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2020年09月13日

老眼鏡1(九月十日)



 人間年を取ると、体のあちこちにがたが出るもので、病気がちになるのも当然である。だから、同時に自分の死を身近に感じるようになるのだろう。なんてことを、メンツルの死に寄せたスビェラークの言葉を読みながら考えた。人が原則として年齢の順番に死んでいく社会というのは健全な社会である。子供や若者が老字よりも先に死んでいくのは正常な状態とはいえまい。その意味では、世界を震撼させている武漢風邪は、戦争とは違って、健全な社会を崩壊させるようなものではないとも言えそうだ。
 畢竟、人間というものは、いや、生きるものはすべて必ず死ぬものである。長生きする人もいれば、早めに亡くなる人もいる。そう考えるとスビェラークが言っていた順番というのもわかる気がする。60歳を越えたら、50でもいいけど、そろそろ順番が来るかもなんて考えておくのも悪くない。亡くなった人に対しても、事故死や殺人でもない限り、50、60を越えていたら、惜しい人を亡くしたと惜しむのは当然としても、天寿を全うしたと寿ぐ気持ちがあってしかるべきではないか。

 自分もすでに若いとはいえない年齢になって久しく、くたばったときに、「まだ若いのに」とか、「これからがあったのに」とか、言われたくもないし、言われてはいけないような年齢になってしまった。そんな気のめいりそうなことを考えたのは、眼鏡屋がいけない。いや、眼鏡屋に行ってお店の人の説得に負けてしまった自分がいけないのである。
 日本にいたころは、川崎のとある駅前の商店街の中にある眼鏡屋に通い、そこで見つけたジョン・レノン風の丸眼鏡を愛用していたのだが、こちらに来てから二十年近くの間に何度か新しい眼鏡を作った。最後に作った、今かけている眼鏡が妙に気に入っていて(似合うかどうかは知らない)、もう何年もそろそろ新しいのを作ったほうがいいかなと思いながら、面倒くさいと後回しにしてきた。視力も以前より落ちて、眼鏡をかけても視力は1.0以下になっていたし。

 ところで、チェコという国は、国営企業の民営化の際にもクーポン式民営化が行われたことからもわかるように、クーポン券が大好きである。企業の節税兼、従業員の福利厚生としても食券をはじめとするさまざまなクーポン券がばら撒かれる。我が職場でも例に漏れず、毎年かなりの額面のクーポンがもらえる。もらえるのだけど、種類によって使えるジャンルが決まっていて、期限までに使い切れずに紙切れにしてしまうことが多かった。
 最近は本屋でも使えるというので、年末になると本屋に出かけて特に必要でもない本を買ったり、うちのの実家に持っていって使ってもらったりしている。眼鏡屋で使えるということは知っていたのだけど、毎年新しいの買うようなものではないし、面倒くさいしで買う決断をつけられなかったのである。

 それが、今年の前半の分のクーポンをもらったときに、ふと、今年はこれで眼鏡を買おうと思ったのだった。それは、最近特にPCで仕事していると、疲れからか画面がよく見えなくなったり、文字が小さすぎて眼鏡を外して顔を近づけて見なければならなくなったりすることが増えていて、さすがに我慢も限界に近づきつつあったからである。クーポンの額が増えていてこれならクーポンだけで眼鏡が買えそうだと思ったのも理由だけど。
 思い立ったのは6月の末か、7月のはじめ。今年の夏の目標の一つは眼鏡を買うことだと決めたのに、実際に眼鏡屋に足を運んだのは夏も終わった9月も半ばになってからだった。我ながら、優柔不断というか、面倒くさがりというか、嫌になる。眼鏡屋が、全国的なチェーン店から、個人営業の小さなものまでたくさんあって、どこで買うのがいいのかきめかねたというのもあるし、どの店でクーポンが使えるかどうか確認する必要もあった。

 最終的には、シャントフカの中に入っている全国チェーンのお店を選んだ。このお店、数年前には、年齢によって決まるという割引キャンペーンをやっていたのだが、すでに終了しているようで残念。ネット上で確認したところ、今かけているのと似たフレームもいくつか見かけたし、値段は多少高くても(高くないかもしれないけど)クーポンで買うから関係ない。
 ということで、自宅以外の屋内でのマスクの着用が再度義務化されたのをきっかけとして、マスクを付けるのを面倒くさがる人が、買い物に行くのを控えて眼鏡屋も客が少ないのではないかと期待しつつ、昼食時を狙って眼鏡屋に足を向けた。このときは1万コルナもあれば足りるだろうと思っていたのだけど……。
 長くなったので以下次号。
2020年9月11日22時。












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