2022年01月23日
シェーンバッハと砂防と諸戸博士
以前、「大日本山林会報」という雑誌の明治時代の1898年に出た184号に、西ボヘミアのルビという町についての記事が掲載されているという話を書いた。(「シェレバッハの謎」)
この雑誌には、これだけではなく同じく明治時代の1911年の351号に、「明治四十四年六月墺国メーレン(Mähren)州、及びシユレシエン(Schlesien)州修学旅行所感」と題された記事が掲載されている。著者は「在墺国維納市」の諸戸北郎という人。恐らく、オーストリアのウィーン留学中に留学先の学校の修学旅行に参加したものと思われた。
メーレンはドイツ語でモラビアのことを指し、シュレシエンはシレジアである。ということは、この諸戸氏はモラビアとシレジアを旅行し、もしかしたらオロモウツにも滞在したかもしれないなんて予感をもとに、国会図書館オンラインの遠隔複写サービスでコピーを取り寄せることにした。
届いたコピーを一読して大喜びしてしまった。地名がドイツ語をカタカナに直したもので、そのままでは現在のどこにあたるのかわからない場所も多いのだが、調べなくてもわかった範囲でも、ウィーンからプシェロフを経てオロモウツに入り、ブルンタールでは、ドイツ騎士団の所有していた城館に滞在している。その後、モラビア最高峰のプラデットにまで登っているのである。
これは、地名を解読して紹介せずばなるまいと詳しい調査を開始したのだが、解読がほぼ終わったので、例によって読みやすく編集をくわえた上で紹介する。雑誌の編集は諸戸氏の覚書のようなものを、そのまま印刷に回したようですごく読みにくいのである。国会図書館からコピーが送られてきたということは、著作権はすでに切れているということだろうから、いいよね。
紹介の前に、まず諸戸北郎氏について調べたことを。日本語版のウィキペディアには記事がなく、ジャパンナレッジの『日本人名大辞典』には、ヨーロッパに来たなんてことは書かれていないので、ネットで検索してみたら、二つ、氏の業績をまとめたものが見つかった。
一つは、公益社団法人 砂防学会がネット上に公開している「日本の近代砂防と諸戸北郎博士」という論文で、もう一つは、一般社団法人 砂防フロンティア整備推進機構がPDF形式で公開している『諸戸北郎博士 論文・写真集』である。どちらも、「砂防」という名前のついた社団法人である。
ということは砂防会館の設立者も諸戸氏かもしれないと思って確認したけど、砂防会館のHPには、諸戸博士の名前は出てこなかった。ただし、この二つの砂防関係の社団法人は、どちらも所在地を砂防会館の別館に置いている。砂防会館の別館と言えば、貸し会議室らしいシェーンバッハ・サボーの入っている建物である。そしてシェーンバッハというのがドイツ語で「美しい渓流」という意味だということもシェーンバッハ・サボーのHPで確認することができた。西ボヘミアのルビも渓流のほとりにあるのだろう。
何だか一周して戻ってきたような達成感はあるのだが、話を戻そう。
「日本の近代砂防と諸戸北郎博士」には、以下のように略歴がまとめられている。
日本における砂防学の最初の教授である諸戸北郎博士(1873-1951)は、明治31年帝国大学農科大学林学科を卒業、明治32年東京帝国大学農科大学助教授、明治42年1月から明治45年6月にオーストリアに留学、帰国後ただちに同教授となり昭和9年に同大学を退官している。
この論文は、諸戸博士の旅行記にも登場するハーニッシュという人物について、「1892年に渓流管理事務所に奉職後、チェコ共和国のシレスィア事務所所長となり、第一次世界大戦後オーストリアに帰国し」などと歴史を百年以上先取りしてチェコ共和国を存在させているけれども、主要テーマである諸戸博士についての記述には間違いはあるまい。
そして、掲載紙の「大日本山林会報」については、『諸戸北郎博士 論文・写真集』に以下のような説明がなされている。
大日本山林会は、伏見宮貞愛親王殿下を会頭とし、宮殿下七方のほか、山縣有朋、伊藤博文、西郷從道、松方正義、品川彌二郎等の高官を含む、多数の全国にまたがる会員(名誉・特別・通常)をもって、明治 15 年 1 月 21 日に創立された。本会は、林業の改良、進歩を図ることを目的としており、その活動の一環として毎月会誌(以下「大日本山林会誌」という)を発行することとし、この会誌を明治 15 年 2 月から刊行している
ということで、次からは本文の紹介である。
2022年1月22日
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