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タグ / 短縮版拓馬
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拓馬篇−4章2 ★ [2018/03/10 02:00]
ヤマダを迎えにきた保護者は頭にねずみ色の手ぬぐいを巻いていた。それは彼が飲食店の勤務中によく着用する頭巾だ。
「ノブさん、仕事を抜けてきたのか?」
「ん? ああ、まだ客が入る時間じゃねえ。抜けるってもんでもない」
ノブは快活な笑みを見せた。彼の視線は拓馬からスライドして、銀髪の教師でとまる。
「その髪……あんたがシド先生か。娘から話は聞いてる」
「はい。先日はジャージを貸していただきまして、ありがとうございます」
両者の衣服の貸し借りは先日の体育祭のときに行..
拓馬篇−4章1 ★ [2018/03/07 23:59]
拓馬は外科の診察を終えた。総合受付前にある、背もたれつきの長椅子に座る。手持無沙汰ゆえ、自身のこめかみに施された処方をさわった。厚みのあるガーゼの上に、つるつるした紙テープが格子状に貼ってある。素人でもできそうな処置だ。医者は看護師が血を拭きとった傷口を見て、軽傷と診断した。そのうえでこの簡素な処置を最善とみなした。
(父さんを呼ばなくてもよかったかな……)
病院へ向かう道中、ヤマダが「保険証を持ってきてもらおう」と言いだし、それぞれの親に連絡をした。拓馬はなりゆきで..
拓馬篇−3章6 ★ [2018/03/06 21:00]
公園内をかこむ木々の合間に、背の高い男性が立っている。彼は拓馬たちに歩みよってきた。その人物は色黒で、黒いシャツを着ており、髪色は銀。うたがいようもなく、才穎高校の新任教師である。だが彼はいつもの黄色いサングラスを外していた。青い瞳がはっきり見えるその顔つきは無表情。普段から笑顔が印象的な人だけに、怒っているように拓馬は感じた。
「危険な遊びをしているようですね」
低い声だった。もともと彼の声は低いのだが、いっそう低音に聞こえた。なにせ、拓馬たちは学校側が禁じる乱闘に..
拓馬篇−3章5 ★ [2018/03/05 23:59]
拓馬は三郎の勧誘により、拓馬たちが以前遭遇した他校の男子へ会いにむかった。この少年たちはまたも近隣の住民に迷惑をかけているとの評判だ。そのため、三郎は彼らの立ち退きを求めるつもりでいる。同時に彼らが成石を襲った犯人かどうか、反応をさぐる。少年らが犯人であれば早々に事件は解決でき、そうでなくとも住民を困らせる連中を退去させればよし、という計画だ。
素行の悪い男子らがたむろする場所は公園だった。背の高い木々で囲まれた、広い公園だ。公園内には小学生向けの遊具が設置されてある。..
拓馬篇−3章3 ★ [2018/02/25 02:00]
若い英語教師が昏倒した日から十日あまりが経った。その間、拓馬はあることに気付いた。ヤマダを見守る狐が、いなくなった。これはおそらく、シズカが狐にあらたな指示を出したせいであろう。拓馬はその確認を取るため、電子メールをシズカに送っておいた。また、どうしてヤマダの護衛派遣をやめたのか理由を直接聞くつもりで、連日パソコンを起動する。電話を掛けてもよいのだが、シズカは不規則な時間で就労する社会人。電話をかけると仕事に差し支えが出そうで、気が咎めた。
一学期の授業で学ぶ英単語..
拓馬篇−2章4 ★ [2018/02/05 23:59]
補習の夜、拓馬は自室のパソコンの電源を入れた。目的は古典の授業の予習をすることと、知り合いと連絡をとること。連絡相手は他県に住む寺の人で、現役の警官だ。なにかと厄介事を抱えがちな拓馬にとって、この警官は守り神のごとき存在だった。
拓馬が予習作業を続けていくとピコピコと音が鳴る。音声通信を打診する音だ。拓馬は作業を中断し、マイク付きのヘッドホンを用意する。そして通信の許諾ボタンを押す。
「シズカさん、こんばんは」
『こんばんは、拓馬くん。いまはなにをしてたんだい?』
..
拓馬篇−2章◇ ★ [2018/02/03 23:59]
日が完全に沈んだ頃、パーカーを着た少年が住宅街を走った。これは彼のトレーニングだ。鍛えた体は異性にもてはやされる、という思想のもと、少年は自身を研磨した。
少年はふと足早に道行く者を見つけた。街灯を頼りに目をこらしてみると、髪留めを後頭部につけた少女だとわかった。そのいでたちは美人の同級生によく似ている。そうと気付いた少年は、目的の進行方向を変える。二人の距離は縮まっていく、かに見えた。
「うぅわっ!」
少年は悲鳴をあげた。何者かが少年の顔を掴んだのだ。不測の事態..
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