2017年01月26日
悪夢(正月廿三日)
最近、夢見がよくない。しょっちゅう見るわけではないけど、見るときには、いや夢を覚えているときにはろくでもない夢であることが多い。いわば悪夢なのだが、悪夢という言葉から想像される生理的な恐怖を感じさせる夢ではなく、言葉を飾れば生活に密着した悪夢、率直に言えば情けない夢、具体的には寝過ごして遅刻する夢を見るのである。ひどいときには、寝過ごして所用に間に合わない夢を見る夢を見てしまう。
つい二、三日前にも、午前中に予定されていた仕事に、どうやっても間に合わないような時間に目が覚めた夢を見た。やばいと思って目が覚めればいいのだけど、この時には、夢の中で気がついたら午後になっていて、遅刻したことを忘れていて、午前中にすっぽかした相手に、どうしてくれるんだと責められてしまう夢だった。
先月だったかに、朝七時の電車でブルノに行かなければならなかったときには、夢の中でちゃんと時間通りに起きたのに、なぜかテレビをつけてしまい、テレビに見入っていたら、七時を過ぎてしまっていて、うぎゃ、どうしようと思った瞬間に目が覚めた。最悪だったのが、目が覚めてもまだ夢の中だったことで、オロモウツの駅について電車が出るはずのホームに向かうのだが、いくら歩いてもホームにたどり着かないのである。電車に乗れないことが確定した時点で今度は目が覚め、飛び起きて時計を見たら、まだ五時前だった。本当はもう少し寝たかったのだが、この夢の後ではさすがに、もう一度寝る気にはなれなかった。
昔のマンガだと、夢の中で小便をする夢を見て、朝起きたらおねしょをしていたなんてのがよく出てきたけれども、トイレ、もしくは小便できる場所を探してあちこち動き回る夢も見ることがある。やっと見つけた夢の中のトイレで小便をしてしまうこともあるが、それでおねしょをしてしまうほど若くはない。多分、この手の夢は、寝ているときにトイレに行きたくなったときに、寝ていることも無意識にわかっているから、小便をしてはいけないという意識が働いた結果、見てしまうのだろう。
そうすると、寝過ごしたり、遅刻したりする夢はどうして見てしまうのだろうか。寝過ごしてはいけないという意識が強すぎるのかもしれない。そして、寝過ごしてはいけないという意識が強すぎる原因を考えてみると、実生活の中で寝過ごしてえらい目にあったことがあるからではないかと考えられそうである。
高校時代までは親と同居していたから、早起きが必要なときは、大抵は親にたたき起こされていたから、寝過ごすということはほとんどなかったはずである。せいぜい、オリンピックやサッカーのワールドカップを見るために早起きしようとして失敗したとかそのぐらいだろう。この手の勝もない理由で親に起こしてもらうのは申し訳なくて、自力でおきようとしたはずだし。
となると、大学に入って一人暮らしを始めてからである。ちょっと思い返したら、すぐに答えに突き当たってしまった。忘れもしない大学一年の一番最初の前期の試験の日に、とはいっても授業時試験で、六月の最後の授業でのテストだったが、大寝坊をしてしまって、一限目はもちろん、二限目のテストも始まっている時間に目を覚ましたのだった。
第二外国語のドイツ語の試験はどうでもよかったけど、真面目に取り組んでいた「漢文概説」のテストが受けられなかったのは痛恨の極みであった。ショックのあまり、茫然自失である。幸いにも通年の科目だったので、後期の試験で挽回して、最終的にはBをもらえたが、前期の試験を受けていたらAがもらえたかもしれないと思うと、喜びも半分だった。前期のテストを受けていないのに合格して喜びも一入だなんていうようなタマではないのである。
この科目の試験は、B4一枚分、漢文が白文で印刷されていて、それに返り点、送り仮名などの訓点を施していくというものだった。採点方法は満点の百点からの減点法で、訓点の間違い一ヶ所につき一点ずつ引いていって、零点になった時点で採点をやめるというものだった。「みんな、三行ぐらいで零点になるんだよ、もっと勉強しなさい」なんて前期のテストの結果を受けて、後期の最初の授業で先生が言ってたっけ。合格者が確か、五十人中八人で、前期の試験をすっぽかしたのに何でお前が合格するんだと、同級生に責められた。まあ、こんなのは合格したものが勝ちなのである。
このとき以来、どうしても朝早く起きなければならない用事があるときには、目覚まし時計を三つセットして、枕元においておくと無意識に止めて寝続けてしまうので、布団から出ないと停められない場所に置くようになった。ステレオのだんだん音が大きくなるという目覚まし機能は重宝したなあ。ラベルの「ボレロ」なんか入れておくと効果は倍増だった。
それからもう一つ。大学の二年生だったか、三年生だったか、先輩に誘われてどこかの美術館で行なわれた『源氏物語』関係の展示を見に行くことになった。そんなに朝早くから出かけたわけでもないのに、時間通りに起きることができず、目覚まし三つセットしていたはずなのに、目が覚めたら無情にも、先輩が留守番電話にメッセージを吹き込み終わろうとしていた。慌てて受話器をとったものの間に合わず、慌てて着替えてそのまま待ち合わせ場所に向かったのだった。
あのころは、携帯電話なんて、自動車電話はあったから存在はしただろうけれども、一般の人間が手にできるようなものではなかったから、公衆電話を使うしかなかったのだ。それでも、電話を引いていただけましだったのだ。あれで電話がなかったら、待たせてしまった一時間ではなく、二時間以上待たせて、吹っかけられた無理難題もはるかに大きくなっていたに違いないのだから。
これが、しょうもない悪夢と、悪夢を見てしまうしょうもない理由である。もう少しひねって、きれいない落ちを付けたかったのだけど、時間もないのでこれでおしまい。
1月24日23時。
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