2016年02月09日
悲劇のストゥデーンカ――あるいは不思議の国チェコ二(二月六日)
オロモウツからオストラバに向けて電車に乗ると、オストラバ・スビノフに到着する前に、ストゥデーンカという駅に止まることがある。この歴史的なモラビアとシレジアの境界に位置する町は、ここ十年ほどの間に、鉄道事故を象徴する町になってしまった。
2008年の夏のことであったが、ストゥデーンカで重大な鉄道事故が起こったという緊急ニュースが流れた。橋が落ちて云々と言っていたので、川に架かる鉄橋が落ちる事故だったのかと思ったのだが、そうではなく、鉄道の線路を越える道路の、いわゆる跨線橋が落ちたと言うことだった。
老朽化した橋の架け替えの工事をしていたところ、橋脚の設計に問題があったのか、工事に問題があったのかはわからないが、載せ替えようとした橋の上部構造を支えきれずに落下し、たまたまその下を電車が走っていたのが悲劇の原因であるという。橋を架ける工事なんて見たこともなかったから、よそで作った車が走ったり人が歩いたりする部分を運んできて、橋脚に載せるというやり方にもびっくりしたが、その工事を電車が走っている時間帯に行っていることに、さらに驚かされた。
パネル式高速道路として悪名高いD1にも、たくさんの跨線橋が架かっており、こちらも老朽化が進んでいるため、架け替えの工事が進められているが、夜間の交通量の少ない時間帯を使って、全面通行止めにして行われているようである。たまに、工事の時間が予定よりも延びて大渋滞を引き起こすことがあるようだが、それでも安全には替えられないだろう。もしかしたら、ストゥデーンカの事故の後に工事の規則が変わったのかもしれない。
実は、この事故の前日か、前々日かにオストラバで一仕事片付けるために、このルートを往復していたのだ。工事自体はそのときも行われていたわけで、タイミングが悪ったらと考えるとぞっとするのを禁じえなかった。事故当日にはプラハで世界的に有名なロックバンドのコンサートが行われ、そのコンサートのためにプラハに向かう人が多かったのも、乗客が多く、死者はともかく、負傷者の数が増えた原因の一つであったようだ。オストラバでの仕事の際にちょっと話した人も、コンサートに行くといっていたのだが、確か前日に行ってプラハに宿泊すると言っていたはずだ。
これだけなら特に、ストゥデーンカが悲劇の町と言われることもなかったのだろうが、昨年の夏に、再び大事故が起こってしまった。今度は2008年の事故とは駅の反対側の踏切で、立ち往生した大型トラックにプラハに向かうペンドリーノが衝突するという事故だった。
一体にチェコの踏切には、遮断機がついているところは少なく、これでいいのかと思わされるところも多いのだが、事故が起こった踏み切りは遮断機もあって、これで事故が起こったら、鉄道側にはどうしようもないという場所である。実際、大型トラックを運転するポーランド人は、電車の接近を知らせる信号が点滅し遮断機が下り始めているにもかかわらず、たかだか数分という短い時間を節約するために、無理やり踏み切りに侵入し、遮断機が降りきったことでパニックになってトラックを踏切内に停めてしまったらしい。そのまま、前に進んで遮断機を押してやれば、遮断機が折れて踏切から脱出できるような構造になっているにもかかわらずである。
そこにペンドリーノが、運転士が最後の瞬間にかけた緊急ブレーキも空しく、高速で突入したのだから、惨事になるのは避けられなかった。トラックの運転席の部分ではなく、荷物が積まれている部分にぶつかったのも、そして荷物が鉄板であったのも、被害を大きくしたようだ。事故後のペンドリーノの先頭部分の破壊され具合を見ると、亡くなった方には申し訳ないが、死者の数が少なかったのは、運がよかったとか、不幸中の幸いだとしか思えない。運転士も、マニュアルどおりに、とっさに緊急ブレーキをかけた後には、緊急避難用のキャビンに駆け込むことで、最悪の事態からは、奇跡的に逃れることができたらしいし。
壊滅的な被害を受けたペンドリーノの先頭車両と二両目は、修復を諦めて、廃車処分にすることも検討されたようだが、結局は二年ぐらいかけて修復されることになった。いずれにしても、定期点検、整備に当てるために必要な七編成目が部分的に欠けることになるため、今後の運行体制に大きな負担になることは間違いない。チェコ鉄道にとっては、いい迷惑としか言いようのない事故だったのである。
この事故現場の踏切では以前から、信号や遮断機を無視して侵入する車や人が多く、事故が起こるのは時間の問題だと言われていたようだが、高速走行をするペンドリーノとの衝突という最悪の形で事故が起こってしまったということになる。いや、最悪なのは、事故が起こった後も、この踏切に於いても、自分だけは大丈夫だろうと考えて信号が点滅を始めてから踏切に侵入する人や車が跡を絶たないことだ。近道として、線路上や線路脇を歩くことが半ば習慣と化しているチェコでは、踏切に関する危険、安全の意識が日本とは違うのだろうが、こういう事故が起こると、電車の先頭車両に乗るのが怖くなってくる。それに、時間に滅茶苦茶ルーズなチェコ人や、ポーランド人が、ほんの何分かのわずかな時間のために、自分のだけでなく他人の命をも危険にさらすのは、笑止千万としか言いようがない。
交通省では、チェコの道路上における運転の荒さ、マナーの悪さに対して、安全意識を高めるためのキャンペーンを何年も実施し続けているのだが、こういうのは効果が出るまでには時間がかかるものである。
2月7日15時30分。
現在では、この本に書かれているよりは、鉄道状況がマシになったと思いたい。プラハ周辺のボヘミアで終わらずにモラビアのほうまで足を伸ばしてくれた著者には、モラビア在住の人間として感謝したい。繰り返すが、チェコの素晴らしさはプラハにはないのである。2月8日追記。
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