相はいかに。
さてこの曲、三拍子でしぶーいブルース・カントリーふうバラードになっています。それなのに「何回も君のために死ぬ」という衝撃の情熱的歌詞がなんとも不思議なコンビネーションを醸し出しています。玉置さんは「今回の『スペード』みたいな感じが、本当は安全地帯でやるべきことだったな」とインタビューで語っていたわけですが、『安全地帯IX』の「二人称」とこの「夢見る人」には三拍子・きみのために死んでもOK的悲壮な歌詞という共通点を見出すことができます。
さて三拍子なんですが、よーく耳を澄ますと「1,2,3」の3のところで「カショーン!」という正体不明の音が入っています。もちろん玉置さんお得意の手作りパーカションなんだと思います。で、それがうちの再生装置の問題なのかもわかりませんが、わたくしには遠くで響く人の声に聴こえるんです。だからこの曲を流すと何回もハッとさせられて「なんだ?」と思ってしまいます。最初のうちは何だかわかりませんでしたからブキミでした。生まれ変わるとか君のために死ねるとか生死の瀬戸際な歌詞も相まって、不安にさせられることこの上ない曲でした。そしてツクツクツク……これが爪楊枝入りキットカット箱なんでしょうかね……これも正体不明な音で当時は本当になんだかわかりませんでしたから、未知の世界でしたね。バスドラとスネアはまた手で叩いているんだと思いますが、これはわかる音ですので安心です(笑)。こうして考えてみると、わたくしロックバンドの標準的な楽器をだいたい演奏できる、少なくとも出る音のことはだいたいわかっているんですが、それで音楽のことが少しでもわかっているつもりになってなっちゃいけませんねえ。「カショーン」ごときでドキドキキョロキョロしているようでは話になりません。音楽の世界はまだまだ先があると思い知らされます。
「失うものはない」から始まる細切れのことばたちが歌われます。Aメロは無欲な生き方、Bメロは無欲であるがゆえの衝突回避志向、サビは無欲で衝突はしたくないけど君を愛したいという本音が歌われるのです。なんとリアルな!君を愛するというのは他の人と君とを区別することが必然的に伴います。君も含めて全員に同じ扱いをしているけど君だけは特別に思っているよというわけにはいきません。玉置さんは軽井沢モードですっかり穏やかになり、もうすべてのものに感謝しすべてを愛する心持ちになっているわけですが、安藤さんだけは別です。当時の安藤さんには別格の感謝と愛があるのでなくてはなりません。ですから、一種の矛盾が玉置さんを苦しめます。それこそカンタンに生まれ変わりでもしない限り、この矛盾は解決されません。つまり、解決されていないんです。生まれ変わるなんてムリですから。「カンタンに」という修飾語を「生まれ変わる」という重大事に係らせるこのセンスはまさに脱帽ものですが、カンタンじゃないと困るんです。だって全面的に生まれ変わりたいわけじゃないから。玉置さんのボーカルの圧倒的な強さ・表現力でうっかり聞き流しそう、ああそうだねって軽く納得して通過しそうなくらい自然なこととして受け止めてしまいがちですけど、普通に考えたら不可能事です。そういう願いを持つという切実さだけが後からジンワリと理解されて、「カーンタンにー」と「オーかーみさまー」とを同じ節で歌い印象が強く残されるという神業の凄さに気づかされます。さらに「愛し方を教えて」と衝撃的な願い事を、「ジャッジャッ!ジャッジャッ!(カツカツカツ……)」という鋭いリズムで切り取るというスリリングにもほどのある、凄すぎて理解が追い付かない構成の作詞・歌唱・演奏・アレンジになっています。神様に愛し方を教えてなんてお願いしませんよ。気づいたら愛しちゃってるもんでしょう、神様の領域じゃないです、そんなの。頭が追い付かないまま曲はバンジョー的なイントロに戻ります。
「〜ない」「〜ない」で韻を踏んでいるというのかどうか、またしても無欲な様子が強調されます。そしてそのまま衝突を避けようとするBメロの「〜ない」、これらが矛盾するので「どうすればいい」と迷い、救いを求める様子がメロディーのパターン変化・ドドドドン!というフィルインで楔を打ってから再度サビに突入します。
カンタンに生まれ変われるのなら……いやそんなことカンタンにってわけにいかないよ!わかっているからこそ苦しいんだな……オー神様愛の事を教えて……玉置さんあんたそんなのよく知ってるでしょうに……いや、実はわかってなかった、わかっていなかったと思えるほどにいま新しい境地に差し掛かったんだな……。一番にはなかったピアノの絡み、それをなぞるエレキギターの音が、その繰り返される思いを彩ります。
そしてピアノとエレキギターによる間奏、エレキギターはソロといえるほどのメロディーを持たず「キュイーン」と苦し気に、ピアノもピアノソロといえるほどのフレーズをもたずにただただジャジーに流麗に、最後のボーカルを待つかのように間をもたせます。
そして最後のサビ、「生まれ変われるのなら」「君のために死ねるなら」……君のために死ねるなら、は使い古された、いわば倦んだことばです。普通に考えればチープです。ですが玉置さんは本気で言っているんじゃないかという凄味をもちます。これは一番ではなかったことばで、二番になってから使われたことによって、それまでの玉置さんの心境・覚悟が蓄積されてきたタイミングで発されたからこそ、「君のために死ぬ」というチープな言葉がチープでなくなります。ここまでの無欲さとそれに反する深い愛を表現するとしたらもう、そういうしかないじゃないですか!死ぬこと自体は(めちゃくちゃイヤですけど)できないことではありません。というか、人間の死亡率は100パーセントですからいずれは死ぬんですけど、「君のために」がどれほど難しいことか……交通事故に遭いそうなときに身を挺して自分が犠牲になる、ほか数パターンくらいしか思いつきませんが、そういうことを言ってるんじゃないですよね、きっと。そんなこと「何回も」だなんてわけがありません。何回もそんなことが起こるなら、もうお祓いしてもらったほうがいいです(効き目があるかは知りませんが)。カンタンに生まれ変わる以上にありえないです。だから、ありえないほど愛してるんです。海よりも深く愛する、なんてそれだけ言ってほしくないですよね。どうして海より深いなんて言えるんだ?ちゃんと説明してみろ根拠を述べろと問い詰めたくなります。それだけ、チープな言葉というのは罪が深いのです。それを見事に四分一秒の歌で説明しきったこの「夢見る人」は力作だというほかありません。そして曲はイントロに戻り、静かに終わっていきます。
さてさて、めちゃくちゃ忙しいのは先週とあまり変わりないんですが、次週はどうしても何もできないこと決定のスケジュールですから、今日頑張って更新してみました。おそらくどんな仕事にも踏ん張りどころってものがあって、いまがそれなんだと思っているわけなんですが、それにしたって酷いなこれは。どの業界にも利権というものがあって、それは不正なカネに限らず、強引に合法化された地位とヒマというものもあるわけです。わたくし政治力低くてその利権を全然持っていないもので(笑)、肩書以上の仕事を背負い込むハメになっております。しょうがないですねえ。安全地帯・玉置浩二の音楽世界に心の底からかぶれて育ってきたんですから、いまさら他人を食い物にしてそんなヌクヌクした人生送りたいわけじゃないですもん。いいねえ君たちはそういう魂まで震わせて生き方を形作っていってしまうような音楽に出会わなかったんだろうからさーと思いながら仕事しています。「逃げることはない 今日を生きて行くだけ」。文句はありまくりですけど。オー神様休み方を教えて。利権の手に入れ方を教えて。それで恥ずかしくて思わず切腹しないでいられる図太さを与えて。
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今日、雑談で『風が吹くとき』の話をなぜかしたんですが、不思議に連想されます。あんな悲惨な話じゃないのに……。
こういう曲作れたら良いです。エリック・クラプトンなんかの影響なのでしょうか。
スカイライナーは停まりませんが、最寄りが京成関屋なので、誇らしいです。