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2017年02月12日
氷れる川2(二月九日)
チェコで一番大きいと言われる湖は、ブルタバ川最上流のダム湖リプノである。オーストリアとの国境近く、シュマバの山の中にあるので気温が平地より低いのか、冬になると凍結することが多い。水流がないのも氷りやすさにつながっているのだろう。
今年のような寒さが厳しい冬には、氷の厚さが何十センチにも到達し、湖面に十キロ以上にわたる幅は6〜8メートルのスケートコースが整備される。これは、カナダにある約八キロのコースを抜いて、世界一長いスケートのコースだという。スピードスケートの国内選手権を池の氷の上でやっていた国なので、野外のスケート場を整備するのはお手の物なのだろう。
もちろん、安全には注意を払っているようで、毎日氷の厚さを計測し、氷の状態を確認し問題があるときには、部分的に、場合によっては全面通行止めにすることもあるという。気温が上がって氷が緩むと、氷の厚さが薄くなるのはもちろん、氷の表面が荒れやすくなり転倒などの危険性も高くなるので安全のために進入を禁止するらしい。もちろんそんなのは無視して、勝手にコースに入ってしまうやからはいるわけだけど。
ニュースでは、そんな連中だけのためというわけでもないのだろうが、氷が割れてしまった場合の対策についても報道されていた。水の中に落ちそうになったら、両手に持っている赤い棒の先のスパイクを凍りに突き立てて、体が沈まないように支点を確保すること、そして可能であれば、腕力を生かして水の中から這い上がること、とにかく全身が水に落ちないようにすることが大切なのだという。かつて北太平洋でのサケマス漁船を取材したドキュメントで、海に落ちたら二、三秒で気絶するから助かる見込みはないなんてことを言っていたけれども、海と湖の違いはあれ、似たような状況なのかもしれない。
リプノの湖上でスケートをしている人たちがみな、足下の氷が割れて水に落ちそうになったときの対策をしているとは思えない。だが、スケートは、整備されたコースで、氷の厚さを測るなど管理している人がいるから、まだしも安全なのである。警察なんかの監視の人もいるようだし。
危険なのは、氷りついた湖を車で移動する際のショートカットコースとして使うことである。普段は湖の周囲を迂回して対岸に向かわなければならないところを、直線で最短距離で移動できるのは理解できる。理解できるけれども、自動車という人間とは比べ物にならないほどの重量のあるものでどのぐらい厚さがあるのかもわからない氷の上を走る人の気が知れない。実際、毎年のように、リプノとは限らないが、氷った川や湖の上をショートカットしようとして、氷が割れて車ごと水没してしまうという事故が起こっている。痛ましい事故と言うべきなのだろうが、自業自得だといいたくなる気持ちも抑えられない。そこまでして急ぐ必要があるのだろうか。
いや、この手の事故は、毎年のように起こっていたというのが正しい。最近は、暖冬の影響で河川や湖沼が完全に凍結する機会が減り、車で氷の上を走れる、走れそうな機会も減っていたのか、この手のニュースを耳にする機械も減っていたような気がする。さすがに人がスケートできるかどうかも分からないような状態の氷の上は走る気にはならなかったのだろう。
二月にスウェーデンで行われる世界ラリー選手権の一戦であるスウェーデンラリーでは、名物の一つが凍結した湖上でのスペシャル・ステージだというのを、小説だったか、マンガだったかで読んだ。ある年、スウェーデンラリーが中止になった原因が、暖冬でコースに予定していた湖の氷の厚さが車両を走らせるには足りなったというものではなかったか。雪の不足も原因だったかもしれない。とにかく、雪と氷のないのはスウェーデンラリーではないということなのだろう。氷上のステージが今でも開催されているのかどうかは知らないが、寒さの厳しい今年はスウェーデンなら問題なさそうだ。ずっと南にあるチェコでも、走っている人がいるのだから。
平野部で標高も低いオロモウツでは、川の上を車で走るのは見たことがない。見たことがないからないというわけでもないが、実行した人がいたらニュースにはなるはずである。今後もそんな車が走れるぐらいまで厚い氷が張ってしまう冬などオロモウツには来ないように願って、中途半端になってしまったこの稿を終らせることにする。
2月10日15時。