2020年07月28日
コスマス年代記(七月廿五日)
日本の古代の歴史についての基本史料というと、当然『古事記』、『日本書紀』の名前が挙がるのだが、チェコでこの二つに相当するものが、本日のテーマの『コスマス年代記』である。これは12世紀にプラハのキリスト教関係者のコスマスという人物が、当時の教会の公用語だったラテン語で記したもので、イラーセクなどの後の歴史文学の書き手も、チェコの伝説や初期の歴史については、多くをこの本に拠っている。当然、与太チェコ史に書き散らすチェコの君主についても文章のネタもととなった子供向けの絵入りの本や雑誌の記事も本をただせば、この年代記に行き着くわけである。
読んでみたいと思ったことがないと言うと嘘になるが、ラテン語で書かれているというのはチェコ語以外の外国語がまったくできない人間にはハードルが高すぎた。チェコ語訳も出ているのだろうけれども、教会の人間が書いたとなるとキリスト教に都合のいい記述や、聖書からの引用などもあるに違いない。それなら、イラーセクというフィルターを通したものの方が読みやすくて、精神衛生上もよかろうということで、すんなり諦めた。イラーセクの『チェコの伝説と歴史』なんて、日本語訳でも読めるようになっているわけだしさ。
以上が、『コスマス年代記』に対するスタンスであり、誤りもありそうな認識だったのだが、木曜日に何日かぶりにメールをチェックすると、『チェコの伝説と歴史』の訳者の浦井康男氏の名前でメールが届いていた。何だろうと思って開けてみると、以前エルベンの『花束』の日本語訳を入手した「cesko – STORE」からのメールだった。無料でもダウンロードの再にメールアドレスの入力を求められるから、運営者の浦井氏の名前でメールが届いたのだろう。
一読して驚いた。『コスマス年代記』の翻訳を進めていて、そのうちの第一部が完成したからPDF化して、無料で提供するとのこと。イラーセクの歴史小説『暗黒』の次が、コスマスとはさすがというかなんと言うか。イラーセクの別の歴史小説が出ないかなと期待していただけど、これはこれでものすごくありがたい。浦井訳って注釈が詳しいので、純粋な文学作品だと注釈はうるさく感じることもあるのだけど、この手の歴史的な文章を読む際にはありがたい。
早速、「cesko – STORE」に行ってダウンロード。前回もそうだったかもしれないけど、電話番号の入力でチェコのものが入れられず、国際番号を着けたら桁が多すぎで、省いたら桁が少なすぎるらしく、結局実家の番号でごまかすことになってしまった。それにしても、このお店、教科書だけは有料でそれ以外は無料になっている。読本は中身を確認してからじゃないとなんとも言えないけど、コスマスとエルベンの翻訳なら、有料でも買うと思うんだけどなあ。外国のクレジットカードが使えればだけど。
それはともかく、まだ冒頭の「はじめに」の部分しか読んでいないのだけど、ここに書くことがなくなった。『コスマス年代記』に興味があるなら、「cesko – STORE」に行ってダウンロードしてこの「はじめに」を読めば、知りたいことはほぼ知れるはずである。そこにこちらが生半可な知識であれこれ書いても、屋上屋をかけるどころか、恥をさらして終わるに違いない。
とはいえ、これで終わっては我が文章ではないので、ちょっとばかり与太を飛ばしておこう。「はじめに」によれば、『コスマス年代記』は三部に分かれているという。ということは、日本史における『古事記』に対応すると考えてよさそうだ。コスマス以前にチェコの歴史が登場する国外で成立した年代記が、多少とはいえ存在するというのも、日本の歴史が中国の歴史書によって始まるのと似ていると言えば言える。こんなことを考えると、ちょっとチェコの歴史が身近に感じられるような気がしなくもないかな。
ということで、チェコの神話的な伝説の時代からの歴史を知りたい場合には、まずイラーセクの『チェコの伝説と歴史』を読んで、『コスマス年代記』に手を伸ばそう。『チェコの伝説と歴史』も今なら、まだ手に入るようだしさ。
2020年7月26日11時。
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