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2018年04月21日

アクセントの話2(四月十八日)



 日本語のアクセントといえば、我々日本人はどこまで自覚的に使い分けられているのだろうか。自分のことを考えてみると、例えば「はし」であるが、「橋」「端」「箸」の三つの言葉のアクセントの違いを単語単独で発音し分けろと言われても、できない。いや正確には正しく発音し分けられているかどうかの自信がない。それに、発音し分けたつもりのものが同じなんじゃないかという不安もある。
 漢字を見ながら発音すれば、多少ましになるような気もするけれども、それでも確信は持てない。確信を持って正しいアクセントで発音しているというためには、文にしないとだめなのである。どうしてこういうことが断言できるかというと、昨日登場したアクセントマニアの畏友に飲み屋で散々追及されたからである。この「はし」は、「橋」か「端」かと聞かれて、わからんと答えたら、じゃあ自分で発音して見せてくれと頼まれ、単独だとぐちゃぐちゃになる区別が文脈がわかる形で発音すると、正しいかどうかはともかく区別はできていることを畏友に指摘されたのである。
 つまり、「はし」「はしを」だけだと、どの「はし」なのか文脈がはっきりしないため発音が不安定になるのに対して、「はしを渡る」「はしで食べる」「道のはし」のような形で口に出せば、ちゃんと発音し分けられているらしいのである。そこで疑問になるのが、「はしを渡す」の場合に、自分が「橋を渡す」で発音しているのか、「箸を渡す」で発音しているのかなのだが、状況を思い浮かべながら発音すれば、ちゃんと発音し分けられているというのが畏友の評価であった。

 こんなのは、日本語の場合には「雨」と「飴」、「柿」と「牡蠣」(アクセントが違うかどうか自信がないけど)など枚挙に暇がない。人の名字でも、「久保田」と「窪田」、「葛西」と「笠井」ではアクセントが違うらしいし。特に前者は、大学時代の先輩にこの名字の人がいて、発音の違いを指摘されてもなかなか修正することができなかった。人名だと文脈で区別できないから当時は仕方がなかったのである。
 その後、国語学をかじった後に、「窪田」の「窪」が、「窪地」の「窪」であることに気づいて、「窪地」の「窪」に「田」をつけるように発音することで、区別して発音できるようになり先輩からも文句を言われなくなった。「葛西」と「笠井」も、漢字の切れ目、特に「笠井」の「笠」を意識して発音することで、区別できるようになったと思う。これは畏友にも発音を聞かせていないし、あくまで個人的な印象に過ぎないのだけど。

 そして、数年前にさらに厄介なアクセントの話を教えられた。それは、「東」「西」「南」「北」である。この四つの言葉は、方角を表す場合にも使えるし、人の名字としても使われる。どちらも名詞であることには変わりはないし、漢字も同じなのに、方角と名字とではアクセントが違うというのである。それまでそんなこと一度も意識したこともなかったので、半信半疑だったのだが、その人が発音し分けてみせたのを聞いて、確かに違っていることが理解できた。
 自分の発音でも「北に行く」と「北さんが行く」というときの「北」のアクセントが違っていることが確認できた。どう違っているかはよくわからないけど違っているのは確かだった。それは、他の方角でも同じで、日本語の発音というのは簡単な陽でおくが深いのだなあと日本人でありながら思わず嘆息してしまったのだが、驚きはそこでは終わらなかった。
 この話をしてくれた方の出身は東京なのだが、実は西日本では方角と名字のアクセントが逆になると言うのだ。その境界となるのが静岡県の真ん中ぐらいで、そこから西と東とで方角と名字が完全に入れ替わるのだそうだ。一度関西の人に発音してもらったことがあると思うのだけど、そのときちゃんと聞き分けられたかどうかの記憶がない。

 九州は西に入るはずなのだけど、個人的には西側のアクセントで方角と名字を聞くと違和感を感じてしまう。これはアクセント崩壊型といわれるアクセントが原則として存在しない方言で育っているため、耳で聞いてまねして覚えたアクセントがテレビで使われる、特にNHKで使われるアクセントだったということによるはずである。東京近辺でも北関東にアクセント崩壊型の方言が存在して、そんな人たちが江戸、東京に入っていったことも、現在の標準アクセントの成立に寄与しているはずだから、九州の人間にとっては、京都、大阪の関西風アクセントよりも、関東風のアクセントの方が親和性が高いのである。
 昔、実家に帰って中学、高校時代の同級生達と話をすると、「気取った話かたしやがって」と非難されたものだが、それは語彙の問題ではなくアクセントの問題だったのだろうと今にして思う。それも田舎にしばらくいれば、もとの田舎のアクセントに戻ってとやかく言われなくなっていたから、アクセント崩壊型の方言で育った人間のアクセントは周囲の人たちのアクセントの影響を受けやすいということもいえるのかもしれない。そういえば、オストラバで仕事をしてオロモウツに戻ってくると、自分のチェコ語のアクセントがオストラバ方言みたいに聞こえるような気がして頭を抱えたこともあったなあ。

 ちなみに日本語のアクセントを視覚化してくれるものとしては、OJADというものがある。視覚化だけでなく耳でも聞けるようにしてくれるから、興味のある人は覗いてみてほしい。
2018年4月18日24時。





NHK日本語発音アクセント新辞典








posted by olomoučan at 05:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本語
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