ネコと贅沢　ボンビーライフ

今シーズンはバター不足が話題にならなかった。
さすがに何年もバター不足が続けば
色んな官公庁が無能呼ばわりされてしまうから
早々に手を打ったおかげだろう。

ちょうど昨年の、寒くなって洋菓子が売れ始める頃合いから
見たことのない包み紙のバターが納入されるようになった。

業者が何のことわりもなしにしれーっと置いていくものだから
てっきり単なるパッケージデザインの変更かと思っていた。
今まで見たことのない「業務用」という文字も
印刷されている。
ちなみに値段は同じである。

だが品物自体、どうも色が薄い。

一般にあまり知られていないことだが、
バターは搾乳される時期によって若干色や風味が異なる。
それは餌が夏は青々した牧草、
冬はストックされていた枯れ草、という違いから生じる。
夏の青々した牧草を食べていれば
水分の多い牛乳になり、
枯れ草を食べている冬に搾られる牛乳は
濃縮された風味になる。

だから私は初め、
秋口に納入されてきたバターであるから
夏に搾乳されたものゆえにそのバターは色が薄いのだろうと考えた。

ところがである。
それにしてもやけに風味がなく、
まるでマーガリンのようなのだ。

次に注文したら以前のパッケージデザインのバターが
納入されてきた。
こちらは風味はちゃんとあって今まで使用していたバター。
どういうことだろう。

業者に聞いてみる。
「前回のバター、包装が変わっただけですか？」
「そうです。中身はいっしょ。次回またあのバターに戻りますから」
怪しい。
さらに疑問をぶつけてみる。
「あのバター、色も風味も薄いんですよね」
「おかしいな〜。そうでしたか。
ちょっとメーカーに問い合わせてみますね」
と言い残して業者はそそくさと帰っていった。

次回納入されてきたのは
以前から使用している風味のあるバターだった。
それ以降も以前のバターが届き、
あの「業務用」バターが届くことはもうない。

このやり取りでなんとなく「からくり」が見えてきた。

あの「業務用」と書かれた新しい包装の
風味の薄いバターは輸入バターなのだ。
１００％かどうかは分からない。
何割か混ぜられた物かもしれないし、
純粋に輸入バターかもしれない。
ただ、成分表のカロリーその他は同じだったので
そのようになるよう調整して混合したのだろう。

そのバターが通常のものとは違うと指摘した客には
言葉を濁らせた説明の後に通常のものを販売し、
指摘してこずに納得している客には
この輸入と思しき商品を販売しているのだろう。

ズルいといえばズルいのだが、
仮に客に
「同じ値段ですけど、１００％国産バターと輸入バターの入ったバター、
どちらがいいですか」
と聞けば
ほとんどの客は１００％国産がいいと言うに決まっている。
そうなれば国産バターの取り合いになり
輸入バター入りのバターが売れ残ってしまう。
気づかない客には気づかないまま売ってしまえば
誰にも不満は残らない。

幸いにも私は気づくことができた。
あの業者の顧客の中には
気づかないのか、気づいても文句を言わなかったのか、
業者と値段交渉して安く納品させたのか分からないが
とにかく誰かが「業務用」バターを消費してくれたおかげで
私は通常通り商品に風味を出すことができた。

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